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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第5章 教師編
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気がついたと思ってました

次回も日曜日更新予定(それ以降になることはありません)。

 中島は呼吸を落ち着かせ、もう一度、床に落ちた日記を見た。先程見たときと変わらず赤い文字で記されたページが開かれている。

 血。文字が赤い理由がそれではないかと思うと彼女の手はなかなか動かなかった。

 中島はこの世界に来てから戦いを経験していない。一度だけ生徒たちが戦う様子を後方から見ていただけだ。これ以降は残っている生徒、戻ってくる生徒の面倒を見ると言い、いつも残っていた。しかし今考えてみればそれは不思議な少女に言われた通り、生徒たちを理由にし、自分を守っていただけなのかもしれない。

 理由はともかく彼女は一度も戦闘を行っていない。だからこそ、他の勇者たちよりも血などには機敏に反応してしまうのかもしれない。

 だが、それでも中島は動こうとする。薄々感づいていたのだ。あの日記に書かれている事は自分に必要なことへの道しるべだと。


「はー…ふー…。よし。」


 深呼吸をし、本を拾い上げる。


(やっぱり、この赤い色は……今は考えないようにしましょう。それよりも重要なのは前のページ。)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 1050日目


 KOYOMI


 これを読めるものはSAGASITEKURE、DARENIMOTAYORAZU


 KONOSEKAINOSINZITUWOSITTA


 俺にはもう時間が無い。奴らがくる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 このページで何かを伝えようとしているのだろう。


 KOYOMI


 これは恐らく『暦』のローマ字で表したもの。となれば残りも同じだ。


 SAGASITEKURE、DARENIMOTAYORAZU


 探してくれ、誰にも頼らず。


 KONOSEKAINOSINZITUWOSITTA


 この世界の真実を知った。

 そして、俺にはもう時間がない。奴らがくる。彼は『奴ら』によって殺されたのだろう。それが何者かは分からない。だが、そう考えると魔神以外にも勇者の敵となる存在がいると言うことだろうか。


(予想ばかりしていても駄目ね。取り敢えずはこの言葉の意味を考えなきゃ。)


 中島は考えた。単純にこの言葉通りのことをすれば良いのだろうか?『暦』、『探してくれ』、『誰にも頼らず』。つまり一人で暦を探せと言うわけではないだろうか?

 これを書いた彼ももともとはただの学生だ。それもこの世界にきてからも戦いの為の訓練や勉強しかしていない。これ以上、知恵を働かせて何かを隠すようなことをしているのだろうか?

 考えれば考えるほど分からなくなる。だから中島はここに書かれていることをこなそうと考えた。考えてばかりではなく行動に出ようと考えたのだ。


(『暦』……この漢字を探す?それとも1月…2月…。睦月…如月…。手当たり次第に探すしかないかしら。分かってはいたけど情報が少な過ぎるわ。)


 もう少し書けることはなかったのか。


(それに探す場所。まずはこの日記を見つけたあの図書室……別の図書室……それから先は探し終えてから考える。そうと決まれば。)


 中島は勢いよく駆け出し、部屋を飛び出ようと扉に手を伸ばす。が、何故か中島の手が触れる前に扉が開いた。


「え?」


 突然のことに対応が遅れた中島はそのままの勢いで転んでしまう。


「痛た…。」


 勇者の一員である中島がその程度のことで怪我をすることはないが、反射的にそう言ってしまう。

 そして、そんな中島に扉を開けた張本人が声をかける。


「中島様、大丈夫ですか?」


「ジ、ジエルさん。何でここに?」


「何で?ですか?それは朝になりましたので待機していたところ、中で音がしたもので。」


「あ、朝?」


 部屋のカーテンを閉め切っていた為、気づかなかった。とは日はまだ出ておらず、早朝だ。だが、まさかそんなに時間が経っていたとは中島も思わなかった。本を拾い上げること、また、他に何かを伝えようとしているのではないかと考えていたことが思っていたよりも時間を使っていたのだ。


「まさか、睡眠をとっていないのですか?」


 ジエルのこの質問。素直に『はい。』と応えれば料理に睡眠薬を盛られるのは確実。


「いえ、睡眠はとりました。ただ、どうしてもやりたいことがあったので早起きを。」


「因みにそのどうしてもやりたいこととは何ですか?」


「それはこの……。」


 そこまで言い、中島は止まった。日記に書かれていたことを思い出したのだ。


 誰にも頼らず。


 そう記されていた。つまりこれは誰かに頼ってしまうと何かを探し出すことが出来なくなるということではないかと中島は考えた。

 だが、いつ誰が、何人で、見つけるか分からない日記にそんなことを書くだろうか?だとしたら…。


(これはこの勇者を殺した『奴ら』に情報を与えないようにということかしら。つまり信用出来ないものには話さない方が良い。……ジエルさんになら。それにジエルさんが協力してくれれば。)


 中島は再び、口を動かす。


「ジエルさん。これから言うことは他の人たちには絶対に言わないでください。それが約束できるなら…。」


「わかりました。」


「……では部屋の中へ。」


 中島は部屋の中へジエルを招き、昨日、日記を見つけたこと。日記のないようについてを話した。ただ、そこで思わぬ発見をした。


「ジエルさん、これが読めないんですか?」


「はい、読めません。」


 ジエルさんはローマ字を読むことが出来なかったのだ。平仮名、片仮名、漢字、英語、ロシア語、私が使える文字を全て試した。するとどの文字もしっかりと読み上げた。ただ、ここでも不思議なことがあった。全て日本語で読み上げたのだ。

 平仮名、片仮名、漢字だけが使われている文ならばわかる。しかし、英語やロシア語で書かれた文も日本語でスラスラと読み上げた。

 中島は試しに『わたし』『ワタシ』『私』『アイ』『Я』と色々なわたし・・・を書き、ジエルに読ませた。だが、帰ってきた返答は全て『わたし』だ。つまり全て同じものとしてジエルは認識したのだ。

 理由はわからないが、中島はある1つのことを確信した。この日記を書いたダイチ・ツキヤマは『奴ら』を含めたこの世界の者たちに情報が伝わらない方法を考え、その結果がローマ字だ。つまり彼は地球からくる者たちに向けてこの文を書いたのだ。


「ありがとうございます。参考になりました。」


「そうですか。なら良かったです。」


 中島はジエルに礼を言う。が、その後直ぐにまた礼を言うこととなった。

 それは『暦』のことを言ったときだった。ジエルはさも当たり前のように言った、


「暦……ならば手掛かりとなるのは『睦月』『如月』といったものでしょうか?」


 そう、ジエルは旧暦を口にしたのだ。

 中島は探そうとは思ってはいてもそれには無理があるのではないかと考えていた。暦といってもその数は余りに膨大。学生の残した物とはいえ簡単に1つに絞ることなど出来ない。

 だが、ジエルが口にした通り、この世界の暦は何故か日本の旧暦で表されるのだ。中島たちはこの世界の多くのことを学んだ。しかし、当たり前のことを過ぎた為だろうか?暦については何も知らされてこなかった。ここで中島は考えた。


(最後の『この世界の真実を知った。』これが彼の伝えたいことともう1つ意味を持つとすれば彼も暦のことを知らされてはいなくて、魔神を封印した後に知った、世界の真実?)


 強引過ぎるとは思った。だが、中島には他に情報がない。


「ジエルさん、今はこれしか情報はありませんが、探しましょう。」


「わかりました。」


「では行きましょう!」


 中島は駆け出す。ダイチ・ツキヤマが残した。この情報が何かの助けになるものと信じて。


「ぐっ!?」


 が、直ぐに止まる。襟を捕まれ、首が少し閉まる。


「ジ、ジエルさん?」


 何をするんだ、と中島はジエルの方を向く。そんな中島にジエルは一言。


「朝食です。」


 中島は素直に従った。








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