気がついたら血でした
「なかなか見つからない。」
日は既に沈み、他の者たちが夕食をとっていると言うのに中島はまだ図書室にいた。昼食から休むことなく元の世界へ戻る方法の手掛かりがないかと探しているが、未だ何も見つかっていない。
(今日はもう終わりに………いや、あと少しだけ。)
中島は手を伸ばし、別の本を手にしたとき。
「中島様。」
その声に体が反応し、ビクッと震えた。それと同時に中島の手から本が離れていく。
「あ。」
ドン。
鈍い音が響く。
「す、すみません。」
中島は振り向き、先ほど声を掛けてきたジエルに頭を下げる。
「…中島様。今日は終わりにしましょう。」
「……あ……はい。」
『あと1冊だけ。』とは言えなかった。中島は落とした本を拾い、渋々棚へと戻そうとする。が、表紙に書かれていたその作者の名を見て、その手は止まる。
作者:ダイチ・ツキヤマ
「中島様、行きましょう。」
「は、はい。」
中島はジエルの後を追うように図書室を後にする。右手を背につけ、不自然な格好で歩いているが前を向いているジエルは気づかない。勿論、その手に本を持っていることにも。
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夕食をとり、自室に戻った中島は先ほどの本を取り出した。作者の名を見て思わず持ってきてしまったこの本。図書室にあったものよりも比較的薄く、小さい。情報量も大したことはなさそうだ。
「けど作者の名前がどう見ても日本人のそれなのよね。」
ダイチ・ツキヤマ。月山大地、築山大智、どう書くのだろうか?分からないが、それでもこの世界の名前ではないことくらいは分かる。中島は1ページ目をめくる。
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2日目
初日は色々ありすぎて書くのを忘れていた。中学から始めて以来初めてのことだ。だが、いきなり異世界に召喚されたんだしょうがない。
明日は剣を持つらしい。現代っ子の俺がそんなこと出来るのかと思うがこっちの世界に来てからは体が羽のように軽い。これならどうにかなるのかもしれない。勇者として勤めを果たせるように頑張ろう。
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中島は1ページ目を見て気づいた、これは日記であると。さらに言えばこれを書いたのは勇者。
「もしかしたらこの先にもとの世界に戻る方法が…。」
中島は1つの希望を持ち、日記を読み進める。
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3日目
今日は昨日言ったとおり剣を、持った。思っていたよりも軽いと言ったらそれは俺たちのステータスが高いからだとのこと。
ステータス。まるでゲームの中にいるみたいだ。皆んなもそう思ってるのかもしれない。
1人やけに頑張ってる奴がいた。名前は知らないが確かオタク?だった気がする。異世界にきて、『チートきたあ!!!』とか言って盛り上がっていたけど、俺たちよりもステータスが低かった。ショック受けてたな。まあ、だから頑張っているんだろうけど。
10日目
前回からだいぶ日が経った。授業のようなものを受けたり、剣や魔法の特訓をしたりして、疲れて書けなかった。
明日は実戦訓練をするらしく、近くの森まで行くのだとか。まあ、頑張ろう。
11日目
吐き気がする。今日、ゴブリンを殺した。小さい人のような姿をだった。人に見えた。小汚いけどそう見えてしまった。だが、殺した。皆は当たり前のように殺して、レベルが上がって喜んでいたが何で喜べるんだ?わけがわからない。理解できない。
30日目
生き物を殺すことになれた。何も思わないことは無いがそれでも躊躇はしなくなった。そうでもしないと魔神を倒せない。そう自分に言い聞かせると不思議と剣を振るえた。
いつ現れるか分からない魔神、いつか必ず倒してみせる。
158日目
今日、魔神の手先という黒い羽を持った者が現れた。奴は強かった。仲間も3人失った。水島、高木、オタクのあいつ。皆、死にたく無いと言いながら息を引き取っていった。そして、俺たちはようやく気づいたここはゲームでも何でも無い。死んだら終わりの現実なんだと。
だが、それに気づくには余りにも遅い。何で気づかなかったのだろうか?
208日目
帰りたい。
932日目
魔神を封印した。クラスメートとの半分以上が死んだ。なのに封印した。倒せなかった。悔しい。王や国民は良くやったと、君たちは本物の勇者だと言う。友も守れない俺たちが勇者なのか?良くやったのか?と思ってしまう。
元の世界に帰ろうと約束していた者たちは殆どいない。まあ、魔神を倒したわけでは無いのでもとの世界には帰れない。俺らの転移はそう言うものらしい。なら、この世界で暮らすか?それとも元の世界に帰る方法を見つけるか?どうするべきだ。
933日目
元の世界に帰る方法を考えることにした。その為に本を読んでいる転移魔法についてのものだ。昔から勉強はあまり得意では無いのですぐ休憩を取ってしまう。この調子で元の世界に戻れるのだろうか?
940日目
ふっと気づいた。余りに自然過ぎたし、何故か違和感も感じなかった。そう考えないようにしていた?分からない。だが、気づいた。何で日本語なんだ、と。本、ステータス、言葉。全てが日本語と数字で表記されてる。ひらがな、カタカナ、漢字を使い、読みやすく分かりやすい。今まで何故気づかなかったのだろうか?分からない。
1050日目
KOYOMI
これを読めるものはSAGASITEKURE、DARENIMOTAYORAZU
KONOSEKAINOSINZITUWOSITTA
俺にはもう時間が無い。奴らがくる。
1051日目
刻んだ。それを頼りに。押せ。頼む。
君があれを読めたのなら気づけるはずだ。頼む。
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勇者であった彼が何かを伝えようとしている。その事はすぐにわかった。だから、中島は急ぎページをめくり、読み進めた。止まる事なく。『高速思考』を全力で使用して。だが、そんな中島の手はあるページで止まった。真っ赤なページだ。いや、真っ赤な字が書いてあるページだ。先ほどまでとは違い、字が太く大きい。まるで指を使って書いたかのように。
「まだ……死に……たくない……玩具として……終わりたくない。これはいったい。」
中島は彼が何を伝えようとしているのか、考えようとした。だが、その前に彼女は気づいた。
「でも何でこのページだけ……あれ?いつの間にか指が切れてる。」
自分の指を伝って血が垂れていく、そして、一滴の血が日記に落ちた。
「あ!ど、どうしよう。日記が汚れて…しま……。」
ドン。
中島は日記を投げ捨てていた。鈍い音を立てた日記は赤いページを表に床に落ちている。そう、中島が血を垂らしてしまったページだ。だが、その血は何の違和感もなく、もともとそのページの一部であったかのようにある。
「まさか……あの文字は……血?」
中島が見つけた勇者が残した日記。その1ページは真っ赤な血によって記されていたのだ。そして、そのページには血で固められ、赤く染まった羽が挟まっていた。
謎は次回以降に徐々に。