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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第5章 教師編
113/164

気がついたら欲するものでした

短めです。

それと総合評価が2500を超えました!ありがとうございます。次は3000だ!

  「ここが図書室ですか。」


  「はい、その1つでございます。」


  少なくとも5、6メートルはありそうな本棚がずらりと並んだ図書室へと来ていた。いったいどれほどの本がここにはあるのだろうかと中島は考えた。また、これだけの本があれば元の世界は帰る方法やそのヒントがある本も見つかるのではと期待もしていた。


  「本日は転移魔法等について記述された物を見つければ良いのですか?」


  「そうです。あ、でも今日はせっかく足を運んだので自分で探してみようと思います。ですから、ジエルさんは待っていて貰っても良いですよ。」


  「そうですか。それならば私は丁度調べたいことがありましたので、その時間に当てさせてもらいます。」


  ジエルはお辞儀をし、中島のもとを離れた。


  (ジエルさんが調べものかあ。何でも知っていそうと思ってたけど知らないこともあるんだ。って、ジエルさんがもういない。…私もさっそく探し始めますか。)


  とは思ったものの余りに広い図書室でいったい何処に転移魔法等について書かれたものがあるのかがわからない。いつも直ぐに見つけ、自室まで運んできていたジエルを改めて凄いと感じた。


  「『魔法とは何か』……『魔法という事情について』……『魔法がない世界とは』……『概念という名の魔法』……ここは魔法哲学?のものしか置いないわね。もう一つ向こう側も探して見ますか。」


  そう言い、一歩足を踏み出そうとしたとき足元に白い何かが落ちているのに気づく。そっとそれを拾い上げ、見てみると白い何かは羽であることに気づいた。今までに見たことがないほどその羽は白かった。純白とはまさにこのことを言うのだろう。しかし、何故図書室に落ちているのか?

 

  「どうしたのですか?」


  後ろから声をかけられ振り向くと、そこには一冊の本を持ったジエルがいた。


  「ジエルさん、そのこんな羽が落ちてたんですが…。」


  「綺麗ですね。」


  「私もそう思います。ですが、何で図書室に羽が…。」


  「わかりませんが、綺麗なものですし中島様が所持していればよろしいのではないでしょうか。」


  「え?貰ってしまって良いんですか?」


  「はい、むしろその方がよろしいかと。メイドたちが掃除のときなどに見つけても処分するしかありませんので。」


  「なら、貰っておきますね。」


  中島はそう言って羽をしまう。それと同時に中島の興味は羽からジエルが持つ本へと変わった。あまり厚いほんでは無さそうだが、いったいどんな事が書かれているのか。


  「ジエルさん、その本は…。」


  「こちらは『生きる者が欲するものとは』と言うものですね。」


  「『生きるものが欲するものとは』ですか。」


  「はい、ここには色々なことが書かれていました。少し読んで見ましょうか?」


  興味がある中島は頷く。


「生きるものが欲するものとは大きく分けて3つある。

 一つは、“時間”。何か成そうとするとき、人は時を求める。鍛錬をしたい、何処かへ出かけたい、そう思っているときには必ずそれらをする為の時間が必要であり、人は知らずのうちに欲している。」


  中島は今の自分はこれに当たるのではないかと考えた。生徒たちの為にと行動しているが、必ず思う。時間が足りないと。薬を作ろうとしても、まず何が生徒たちの役に立ち、その調合に何が必要で、調合を始めても直ぐに完成はしない。地球に帰そうにも、何を調べれば良いか分からない、どうすれば良いも分からない、実行にすら移せない。中島の試みよりも先に魔神との戦いが始まってしまうかもしれない。どうにか間に合って欲しいと考える。それは時を欲しているのか、と中島は思った。


  「一つは、“形”。人は何か手に入れたという実感、つまり形を求める。それは目に見えるものもあれば見えぬものもある。書物などを求めるものがいれば前者、書物という一つの形を求めている。心弱きものが勇気を求めるのは後者、一定化せず、常に変わり続けるその心に一時的に一つの形、勇気という形となることを求める。」


  学園にいた頃の中島はこれに当たるのかもしれない。不思議な少女に話しかけ、自分の考えを『正当』と言う形にしようとしていた。そうなって欲しいと願っていた、欲していた。


  「そして、最後は“無”である。」


  「“無”?」


  「つまり何も無いことを、何も欲しないことを、己という存在がいないということを欲するのだ。死を望む人もこれに部類される。どんなに“時”があろうと、“物”があろうと、満たされぬことはある。満たされぬものはこの世界は己を満たせぬことを知る。そして、求めることをやめる。つまり何も欲しなくなる。何も無いこと、“無”を求める。」


  中島は分からなかった。“無”を欲する人はいるのか。自分は“無”を欲するのか。今は生徒たちの為にと“時”を欲している。しかし、それが無くなったら?“形”も求めなくなったら?“無”を欲するのだろうか?

  中島が深く考えていると、ジエルが質問をしてきた。


  「中島様、あなたは“無”を、“死”を欲しますか?」


  「……欲したことはあるんだと思います。学園で生徒たちのことではなく、自身のことを考えていたんだと気づいたとき、自分はいらないと自身で考えたこともありましたから。」


  「今は欲していますか?」


  「わかりません。ただ、私は先ほどの話の中では“時”を望んでいます。生徒たちの為に行動する為には“時”はあるに越したことはありませんから。」


  「そうですか。では、“時”を欲してはいますが、“無”も欲してはいる、と言うことでもよろしいですか?」


  「?え、ええ、そう言うことにしておきますか。」


  「そうですか。わかりました。」


  未だに過去の自分を無くしたいと思っている自分はいる。だから、間違いでも無いだろう。中島はそう思い、答えた。

  それが自らの運命を変えるとも知らずに。


 


 


 


 


 

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