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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第5章 教師編
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気がついたらリフレッシュでした

  「すいません、待ちましたか?」


  「いえ、今来たところです。それよりも…。」


  ジエルは中島の後方に視線を向ける。そこには2人の生徒、勇者たちがいた。


  「は、ははは、付いて行きたいというもので。」


  「問題ありません。」


  ジエルは中島が連れてきた他の者たちを気にする様子はない。これも仕事だと考えたの判断かもしれない。が、それでは意味がない。今日はジエルをリフレッシュさせる、その為に街へ出掛けるのだ。もちろん、そのことは生徒たちにも伝えており、いくつかのオススメの場所を教えてくれるとのこと。中島は礼を言ったが、ジエルならばその場所さえも知っているのではとも思っていた。


  「それでは先ずはどちらへ行きましょうか?」


  「はいっ!最近出来たフルーツジュースのお店があるんですけど…。」


  1人の生徒、田中がそこまで言うと、ジエルがその続きを言ってしまう。


  「“ブルージュ”のことですね?」


  「え?あ、はい。」


  「予約を取っておきましたので早速、向かいましょう。」


  「「「………。」」」


  いつの間に予約を取ったのか?何故、中島たちがそこへ行こうと考えているのことを知っているのか?そんな疑問が浮かんだ。

  しかし、その疑問の原因たるジエルはと言うと…。


  「どうされましたか?」


  何食わぬ顔でそう聞いてくる。

  まだ街にも着いていない。しかし、既に中島はジエルをリフレッシュさせようと言う計画は不可能かもしれないと考えてしまうのであった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  「次は!……。」


  「こちらですね。」


  「今度は!…。」


  「あちらですね。」


  「お!可愛い姉ちゃんたちじゃ…。」


  「邪魔です。」


  「ぐへっ!?」


  その後も中島や生徒たちの提案をジエルは知っていたのかのように言い当て、予約までしていたり、店長と話をし、直ぐに個別の部屋を用意させたり、更にはナンパしてきた男を拳1つで沈めてしまった。

 中島たちは既にリフレッシュのことは無理だと諦めた。結局、ジエルは最初から最後まで働き続け、リフレッシュをしたのは中島たちだけであった。

 

  「ねえ、ジエルさん。何で私たちが行こうとしている場所がわかったの?」


  田中がジエルにそう聞く。


  「メイドとしてこの程度は出来て当たり前です。」


  当たり前じゃないと思った中島だったが、何を言おうとしたところでジエルは当然のことだとしか言わないだろうと思いやめた。

  中島は理解した。これ程の能力がある人間を平民であるからと言って手放しておくのは勿体無いと国はジエルをメイドとして手中に収めているのではないかと。だが、1人の平民のためにそこまでするのかと疑問にも思う。考えたところで分からない。ただ、1つだけ言えることがあるとすれば……。


  「何ですか?」


  この無表情のメイドは規格外ということだけだ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  「遅くなりましたが、本日は私のためにありがとうございました。」


  「はい?」


  夜遅く、中島の部屋にやってきたジエルの言葉だ。


  「知っていたんですか?」


  「はい。私もリフレッシュできました。」


  「何処がですか?」


  中島は思わず聞いてしまった。だが、それも仕方ない。今日一日、ジエルはずっと仕事をしていた。店や席を手配し、中島たちの荷物を持ち、ナンパ男を撃退し、とにかく働いた。それなのに彼女はリフレッシュできたと言うのだ、中島には理解出来ない。


  「ジエルさんはずっと働いていましたよね?」


  「いえ、街の景色を楽しんだり、同席し飲食等もしました。」


  「そ、それは確かにそうかも知れませんが…。」


  中島は何を言っても上手く言いくるめられてしまう気がし、口が動かなくなってしまう。そうではなくて、と言い出したいが出来ない。

  そんな様子を見ていたジエルは優しく微笑んだ。


  「中島様、私はずっとこの城でメイドをしております。休みはもちろんありますが、部屋で今までの自分の仕事を振り返り、反省します。それが私の休日です。」


  「それで休めているんですか?」


  「はい。休めています。ただ、毎日毎日、同じ仕事をし、休日に同じ仕事をしていれば、心や感情は乏しくなっていきます。変化がない日々を送れば当然のことです。しかし、今日は違いました。私は今日変化を得られたのです。それだけでも私にとってはリフレッシュになるのです。」


  中島はジエルの言葉にそうかも知れないと思う。だが、そうだとしても理解しきれない中島からすれば思い描いていたことと違い、少し気持ちが悪い。

 中島はジエルに問う。


  「その……今日は楽しかったですか?」


  ジエルは笑顔で答えた。


  「はい、楽しかったです。」


  「そうですか。」


  気を使っているのかも知れない。けれど中島は嬉しかった。


  「それでは私はこれで。」


  「あ、はい。」


 ジエルはそう言って中島の部屋を後にした。

 中島は扉が閉まり切るのを確認し、ベッドへ倒れ込んだ。仰向けになり、天井を見ながら、今日のことを思い返す。が、上手くいかなったことしか思い浮かばない。


  「けど……楽しかった、とは言っていたものね。」


  口元が緩む。


  「よし、明日からまた気合を入れて頑張ろう。たまには私が本を探しに行くのいいかもしれませんね。それから……生………と……。」


  中島は静かに眠りについた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーーージエルSIDEーーー


 

  場内の一室。そこは人が暮らしている部屋とは思えない程に殺風景だった。ジエルはその部屋の中央で腰を下ろし、口を動かしながら、手帳に何かを書き込んでいた。


  「本日、勇者中島は街へと出掛けた。私をリフレッシュさせようと考えていたようだったので、その期待にそい、私はリフレッシュをした。楽しかった、と思い込む・・・・ことにも成功した。」


  その声は余りにも機械的でいつも無表情でクールな彼女は人形のように見えてしまう。


  「明日は中島は図書室へ出向くもよう。私も同行し、彼女の手助けをする。また、指令に従い、計画を始動する。ゲームの始まり?とあの方は言っていた。クリアをした暁には報酬が必要である。それについては私が明日、図書室で考えるものとする。」


  ジエルはそう書き記すと手帳を閉じ、空中へと放り出した。しかし、その手帳は床に落ちることなく、そのまま消えてしまう。が、手帳ではない別のものか床に落ちている。ジエルはそれを拾い上げる。


  「リフレッシュの効果により、精神や身体までも緩んだ?もよう。一度、状態を解除し、再度変身するべきか?」


  次の瞬間は、ジエルの体が輝く。が、それも一瞬で終わる。


  「状態は問題ない。も問題ない。姿をジエルに戻す。」


  再び、光を放つ。部屋の中央にはジエルの姿があり、その周りには純白の羽が落ちていた。


  「掃除をしなくては。」


  ジエルはそう言い、何処からともなく現れた箒で羽を掃く。その姿は間違いなくこの城で働くメイドであった。


 


 


 


 


 


 

ジエルさんは完璧です。完璧なーーです。

次回は日曜日に投稿します。

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