気がついたら要求は変わってました
ブックマーク数1000を突破!!!!ありがとうございます!!!
あと数ヶ月でで2年目に突入する『気がついたら魔神でした』がここまで続けられて来たのも皆さんのおかげです!今度はブックマーク数1500を目指して頑張ります!今後ともよろしくお願いします!
眼下に広がる光景を前にしても俺はそれを信じることが出来なかった。先程まで話をしていた仲間たち、彼らは今、あの霧の中にいる。それは即ち彼らの死を意味する。
「歩……颯太……横山……琴羽……。」
俺はただ名前を呼ぶことしか出来なかった。
「何で……何でこんなことに……。」
それは俺の注意不足であり、魔神を名乗る創造神たちのせいでもある。そうだ、創造神が悪いのだ。ならば、そいつを殺せば良い。俺はそう考えた。しかし、体が動かない。どうやら親友を失った、と言うことは想像以上に俺への負荷となったらしい。
「くそ……。」
体から力が抜け、辺りがやけに静かに感じた。だが、そんな中で俺はある声を耳にした。
「助かったぜ、颯太!」
「歩!」
そう、歩の声だ。あの霧の中から親友の声が聞こえたのだ。
「はあ!」
俺は『暴食之神』を使用し、霧を吸収する。あの声が幻聴などでは無いと信じ、俺は必死に歩たちを探す。徐々に霧は薄くなっていく。そして遂に俺は見つけた。彼らの無事な姿を。
「歩!」
「ん?お、雅風じゃねえか!おーい!」
俺の声に気づいた歩は笑顔でこちらに手を振ってきた。人が心配していたのにその気も知らないで、とは思ったものの、それ以上に彼らが無事でよかったと言う気持ちの方が大きかった。
霧を全て吸収した俺は着陸し、歩たちのもとへ駆け寄った。
「心配させるな。」
「心配したのか?まあ、確かにあの霧はヤベェ感じはしたけどよ。まあ、颯太が守ってくれたから問題なかったぜ。」
「颯太が?」
俺は颯太の方を向くと、彼は話をしてくれた。
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霧に飲み込まれる寸前、引き延ばされたかのように遅くなった世界で彼は声を聞いたと言う。その声は【聖剣グラム】と名乗った。【聖剣グラム】は颯太に問いかけた。
〈貴様は何を欲する。〉
颯太は何故そんな質問をするのかと思った。脅威が迫り、後ろに守るべき仲間たちがいる。そんなときに求めるものなどもう決まっているでは無いかと。
(仲間を守る力だ!それが僕の今欲しているものだ!当たり前だろう!)
〈その通り、当たり前だ。だが、主人には一度聞きたかったのだ。追い込まれた状態であろうとも仲間を守ろうとするのかと言うことをな。だがこれで理解した。受け取るが良い。)
その言葉と共に体に何かが流れ込んでくるような気がした。
(我が名を呼べ!)
「【聖剣グラム】!」
次の瞬間、【聖剣グラム】は2つに分離し、1つは颯太と歩を、もう1つは他の勇者やエルティナたちを守る形で展開された。ドームの様な形状へと変化した【聖剣グラム】は更に反射の力を使い、完璧に霧から颯太たちを守ったのだ。
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「と言うわけだ。」
「成る程な。つまり、【聖剣グラム】の力を最大限まで引き出せたわけか。」
「まだまだ最大限には程遠いけどその片鱗が見えた気がする。雅風、俺は【聖剣グラム】を使いこなして見せるぞ。」
「そうか、頑張れよ。」
颯太にエールを送るのと同時に俺に近づく2人がいた。
「飯綱くん、ラフィーエさんは大丈夫なの?」
その正体は横山と琴羽だ。横山は先程まで自分が危険な状況にいたのに既にラフィーエの心配をしている。本当に優しい子だ。
「ああ、目立った外傷とかも特になかった。体を休めればもう大丈夫だろう。これでやっと話し合いが出来る。」
「そっか、良かった。」
「そうね、けれど彼女が【聖剣】を渡してくれるとは決まったわけでは無い。寧ろ、これからの方が苦労するかもしれないわ。」
確かに琴羽の言う通りだ。ケリアの形見を簡単には諦めないと思う。『傀儡』を解除したとき、何かを見いだすことが出来たようだったが、逆にそれがケリアへの思いを強くしたかもしれない。正常には戻ったが、ある意味ではこれからが本番なのかもしれない。
「まあ、どうにかするしかないな。」
「そうね。それにあなたが居てくれれば大丈夫な気がするわ。」
「それはどうも。」
「ああ!琴羽ちゃん!勝手にイチャイチャしないで!」
「あら、私はただ飯綱くんと話をしてるだけよ。イチャイチャなんてしてないわ。ね、飯綱くん。」
「あ、ああ。」
「またイチャイチャして〜!」
横山は頬を膨らませるが、琴羽はそれを笑いながら見ている。横山も本気では言っていないのだろう。そんな様子を見るとやはり2人の仲は更に良くなったと思える。本当に無事で良かった。
「ちょっと。」
颯太には後で感謝しておこう。
「ねえ!」
【聖剣グラム】にも出来たらしておいた方が良いのか?
「ねえ!」
「…なんだ?」
俺が仲間の無事を確認できて安心していると、エルティナが声をかけてきた。
「もっと早くこっち向きなさいよ。」
「悪かった。」
「本当よ、全く…。それで、ラフィーエの様子はどうなの?」
あまり仲が良くないとは言っていたものの、心配ではあるようだ。まあ、エルティナは善人だし当たり前か。
「今は寝てるが問題ない。後は体力が回復するのを待つだけだ。」
「そう。なら、また後日になるのかしらね。」
「そうだな。」
ラフィーエのことも勿論だが、リルカスの策略に手を貸した者たちへの処罰、またその後任を決めるなどデリンも忙しくなる。1日、2日で片付く問題ではない。俺も何か手伝えることがあるなら手伝うとするか。
俺は倒れた兵士たちを運んでいる人たちを手伝おうとしたとき、ルネの声が届いた。どうやら風で声をここまで運んだようだ。
(イヅナくん、ルネだよ。その、ラフィーエさんが起きたから来てくれないかい?他の人たちも連れて来てくれて構わないって彼女が言ってたから出来ればそこにいる人たちも連れて。)
「わかった。」
(じゃあよろしく頼むよ。)
「皆、ちょっと集まってくれ。」
俺は全員に声をかけ、説明をし、ラフィーエの部屋へと向かった。
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「ここだ。」
「ほ、本当にラフィーエ様はここに?」
そう聞いて来たのはリルカスとは別の大臣、レイトと言う名の男のダークエルフだ。デリンの人にも事の成り行きやラフィーエのことを話しておかねばならないと判断をし、急遽来てもらった。
そんな彼だが、先程からラフィーエは無事だと言っているのになん度も繰り返し、大丈夫なのかと聞いてくる。まあ、それだけラフィーエという存在がこの街にとって大切かと言うことはわかった。が、それでも少し面倒だ。説明するよりもその姿を見てもらった方が早い。
「来たぞ。」
「イヅナたちか。待っておったぞ。」
部屋に入るとベッドの上で体を起こしているラフィーエがいた。まだ、本調子ではなさそうだが、話すことは出来そうだ。
「ラフィーエ様、よくぞご無事で!ラフィーエ様の身にもしもの事があったらそれはもう……。」
「静かにしておれ。」
「は、はい。」
ラフィーエはレイトの言葉を遮る。大臣のことはよく思っていないままか。
「それでラフィーエ。何でここに全員を読んだんだ?」
本題に移る。
「それは【聖剣】についての話をしようと思おたからじゃ。お主らにはあれが必要なのじゃろう?」
「そう…。」
「そうです!魔神を倒す為にも俺たちには【聖剣】が必要なんです!」
颯太が俺の言葉を遮り、声を大にして言う。だが、ラフィーエは体調が悪いのだ。もう少し気を遣えないものか。
「もう少し静かにしてはくれぬか。身体に響く。」
「あ、すみません。」
本人に言われる始末。
「じゃが、それも仕方あるまい。妾は【聖剣】を渡さぬと言ってきたわけであるからなあ。」
「そうよ。昔からずっと。だから頑固者って言われるのよ。」
「それを言うのはエルティナ、お主だけじゃ。」
何故こんなときまで喧嘩腰なのか。
「そんなことはどうでも良いわ。それよりも結局、【聖剣】をくれるの?まあ、あんたのことだからどうせ又、【カラドボルグ】と交換って言うんでしょ?」
「いや、妾にもう【聖剣カラドボルグ】は必要ない。そんな物を出さなくとも【聖剣デュランダル】はお主たちにやろう。」
予想外の返答に一同は目を丸くして驚いたが、【聖剣デュランダル】が手に入ると分かり喜んだ。だが、それでもエルティナはラフィーエを怪しむ。
「ねえ、ラフィーエ。【聖剣カラドボルグ】は必要ないってことは他に何かを要求するって事じゃないの?」
「え?そうなんですか?」
エルティナの言葉に喜んだいた颯太は再び、ラフィーエへと視線を向ける。それに続き他の者たちも視線を向ける。
「よく分かったのう。」
「100年以上の知り合いにもなればそんなこと当然でしょう。それで貴女の要求は?」
「イヅナじゃ。」
ラフィーエは即答した。そして、ベッドから降り、俺の横に立つ。
「「「………はい?」」」
エルティナたちは意味がわからないと言った様子だ。
「何が『はい?』じゃ。妾はイヅナを要求したのじゃ。今の妾に必要なのはケリアの形見の【聖剣カラドボルグ】ではない。想いを寄せているイヅナなのじゃ。」
ラフィーエは俺の腕にもう離さないと言わんばかりに力強く抱きつく。柔らかい。
「じゃから妾にイヅナを………。」
「「「駄目です(よ)!!!」」」
アスモデウス、横山、琴羽が声を上げる。
「何ですか貴女は!後から出てきたくせにイヅナ様を寄越せとは!生意気にも程があります!」
「そうだよ。私だって、私だって、飯綱くんとそういうことしたいよ!」
「わ、私は……その………。」
アスモデウスたちの必死なその様子を見て、ラフィーエは笑った。
「ハハッ、成る程。イヅナよ、お主は愛されてあるのだな。」
「……。」
きっとそうなのだろうけどここで、そうだ、と言うのは少し恥ずかしい。
「照れるでない。しかし、そうか……ならば良い。【聖剣デュランダル】はタダでやるとしよう。」
「え?い、良いんですか?」
少し落ち着いた横山が申し訳なさそうに聞く。
「良い。そもそも世界の為に戦おうとしとる者たちに協力しないわけにはいかんじゃろう。それに……。」
「それに?」
「偶にイヅナが会いに来てくれるだけでも良い。それだけでも妾は嬉しい。まあ、その先のキスから何までやっても妾は良いのじゃな。」
「駄目です。まだ、私ともしてないんですから駄目です。ええ、駄目です。」
いつの間にかラフィーエとは反対の腕に抱きついているアスモデウス。ラフィーエのふざけ半分の言葉を全て間に受けている。
「そうか。残念じゃ。じゃが。」
「ああ!」
俺の頰に柔らかな感触が伝わる。そう、ラフィーエが俺の頰にキスをしたのだ。
「お主の言葉に従うとは思わぬことじゃな。」
言葉はアスモデウスに向けて言っているが、その視線は俺を捉えていた。きっと俺の顔は赤くなっている。不意打ちとなるとどうしてもこうなってしまう。
「イヅナよ、そのような顔もするのじゃな。可愛いではないか。」
「そ、それはどうも。」
恥ずかしがりながらも何とか一言絞り出す。だが、そんな俺にも容赦なくアスモデウスは自分の欲望に素直に動く。
「イヅナ様!私も!私も!その女ばかりずるいです!」
「ちょっ、待て。」
「な、何でですか!良いじゃないですか!ルネもそう思いますよね?!?」
「何で僕に振るんだい?」
「ルネならとりあえず良い返答をしてくれると思うからです。」
「それは返答次第では容赦なく鍛錬で厳しく行くと言っているのかい?」
「当たり前じゃないですか。」
「はは、そうかい。」
可哀想なルネだが、アスモデウスがそちらを向いている間に話をさっさと進めてしまおう。
「それで【聖剣】はどこにあるんだ?」
「この塔の更に上じゃ。じゃが、少し準備が必要となる2、いや3日後にまた来てはくれぬか?」
「了解した。皆もそれで良いか?」
勇者たちは首を縦に振る。よし、なら決定だ。
「じゃあ、話はこれで良いか?」
「妾は良いぞ。」
「そうか、なら俺たちは帰らせて貰う。ラフィーエももう少し体を休めた方が良いだろうしな、早めに退室させて貰う。」
「そうか。助かるぞ、イヅナよ。じゃが、また来てくれるんじゃよな?」
「当たり前だ。」
そうして、俺たちはラフィーエの部屋を後にした。
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「イヅナ様!私もほっぺにキスを!」
「アスモデウスさん、良い加減にしないと嫌われるんじゃないかい?」
「イヅナ様〜!」
「き、聞いてない。」
次回も来週の日曜日に投稿します。