気がついたら黒い霧でした
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ーーー勇者SIDEーーー
「ぶひい!」
腐豚頭王は鳴きながら腕を颯太たちに向け振り下ろす。大振りの一撃はまともに喰らえば、如何に勇者といえどダメージを受ける。だが、理性を無くし、考え無しに振るわれた攻撃を受ける程、勇者たちは弱く無い。
「歩!」
「任せろ!」
颯太が攻撃を受け流し、歩がその隙をつき腐豚頭王の背後を取り、一撃を加える。ドス黒い色の血と体内に溜まったガスが吹き出る。
「くせえ!」
「毒ガスかも知れない!吸わない様に気をつけろ!」
「言われなくともっ!」
颯太が腐豚頭王から離れた事を確認し、歩は腐豚頭王を蹴り、距離を取る。
「歩、大丈夫か?」
「おうよ!問題ねえ!」
「なら…。」
「任せろ。」
歩は自身が持つスキル『探求者』を使用し、腐豚頭王のステータスを確認する。
【リルカス】
種族:腐豚頭王
レベル:1500
攻撃力:300000
防御力:350000
魔攻力:100
魔防力:350000
魔力:380
俊敏:300000
運:500
【能力】
ユニークスキル
『暴食者』
『粉砕者』
スキル
『格闘術レベル20』
ギフトスキル
『$€*£!*!%$』
ステータスの中には最も高いもので30万を超えるものがあった。以前の2人ならば負けることは無くとも、大きなダメージを受てしまう相手だったかも知れない。しかし、ダンジョンから出た後も鍛錬を重ね、更に力をつけた2人にとって目の前の腐豚頭王は相手にもならない。
今の歩、颯太のステータス値はイヅナが確認したときのものよりも上昇しており、40、50万を超えるものとなっている。そんな2人にとって目の前の敵は驚異では無かった。
「問題ない!行ける!」
「わかった。」
颯太は腐豚頭王へと走り出す。
「ぶびい!」
腐豚頭王は接近する颯太に向かい、拳を振り下ろす。しかし、それを予測していた颯太は手を打っていた。
「【聖剣グラム】!」
守護の力を持つ【聖剣グラム】は剣でありながら守ることに特化している。自在に形を変化させ、いつ如何なる所からの攻撃を防ぐ。また、その攻撃を反射し、利用する。だが、颯太はまだ攻撃を反射させるまでの力を発揮することが出来ない。だからこそ颯太は今自分が行使できる力を最大限に発揮出来るよう鍛錬をしてきた。
「ぶひぃ!」
腐豚頭王の拳が颯太に迫る。しかし、颯太は余裕の表情を浮かべる。それも、そのはずである。何故なら…。
「ぶびゃあっ!?」
腐豚頭王が声を上げ、下がる。先程まで拳を作っていたその手は血を流していた。
「『糸界』。」
技名を言う颯太の周りを糸の様に細くなった【聖剣グラム】が囲んでいる。鍛錬により、自在に聖剣の形を変化させることを可能にしたのだ。
『糸界』。その名の通り、糸の如く細くした【聖剣グラム】を展開させるその技は如何なる方向からの攻撃にも対応する。細くなったと言えど【聖剣】その強度は健在だ。現に高い防御力を持ち並みの武器では歯が立たない腐豚頭王のその拳は防がれた。そればかりでは無く、逆にダメージまで与えて見せたのだ。
「しっかし、本当に細えよな。初見だったら俺だってダメージ受けるぜ。まあ、今ならどうとでもしてやるがな!」
「分かったから今は戦いに集中してくれ。ほら、来るぞ。」
腐豚頭王に思考力は殆ど残っていない。だが、颯太への攻撃を当てることが困難なことくらい理解できた。そして、目標を歩へと変更する。
「ぶぃびぃぃぃ!!!」
咆哮しながらの突進。だが、そんな単調な攻撃が歩効くわけも無く。
「うるせえ!」
「ぶふぉっ!?」
腐豚頭王は下顎を殴られ、バランスを崩す。そして、その一瞬の隙を逃さない。
「今だ!」
「おう!」
歩が上段から切り下ろし、颯太が背後から切り上げる。歩が左腕を切り落とし、颯太が右腕を切り落とす。
普段から鍛錬を共にする2人は互いの動きを理解しきっていた。言葉を交わさずとも互いの狙いを把握し、最善の行動をし合う。
止まることのない剣戟が腐豚頭王の体を確実に削いでいく。
「ぶび!?ぶほぉ!?びひゃ?」
「「はあっ!」」
一閃。腐豚頭王の首が切られ、頭が飛び、血とともに飛び散る。赤黒い血は月光を反射し、まるで光り輝いたかの様だ。
頭を無くした腐豚頭王は力が抜けた様に膝をつき、動かなくなった。
「これで……。」
「終わりだな。疲れたぜ。」
2人は剣をしまうと肩の力を抜く。鍛錬はして来たものの戦闘は久し振りだった。気の抜けない緊張した空間。2人が疲れ、肩の力をぬいたのは当たり前だ。だが、その選択は間違いであった。
確かに腐豚頭王は倒した。しかし、歩は見逃していた。奴の持つ最期のスキルを。
腰を下ろし、少し休んでいると颯太が口を開いた。
「ん?なあ歩、何か変な匂いがしないか?」
「匂い、確かに腐乱臭の様な匂いが……まさか!」
腐った匂い。それに気づいた颯太、歩は腐豚頭王の方を向く。するとその身体からは黒いガスが漏れ出ていた。
ギフトスキル
『神殺しの霧』
それが魔神から贈られていたスキルだった。少しでも吸えば、神をも殺すと言われる黒い霧をそのスキルを保持するものが死んだときに発生させるというスキル。しかし、このスキルは発動するまでに少しだけ時間を必要とすることとステータスを見られた場合にバレてしまう、また、バレなくとも名前からしてその危険はある程度察知できてしまうことから簡単に回避されてしまうスキルである。
しかし今回は『神殺しの霧』を送ってきた魔神からの隠蔽により、歩は気づくことが出来なかった。その為、彼らは逃げる時間を用意することが出来なかった。
「様子がおかしいな。ここは一旦距離を取ろう。」
「そうだな。」
歩が返事をしたその瞬間だった。腐豚頭王は破裂し、中から黒い霧が出てきた。
「不味っ… !」
歩が口を開いたが一瞬のうちに部屋を黒い霧が埋め尽くした。部屋にいた勇者たちを飲み込んで。
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ーーーイヅナSIDEーーー
「ラフィーエ、ゆっくり休んでくれ。」
「手は出さないで下さいよ。」
「出すわけないだろ。」
俺はラフィーエをベッドに寝かせていた。身体や精神に異常はなく、少し経てば起きるだろう。
勇者たちには腐豚頭王を任せる形にはなってしまったがルネにベルゼブも残ってくれているし、問題は無いだろう。今はただラフィーエの目覚めを待つだけだ。
「イヅナ様。」
ラフィーエの見ているとアスモデウスが話しかけてきた。
「何だ?」
「誰か来ますよ。」
ラフィーエに集中していたせいか気づかなかった。確かに足音が聞こえる。1人、いや、1人背負っているから2人か、魔力を感じ取ることで分かった。だがこの魔力、知人のものによく似ている。
しかし、あの2人は今、勇者たちと共に居るはずだ。そんなわけが無い。と言うよりもそんなことが起きないで欲しい。
バタン
大きな音を立て、扉が開いた。
「むー(ここか)?」
「最悪だ。」
俺は思わず言ってしまった。何故ならそこには勇者たちと共にいる(と俺が勝手に思い込んでいた)はずのベルゼブ、ルネがいたのだ。そして、時を同じくして下、勇者と腐豚頭王が戦っているはずの方向で爆発音が聞こえた。これは最悪の状況だ。
俺は腐豚頭王がギフトスキル『神殺しの霧』を持っている事を知っていた。それは神さえ殺すと言われる毒の霧を辺りに噴出するものだ。俺はともかく、アスモデウスたちでさえ、まともに喰らえばタダでは済まない。だが、ベルゼブならば『暴食之神』、ルネならば『風星之神』、『黄泉之神』を使用する事で防ぐことが出来る。だから、最後に『神殺しの霧』が発生しても問題は無いと考えていた。だが、その頼みの綱の2人が今、俺と同じ場所にいるのだ。
「イヅナ様!?」
アスモデウスの声が聞こえたが今は応えている余裕はない。とにかく急がなくては。
俺は『瞬間移動』を使い、先程の部屋の天井付近に移動した。そして、目の前の光景に絶句する。
「なっ……。」
勇者たちがいたはずのその部屋には黒い霧が充満していた。
週一投稿継続中。
次回も恐らく、来週の日曜日です。もしかしたらGW中にもう一話出すかもしれませんが…期待しないで下さい。