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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第4章 デミア大陸編
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気がついたら腐豚頭王でした


「イヅナ…。」


「ラフィーエ。」


何とか『傀儡』から抜け出したラフィーエは体力を消耗し過ぎたのだろう、また意識を失ってしまった。しかし、先程とは表情が違う。何も感じ取れてはいないと思わせるような無表情から一変し、今は幸せそうだ。

彼女は言った。世界はこんなにも鮮やかだったのかと。ケリアを失い、何もかもが意味のないものに見えていた彼女にとって、世界は灰色の荒野のようにしか見えなかった。彼女はそんな何もない世界を見てはいられず、記憶に残る鮮やかで美しい世界のことを思い出してきた。だが、そんなことをしてもそのときと同じことを感じることはない。何度も繰り返して仕舞えば、感動は薄れていく。結果、彼女の豊かになった感情も薄れてしまう。

きっとあと数百年もすれば彼女は本物の『傀儡』へも変わり果ててしまった。だが、そこに俺が現れた。彼女が久しく見ることのなかったもの。色のついた心動かされるもの、それが俺だった。

あんなことで心を動かせるなら今までもその機会はいくらでもあったように思える。だが、違うのだろう。彼女の心を初めて動かした存在、ケリア。彼に通ずるものがあったの、だろうか。それはラフィーエのみが知ることだ。


「まあ、何より無事で良かった。」


「イヅナ様〜!終わりましたか?」


後ろを振り向くと、ぴょんぴょんと跳ねながら、手を振る付き人がいた。心配はしていないだろうが、見届けてくれたのだろう。


「ああ、終わった。あとは安静にしていれば問題ない。そっちも片付いたようだし、俺はラフィーエを部屋に運んでくる。」


そう言って、ラフィーエを抱え上げ移動しようとするが、それを許さないものがいた。一瞬のうちに俺の目の前まで移動したもの。


「駄目です!」


アスモデウスだ。


「何が『駄目です。』だ。早く休ませた方が良いだろ?」


「駄目です。まずお姫様抱っこの時点で羨ま……駄目です。」


一瞬、本音が出る。


「それに男女が二人で部屋にこもるなんて絶対にいやらしいことをするに決まってるじゃないですか。そして、それを見逃す恋人が何処にいると言うんですか!いえ、そんな恋人存在しません!」


「確かにそんな恋人は存在しないかもな。だが、アスモデウス。お前は俺の何だ?」


「恋び……。」


「付き人な。」


アスモデウスは明らかに不満そうにこちら見るが、今はそんなことに付き合ってる場合ではない。


「アスモデウスさん、僕はイヅナくんがそんなことをする様な人には見えないけど、それにラフィーエさんは本当に寝かせてあげた方がいいと思うよ。」


「むー(右に同じく)。」


いつのまにかすぐ側に移動していたルネとベルゼブが言う。


「2人までイヅナ様がこの吸血鬼と夜を共にするのを許すんですか?全く、気が知れませんね!」


「じゃあ、一緒についていけば良いんじゃないかな?」


「むー(右に同じく)。」


「成る程!ルネも偶には!偶には!!言うじゃないですか。」


「そんなに強調しなくても良いんじゃないかい。」


「むー(右に同じく)。」


アスモデウスはきっと冗談で言っているつもりだろうが、それに気づかないルネは少し傷ついている。だが、こんなやり取りをしながらも2人は今日までやって来れているわけだ。仲は良い。ベルゼブは……右に同じくしか言っていないので分からない。まあ、仲は良いだろう。


「そう言うことですのでイヅナ様!私も付いていきます!」


「なら、行くぞ。」


「はい!」


俺は玉座の前から移動しようとする。しかし、今までの様子を見ていたあいつが異議を申し立てるように声を上げた。


「何故!何故ラフィーエが…。」


「あ?」


「ひっ!?」


声を上げたのは豚野郎リルカスだ。思い通りに事が進まず、納得がいかないのだろう。


「ま、魔神様から頂いたアイテムを使ったんだ。何故、何故それをお前ごとき人間が解除できるんだ!」


「お前にアイテムを渡したのが魔神じゃないからだ。」


嘘だ。正確には言ったことは嘘ではない。リルカスの質問に対する答えとすると嘘となるのだ。あのアイテムを渡したのは創造神だ。だが、あのアイテムの効果を解除できたのは俺が・・魔神だからである。しかし、そんなことが言える訳もなく、嘘をつけば勇者たちの中に勘のいいやつがいれば気付かれてしまう。それを考えたときの最善策がこの回答だ。

俺の言葉にリルカスは混乱する。


「魔神様ではない?しかし、そう考えるのが妥当か?ならば私は誰を信じていたんだ?」


(リルカスよ。)


「!?、これは!」


颯太が突然響いた声に驚き辺りを見回す。しかし、誰もいない。それもその筈だ。この声は俺たちの頭の中に直接響いているのだから。そして、こいつが恐らく…。


「おお!魔神様!貴方様が本物の魔神様。」


(その通りだ。して、リルカスよ。貴様は我の命令に背いた。)


「そ、その様なことは…。」


(この国を乗っ取ることに失敗した時点で同じことよ。)


「そ、そんな……わ、私は!魔神様の為に!」


リルカスは必死になる。このままでは自分の命が危ないと感じているのだ。冷や汗をかき、涙を流す。豚面でそんなことをされても汚く見えるだけだ。


(そうか、ならば最後にチャンスをやろう。)


偽魔神がそう言うと、空間が割れ、中から黒い球体が出てきた。


「こ、これは。」


(それを飲み、ここにいるものを全員殺せ。それが出来れば命までは取らん。)


「これを……飲めば。」


リルカスは黒い球体を手に取り、見つめる。俺はそんな奴を見て、口を開いた。


「止めておけ、死ぬのが早くなるだけだ。もしかしたらもっと悲惨な最期を迎えるかもしれない。」


「ひ、悲惨な最期。」


リルカスは飲み込むことを躊躇する。その瞬間、俺は間合いを詰めその黒い球体を蹴り砕いた。


「な、何を!」


「黙れ。」


「ひいっ!?ま、魔神様!これは私のせいではございません!こ、この娘が!」


(もう良い。直接、やってやる。)


「ま、魔神さっ……ぐべっ!?」


突然、リルカスが吐血した。だがそれだけでは止まらない。体から骨が突き出し、だらしなくついた肉と血が辺りに飛び散る。


「げば……。」


ボン!


頭が破裂した。


「な、なんて事を。」


勇者たちがその様子を見て青ざめる。確かに少しばかりこの光景はきついかもしれない。だが、ここで終わりではない。

飛び散った血肉が宙に浮かび上がり、集まっていく。そして、徐々に新たな生物へと変貌していく。


(さあ、腐豚頭王ゾンビオークキングよ。奴らを殺せ。)


醜く、汚なかった、豚頭の獣人リルカスは、更に腐臭を身に纏い、体液を撒き散らす、穢れた存在、腐豚頭王となった。


「ぶびっ!ぶぎゃあああ!」


「言葉も忘れたか。」


もはやあいつにリルカスだったと言う記憶はない。さっさと殺そう。別にリルカスの意識があったとしても殺すことには変わらないが。

俺は【邪神剣ダーインスレイブ】を取り出し、構える。そんな俺の前に颯太と歩が剣を構え、現れた。


「お前ら。」


「雅風は休んでろ。ラフィーエさんを回復させた様だし疲れてるだろ?ここは俺たちに任せとけ!」


「歩の言う通りだ。」


一切疲れてはいないが、目の前の腐豚頭王は勇者たちでも充分に勝てる。それにラフィーエを早く寝かせてやりたい。ここは任せるとしよう。最悪の場合でもルネやベルゼブがいれば大丈夫だろう。


「わかった。頼んだぞ。」


「「おう。」」


「行くぞ、アスモデウス。」


「はい!」


俺は2人に背を向け、ラフィーエの部屋へと向かった。


「さあて、豚野郎。お前の相手は俺たちがしてやるぜ。」


「ぶひぃー!」


勇者と腐豚頭王の戦いが始まった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーベルゼブSIDEーーー



「むーむー(私たちもイヅナ様たちと行く)?」


「僕も出来ればアスモデウスさんたちと一緒にはいたいね。いや、でももしもの事を考えて残っていた方が良いんじゃないかな?」


「むーむー(あいつは弱いし大丈夫。」


「いやでももしもと言う場合が……。」


「むー(うるさい)。」


「ごふっ?」


ルネが頭を叩かれ、気絶する。


「むー(よいしょ)。」


こうしてベルゼブとルネはイヅナたちの後を追うのであった。



次回も来週の日曜日投稿予定です。

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