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天使のいたずら

雪のいたずら

作者: 銀兵衛

 二人の天使が今日もまた大きなあくびをして、白い雲の上に寝転がっている。

 短く切りそろえた髪を無造作に白いじゅうたんの上に広げ、手のひらから綺麗な水を溢れさせているのは、泡沫の歌姫と呼ばれる天使、アルタという少女だ。彼女の片割れ、金魚の踊り子と呼ばれるアリサという少女は、長い髪を振り乱し、くるくると駒のように美しく、軸をまっすぐに踊っている。

「そろそろいいかなあ」

 ふうとため息をついて、アリサは踊りをやめた。彼女のまとっていた風は全て、アルタの水を汚れた雲の中に押し込んだ。

「おつかれさま、アリサ」

 彼女たちは今、高い高い空の上から、雪を降らせている。大天使様のお告げの通りに、決まった量を決まった時間に、決まった雪の種類で降らせる。それが彼女たち天使の仕事なのだ。

「もー、どうして今回は量が多いのよ」

「しかもぼたん雪だしね、面白くない」

 彼女たちは不満を口にする。

 雪の降らせ方はとても簡単だった。一人が水魔法を使い、一人がその水を汚れのたまった雲の中に押し込む。すると雲は活性化して、汚れと水をミックスさせ雪を振り落とすという過程になっている。汚れた雲から降り落ちた雪は普通全てぼたん雪なのだ。下界に降り落ちる前に、雪に魔法を加えると違う雪の種類になる。彼女たちはそうやって毎年冬の季節、様々な雪を、様々な地域に降らせている。

「大天使様からの指示が『しんしんと静かに、少しずつ降らせること』だから本当に退屈だわ」

 アリサがため息混じりにそう言うと、アルタが手のひらから水魔法を使うのをやめた。

「お、2個目終わったよ」

 汚れのたまった雲は真っ白になってふわふわと踊りだした。彼の汚れは全て雪が吸収し、下界に落ちていったのだ。

「きれいになってよかったねー」

 アリサが撫でると、もくもくと返事をした真っ白な雲はどこかへふわふわ漂っていった。アリサが雲に手を振り見送ると、入れ違いに汚れて真っ黒になった雲たちがそよそよと寄ってきた。順番待ちをしていたようだ。はやく綺麗にして、と雲たちは口にする。アルタはそれを見てげっそり。顔を曇らせる。

「まだまだあるよー。退屈すぎて死にそう」

「久しぶりの当番だから余計だね」

 アルタを励まし、アリサはすくっと立ち上がった。金魚の踊り子と呼ばれるように、彼女の魔法の使い方は踊ること。赤い髪を振り乱し、アルタの詩に合わせて踊ると彼女の周りに風が集まるのだ。反に、アルタの魔法はうたである。彼女の謳声に合わせ、魔法は手からあふれ出す。人は彼女たちのことを「天才」と呼んだ。

「ね、降らせ方変えない?」

「いいね、そうしよう」

 今日も彼女たちのいたずらは始まる。どちらからというわけでもなく、お互い退屈だ、暇だ、と思ったらいたずらが始まる。彼女たちは逸材だが、問題児でもあった。

 ぽつぽつと降り出すぼたん雪に、アリサが風魔法を使い、雪を細かく切り刻んだ。アルタはめいっぱいの水を汚れた雲にどんどん押し込んで、大量に雪を降らせていく。ゆっくり落ちていく雪に風を足して暴風雪にしたり、降らせない地域に雪を降らせたり、大天使様の指示はお構いなしに、どんどんしたいことをやっていく双子たち。

「楽しいねー、アルタ」

「ほんと! 楽しくてたまらないわ」

 アルタは気持ちよさそうに伸びやかに謳い続け、アリサはアルタの音楽に合わせて、綺麗になった雲の上でぴょんぴょん跳ねては回り、くるっと回って微笑んだ。

 その笑顔に反響するように、アルタの頭の上の輪っかの光がまた薄くなる。アリサの腕についたブレスレットのカラフルな色もまた一つ消えた。

 しかし彼女たちの華やかなステージは終わりを告げる。まぶしい光が二人を包んだ。

「やってくれたわねぇ、双子たち」

 空から美しい声が降ってくる。大天使様はお怒りだ。


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