病床の君へ、言葉を
あらすじの※印の部分をしっかりと承諾した上でお読みください
百合とか書いちゃってますけど友情劇に見えなくもないです
「私・・・、ゆきえと一緒に過ごせてよかった・・・・」
そう、病床に伏せる私の親友が弱々しい声で呟く
「・・・・私もだよ、しおり」
泣きそうな顔を見せまいと、私は必死に笑う表情を作ってそう答えた
しおりは昔から病弱で、中2の中盤に心臓に病を患ってからずっと寝たきりになってしまった
ドラマや小説でありそうなぐらいベタな展開に、これが夢ならどんなにいいかと思ってしまうのが辛い
けどもっとつらいのは、しおりの苦しそうな顔を見ることだ
しおりは末期の症状を発症していて、発作が頻繁に起きて心臓にかなり負担がかかっているらしい
大した知識があるわけでもない私が出来ることなんてたかがしれているし、できることなら替わってあげたい
「・・・・・・やっぱり、私って治んないのかな・・・・?」
ベッドに横たわったままのしおりが、唐突にそんなことを言い出した
「なに、言ってるの・・・?きっと治るって、主治医の方も言ってたじゃあないの」
言葉に詰まりながら、しおりの手を握ってそう言って励ます。けれど、しおりは私の手を痛いほど握りしめてきながら
「私・・・っ、分かるの・・・・!だんだん自分の鼓動が・・・小さくなっていってるってこと・・・!自分のことだから・・・、それぐらい・・・・っ!」
顔をくしゃくしゃにして、目から大粒の涙を流し、精一杯の大声でそう叫んできた
確かに、しおりの心拍数は微々ながら減っていっている。心音もあまり強くはないらしい
私はしおりの負担にならない程度にしおりの体を抱きしめ
「だとしても・・・・、当の本人であるしおりが弱気になってたら治りもしないよ・・・?お願いだから・・・、弱気にならないで・・・・!」
そう耳元で言ってあげる。こらえていた涙が、出てきそうだ
そのとき、主治医である医師が病室のドアをノックして私を廊下の外へ呼び出した
診察室の椅子に医師と対峙して座ると、医師が重々しく口を開く
「片岡しおりさんの病の件ですが・・・・もうこれ以上治療しても意味がないようです。治療費もあまり安いとは言えない額ですので、残念ですがもうこのまま痛み止めだけの治療にされる方がよいかと・・・・」
これ以上治療しても意味がない・・・・そう言われた途端、私はやっぱりか・・・と思ってしまった
しおりも、わかっている。自分の命があと少しだということを
普通なら、保護者である両親がこういった話を聞かされるが、しおりの両親は1カ月前にしおりを置いて引っ越してしまったため私が代わりに聞いているのだ
私は悩んだ。治療代はしおりを置いて引っ越してもなお払い続けてくれている両親から出ているため、苦はない
ただ、しおりのことを考えると、辛い治療ではなく痛みを抑えながら死を迎えさせた方がいいのではないか・・・そう最近思い始めていたところだった
しばらく時間をもらい、一人で考えた結果、私は主治医の医師にある提案をしてみた
提案をして1年後、私はいつものようにしおりの元へ訪れる
「しおり、具合はどう?」
私がしおりにそう話しかければ、しおりは
「あ、ゆきえ・・・・今日も来てくれたんだね・・・。勉強もあるのに・・・・朝から学校サボって・・・・」
そう、だいぶ痩せ衰えた顔に笑みを浮かばせてうれしそうな声色で私を迎え入れてくれた
「・・・・・・・・うん、中学校って義務教育だからさ・・・・」
学校、そう言われて私はそう返す。中学はとっくの昔に卒業したのだが、私が医師に提案した、記憶を曖昧にさせる薬のせいで記憶が吹っ飛んでいるのだ
やつれているのも、その薬の量をだんだんと増やしていっているからだ
いつかの小説で見た、そんな薬がホントにあったのは驚きだったが、この薬なら苦しまずに死ねるらしい
私は持ってきた花を花瓶に入れてベッドサイドに置きながら、しおりの傍らの椅子に座る
「・・・・・あぁ、この花・・・・。綺麗な花だね・・・・なんていうの?」
精一杯の声でその花を見ながらそう聞いてくるしおりに、私は
「ネリネ、っていうんだよ。彼岸花に似てるけど・・・・」
そう言って苦笑してみせる。そっかー、と言いながらしおりは笑ってくれた
そんな笑顔でさえ苦しそうな彼女を見ていれば、自然と目から涙が出てくる
「・・・・ゆきえ・・・・?どうして・・・泣いてるの・・・・?どこか痛いの・・・?」
突然泣き出した私にゆるく驚いて私の顔に手を伸ばしてきたしおりの様子に、また悲しくなってしまう
私は自分の頬にあるやせ細ったしおりの手に、自分の手を重ね
「しおり・・・・・っ、私・・・・っ、しおりのこと大好きだよ・・・・っ!ずっと、ずっと・・・・!」
そう泣きじゃくりながらしおりにそう呟けば、しおりはゆるく笑って
「・・・・うん、私も・・・・ゆきえのこと大好き・・・・だよ」
そう答えてくれた。私はそのまましおりのやつれた頬に唇を落としたのだった
しおりは、それからしばらくして亡くなった
苦しみもせず、ただ幸福の中で、静かに息を引き取ったのだ
「・・・・・しおり・・・・ずっと、あなたのことは忘れないからね・・・・」
仏壇に置かれた遺骨を見ながら私はそう呟いた。誰もいない自分の家で、しおりと過ごした記憶を思い出しながら