一目置いて、その先
それから数週間経って、桜はあたしに追い付くぐらいまで成長した。
互先……同格とまでは行かないが、黒を持たせれば(一階級差)ほぼ互角に打ってみせた。
「一ヶ月であたしに追い付く勢いで成長って……桜は囲碁の才能あるんじゃねーの?」
「そんなことないよ……」
あたしが一年かけてたどり着いたところに一ヶ月でたどり着いたんだ。もうちょい自信持てばいいのに。
「茜ちゃん、もっかい打って!」
「いや、あたしだけじゃなくて他の人にも打ってもらえよ。あたしじゃ教えられることに限度がある」
「茜ちゃんとがいいの。わたし、もう少ししたら茜ちゃんと打てなくなっちゃうもん……」
「……は?」
思わず出る、間抜けな声。
「わたし、中学は私立なの。白花咲学園に行くんだ……」
白花咲学園は、いわゆるお嬢様学校。あたしみたいな平凡な家の子には縁のない世界だ。
「そっか……」
「茜ちゃんは公立にそのまま進学するんでしょ?それにここにいつ来るかわからない」
そりゃそうだ。碁会所の場代を出せる余裕がないと、ここにはこれない。月一か二回が限度だ。
「だから、今茜ちゃんといっぱい打ちたいの……!」
「そっか……あたしと打ちたいって言ってくれるのは、嬉しい」
中学に行ったら、多分あたしと桜の接点は囲碁しかなくなるだろう。
「だから、約束しよう。あたしは毎月、三回目の土曜日にはここに来る」
「茜ちゃん……三回目の土曜日だね?その日に来れば打てるんだよね?」
「ああ。あと二ヶ月で中学生だけど、囲碁はずっとできるだろ?」
「……約束だよ」
「約束だ。なんなら指切りするか?」
小指を立てて差し出す。桜は冗談っぽく笑いながら、指を絡めた。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーますっ」
……いつまでも囲碁友でいような。