小宇宙と呼ばれる戦
「まずはだな、囲碁はどんなゲームか、説明するぞ」
碁盤を片付ける。白は白、黒は黒。
「ここは碁盤島という島だ。
白の国と黒の国、ふたつの国が領土を奪いあってる。
お互い自分たちの領土に砦を置いて、領土を守るんだ」
黒石をぱしり、と置く。
「これが、黒の国の砦の役割の黒石だ。
白の国は白石だな」
ぱし、ぱし、と新聞の棋譜(対局を図にしたもの)を真似して並べる。
「黒の砦で囲んだ土地が黒の領土、白の砦で囲んだ土地が白の領土だな」
「この黒い線はなに?」
「これは街道みたいなもんだ。交差する地点に砦を置いて、領土を主張する。さらにこの街道から物資を運んでると思えばわかりやすいだろう」
ざら、と石をどけて白石を置く。それを黒石であたしから見て上、右、左に置く。
「あっ、白石が囲まれてる!」
「そう、使える道は一つしかない。ここで使える道も黒石でふさがれると……
この砦は“死んで”しまうんだ」
ふさいだ黒石をどかし、白石を手にとる。
「ただし、同じ色の砦は物資を共有できる。だから……」
白石を最後に伸びた線(下側)に置く。
「こうすれば助かる」
「すごい!」
「黒と白、交互に打つことを繰り返して、最終的に囲んだ領土の中の線が交差している場所が多いほうの勝ちだ」
「どうだ、将棋やオセロなんかとは全然違うだろ?」
「囲碁ってすごい……それできる茜ちゃんもすごい……」
「なんだったら一度やってみるか?」
「このおっきいので?無理!」
「初っぱなから十九路盤で打たすバカがいるかよ。ちょっと待ってろ」
部屋に九路盤があるはず。
あったあった。あたしの九路盤。
「今教えたのは基礎中の基礎だけだ。わかんなかったりしたら遠慮なく聞けよ」
「わかった!」
「囲碁の対局では弱いほうが黒を持って先に打つ。今回は桜が黒な」
「同じくらいの人と打つ時は?」
「黒を持つ人からハンデを出す、“コミ”というのがある。詳しくはまた今度な」
「じゃあ、ししょー、よろしくお願いします」
「いつあたしが桜のししょーになった!?」
「今さっき」
「……」
ししょー、か。悪くはない……な。