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世界を守るために~Tpw~振り子の世界  作者: 樹瑛斗
第一章 ヴィント王国にて
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Tpw #9 蜥蜴と成長

 ◇◇◇◇



  三人は、王都メルから東に三日ほど歩いた砂浜にいた。いつもの南の浜辺ではなく、東の浜辺である。


  なぜ、そんな所にいるかと言うと、数日前の琥珀の発言まで遡る。




「そう言えば、お二人は何者なんですか?」



  思い出したような琥珀の質問に対して、瑛斗が冒険者という職業を説明したのだが。




「へぇー、冒険者なんですか。てっきり海と蟹が好きな自由人かと思ってましたっす」




  そう言えば、謹慎中であったのだが、琥珀と出会ってからは冒険者ギルドにも顔を出していなかったことを思い出す。しかも、食事は蟹のみ。毎日野営で、宿にも帰らず、風呂にも入らず。そこら辺の浮浪者と変わらない。一応、水浴びはしているので、そこまで臭くはないのだが。



「き、謹慎中だっただけだ。これからギルドで依頼を受けるけど、ついてくるか?」




  とっくに、依頼受諾禁止も素材売買禁止も解除されていたのだが、その事を忘れていたなんてことは口が避けても言えない瑛斗。恥ずかしがりやである。




「今回のターゲットは、ブラックペッパーサンドリザードな」

「名前なげぇな」

「どんなヤツっすか?」




  東部に生息する蜥蜴型の魔物の一種で、全体に黒胡椒を掛けたような模様を持つ大型の蜥蜴である。動きはそれほど速くはないが、瞬間的な速さや巨体を活かした体当たり、鋭い牙での攻撃が特徴である。瑛斗が二人に、その様な特徴を説明すると、琥珀が納得したような顔をする。



「瑛斗さんは正式名称が得意なんすね?」

「得意とかじゃない。知らないと依頼を受けられないから覚えているだけだ」

「そうなんすか、タスマン島では砂蜥蜴って呼ばれてるヤツっすね?」

「んぁ、そっちの方が覚えやすいぜぇ」



  瑛斗は正式名称は知っているが、一般的な呼称は知らない。冒険者としての経験が少ないからであるが、そんな呼称を知っている琥珀は一体、何者なのかと考えていた。



「琥珀、君は一体、何者なんだ?」

「えっ?僕っすか?自由人っすよ」



  琥珀の口から度々でてくる「自由人」。イメージは職を持たずに自由に旅する人という感じだが。



「んぁ、自由人ってなんだ?」

「その名のとおり、自由気ままに生きる人っすよ。やりたいことをやる。それだけっす」

「んぁー、楽しそうだな」



  職業ではなさそうだ。どうやって稼ぐのか、どうやって生活するのか謎が残る。



 ◇◇◇◇



「今度は琥珀は見てるだけな」

「はいっす」



  一匹目は、様子を探ろうと思っていたのだが、琥珀がサクッと砂蜥蜴を真っ二つに切り裂いていた。出会ったときに使用していた長柄の武器「薙刀」と言うらしいが、それを一振りしただけで、サクッと。そんなに柔らかい鱗じゃないはずなのだが。



「じゃあ、ジンガ。任せた」

「おぅよ!」



  ジンガは、二本の大剣を抜き放ち、砂蜥蜴に向かって突進する。瑛斗は弓を構えて砂蜥蜴に狙いを絞る。



「うおぉぉぉぉぉおおおおおお!」



  ジンガの雄叫び。砂蜥蜴がジンガに注意を向けたタイミングで、瑛斗が魔力の矢を放つ。


  スパパパパと軽い音を立て、砂蜥蜴の頭部に魔力の矢が当たるが、一本も突き刺さらず、全て弾かれる。だが、砂蜥蜴はゆっくりと矢が放たれた方向に注意を向ける。


  その隙を突いて、ジンガの大剣が砂蜥蜴に襲い掛かる。



  体長五メードを越え、硬い鱗に覆われた砂蜥蜴。その鱗にギャリンという硬い響きを残し、大剣が刺さる。


  首を斬り飛ばすつもりで放ったジンガの斬撃は僅かに刃を食い込ませた程度であった。


  斬撃をものともしない砂蜥蜴は、ゆっくりとジンガに這い寄る。


  ジンガは冷静に跳び退く。



「瑛斗!かてーぜぇ!」




  瑛斗もそんなことは最初の攻撃で分かっていた。


  そもそも、琥珀が異常なのだ。砂蜥蜴の鱗は非常に硬い。それは黒熊に匹敵する程度の硬さの筈である。そんな砂蜥蜴を一振りで真っ二つなど、常識では考えられない。



「ジンガさん!心魂術っすよ!心魂の力です!筋力じゃなくて、心魂力っすよ!」

「んぁ?心魂力だな、やってやらぁ!」




  再び雄叫びをあげ、斬りかかるジンガ。瑛斗も負けじと心魂を意識して矢を放つ。


  ジンガが斬りかかる前に、二本の矢が砂蜥蜴の頭部に当たる。今度は浅いが一本が頭部に突き刺さった。



「うらぁ!」



  ジンガの気合いとともに大剣が砂蜥蜴の首元に襲い掛かる。ジンガの大剣も、今度は半分ほど食い込んだ。



「お二人とも、今の感じっすよ!心魂の力を使えてますよ!」



  鈍重な蜥蜴など、瑛斗とジンガには然程脅威ではない。冒険者のランク的には多少格上の相手ではあるが、目指しているところが黒熊の単独撃破である二人には、練習相手として丁度良いレベルであった。



「はっ!」

「うぉぉりゃあ!」



  瑛斗の矢が中程まで突き刺さり、ジンガの大剣が半分以上食い込む。


  更に動きが緩慢になった砂蜥蜴は二人の良い的となり、その身に、矢や刃を受けていた。


  数回の繰り返しでついにジンガの大剣が砂蜥蜴の首を斬り飛ばした。




「やりましたっすよ!お二人とも確かに心魂術を使えてましたっすよ!」

「まだまだだな」

「んぁ、まだだな」




  二人とも、僅かではあるが心魂の力で攻撃力が上がったのは実感している。だが、まだまだ求めるレベルの足下にも及んでいない。琥珀と比べたら天と地ほどの差がある。


  それでも、養成学校時代よりも、数週間前までよりも、確かな成長を感じていた。



 ◇◇◇◇

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