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世界を守るために~Tpw~振り子の世界  作者: 樹瑛斗
第一章 ヴィント王国にて
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Tpw #5 浜辺と蟹

◇◇◇◇



冒険者が生計を立てるには依頼報酬だけでは難しい。そのため、魔物等の素材をギルドに買い取って貰うことが一般的である。魔物の素材の売買についても依頼達成扱いとなるため、特にランクの低い冒険者は積極的に素材の売り込みを行っていた。


中でも比較的買取り額が高いものは魔石と呼ばれる魔物の核である。魔具には必ずこの魔石が使われている。



瑛斗らは先日の砂潜りとの遭遇から、次の目標を決めていた。次元鞄と呼ばれる魔具である。大きさは通常の腰かけ鞄程度なのだが、その容量は数十倍以上もある不思議な鞄である。この鞄を作成する技術は秘匿されており、作成できる者が限られているため、その価格は恐ろしく高い。


二人がこの魔具に狙いをつけたのには訳がある。非常食をもっと持ち歩きたい。非常に単純な理由である。


上級以上の冒険者ならば、必ず携帯している鞄である。中級冒険者の二人の稼ぎではかなり厳しい価格であるが二人の決心は揺るがない。



ただ、稼ぎの良い砂丘はとある事情から、現在封鎖されているため、二人は次の稼ぎ場所を探して、王都メルの南側にある浜辺に来ていた。



「宝の山だぜぇ!」

「まぁな」



二人はここ数日、椰子蟹と呼ばれる巨大な蟹を狩っていた。この蟹の甲羅は非常に硬いため、防具の素材として良く使われる。比較的、買取り額が高い素材である。


勿論、蟹の核となる魔石も高く買い取って貰える。


更に。



「ジンガ、涎がたれてるぞ」



その身は美味である。


一石二鳥どころか三鳥である。食糧にも困らず、素材も魔石も高く売れる。二人にとっては正に宝であった。



◇◇◇◇



「ジンガ、追い込んだぞ」

「任せておけ。んんんんがぁぁぁ!」



瑛斗が張った罠。周りを岩で囲まれ、でかい蟹にとっては動きを阻害する空間に蟹を誘い込むと、岩の上からジンガが巨大な石を投げ落とす。


二人の蟹狩りは主にこの方法をとっている。


何故ならば、ジンガの大剣も、瑛斗の矢も蟹の甲羅に歯が立たないからである。


蟹は、頭部に巨大な石を受けても、その甲羅には傷が付かない。ただ、流石に脳震盪は起こすようで、暫く動きが止まるのだ。その隙に、甲羅の隙間に大剣を挿し込み、無理矢理甲羅を剥がしていた。



この蟹の討伐依頼は上級以上の冒険者に指定されている。理由は、ある程度の攻撃力がなければ倒せないとされているからである。中級冒険者の二人が倒せているのは頭を使っているからだ。勿論、討伐依頼は受けられないので未達成扱いだが、素材収集依頼は達成している。明らかに矛盾はあるのだが、ギルドの職員も瑛斗らもその矛盾には突っ込まない。お互いに巧くやっているのである。



ジンガは蟹を食べながら、内心では、相棒の頭の良さに感謝をしている。


瑛斗は蟹を食べながら、内心では、相棒の馬鹿力に感謝をしている。


この二人でなければ、中級冒険者でありながら、この旨い蟹を食べることは出来なかったであろう。


お互いに恥ずかしいので、感謝を言葉には表さないのであるが。



◇◇◇◇



「ありゃあ... ...なんだぁ?」

「なんだろうな。蟹の親玉かな?」



瑛斗は遠くに見える巨大な蟹を見ていた。いつも倒している蟹の数倍はある。



「どーすんだぁ?」

「どうするって、何が?」



瑛斗にはどうしようもないことは分かっている。いつもの罠ではあの巨体は入りきらない。新しく罠を作っているうちに居なくなるかもしれない。いつもの巨石では、ダメージを与えられないかもしれない。


何よりも罠に追い込める気がしない。



「ギルドに報告すんのかぁ?」

「そっちか」



ジンガが珍しくまともなことを考えているなんて、瑛斗には当てることは出来なかった。



「討伐出来ないなら、報告するのが義務だな」

「んぁ、やっぱそうだよな」



危険度の高い魔物の情報は必ずギルドに報告しなければならない。ギルドは報告を受けるとランクの高い冒険者を召集し、討伐隊を組むのだ。


討伐されるまで、該当地域は封鎖される。先日の砂潜りの件を報告した後、砂丘が封鎖されたように。


魔物によっては、中々ランクの高い冒険者が集まらず討伐隊が編成されないことも良くある。

砂潜りなどが良い例だ。飛竜であれば、危険度は高いが倒した者は英雄扱いされ、その素材も超高額で取引される。砂潜りは危険度こそ高い魔物なのだが、その素材はあまり好まれず、大した名誉もない。


そこそこ頭の良い冒険者なら、砂潜りの出現する地域に近付かなければ良いという考えにたどり着くのだろう。


だが、それではギルドも国民も困るのだ。近付かなければ直接的な被害は受けない。しかし、解毒剤の素材である砂丘蛇か不足し、解毒剤が不足することになる。


真に頭の良い冒険者なら、その考えにたどり着くのだろう。だが、その数は多くない。



「仕方ない。ジンガ、急いで手伝ってくれ」

「おうよ!」




今、この地域を封鎖されると困る。単純に美味しい思いが出来なくなるからだ。

何もしないで見ている訳にもいかない。そうであれば、やれることをやってみるしかない。



大急ぎで罠を作る。岩場までは遠いため、近場の砂浜に巨大な穴を掘った。


巨石を幾つも運んできて、準備は完了。



「じゃあ、巨石は任せたから」

「おう、気を付けろよ!」



罠の近くでジンガは待機。瑛斗は一人で超巨大な蟹に向かっていく。



遠くから魔力の矢を射ち、蟹の注意を向ける。


瑛斗は急接近すると、蟹の直前で回り込み、背後から旋棒で甲羅を叩く。


硬い。全くダメージを与えられない。


正面に躍り出ると、魔力の矢を射ちながら、徐々に退いていく。速すぎず、遅すぎず。


瑛斗を敵と認識した超巨大蟹は、ちょろちょろと動き回る鬱陶しい矮小な者に鋏を振るう。



巨大な蟹は鬱陶しい矮小な者を追いかけ回している内に、周りが壁に覆われていることに気が付いた。


矮小な者は飛び上がり、壁を飛び越える。


真後ろに壁の切れ目があるのだが、それには巨大な蟹は気付くことが出来ない。巨大な蟹の動きが止まる。




「ジンガ!」

「おう!うんんんりゃあああ!」



巨大な蟹の頭部に石が落とされるが、いつもは巨大に見えていた石が少し大きい程度の石に見えた。


ダメージはなさそうであった。



「ジンガ!次!」

「おう!」



一つで駄目なら二つ。二つで駄目なら三つ。どんどんと巨石を穴に落としていくジンガ。



「どうだぁ?」

「まだ動きが止まってない。近寄るのは危険だ」

「くそっ!石がねぇ!」


準備した巨石が尽き、ジンガが岩場に巨石を拾いに行く。その間、瑛斗は巨大な蟹を良く観察していた。




ーー体の作りは他の蟹と同じか。であれば、あの隙間に大剣を挿し込んで甲羅を剥がすことになるのか。あれ?隙間、広いな... ...?





ジンガが遠くの岩場から死ぬ思いで運んできた一際大きな巨石を穴の縁に降ろす。



「どうだぁ?」

「... ...」

「瑛斗、どうした!」

「ジンガ、その巨石、必要ないみたい」

「んぁ?倒す方法でも思い付いたのか?」

「いや」



瑛斗は見てみろと、蟹を指差す。



「どーゆーこったぁ?蟹が泡吹いてるぜぇ!」



瑛斗は物は試しと、甲羅の隙間を狙って魔力の矢を射ち込んだ。蟹が思いの外、良い反応をするので、続けて何発も射ち込むと、突然、泡を吹いて動かなくなったのだ。



「お、おう!すげぇぜぇ!」



これで、この地域での狩りを続けられることや、旨い蟹を食べられることにジンガは喜んだのだが、死ぬ思いで運んできた巨石が使われなかったため、雄叫びをあげるほどは喜べなかった。



◇◇◇◇

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