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世界を守るために~Tpw~振り子の世界  作者: 樹瑛斗
第一章 ヴィント王国にて
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Tpw #4 砂丘と蚯蚓

 ◇◇◇◇



「くるぞ!三、二、一、飛べ!」

「おうよ!」



  砂丘を全力で走っている二人。瑛斗の合図で左右に飛ぶ。


  直後、二人が居た場所、その地面から勢いよくそれが飛び出した。それは、地面から飛び出し頭を地上五メード程度まで持ち上げると、標的として定めたジンガに真っ直ぐに急降下する。ジンガは転がるように避けると、ジンガのいた地面を大口で捉え、そのまま地面に潜り込もうとする。


  そこで漸く、それの尻尾が穴から姿を現す。


  それは、体長が十メード以上ある巨大な蚯蚓(ミミズ)。通称、砂潜り。


  地中へ潜る途中の砂潜りへ、ジンガが大剣で攻撃するが、無傷と言っても差し支えない程、歯が立たない。



「走るぞ!」

「ちっ、おうよ!」



  ジンガの大剣で傷が付かないのであれば、瑛斗の魔力の矢は当然歯が立たない。旋棒なんて論外である。


  そうであればやることは一つ。



「いそげ!逃げるぞ!」

「おうよ!」



  砂潜りの目撃者は少ないらしいが、その生態であれば誰もが知っている。軟らかい地質の地中に潜む。特に砂丘に潜むことが多いことから、砂潜りと呼ばれている。見た目はでかいミミズであるが、その表皮は非常に硬く、竜種ではないかと言われている。ただ手足が無いため、蛇種ではないかとも言われている。


  砂潜りは、地上にいるあらゆる生物を飲み込む。動きもかなり早く、出会ってしまった者は殆どが生き残っていないのではないかと言われている。目撃者が少いのはその為である。


  要するに、二人はかなりの危機に面している。



「くるぞ!三、二、一、飛べ!」

「おうよ!」



  既に何十回も繰り返しているこのやり取り。走りっぱなしの二人はそろそろ体力が限界に近づいていた。



「もうすぐ砂丘が終わるぜぇ!」



  二人は砂丘から脱せれば砂潜りから逃れられると思い込んでいた。二人は知らない。砂潜りが軟らかい地中を好むだけで、硬い地面を移動出来ない訳ではないことを。



「おい!来るぞ!三、二、一、飛べ!」

「なんでだよ、おい!」



  硬い地面からガリガリと音を立てながら飛び出してくる砂潜り。二人の逃亡劇はまだ続く。



 ◇◇◇◇



「なぁ」

「... ...」

「腹へったぜぇ... ...」

「ああ」



  二人は小高い丘に座り込んでいる。かれこれ丸二日になる。ここは非常に硬い地質の丘であるらしく、ここまでは砂潜りが追って来れなかったのだ。



「あれよう」

「... ...」

「執念深いなぁ」

「ああ」



  小高い丘の上から眺める景色には、一匹の砂潜りが写り混んでくる。丸二日経っても二人を逃すことはない。丘の周りを周回しながら、虎視眈々と二人を狙っているようだった。



  助けを呼ぼうにも近くに人里はなく、街道すらも遥か遠くにある。仮に人里があったとしても、二人が砂潜りを引き連れていけば、被害が大きくなるだけである。仮に街道が近くにあったとしても、そこを通り過ぎる旅団が被害を受けるだけである。


  少なくとも瑛斗は、それを分かっており、敢えて街道から遠退くように逃げたのだ。



「なぁ」

「... ...」

「どうする?」

「待つ、しかなさそうだ」



  ジンガも分かっていたが、瑛斗の意見を聞きガックリと項垂れた。



「腹へったぜぇ... ...」



  ジンガの心の叫びが、弱々しく呟きとなって口から漏れていた。



 ◇◇◇◇



  丘の上での生活が四日目になる頃、砂潜りの姿が見えなくなっていた。それでも二人は動けないでいた。


  一つは砂潜りが地中に潜って待ち構えている可能性を考えて慎重になっているからである。


  もう一つは二人がここ二日間、水しか口にしておらず、体力が限界に近く、立ち上がることも歩くことも、かなりしんどい状態であったからである。



「ジンガ、歩けるか?」

「歩けるぜぇ... ...」



  二人は重い腰を起こし、のろのろと立ち上がるとゆっくりと丘を下り始めた。



「なぁ」

「なんだ?」

「ヤツが隠れてたらどうするよ?」

「食われるしか、ないんじゃないか?」



  二人には既に素早く動くことは出来ない。もし、砂潜りが隠れていれば、何も出来ずに食われる。砂潜りでなく、複数の魔物に遭遇しても同様だろう。いつかの小鬼でさえも、今の二人には退治出来ない。



「腹へったぜぇ... ...」

「... ...あぁ」



  ここからメルまでは歩いて一日半ほどかかる。もし砂潜りから逃れられていたとしても、メルにたどり着けるか微妙である。更に、二人の歩行速度が著しく遅いため、もしかすると丸二日かかるかもしれない。


  ジンガは考えていた。飲み水を顕現させる魔具があるのならば、食い物を出してくれる魔具もあるのではないかと。もしあるのであれば、次に購入する魔具は絶対にそれにしようと。瑛斗に反対されたらパーティーを解散する覚悟も持っていた。実際、そんな魔具は存在しないのだが。



「喜べ、ジンガ」

「んぁ?なんだぁ?」

「兎肉だ」

「ひゃムグッ」



  あまりの嬉しさに喜びの雄叫びをあげようとしたジンガの口を素早く塞ぐ瑛斗。その動きは、今までのどんな魔物との戦闘よりも素早いものであった。草原兎を兎肉と呼んだ瑛斗の目は、睨むだけでジンガを殺せそうなほど力が籠っていた。



「わりぃ... ...絶対に捕ってくれ、頼むぜぇ」

「あぁ。任せておけ」



  瑛斗は背中から弓を取り出し構える。精神を集中させ、弦を引き絞り狙いを絞る。今までのどんな魔物との戦闘よりも集中していた。


  そんな瑛斗の想いが解き放った矢に変化をもたらせた。

  直進する矢が途中で八本に別れ、八方から兎肉に襲いかかる。八本の魔力の矢は、全て兎肉を捉えた。

  瑛斗が兎肉を逃さない為の理想の姿を想い描き、その想いが矢に変化をもたらせたのだ。



「うぉぉぉぉぉおおおおお!」



  ジンガの雄叫びを上回るような瑛斗の雄叫び。ジンガも雄叫びをあげていたが、瑛斗のそれに掻き消されていた。



  何日振りかの食事により、その後、二人は無事に王都メルまでたどり着くことが出来たそうだ。



 ◇◇◇◇

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