Tpw #3 砂丘と蛇
◇◇◇◇
冒険者の戦闘スタイルは大きく分けて二種類ある。一つは武器で物理的に攻撃するスタイル。もう一つは魔法により攻撃するスタイル。
魔法、魔術、法術、具現術。地方によっては呼称が違うものの、根本は同じ。魔力と呼ばれる不思議な力を根源とし、何もない空間に火や氷を顕現させる技術である。
この世界の生物は、魔法を使えるモノと使えないモノに分けられる。魔法を使えないモノは、幾ら努力しようが使えるようにはならない。瑛斗は魔法を使えるモノ。ジンガは魔法を使えないモノである。
魔法を使えないモノでも、魔具と呼ばれる道具を使えば、魔法を使えるモノと同様の効果を顕現させることは出来るのだが。魔具は高い。駆け出しに毛が生えた程度のジンガには魔具など購入することは出来ない。
それは瑛斗にも同じことが言えた。
「なぁ。俺らに砂丘は厳しいぜぇ... ...」
「だな」
王都メルから北東に二日ほど歩いたところにある砂丘。今回の討伐依頼の目的地である。
砂丘は喉が渇く。一般常識である。
片や魔法の使えないジンガ。片や無属性魔法しか使えない瑛斗。
魔法には属性と言う概念がある。火に関連する現象を起こす火属性魔法。水に関連する現象を起こす水属性魔法。風に関連する現象を起こす風属性魔法。地に関連する現象を起こす地属性魔法。この四つを基本属性と呼び、そこから派生した無数の属性が存在する。
魔法が使える者であれば、誰もが使用できる属性が無属性魔法。瑛斗は悲しいことに無属性魔法しか使えない。全く使用出来ない者も多く存在するので、使えるだけマシであるのだが... ...
水属性魔法が使える者であれば、基礎の基礎である「ウォーター」と呼ばれる魔法が使えるであろう。すなわち飲み水の確保が出来る訳である。
飲み水の確保が出来ない瑛斗らは、重い水を背負って砂丘を歩く訳である。
「なぁ。飲んでいいか?」
「飲むか」
砂丘の難敵に遭遇する前に、喉の渇きにやられそうな二人であった。
◇◇◇◇
この討伐が成功すれば、その依頼報酬で魔具が買える。それを合言葉に二人は頑張っていた。
「いたぜぇ... ...何匹目だ?」
「五匹目」
「これで漸くかぁ?」
「あぁ」
砂丘で過ごすこと二日。そろそろ飲み水も底が見えてきた頃、漸く依頼達成の五匹目を見つけることが出来た。
「ジンガ、注意しろよ」
「あぁ」
砂丘タイパン。通称砂丘蛇。このヴィント王国に潜む魔物の中でも飛び抜けて強烈な毒を持つ蛇である。西之森に潜む赤黒蛇も猛毒の蛇だが、砂丘蛇の毒性は赤黒蛇の千倍と言われている。この砂丘蛇一匹で解毒剤が数百人分も作れるのだ。
最近、ヴィント王国では、毒持ちの魔物の被害が多くなってきており、この砂丘蛇の依頼報酬はかなり高額になっていた。
二人は高額の報酬に釣られた訳である。
「んじゃ、援護任せるぜぇ!」
「あぁ、任されとくよ」
ジンガが二本の大剣を構え、雄叫びをあげながら突撃する。いつも通りである。
ジンガを標的と認定した砂丘蛇。
その隙を逃さず、瑛斗が放った魔力の矢が飛来する。
砂丘蛇の頭部を掠める魔力の矢。
砂丘蛇が一瞬気を取られている隙に、ジンガがざっくり。
「おぉぉぉぉぉおおおおお!」
広い砂丘にジンガの歓喜の雄叫びが響き渡る。
「さぁぁぁそぉぉぉりぃぃぃはぁぁぁ... ...食い飽きたぁぁぁぁああああ!」
この二日、現地調達で蠍しか食べていないジンガの魂の叫びであった。
◇◇◇◇
あれからメルに戻って報酬を手に入れた二人。早速、メル一番の魔具販売店を訪れた。目的は勿論、飲み水の確保。手に入れた報酬全額で水石と呼ばれる魔具を購入した。二人とも舞い上がり過ぎて、値引き交渉を忘れていたのだが、それを忘れていたことに後々になっても気付かない二人であった。
「おお!水が出るぜぇ!」
水石を顔の上に持ち上げ、キーワードである「ウォーター」と唱えると新鮮で清らかな水が飲める。そのことに感動するジンガ。
「ジンガ、何度目だよ」
再び砂丘に舞い戻った二人。砂丘に来てから八回目になるジンガの感動であった。
「だってよぉ!こんな嬉しいことはねぇぜぇ!」
その気持ちを痛いほど分かる瑛斗は、それ以上、何も言えなかった。
「あっ!いたぜぇ!金蛇だぜぇ!」
「金だな。今日は大漁だな」
砂丘蛇は金色ではない。砂と同色である。
二人の間では、砂丘タイパンを砂丘蛇とは呼ばなくなっていた。金のなる蛇。金蛇。多くの国民が恐怖するヴィント王国一の毒蛇であるが、二人の目には金としてしか映っていなかった。
高額報酬に味をしめた瑛斗らは、その後も何度も砂丘に足を運び、荒稼ぎをしていた。
勿論、食糧は現地調達しなくてよい程度に持ってきており、蠍飯は食べずにすんでいる。
飲み水の荷物が減ったが、食糧で重量が増えており、結果としてあまり重さが変わっていないことにジンガは気付いていない。
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