第九話:地球カニ厳令
「EPR転送システムか」
ワームホールの中からどうして自分を転送できるのかが疑問だったがその答えは直ぐに出た。恐らく、搭乗前のメディカルチェックの時にEPR対をまんまとこしらえていたのだろう。
「そうだ。そしてようこそ。国連宇宙開発部の本部福島へ」
国連宇宙開発部の本部は福島にある。震災からの復興が主な理由だったが、もうひとつには。
「なるほど。神聖カニ帝国も福島にあるというわけか」
確証こそなかったが、ザードはそう口にする。
「そうだ。貴様らが汚染水を垂れ流しにするせいで我らは進化せざるを得なかった……!」
ミーシャの姿をしたカニが言う。もっとも、ミーシャなどという人間は存在しないが。
「カニの分際で私のクルーを」
にじり寄るリン。
「来るな! 不気味な奴め!」
必死に逃げようとするカニ。しかし、回りこまれリンはゆっくりと蟹の足をもぎ始める。
「すぐには殺さん。ゆっくり恐怖を味わいながら死ね」
後には散らばった蟹の足と甲羅だけが残った。
『機関部よりブリッジ。カニは始末しました』
「リン、よくやった」
『艦長は?』
「それが、どうやら地球に転送されたようです」
『ワイズマンも?』
「ワイズマンは既に本船に戻っています」
『燃料が足りない問題は解決しそう? 機関部だけじゃムリよ』
「なんともしがたいな。通信終了」
「さて、どうするべきか」ゲンが言う。
「いっそ神にでも頼んでみては?」
ブリッジに復帰したワイズマンが言う。
「そう、カニの神に……」
カニ帝国に協力した国連。しかし、カニ帝国に利用されているだけなことは明白だった。
「人類とカニの連合軍……さながらドミニオンとでも言ったところかなくっくっく」
ロストは言う。
「そう、ドミニオン。人類とカニとの共存は可能だということ」
ザードは持っていたフェイザーガンをロストに向ける。
「いいや。不可能だ。人類とカニは分かり合えるかもしれないが、カニと人類は分かり合えない」
「それは我らに対する冒涜だ!」
ミーシャはカニに姿を変え、ザードに近づく。それを蹴り飛ばすザード。そして更にフェイザーガンの波長を調整し、カニの甲羅に撃ちこむ。カニはあっという間に消滅した。
「やはりな。所詮は蟹の甲羅。固有振動数自体はあるというわけか」
「さてと、ロスト総督。カニ帝国と内通したことは立派な反逆罪ですよ」
せまるザード。しかし。
「はっはっは。残念だったな」
転送で逃げるロスト。
「くそっ。逃したか」
ザードは声を荒げた。しかし直ぐに気を取り直し、総督室のコンソールを叩き始める。
「機密にはアクセスできないが……もしかすると……」
表示されるのは建物の構造。そして。
「この部屋はなんだ? 行ってみる価値はありそうだ」
ザードは建物の構造を頭にたたき込むと部屋を後にした。