第七話:浮遊機械都市カニ帝国後編
「シールド展開。フェイザー砲をカニ帝国艦にセット」
ザードは指示を出しながら内心かなり焦っていた。とにかくリソースが不足している。あまり派手な戦闘ができないのは明白だった。
「シールド、やはりダメです。クロノトン放射と干渉して消滅してしまいます!」
ライトが言う。
「ちぃ……」
状況は想像よりもはるかに悪いようだった。
不気味な形状をしたカニ帝国艦が正面に見据えられる。数は7隻。どれも巨大で、一体何時どこでこれを建造したのか疑問に思わざるをえないものだった。
「スキャンされています」
「待て。転送室へ行く。乗り込むぞ。どうせ向こうもシールドを張れないんだ。正面からドンパチする必要はあるまい」
ザードの言葉に同意し、ワイズマンも同行を申しでて、二人は転送室へと向かった。
「第6デッキより通信。侵入者あり。カニです」
直ぐにディスプレイに第6デッキの様子が投影される。艦長代理であるゲンは状況を即座に察した。
「あいつら機関部に行くつもりだ!」
「ブリッジより機関部。カニ帝国の侵入に備えよ」
警報は鳴り響いいていた。保安部員は第6デッキから機関部へと続く通路で複数の巨大カニと遭遇したが、あっけなく破れてしまった。明らかに異質な蟹だった。甲羅がフェイザーガンで破れないのだ。グルーオンを励起させ原子構造そのものを破壊するフェイザーガンが効かないということはなにか特殊なシールドを張るのでもなければありえないことだった。そしてブリッジはフェイザーガンが効かない知らせを知り、驚愕する。
ザードたちはカニの船に入り込んでいた。しかしそれは。
「やっぱり恐れていたとおりだったか」
ザードは言う。辺りを見渡しながら。
「この船のシステム、国連宇宙開発部のものじゃないか!!! 船体構造も!! 何もかも!!」
「艦長、落ち着いてください」
「ああ。私は落ち着いている。それで、にっくきカニはどこだ?」
ワイズマンはそれを聞き、何かに気づいたらしく近くにあった端末から船の情報にアクセスする。
「この船は自動運転に最適化されていますね。少人数のカニがこの船を動かしているのでしょう」
「よし、ブリッジに向かうぞ」
「さあ、手を上げろ」
機関部に入り込んだカニは言った。ディスラプターを構えていたクルーは直ぐにそれを発射。しかしやはりフェイザーガンと同様に無効化されてしまう。
「この身体の秘密を聞きたいか? ふん。まあいいだろう。我々は福島第一原発沖の海域で育った。そこは放射能に汚染された不毛な海域……そこで育った我々は肉体そのものが放射線に耐性を持っているのだ」
一人のクルーがそれならばと持っていたスパナで殴りかかる。が、たくさんある足であっという間に止められてしまう。男はそのまま首をハサミでちょん切られて死んだ。絶句するリン。更にその隙を逃さず、ワープコアの制御コンソールにたくさんある足を上手に動かして駆け寄る巨大カニ。コンソールから引き離そうとするリン。しかしカニ相手に人間はあまりにも無力だった。
『警告。ワープコアオーバーロード。ただちにワープコアを放出してください』
コンピュータは無慈悲に状況を読み上げる。
「はっはっは! これでお前たち全員がおしまいだ!」
「……さない」
「許さない!」
リンが叫んだ。転送で逃げようとするカニ。しかし。
「ちぃ。コアがオーバーロードしていては転送できないか」
「お前、この部屋の扉をロックしたな!」
頷くリン。そして更にコンソールを叩くリン。
「生命維持装置停止。さあ、どっちが長く持つか勝負よ」