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第三話:大いなる神殿のカニ後編

 ワームホールの中でエクセルシオールは停止していた。科学技術室ではミーシャを筆頭にスキャン結果を詳細に解析する作業が行われていた。

「ワームホール。理論上存在する時空間にあいたショートカット。これがこんな間近に存在するなんて」

 ワットは興奮気味に言う。

「ええ。だけど今回調査するべきはワームホールそれ自体じゃないの」

「と、言いますと?」

 ミーシャの言葉に科学技術部の全員が顔を向ける。

「今にわかるわ」



「クロノトン放射、相変わらず激しいです。ジャクソンシフトが艦内部に時空断裂を引き起こしそうです」

 ブリッジ。神楽はスキャン結果から想定される事態を報告する。

「そうか。だが、そもそも何故このワームホールは時間位相まで変化しているんだ? 通り抜けると過去か未来にワープするのか?」

「時空にどう穴を開けるかによりますが、それは理論的には可能です」

 ワイズマンが言う。

「しかし、ことはそう単純ではないでしょう。ただ単に時間移動も行うだけであればそれは相対論的に時空連続体が時間を移動する測地線方程式に従っていればいいだけの話であって、ジャクソンシフトは生じないはずです」

「その通りだ。そうなるとこの時間位相の変調は……?」

 と、突如艦内の風景が変化した。まるで砂漠のオアシスだ。無機質な椅子や計器や操縦系はどこかに去り、代わりに砂と水とが現れる。そして、艦長ザードはここに一人取り残された。


「おい、皆急にどこに行った。これは一体何だ。船はどうなったんだ」

 ザードは訳もわからないまま、砂漠を歩き、水辺まで行くと、その水を掬おうとした。

「うわわ。カニだ!」

 砂漠のオアシスの水から黒っぽい小さなカニが這い出してきた。カニ帝国と人類の戦いという悪夢を知っているザードはカニを見るだけで思わず身震いしてしまう。

「人の子よ。我らの領域で何をするつもりだ」

 そのカニは声を発した。翻訳機は正常に作動しているようだった。

「カニの領域? ここはただのワームホールの中じゃないのか?」

 またもいきなり風景は変化した。今度は湖のある森の中だ。湖畔からやはりカニは這い出してきて続けた。

「ここは我らの領域。お前たちは物質的で直線的だ。そして危険だ」

「物質的はともかく直線的って何のことだ?」

「過去から未来へとただまっすぐに進む。ここは我らの領域。我らは領域内で時間に束縛されずに活動できる」

 ザードは一瞬言われた意味を理解できなかった。と、またも風景は代わり、今度はザードは中世的な城の中にいた。

「我らは全てを知っている。我らは干渉しない。だが、人の子は我らに干渉しようとする。それは危険だ」

 カニは城のテラスにいた。それを見つめるザード。

「だがワームホールは見つかった。ここに来ないわけにはいかなかっただろう。その、カニさん、過去も未来もお見通しならワームホールを閉める程度造作も無いですよね」

「それはいけない」

 またも風景は変わった。今度は深海の中のようだった。しかし、ザードはなぜか息ができた。

「我らが隠れればそれは大いなる災いをもたらす」

「やはりお前たちは直線的だ!」

 カニは怒声を上げた。

 気配を感じ振り返るといつの間にかミーシャが立っていた。

「艦長、そこまでです」

 ミーシャはフェイザーガンを構えていた。

「さあ、カニの神様を開放してもらおうかしら」

「何の話だ、ミーシャ。まるでわけがわからない」

「しらばっくれるな。我らの神を懐柔して思い通りにしようとしていただろう」

 そう言うなり、ミーシャは正体をあらわにした。つまり、手足が計10本ある、毛蟹としての姿だ。足を上手く動かしながら、そしてハサミでフェイザーガンを構えたまま、ミーシャはザードににじり寄る。

「巨大カニ……! 全滅したんじゃなかったのか!」

「したよ。全滅したさ……だがな、お前らは福島第一原発事故を起こした! その放射能の影響で私はこんな姿になってしまった!」


 時空断裂の影響は船に確実に及んでいた。それぞれが預言カニと対話していたし、その多くは預言カニの非直線的な物言いに言いくるめられ、現実を認識できないままになっていた。間違い無くこれは船の危機だった。

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