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「どうしてわかる、って顔だね」


外套の裾をはためかせながら、男は楽しそうに言う。

凄く怪しい。

おびきだす為にわざと放っておいたゴロツキを、何てことなくあっさりと切り捨てた奴だ。

ここと元の世界とじゃ常識が違うけれどそれにしたって。


「俺は世界中を旅していてな………っと言い方が良すぎだな。要は根なし草」


形のいい口をニンマリと不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫のように笑うから、ますます胡散臭い。


「ま、そこで色んな人間とかかわり合いになるわけだ。悪い奴、良い奴、腹黒い奴、純真な奴、嘘つきな奴、正直な奴、馬鹿な奴、知恵がある奴、騙す奴、騙される奴と。俺は、誰よりも人を見る目があると自負している。だから、あんたのこともわかったよ」




「見るもの全てに警戒心を払っていると共に観察している。だが視線は時たま不安定で身体もどこか地に足がついていない。ま、流石に戦闘となると違うみたいだがな。後はその魔力量。王族でさえそんなにある奴はいないだろう。さらに」

「まだあるの?」

「これが一番重要。戦闘中、魔術を駆使しないこと。そんなん普通ならあり得ないからな」


戦闘に魔術を使うってのは私みたいにある物を違う形に変化させるだけじゃなくて、身体や武器に纏わせて使うものなんだって。

特に風のシールドを身体に覆うのは基礎中の基礎。

じゃあなんでさっきの男の指が切れたのかって言うと。

単純にあの男がヘタクソだっただけ。

身体に風を纏うって簡単に言ったけれど、これって結構難しいらしい。

つまり、男の言うことには空気抵抗のせい。

人や乗り物が走るときに感じる風が、いわゆる空気抵抗。

通常の空気抵抗は後ろに流れて、軽く背後で回転してまた流れていくって感じなんだけれど、風のシールドは常に身体中を回転して留まっている………というわけだ。

だから物とか持とうとしても取り落としちゃうってか持てない。

そこで、手の部分だけそのシールドを弱めるということになる。

この一連の話から、あの男は弓を持つためにシールドを完全に解除していたからこそなわけだ。

あと他に襲ってきた男達はこれこそ単純に、シールドをしないでやってきたってわけ。

私が女であること、妙な動きをしていたことが理由だそう。

妙な動き、ねぇ………初めて見る人にとっちゃそうなるか。


ってか意外と化学的?なのね魔術って。

まぁ元の世界でも魔術は化学の源流だとか台所から生まれたっていうしね。


いや、まてよ


フェイに教えて貰ったのは魔術の大まかな分類とイメージだってことだけだよ?

え、なに?

フード男の話を踏まえりゃフェイの話は基礎っていうよりむしろ、一般常識じゃないか?!


「だっ………騙されたぁあ〜〜〜っ!!」






※※※※※






「ところでアンタ、名前は?それにいい加減フードも取りなさいよ」

「俺は金目的ならいい加減そいつらを縛った方がいいと思うがな。そろそろ目ぇ覚めんじゃねーの」


ああ、そうだった。

あまりの衝撃な事実に大事な資金源を失うとこだった!

けど頭が死んじゃってるし、どうしよう………あれだけは視界にも入れたくもないし触りたくもない。

とりあえず気絶している男達は縛ろう。

頑丈な縄をイメージして、ちょっとカッコつけて手のひらを向けたらしゅるしゅると縄が現れて巻きついていった。

この縄はあくまでもイメージの具現化だから、私が意識を失わない限り消えることはない。

こーゆーとこはご都合主義の魔術よねぇ。


「さすが、勇者サマだなー」

「やめて。私はそんなけったいな名前じゃない。ちゃんと羽月っていう名前がある」

「ハヅキ、な」


そうだ、相手に名前聞いといて自分は言ってなかったことを思い出した。


「魔術の基礎は知らなくても、やっぱスゲーよ?こいつら、これでもこの近辺では結構腕のたつ賞金首グループなんだぜ?しかも生死問わず」

「え、うそ」


だって、めちゃ弱かったけど………?

街のゴロツキに比べりゃ強いとは思うけど。

いやいや、だからって殺してしまうなんて。


「とりあえず、切り落としておくか」

「何を?………って、ちょっと待て!」


死んだ男の首にピタリと当てられた剣が、この後に予想される行為を示していた。


「グロテスク、だめ、絶対!」


捕まえた奴を引き連れて頭持って行くっての?

無理だから、あり得ないから!


「もう死んでるから、血が噴き出したりはしないが?」

「そういう問題じゃないわ!」

「賞金が半分になるぜ」

「いいわよ、それでも。大体ねぇ、死んだ人間へ更に無体を運ぶってのも許さないの」

「だがよ」


至極面白くない、ってオーラ出しても駄目なもんは駄目だ。


「じゃあハヅキはどうするんだ、コレを。見るのも触るのも嫌なんだろ?俺もたかが悪党のために何かしてやろうなんて思っちゃいねえ。ということは、コレはここに置き去り。放っときゃ野獣やら魔物やらに喰われるだろう。後々にゃ土に還るだろうよ。だが首だけでも引き渡しゃあ一応の弔いはしてくれるぜ?共同墓地に入れられるが、最低限の始末はしてくれる。な?コレは弔ってくれて、俺は恨まれない。いいことじゃないか」

「報酬も全額貰えるし?」


いいこと言ったつもりなんだろうけど、最初の方でお金の話してたのに、しなくなるなんて逆に怪しいわ。

っとになんて奴だコイツは………って、話がずれてる。


「あぁ?名前?」





※※※※※






結局、死んでしまった男は仲間に運ばせることにした。

放置なら放置でそれこそ自然に還ることになるから、私は放置が良かったんだけど、目の前のコイツはやっぱり賞金が欲しいと。

今現在、無一文なんだとさ。

ここにいたのも、元々はこのグループ目当て。

私がいたのは予想外で、しかもただ者ではないと感じてたからギリギリまで手を出さないでいたんだと!

殺してしまったのに他意はなく、身体の方はもうちょいシールドが強いと思ってたみたいだけど、案外拍子抜けしたらしい。

けっ!

なーにが拍子抜けなんだか。

コイツいわく、こういうアコギなことやってる奴等は死ぬことも覚悟の上とかなんとか言ってるけど、死んだら…………死んでしまったらそれでおしまいじゃない。


…………あー、やめやめ。


私の常識とここでの常識は違うってこと、いい加減諦めなくちゃ。

それにそろそろコイツ呼びもあれだし。


「おれは『無国籍』だ」

「ムコクセキ?………国無しってこと?」

「そう。俺の親父も根なし草でな、気づいたらあっちこっち連れ回されてた」

「旅人とは違うわけ?」

「違うな。無国籍ってぇのは、要はフリーの傭兵だ。依頼量相応に仕事の表も裏も請け負う。民間人からはフールなんて呼ばれてんな」


本当に気にしていないように笑って、フードをとった男の顔は………これまたビックリするほど美形だった。

髪や瞳は漆黒のごとく真っ黒で、でも光の加減では藍色にも見える。

スッと切れ長の目と眉は意思が強い印象だ。

唇も薄くもなくかといって厚すぎもなく。

顔の線も理想の逆三角。

悪く言えば優男とも言えなくもないけど、髪型は刈り上げて、雰囲気はもう最初から油断ならないんだなこれが。

こんな人、ホントにいるもんだねぇ。


「だから」


おっと、思考が飛んでしまったわ。

危ない危ない。


「名はない。けど俺のこと知ってる奴等は『フールフード(愚者のフード)』なんて言ってる」


フール――――それはタロットカードの第0番、愚者のカードの別名だ。

詳しくは覚えてないけど、確か正位置は自由とか型にはまらないという結構いい意味だけれども、逆位置は気まぐれや愚行や落ちこぼれと………

私より15センチくらい高い背を見上げる。

能力も容姿も申し分なし。

なのに自由気ままに不安定な仕事をしている。

そんなコイツを羨望と皮肉で揶揄っているのかな。

この世界にタロットカードなんてあるのか疑問だけど。


「じゃあ私も好きに呼ばせてもらうわ」

「………どうぞ?」


少々の沈黙と、意味ありげに笑う意味に私が気づくことはなかった。






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