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「………だから、答えを迫ってはいけないと思うの。私たちは彼女の出す答えを待つべきだわ。無体を強いたのは私たちだもの」


サラさんが、優しい微笑みで振り向いた。


「でもね、あなたがどんな答えを出しても戦い方を覚えてほしいの。どの街や村でも外を出たら魔物がうろつく危険な場所。身を守る術は身につけておくべきよ」

「はい………」


穏やかな微笑みに優しい言葉。

落ち着いてきた頭が警鐘を鳴らす。

裏にある思惑もあるはずだ、と。

ただ優しく美しいだけの人じゃない。

仮にも王妃なんだから――――






※※※※※






「これで、一番最悪な状況になることはないわ」

「何を視た」


早速とばかりに、フェイはハヅキを連れ去ってしまい、王子二人もそれについていってしまった。

ユーナルドは国王夫妻の妙な空気を感じ取って、退室済みだ。


「あのままいけば、彼女(ハヅキ)の心が壊れていたわ」

「…………国は、(たみ)がいてこそ存在しうる。俺には民を守る責がある。たとえ一人の不幸の上に成り立つ世界だとしても、それで大勢の人間が生きられるならば躊躇は出来ない」

「わかっているわ。だからこそ慎重に事を運ばなくちゃ。――――特に今回は」


サラはリカルドに身を寄せる。

慣れた仕草でリカルドはサラを膝に乗せた。


「彼女は大きな流れに『うねり』を生み出し、新たな流れを創る存在。彼女の一挙一動で良くもなり悪くもなる、いわば『運命の采配者』」




「彼女の意思を尊重し精神を守ることで嫌がおうにも、ハヅキは世界の運命に巻き込まれていく運命(さだめ)。だから味方になってあげないと何もかもが壊れてしまう………それこそ、世界が」






※※※※※






「お前の武器(エモノ)はなんだ?」


さて、どうするか。

こう聞くということは私から何かを感じ取ったに違いない。

私が体術を極めているか複数の武術を会得しているかどっちかだと思うけど。

ここでばか正直に答えれば必ずを聞かれるはず。

すればもし、向こうが実力行使をしてきたら私はひとたまりもないだろう。

たとえ私が魔術をも駆使しても、一朝一夕で得たものなんてそれこそ悪あがきのようなものだ。

確実に私は屈するだろう。

それにフェイと私とじゃ年期も、特に環境が違う。

向こうは生死を掛け合っているのだから。


「打算しなくとも、無体を働く気はない」

「………私のエモノは奥の手だから教えられないわ」

「さっきゴロツキをのしていただろ?」

「素人相手に使うわけないじゃない」

「ふむ…………」

「全武術に通じる基本的な魔術の使い方について教えてくれれば、後は自分で勝手にやる」

「勝手に、たって」

「あら、私が何かしらの武術を極めていると感じているんじゃないの?」

「そらぁ、まぁな」

「なら先に言っておく。私の奥の手はこの世界のものではないわ。よく知っているのは私だけ。慢心しているわけじゃないけど、自分で出来るわ」

「信用ねぇの」

「貴方の第一印象が最悪だからね」


しっかりしなくちゃ。

とっとと王都(こんなとこ)から出ていってやる!






※※※※※






「随分と頑なな方なのね」

「ミリリアナ様!このような所に来てはいけませんっ」


おい、私はいいのかよ。


「だって、他の兄弟はお会いしたというのに、わたくしだけ仲間はずれにするつもりですの?」

「幹部はともかく、ここは野獣の群れの中です。無闇に煽るようなことをしてはいけません」


よしフェイ。

アンタはまず私の性別を知れ。

そして腹を割って話し合おうじゃないか。

本気で腹を割って臓物を引きずり出してやるわ。


「それでしたら、そこのお方にも言えることではありません?」

「この勇者に手を出しても返り討ちにされるのが関の山ですよ」


その通りすぎて余計にムカつくな。


「そう、貴女、勇者なのよね」

「勇者なんですよ」


なんだよ、二人して変な顔して。


「喚ばれた理由を聞いても拒否し続けるなんて。わたくしでしたら他に出来る者がいないのであれば、わたくしは受けますのに」


悩ましげにため息ついたって、駄目だね。

こいつ、バカ決定。

本当に出来るのかよってハナシ。

いくら立場を想像したって、所詮王女という高みの見物場から眺めているだけの温室育ちが、出来るわけがない。

そもそもアンタと私とじゃ、状況が違うじゃないか。

アホかバカか、どっちかにしろよ。


「ミリーお前、間違ってる」

「だってジンお兄様、国やひいては世界の為ですもの。拒否するわけがありませんわ」

「そこから間違ってるんだって。ハヅキは国やひいてはこの世界の人間じゃないんだぞ。全く知らない世界に喚ばれて死にそうな場所に行けって放り出されるんだぞ。お前、本当に出来るのかよ?」

「っ…………」


そーだそーだ!

もっと言ってやれー。


サラさん似の顔が悔しそうに歪んだ。


「――――ジンお兄様も、エンもレンも変よ!わたくしたちの国は勇者を喚び出し、魔王討伐を促す役目であるのにそれをしない!それは世界を滅ぼそうとするのと同じだわ!!」

「ミリーって、ホント頭が軽いよね」

「レンあなた、いっつも言ってるけど姉として接しなさいよ」

「いっつも言ってるけど、無理だって」

「ここにハヅキがいるって聞いて来てみれば、ミリーお前何やってんの」

「エン、だってレンが」

「だってミリーが非人道なこと言うから」

「世界の危機ということは即ちたくさんの人間の命の危機なのよ?そのたくさんの命を救える力があるのに拒否するなんて、そっちの方が非人道よ!」

「だからさぁ、全然違う世界から来た勇者にとっては傍迷惑なだけなんだよ。だって見ず知らずの赤の他人のために命を賭けなくちゃいけないんだ。俺でさえ嫌だよ。奴隷じゃあるまいし」

「だからって………」




「フェイ、いい加減キリがないからさっさと教えてくれない」

「おいお前の為に議論してんに放っておくのか」


私のため?

最初はそうだったみたいね。

今はどうよ、聞いてごらんよ。

既に小さい頃の失敗とか言い合ってるじゃん。

もう只の兄弟喧嘩だよ。


「は や く し て」


くだらん、付き合ってられるか。





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