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着の身着のまま、とりあえず王都から出るため歩いてます。

何故って、私は耐えられないからに過ぎない。

起床の時点で、身に染みるほどにわかった。






「ん…………」


妙に人の気配が近く、また五月蝿さに不愉快になって目が覚めた。


「「「勇者さま、おはようございます」」」


三者三様の侍女っぽい(ってか本物)人がシンクロした声とお辞儀をしてきた。

寝起きなわけよ、理解が追い付かなくてしばらくポッカーンよ。

んであれよあれよという間に朝風呂に入れられ、マッサージとかもされて、いざドレスを着せられそうになって、我に返った。

なんとかかんとか避けて、でも陛下の命令だからと諦めない侍女たちに当て身を食らわせて、クローゼットに入っていた男物のシャツとパンツ、靴を拝借して逃げてきた。

私にプライベートはないようだし、ちょうどよかったわ。

一文無しだけど、小さい頃からやっていた武術は剣道・合気道・柔道。

空手は黒帯で師範代も貰ってるし、どっかの花街か商人の家で用心棒でもしようかな。

髪も目も、魔術で光の加減を操作しているから周りには茶髪と茶色の目に見えている。

うん、何の問題もない。

あとは世界の終焉までひっそりと過ごさせてもらおう。

そう思っているだけで足が軽くなるもんだから不思議よね、人の心というものは。






※※※※※






「………前代未聞だ」


王――――リカルドは執務室でそう吐き捨てた。

見張り役の侍女達を全て昏倒させ、馴れていないはずの魔術を駆使して城から脱走するとは思ってもみなかった。

何せあの侍女達は選りすぐりの女性騎士だったのだ。


「父上がいつものように高圧的に接したからじゃないですか」

「どういう意味だ、ジン」

「そういうところが、ですよ。異世界の勇者達はみな、絶対王政の国で生きていませんでした。王に無条件で従うなんてそう易々と出来るわけがないことは歴々を鑑みればわかるでしょうに」

「困っている人間を拒否する方がおかしいにきまっている」

「それこそ、彼らには関係ないですよ。自分の世界じゃないんですから。さらに困っていると言えど、100周期で、勇者召喚も通例化、魔王討伐を促すのだって毎回毎回誤魔化し押しつける様も慣例化している」

「随分と庇うじゃないか?やはり惹かれるのか」

「自分が同じ立場になって考えてみただけですよ。父上が母上に子供の世話を丸投げしてくれたおかげで人の痛みがわかるようになりました」

「………なんだと?」


「リカルド、ジンリクス王太子、いい加減に不毛な会話をお止めいただきたいのですが?」


膨大な魔力が一触即発のところを酷く冷たい声色で止められた。


「ユーナルド、これは個人の感情の問題ではない。実際に世界の未来がかかっている。拒否云々というわけではないのだ。私は唯一呼び出せる国の務めとして、ジンの言うことを許すことはできない」

「どちらの言い分も、的を得ていますよ。ですから不毛だと言っているのです。どこまでいっても平行線ですから」


リカルドの言う世界が危機に頻していて困っているということも、ジンリクスのこの世界の住人ではない赤の他人に世界の命運を押し付けることはどうかということも、どちらもその通りであるがどちらかが折れない限り分かり合うことは皆無だ。


「強制されることの辛さは、父上、貴方が一番理解しておられるはずでは?」

「当時の面倒くささが思い出されますねぇ」

「ぐ…………」


リカルドは、妻・サララシィナを周囲の反対を押しきって結婚まで押しきった。

当時、サララシィナには想い人がいたのだが――――結婚前にそれが実はリカルド本人だったというなんともベタなオチがつくのだが、それでもこっちの事情も考えず押しつけてきたことは今でも時折、腹がたつとぼやいている。

事情や問題も違うが、それでも事を押し付けていることは変わらない。

サララシィナだって未だにしこりを思い出して気分が悪くなると言っているのだ。

歴代の勇者達とて同じこと。

皆いずれは恋仲に落ちて家族を築き上げ幸せを手にしたとしても、ふとした時に、いきなり召喚された時や、召喚されなかったらどういう人生を送っていただろうとか、思いを馳せるだろう。




「だから、一人の不幸で成り立つ世界なら、そんな世界など滅んでしまえばいい」






※※※※※






「ちょっと邪魔よ」

「邪魔だってよ」

「そー言われても俺達は嬢ちゃんに用があるんだよなぁ」


下品な笑い方をした頭も顔も大変よろしくない二人組の男達が、私の進路を塞いでいて、どうにもこうにも邪魔くさくてどうしようもない。


「王都のくせに治安悪すぎよ」


たまたまとある店主と話している騎士達を避けて裏路地に入ったのが運のつきだった。

その騎士達は私の人相を話していて、どうやらもう逃げ出したのがバレてしまったようだ。

だから一刻も早くこの地から離れなくちゃいけないのに…………


「くっくっ。大変優秀な騎士サマたちは、魔物退治でお忙しいので、中までは面倒見きれないんだよなぁ」

「あら、だったらあなた達が都の治安を守ればいいのに」

「残念ながら、俺達は金儲けのほうが重要なんでね」

「そーそー。嬢ちゃん悪いな。俺達の金になってもらうぜ」

「ホント、残念ねあなた達」

「はぁ?」

「頭も顔も――――運も」


はっ

ベタな展開だわ。

三流の悪党に絡まれるなんて。

普通ならここら辺でヒーローが現れるんだろうけど、私はヒロインじゃないし、この程度の人間なんかに遅れはとらない。


ドンッ

「があっ?!」


まず目の前にいた悪党Aの鳩尾に拳を叩き込む。


「このアマっ」


そうすると悪党Bが無防備に私の顔へ向かって殴りかかってくるから、崩れかけた悪党Aの後頭部を盾にする。

当然悪党Bの拳は完全に悪党Aを沈めることになった。

さらに悪党Bは仲間を沈めたことに一瞬無防備になる。

そこへ素早く回り込んで首元の頸動脈を押さえ失神させれば、終了。

うん、我ながら観客に拍手してほしいぐらい呆気なかったわね。




ぱちぱちぱち




「お見事」


私と同じような、ラフな服を着ている男が気のない拍手をしている。

けれど表情は不適な顔をしていて、さらに縁無し眼鏡をして目付きも鋭いから余計に怪しく感じる。

自然と私の顔つきも険しくなるのも当たり前だ。


「そう、おっかない顔をするものではありませんよ――――勇者殿」




嫌な笑い方をする男だ。

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