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Q.魔術の使い方
「目的を想像するだけでいいんだよ。そう、例えば、コップに水を入れたい時には、コップに水が入っている状況を想像するんだ」
近くにコップがないから、試しにランプの明かりを消して、また点けてみた。
ふむ、こりゃ便利。
「魔力の弱い人は呪文がいるんだけど………やっぱりハヅキはいらないね」
そんな眩しい瞳で見てこないでくれないかな、いちいち鬱陶しいというかなんというか………
Q.歴代の勇者について
その1:過去何人か、また男女の比率と年齢層
「ハヅキで17人目だよ。男が9割で、大体14〜5歳くらいから30代後半くらいまで」
ということは、まだ『歴史が残されてから』1700年しか経っていないということか。
どうりで中世ヨーロッパ風がビシバシとくるわけだ。
にしても30代後半でこんなとこに誘拐されて………本っっっ当にはた迷惑も甚だしいったらありゃしない。
その2:魔王討伐失敗は
「ないない。ちなみに歴代は平均的に2〜3年で討伐成功してるよ」
チッ
誰かが失敗してりゃー、とっくに滅んでたかもなのに。
っていうか歴代全員成功か。
お人好しなのか押しに弱かったのか、誰かに惚れた弱味なのか………
その3:歴代勇者達は元の世界に戻ったか
「そんな話はないね。なぜか召喚される勇者はみんな天涯孤独だったし、そもそもが魔術に異世界へ送るものなんかないし」
「………え?」
※※※※※
全くこの世界のシステム、上手く出来てるもんだ。
天涯孤独が行方不明になったって、本気で探してくれるのなんかそうそういない。
よくて、結婚とかを前提にしていた恋人とか?
――――あぁ
失踪届けは出たかな。
まだ一日も経ってないからまだ、かな。
でも私は未成年だし、明日は学校があるし、国立だから無断欠席で不審に思うよね。
親戚に連絡がいって、誰かがアパートに来て、ついさっきまでいた気配が残っている部屋を見てどう思うだろう。
事件になるのかな、一応まだ未成年だし。
証拠なんか出ないよね。
なにせ異世界に連れていかれたなんて、そんな与太話、だれが思いつくよ。
そして私は、お腹から込み上げてくる何かに青ざめた。
本当に大事な物は何もないけれど、いつしか警察の捜査が打ち切られ、数少ない程々に付き合いのある友人も、親戚も諦めてしまうだろう。
そしたら、そうしたら
私があの世界にいたという証拠がなくなってしまう。
失踪届けが出された7年後には、法的にも亡き者として扱われる。
私はどっちの世界でも中途半端な存在になるんだ。
まぁ、ここの世界で言われるままに魔王討伐をすれば、少なくとも『存在』という点に置いては認められるだろうけど………
ーーーー仕方ない、か
こっちに来てしまって、帰れないのならば、もう腹をくくるしかない。
魔王討伐なんてしち面倒くさいことは絶対しないけど。
生きられるだけ、生きてやるか。
元の世界のお金は、正直おしいけど、幸いにも親戚には一切お金が流れないようにはしてあるし。
もし万が一にも私が突然死もしくは行方不明になった場合は慈善団体や孤児院に寄付することと弁護士さんに言ってあるし。
ああ、弁護士さんぐらいなら頭の片隅に残っているかも。
父さんの小学生以来の親友だったし。
弁護士さんには、悪いことしちゃったなぁ。
でも起きてしまったことにいつまでもグチグチ言ってたって馬鹿馬鹿しいだけだし。
とりあえず修二さんと奥様、色々と親身になってくださったのに改めてお礼を言うことなく失踪してしまって、ごめんなさい。
※※※※※
Q.歴代勇者のその後
「そのまま冒険者になった人は少ないね。大抵は道中で会った人を見初めて結婚したり、王族や貴族と結婚することもあったよ」
うん、そんなもんよね。
勇者なんてもん、ラスボス倒し終わったらそこでおしまいだもの。
きっと紙の上のようなストーリーでもあったんでしょうよ。
うわ、読みたくねぇ。
Q.勇者の子孫は、勇者になれないのか
「勇者は一代限りなんだ。どんなに強くて魔力量が大きくても、何故か勇者にはなれないんだ。魔王を倒せるのは勇者しか使えない魔術だから」
ちょっと期待してたんだけど、駄目か。
ったく、つくづく厄介な世界だな。
「思い付く限りは聞けたわ。ありがと」
「どういたしまして」
私、幻が見えるかも。
マックが千切れんばかりに尻尾を振る姿がなんとも………マヌケに見えて、美形なのに残念だ。
――――と、騒がしい足音が聞こえてきた。