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「どうも、タカと申します」
「ハヅキ、まさかフールと契約したの?」
一応(渋々)、城に戻ったら大騒ぎになった。(むしろなっていた?)
捕まえた奴等をおったてて賞金を山分け。
ついでにその場でお金の数え方を教えてもらった。
留置所にまで私の捜索令が出てたみたいで、上へ下へ横への大騒ぎ。
しばらくして馬車に押し込まれて、城までノンストップだった。
たかが一平民に騒ぎすぎじゃない?
んで、あれよあれよという間に謁見部屋に通されて、冒頭に戻る、と。
「タカ、そんなに有名なの?」
「そうだなー、色々(・・)とやってきたからなぁ」
あえて詳しくは聞くまい。
「ていうか、いつ契約なんてした?」
「無知が軽々外に出るからこうなるんですわ」
ったく、いちいち突っかかるお姫さまだなーもー。
構ってちゃんは馬鹿な男しか構わないっての。
「フールには名前がないってのは知ってる?」
「そこら辺は聞いた。国籍がないからでしょ?あとフリーの傭兵だって」
「そう、だから」
「何よ」
「いいかいハヅキ」
年下に諭されるように話されて、なんかイラッときた。
なんなのさ?
「フールというのは職業なんだよ。でも個々に名前はない。ならば契約するとき、呼び名がないと困るだろう?」
「そうね」
「『フールに名前をつける』――――これが契約になるんだ」
「へー」
成る程、勝手に呼ぶって言ったときなんか妙な間があったのはこれのせいか。
つまり、私は名前を与え契約を持ちかけ、そしてタカは名乗っていることから了承したというわけね。
「………なんかやけにあっさりしてない?」
「んーむしろ願ったり叶ったりだから。あ、でもまだ仮契約なんだった」
「だったらさっさと解約するんだな。そのフールはタチが悪いぞ」
おいおい、いくら王だからって本人目の前にしてその暴言どうよ。
………ぐるりと見回してみれば、まあ見事に全員が妙な顔しちゃって。
王族にしてみれば代々続く〜とか身元のしっかりした騎士の方が信頼に足るんでしょうね。
しかし残念ながら、私はタカの方がいい。
同じ身元不明だしー。
「タカはどうして私と契約しようと思ったの?あまりフールについて理解してなかったのに」
「面白そうってのと危なかっしいから」
「そう。じゃあ私がこの世界で生きていけるくらいの常識と戦い方を全部教えてくれるまで一緒にいてもらおうかな。その後は貴方がどうするのかは自分で決めて」
「んじゃー教えきったら、俺が飽きるまでいることにするな」
「それでいいよ」
「よくないよハヅキ!」
あらまぁマックったら、綺麗な顔を怒りに染めて。
「そいつはフールの中でも特にタチが悪いんだってば」
「どこがよ?」
「それ、は」
視線があっちいったりこっちいったり。
顔も赤いとくりゃ。
「暗殺から夜伽まで?」
「わかっていて、なおも契るか」
その言葉の方が卑猥だなぁ。
っていうか、さっきの内容ちゃんと聞いてなかったのかコイツ。
「んなもん、契約内容に入ってないし今後も入れるつもりもないわ」
それに、だ
「もし合意なく強引にしてきたら、噛みきってやるから」
あ、今久方ぶりにちょっとだけ笑えた気がする。
ふっふっふ、お姫さん以外は顔が青いわよ〜。
ざまぁ。
※※※※※
ま、そんなわけで。
とっととズラかりましたよ。
この世界のことはタカに教えてもらうしねー。
お城になんかいる必要がないからねぇ。
あー清々した。
今はタカに連れられて街で旅支度中だ。
旅用の服や靴、携帯食料やら武器やら。
夜はまだ寒いから外套とかも。
いやー買うもの一杯であっという間に軽〜く金欠。
んでも、装備品はそれなりに良いものだし。
どうせ賞金首稼ぎするから。
「一応これで最低限の旅装が出来たぜ」
「ん、ありがと」
ひとまず王都周辺の賞金首はもう雑魚しかいないらしいから、ここから歩いて三日ほどの交易の街へ向かう予定。
雑魚ばっかり狩ってもねぇ、その日暮らしになるだけなら一発ドーンと稼がねばならんし。
もち、対象は人間だけではなく、魔物や獣も含まれる。
特に後者の場合、部位によって換金できる場合もあるっていうし。
リアルRPGだわ。
ま、どーにかなるでしょ。
死んだら死んだでその時はその時だしー。
世界が滅びるってんならそれに従いましょう。
自然の流れに任せるってことで。
本当だったらそんな必要なかったはず、なんて。
もう、いいよ
※※※※※
整備されて数十年、欠けたり雑草生えたり割れたり欠けたりの、かろうじて道というところを歩いている。
裏道なのかと思える程荒れているが、これでもれっきとした街道なのだとか。
なんでも近年になって、魔物避けの魔術がかけられた塀がある街道が出来たらしく、皆そっちの方を使っているんだと。
で、なんで私たちは旧街道をつかっているのかというと。
まず第一に、タカと私には国籍がないから。
次に、件の街道を通るには許可証が必要で、その申請に長く待たなくてはならないから。
別に国籍がなくても取れるっちゃあ取れるけれど、その変わり長くて三年、最悪忘れられている。
んな長い間、待ってられるかってことで旧街道をひたすら歩いているってわけ。
「そういやハヅキ、お前笑えたんだな。嫌な笑い方だったけどよ」
「色々と失礼な奴ね」
あの木はこんな名前で、あの植物は食えるから採っておこうとか寄り道や道草をしながら歩いていたら、急にそんなことを言い出した。
「ずっと無表情だからよ、思考や言い方もどこか冷めてるし。あの時ようやく年相応に見えた」
「…………いくつだと思ってるの?」
「17、8」
「当たり。17よ」
外人からはよく日本人は下に見られがちと言うけれど、そんなことなかったか。
「パッと見は15くらいかと思ったけどな〜」
………そんなことあったか。
「タカは?」
「24」
「意外と若かった」
「いくつだと思ってたんだ!?」
「20代崖っぷち辺り」
「微妙に誤魔化そうとするな!」
「24のいい大人が17の小娘に怒鳴らないでよ大人げのない」
「テッメェ………」
「ふっ」
プルプルと拳を震わせている姿に、思わず笑ってしまった。
「暗殺から夜伽まで、とか言ってたけど、タカもなんだかんだそうやってると年相応よね」
「………それ最初に言ったのハヅキだぞ」
意外な言葉だったのか、元々本気でなかったのか、握られた拳は下ろされた。
「まだ解せねぇんだよな。暗殺云々は本当のことだからな。なのに知ってもなお契約を続行するとは」
「普通の女性ならしないでしょうね」
「物好きだっているさ」
見上げれば、なんともらしくないこと言ってしまったというような複雑そうな顔をしていた。
なんかまるで、私が並々ならぬ言えない理由でタカと契約したとか思っているみたいだ。
「タカと契約した理由は二つ」
ピースをしているが、決して楽しいわけではない。
「タカは私を『勇者』前提で話していない」
「ああ、確かそんなんだったか」
「気づいといて忘れんなよ………。まぁ、とにかくだ。私を『私』として接してくれるから。私はあんなけったいなモノなんかじゃない」
「そうだよなぁ。勇者なんて、面倒くせぇもん俺だってやりたかねーな」
うんうん、やっぱり私の目に狂いはなかったな。
「タカは契約以外のことや穴をついて何かしてくるような人間ではないから」
そう言うと、タカは呆然として立ち止まる。
いや、意外ってかんじかな。
「………なんでそう言い切れる?いや、確かにそうだけどよ」
「無駄に恨まれたくないでしょ」
依頼主が男か女かはともかく、独身ばかりではなかろう。
もしかしたら相手には秘密、とかあるかもしれないけど。
これだけ美麗な顔立ちだもの。
正直、男からもお誘いがあってもおかしくない。
元の世界でも歴史的にあったしねぇ、不思議じゃないわ。
なんにしてもだ。
余計な火種起こして最悪、報酬無しで刺客送り込まれるなんて馬鹿馬鹿しいことはしないだろう。
そもそもフールなんて基本的に好かれない仕事をわざわざ選ぶくらいだもの。
プライドだってあるでしょ。
「どんな理由があろうとも、男女の二人旅はダメだよ」