第6話 霞と拓と服装
遅れてすみません。お詫びに倍近い長さです。
「なぁ霞?」
「なあに、拓」
「お前はいつも流行に敏感だな」
「そうかしら?自覚はないのだけれど、確かに流行のものは好きよ」
「ほう。例えば?」
「そうね……例えば、ファッションなんかもその内のひとつだわ」
「そうか。俺はそういうのに疎いから今まで気が付かなかったな」
「あらひどい。貴方とは毎日会うから、それなりに気を遣ってたのよ?」
「それはすまない」
「まったく。……じゃあ今来ているこの服は、何をテーマにしているかわかる?」
「…………ああ、それはわかるぞ。わかりすぎるほどわかる」
「あらそうなの?貴方も意外と流行のものをわかっているじゃない」
「いや、今の時代、その服を知らない人のほうが少ないと思うぞ」
「ふふ、大げさよ」
「(……大げさ、ね)」
「じゃあ、拓。私のこの衣装について貴方のコメントをもらいたいのだけれど」
「ああ、いいぞ。でもちょっといいか」
「何?」
「俺がコメントをすれば、今までは普通を保っていたはずの会話がすべて崩れ去ってしまうんだが、いいのか?」
「ええいいわ。思う存分ヤってちょうだい」
「よし。じゃあ遠慮なく――――――
なんでてめえは俺の部屋でメイド服なんか着てやっがっるっんっだァァァーーーー!!!!」
「ああっ!!いつにも増して激しい!!!」
「『激しい!!』じゃねえ!意味がわからん!!何だそのカチューシャは!何だその白と黒のフリフリは!!何だその心底動きにくそうな格好はァァァーーーー!!!」
「らめぇっ!!そんなに激しく突っ込んだらぁっ壊れちゃうぅ!!」
「壊れてろ!一人で勝手に壊れてろ!しかしそのセリフはエロすぎるぞコノヤローー!!」
「『らめぇっ!』がポイントよ。この伝説の萌え言葉は数多くのエロ本などで活用されているわ」
「何か解説しだしたーー!!」
「『壊れちゃうぅ!』が次のポイント。この言葉が一番相手の嗜虐心を刺激し、S心をかきたてるらしいのよ」
「……らしいって、いったいそれはどこの情報なんだ?」
「え?SM系AVだけど」
「当然のごとく言い放ったーー!!この前はそういうの見てるってこと隠してたのに!」
「女心と秋の空って、素敵な言葉よね」
「…………」
「ふふ、でも安心して。貴方への愛は永遠に変わらないから」
「……ああ、俺もだ。とてもうれしいセリフをありがとう。しかしメイド服じゃなかったらなおうれしい」
「あら、お気に召さなかった?」
「(いやお気に召す。むしろ召し上がりたい……っじゃなくてっ!)
い、いや、そうじゃなくて。いつものお前で言ってくれたら、実感がわくだろう?そうしたらよりお前が好きになれる」
「拓…………」
「霞…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………制服プレイのほうが良かったなんて……!!」
「いい雰囲気だったのにーー!!」
「でもそれでこそ、私の拓だわ。私と同じで、性癖がよりマニアックに」
「マニアック言うなーー!!……って、お前はマニアックなのかよ!?」
「ええそうよ。だって貴方のことを愛しているもの」
「ちょっとマテ。この場合『だって』という接続語は適切ではないと思うのだけれどどうだろう!!」
「これまでにないくらい適切だわ。マニアックだから貴方を愛している。貴方を愛しているからマニアック」
「…………」
「私は他にもたくさんの性癖を持っているわ」
「(これ以上増えてどうする……)」
「その内のひとつにね、私自身にも制御できないものがあって困っているのよ……」
「……お前が制御不能なんて厄介だな」
「そうなのよ。自分の意思とは関係ないのに……」
「……聞きたくはないが、どんな性癖なんだ?」
「『貴方の瞳でイっちゃうゾ☆』性癖」
「ネーミング最悪だーー!!」
「その名の通り、貴方に見つめられるとイっちゃうのよ」
「どんだけ面倒な体質してんだおまえは!!」
「正確には、30秒じっと見つめられているとイキます」
「そんなわけねーだろ!そんな性癖いままで生きてきた中で聞いたことないよ!?」
「私が開発したのよ」
「その開発作業は世界でいらないものベスト10にランクインだおめでとう!!」
「いや、来るべき時に備えようと思って」
「見つめられるだけでイクなんて特技はAVの中だけでしか必要性を感じないのだがどうだろう!?」
「……そうね。それもアリかもしれない」
「かもしれないじゃないですよ霞サーーーン!?」
「冗談よ」
「…………そうデスカ」
「そうよ。私の身体を他の男にあげるなんて、拓が『霞のパンツの香りがーー!!』と裏声で叫びながら都会の大通りを疾走することくらいありえないわ」
「とっっっってもわかりやすい例えをありがとう霞…………!!」
「ユアウェルカム」
「(何故に英語?)」
「…………ほら、拓。私が貴方に対しての愛を語ったのだから、貴方も私に対して甘い言葉をささやくのが礼儀じゃない?」
「そんなのいつ語った!?」
「言ったじゃない。永遠に愛すとか他の男に身体をあげるなんてありえないとか」
「(それは愛を語ったというのか……?)
そ、そうだったな」
「…………」
「え、えー……あー、愛してる」
「それだけ?」
「うー……お、お前のためだったら、何でもできるし何にでもなれる自信がある。お前のために一生を捧げてやるさ」
「拓…………」
「霞…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ん」
「…………」
「……あっ、ん」
「…………?」
「…く、……はぁ…ん…」
「…………??」
「っあぁ、……いぃ………ッッ!!!!!!」
「…………!?!?」
「…………ハアハア……」
「ど、どうしたんだ?いきなり震えだしたりして。それに息も荒いし、どこか具合でも悪いのか?何か知らんが、最後のほうは仰け反ってたし……」
「え、ええ……。大丈夫よ……」
「本当か?お前、顔真っ赤じゃないか。熱でも――――」
「なんともないわ。ただ――――――拓の視線で、かつてないまでにエクスタシーを感じただけ」
「心配して損したーーー!!!しかし本当にそれだけでイける思わなかったぜ!!」
「あーあ……。ショーツがぐっしょりだわ」
「ちょまーーー!!!スカートめくり上げて確認するなーーー!!!!お前には羞恥心というものはないのかーー!?」
「ねえ、ちょっとトイレかしてくれない?穿き替えたいんだけど」
「聞く耳もたねぇーー!!軽々と俺の言葉を無視するな!!」
「え、羞恥心?あー、うん、そうね。授業中にくしゃみをするのは恥ずかしいわね」
「恥ずかしがるところ微妙だーー!!というかそんな乙女チックな羞恥心を持っているやつはそんな行動をとったりはしない!!」
「女心を知らない人ね……」
「そんな歪んだ女心なんて存在しねえよ!!」
「私の中には存在してるじゃない!失礼しちゃうわ☆」
「ちょっと可愛く怒られたー!」
「私の中というかむしろナカね」
「漢字をカタカナに換えるだけでなぜか卑猥に!?」
「何を言ってるの?……あっ、ナニをイってるの?」
「一回言ったのに途中で気づいてエロく言い直したーー!!」
「…………おおっ!……ナニがイってるの?」
「『を』を『が』に置き換えるだけでものすごいエロい言葉になることに感動して、頬を赤くしながら甘い吐息と共に自信満々で言ったーーーっ!!!」
「…………あー、ストップストップ。ダメよそんなのじゃ」
「…………はあはあ、な…何がだ?」
「突っ込みがあまりにも説明的過ぎるわ」
「お前にダメ出しする資格はねえよ!!!」
「それにセリフも長いし」
「聞けーっ!」
「私が代わって手本を見せてあげるわ」
「だから聞けよ――――って、お前が突っ込みをやるのか?」
「ええ、一時的に代わってあげるわ」
「おお、そりゃありがたい。いつもの俺の苦労を少しは理解してもらいたいものだね」
「じゃあイクわよ」
「(だからカタカナにするなっての……)」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ちょ、ちょっと待て」
「ナニ?」
「いやそれはもういいから!……もしかして、俺がボケるのを待っているのか?」
「いえ、拓が無理矢理ボケる必要はないわ」
「(じゃあ今の沈黙はなんだったんだ……)」
「真の突っ込みはボケがいなくても突っ込めるものなのよ」
「(いや無理だろ!――――って今くらいは突っ込まないでおくか……)」
「じゃ、あらためて」
「…………(休憩休憩っと……)」
「…………」
「…………」
「『なんで霞がメイド服を着てるんだよ!!!』」
「突っ込むのおせェェェーーー!!!!もうそのこと忘れかけてたよ!!時間差突っ込みか!真の突っ込みは時間差突っ込みまでも修得しているのか!?」
「『なんで霞が裸でベッドにいるんだよ!!!』」
「捏造だーーー!!!!今まででそんな状況に陥ったことなど一度もない!!霞の裸はとても見たいけどネ!!」
「『なんで霞はそんなにカワイイんだよ!!!』」
「もはや突っ込みですらない!?というか自分で自分をカワイイとか言うな!イタイ人間に見えるから!それにお前はカワイイ系じゃなくて美人系だ!!」
「『霞の小説はものすごくおもしろいな!!!』」
「もうただの褒め言葉だーー!!」
「ふう、こんなところかしら」
「…………」
「どう?私の突っ込み。最高だったでしょ?」
「ああ最高だよ……。突っ込みに突っ込みを入れることができて俺の気分は最高だ…………」
「そう、それはよかったわね」
「…………」
「…………ん、……」
「……どうした?」
「いえ、たいしたことではないのだけど、ショーツが濡れて気持ち悪くって……」
「(真顔で言われると生々しいな…………)
トイレの場所は知ってるだろ?行って脱いで来い……」
「…………え?脱いで来い?…………………ま、まさか!?」
「何驚いてんだ?早く行かないと気持ち悪いんだろ?」
「……とうとうこの時がやって来たのね…………!」
「は?なんだこの時って」
「この日をどれくらい待ち遠しく感じたか!」
「だから何のこと――――」
「すぐに脱いでくるわ!!!」
「うわっっ!……あっぶねーな、あいつ。ドアはゆっくり閉めろと親から習わなかったのか?バタンというよりドガンッという効果音のほうが合ってるぞ。壊れてないだろうな……?――――ああ、良かった壊れてない。……それにしても、なんであいつあんなに気合い入れてたんだ?パンツ穿き替えて来るだけだろうに。ただそれだけの作業――――あ、わかった!持ってくる気だな?脱いだパンツを持ってきて俺にまたあげようとしてるんだな?まったく。嬉しいったらありゃしな――――ゲフンゲフン。まったくもって迷惑だ。迷惑極まりないが、どうしてもと言うなら受け取ってやっても――――――」
「おまたせ!!!」
「うおう!は、早かったな」
「ええ、この後のことを考えたら嬉しくて走ってきちゃったわ!」
「そ、そうか。そんなに俺に渡したいんだな」
「渡したい?」
「……ん?渡すものがあるんじゃないのか?」
「渡すもの…………ああ!確かにそれは必要ね、うっかりしてたわ」
「(必要?うっかり?)」
「はいこれ。どこに行くときでも常備していて、やっと役に立つときが来たわ」
「………………………………………………へ?これって……」
「やっぱり避妊はしないとね。コンドームは必需品だわ」
「………………………………………………は?」
「何を呆けた顔してるの。貴方が渡せと言ったのでしょう?」
「いや、そうじゃなくて」
「……今更、やっぱりヤメじゃだめよ?
貴方がパンツ脱いで来いなんて言って、エッチしようって誘ったんだから」
「な…」
「な?」
「とっ」
「と?」
「とり」
「鳥?」
「取り消しィィィィィィーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
「キャア!いきなり大声出さないでよ!」
「取り消し取り消し取り消しィィ!!!言い間違えた!言い間違えた!俺は脱いで来いじゃなくて穿き替えて来いって言ったの!!そしてそれは決して誘いの文句なんかじゃない!!!純粋な善意から生まれた言葉だッッ!!」
「…………」
「な、なんだその疑いの目は!?」
「……あー、はいはい。わかったわ」
「……本当か?」
「ホントホント」
「……ふう、一安心だ。誤解も解けてよかっ――――」
「貴方が照れ隠しをしているのは良くわかったわ」
「わかってねェェェェェ!!!!!」
「大丈夫大丈夫」
「何が大丈夫なんだーー!?」
「笑わないから」
「ナニを見て笑わないから!?」
「…………」
「黙るなァァーー!!!」
「もう、うるさい!とうっ!!!」
「いでェ!!!ちょ、お前なんで俺を床に叩きつけるんだ!?痛いだろ!――――ってマテマテマテマテ馬乗りはマズイって!うわ、感触がやわらか――――じゃなくて!!」
「いい感触でしょ?今何も穿いてないもの」
「うあーーーー!!!!!」
「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫」
「その手のワキワキした動きが絶対に大丈夫じゃないことを確信させるのだが、そこんところはどう思いますか霞サン!!」
「……じゅるり」
「ジュルリって言ったーー!!というかそんなよだれの吸い込み方現実ではありえないだろ!!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、ヤるわよ」
「霞ってそんなサバサバした性格だったっけ!?」
「…………」
「うあ、ちょっとーー!!無言でチャック開けんなァァ!!しかも超ゆっくり!!いやらしい!」
「ねえ拓…………愛してるわ」
「か、霞…………」
「拓ぅ……」
「か、すみ…………」
ガチャッ
「おーーい!今日霞ちゃん来てるんだってー?なんだよ言ってくれよ拓!父さんに言ったらおもてなししたのに!父さんいじけちゃうゾ☆二人とも何やって……ん……だ、ろう…ね…………ェ」
「…………」
「…………」
「あー…………」
「…………」
「…………」
「お取り込み中すまんな……」
「…………」
「…………」
「ええ、と…………」
「…………」
「…………」
「と、父さんも若い頃は、コスチュームプレイはよくしたぞ?…………」
「…………」
「…………」
「も、もちろん今も現役でやってるがな!は、はははっ…………」
「…………」
「…………」
「ももも、申し訳ありませんでしたァァァーーーーー!!!!!」
バタンッ
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「今日は三点リーダ(…)が多かったわね」
「開口一番にそれかよ」
10日前後で更新とか言っておきながら20日経ってしまってすみません。
しかしここで発表。
ちょっと10日前後は無理っぽいです。
感想くれたらスピードアップ!なんて言っておきながら全然ダメでした(汗)
というのももうひとつの連載のほうに手一杯で。時間がないデス。
でも、地道ではあるけど続けていこうとは思っていますので、応援よろしくお願いします!