第5話 霞と拓と映画
霞が焦ってます。
「なぁ霞?」
「なあに、拓」
「さっきの映画面白かったな」
「ええそうね、久しぶりに見に来てよかったと思えた映画だったわ」
「そうだよな。あれだけ興奮する映画はそうそうないぜ」
「興奮…………?別にしなかったけど」
「(ああそうか。こいつの興奮レーダーはエロ方面だけなんだ……)」
「特に最後は見ものだったわ」
「だよな。特に最後のどんでん返しに度肝を抜かれたぜ……」
「そうね。特に最後の○○○り返しにナニを抜かれたわ……」
「(伏字が多くてどこを突っ込めばいいのかわからない…!!)」
「でもいくつか気に入らないところがあったわね」
「……そうか?俺的には100点満点だったんだが……」
「内容的にはそうかもしれないけれど……」
「…………?」
「ベッドシーンが5分32秒しかなかったわ…………!!!」
「やっぱりそこかーー!!しかも正確すぎ!!計ってたのか!?そんな暇があったら映画に集中しろ!!というかかつてないくらい悔しそうだな!!!」
「あら、映画に集中してよかったの?」
「へ?お、おう。いいに決まってるじゃないか」
「そうなると、ベッドシーンのみ私の右手が私の大事なところで激しく動くことになるわ――――映画館の中でね。フフフ」
「ヘー、オマエノミギテッテトクシュナンダナ」
「(ああ!ついに突っ込みを放棄!?)」
「それよりもお前、意外と涙もろいんだな」
「…………あら、知らなかった?私は超がつくほど純な上に、涙腺はそっと触れるだけで壊れてしまうほど弱いのよ?」
「ほう、そうなのか。いつも下ネタばかり言って俺を困らせる誰かさんに聞かせてやりたいぜ……!!」
「あら、そんな人いるの?私と気が合いそうな人ね」
「…………」
「涙というのは人を健康にするのよ」
「…………それは初耳だな。そうなのか?」
「ええ、何かの本で見たわ。涙を出すということは感情を外に出すということ。それによってストレス発散と似たような刺激を脳に送るそうよ」
「ストレス?お前ストレスなんか感じていたのか?」
「あたりまえよ!毎日ボケる私の身にもなってみなさい!」
「ええ!?それ怒っていいところ!?」
「まあ貴方に突っ込まれることで少しは緩和されるのだけれどね」
「(ううん、日本語としてはあっているんだが……こいつが言うとエロく感じる俺は間違っているのだろうか……)」
「まあ貴方の黒光りのする長い棒を私のナカにぶち込むことで少しは緩和されるのだけれどね」
「間違ってなかったーー!!なぜ二回言った!?そしてなぜ卑猥に言い直したーー!?」
「あら、だって貴方もの欲しそうな表情してたじゃない」
「どこをどう見ればそうなる!?勘違いも甚だしいぜ!!!」
「あらあらあら、本当に勘違いなの?」
「…………!!」
「あらあらあらあらあら、その驚いた表情は何?沈黙の肯定と言う言葉を知っているかしら?」
「――――ぐっ……!」
「あらあらあらあらあらあらあら、言い返せないようじゃダメねえ」
「(かつてないほど悔しい……!!……でも)」
「あらあらあらあらあらあらあらあらあら」
「あらあら言い過ぎだ!!お前の口癖とは知っていたがもはや嫌味にしか聞こえないぞ!!」
「もちろん嫌味よ。私の言葉で悔しそうな顔をしている貴方を見るのは、この上なく快感だわぁ…………!!!」
「Sがここに君臨したーー!!」
「いいわぁ、その目。見られているだけでイってしまいそう……!」
「Mもここに君臨したーー!!」
「よかったわね、拓。一発で二発分おいしいとはまさにこのこと」
「そんな慣用句聞いたことねえよ!!」
「でもMな貴方は嬉しいでしょう?」
「だから違うって言っているだろう!!」
「じゃあS?」
「残念ながら俺はどちらにも属しません!」
「そんなはずはないわ。どっちの気もあるという人はいるけど、どちらにも属さないという人はいないのよ」
「……何の根拠があってそういっているんだ?」
「ドナスィヤン・アルフォーンス・フランスワ・ド・サドさんが言っていたわ」
「名前長ッ!!よく覚えられたな!」
「ええ、私の記憶力と性的関心力を持ってすれば容易いことよ」
「後者の言葉の意味がわからないが、お前の言うことなら本当なんだろう。へー、そんなこと言った人がいるんだ」
「え、ええ。ほ、本で見たわ」
「さすがは小説家だ。著名な作家も勉強しているんだな(読んでいる内容は感心しないケド)」
「あ、あたりまえよ。
(ど、どうしよう、なんか感心しきっちゃっているわ。適当に言った名前なのに……。というか突っ込んでくれない拓も悪いのよ。サドなんて名前あるわけないだろー!とか言ってくれればいいのに……。……ここは早く話題を変えないと!)」
「どうした?」
「なんでもないわ。それより――――――昨日どんな種類のエロ本読んだ?」
「はぁ!?」
「(間違ったーー!!これは拓の声のものまね用のセリフだったーー!!)」
「本当にどうしたんだ?」
「(焦って話題を変えるといいことないわね……)
だ、大丈夫大丈夫、大丈夫よ。私はいつだって正気だわ」
「え、なにその麻薬中毒者の言い訳みたいなセリフ。もしくは泥酔したお姉さん?」
「とにかく!!話を戻しましょう!映画館プレイをしようという話だったでしょ!?」
「ええっ!?違くない!?」
「合ってるわ。さっきの映画館の後ろの席のカップルみたいに、人前で堂々と○〇○してみたいねって言ってたじゃない」
「絶対違うね!!俺の脳にそんな卑猥な会話が繰り広げられたと言う記憶なんか欠片もないぜ!!……いやしかし、それとは別に後ろのカップルが何をやっていたか非常に気になるな……」
「でしょ?」
「伏字は三文字で真ん中だけ小さい……!?ということはもしや……!」
「ええその通り。――――――――キッスよ」
「………………………………………へ?キス?」
「いえ、キッスよ」
「(言い方なんて激しくどうでもいいが)
な、なんだ。俺はてっきり――――」
「てっきり、何?もしかしてエッチとでも思った?あらあらあら、貴方はおバカさんなのかしら。映画館の中でエッチなんてするわけないでしょう?もししたとしても、あの大人数。すぐに気づかれるわ。ピンク映画の上映中でもそんなことする人はいないって言うのに、たいした想像力ね。いえ、この場合妄想かしら」
「――くそッ……!!お前に正論を言われるととてつもなく腹が立つな……!!…………ん?というか何でお前がピンク映画の事情なんか知っているんだ?」
「………………………………………………………………………………………………………カンよ」
「(その沈黙の長さが霞の嘘を裏付けているが、ここはこいつのプライドのために目を瞑っておいてやろう…)
――――――――そうか」
「……そうよ。そんなこと想像でわかるわ。映画館でエッチなんて、AVでも今時そんなシーンはないというのに。……あら、そういえば先週発売したDVDには――ゲフンゲフン」
「お前には隠そうと言う気持ちがあるのか!!」
「隠す?何の話?陰毛?」
「…………なんかもうどうでも良くなってきた……」
「(ふふん、私の勝ちね)」
「(なんで勝ち誇ってんだこいつ……?)」
「…………ふぅ、何かちょっと疲れたわね」
「そうか?俺はいつもと同じ疲れ具合だが」
「(じゃあ、私一人だけ焦ってたということかしら……、不覚ね。仕返ししてやりたいけど……。――――そうだ)」
「どこかで休むか?」
「そうね、ホテルがいいわ」
「…………どこかで休むか?」
「そうね、路地裏がいいわ」
「……………………どこかで休むか?」
「そうね、トイレがいいわ」
「なんでそんなにアレを連想させるようなことを言うんだ!!というか休むかと聞かれてトイレはどう考えてもおかしいだろう!!路地裏も!!」
「じゃあどこがいいのよ」
「え?そ、そりゃあ………………………ラ、ラブホテル?」
「ここにさっきと違う映画のチケットがあるわ」
「わかった!!ツッコミが大事なのは痛いくらいにわかったから突っ込んでくれぇぇ!!!放置プレイは嫌いだァァァーーーー!!!!」
「今からじゃもう終電もないし、また映画でも見ましょう」
「……泣いていいか?」
「歩いて帰るよりましでしょう?」
「…………………………………………………………………………そ、うだな」
「何泣いてるの?早く行きましょう」
「うう」
「ほら、このチケット持って」
「ああ……………………………………………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「なあ、俺たちはこれを見に行くのか?」
「ええそうよ。オールナイトにはぴったりじゃない」
「ああぴったりだ。そしてお前にもとてつもなくぴったりだなあ…………!!」
「ふふ、ぴったりでしょう?」
「ああぴったりだ」
「ふふ、大人でしょう?」
「ああ大人だ」
「ふふ、エロいでしょう?」
「ああエロい。……なあ、そろそろ突っ込んでもいいか。突っ込みの大事さがさっき急にわかったから」
「ええどうぞ、待っていたわ。思う存分突っ込んでちょうだい」
「よしじゃあ…………」
「…………」
「今から見に行くのって――――」
「…………」
「ピンク映画かよぉぉぉォォォォーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オチがいまいちDEATH!!
超うれしいことを言ってくれる読者がいたので、一週間で更新。
途中で出てくるカタカナの名前。霞は適当と言っていましたが、実は実在する人物です。でも調べても何もいいことはありません(笑)
楽しかったと思われた方は、気軽に感想をお寄せください。
少しでもそんな風に思ってくれる人がいるならば、この二人は永遠にボケ続けます。