町の同居人?
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王国で一番多い種族は、言わずと知れた人間である。次に獣人。
王都、主要都市、町村では貴族以外は大まかな戸籍しかないのだが、
記載されている者は人間、獣人、ドワーフ、ハーフエルフとエルフ。
実は他にもサキュバスやバンシーやデュラハンなどが住んでいるが、
特性をあらわにしない限り、そうと分からない事が殆どなので、
ほとんどは種族を伏して「人間」として登録されている。
サキュバス、インキュバスは魅了の能力と天然の精神魔術を使える。
バンシーは制御不可能な者も多いのだが、生命に対する未来予知。
デュラハンは首を任意で取り外すことが出来、胴体だけで行動可能。
ただ、どの種族も厄介事を避けようと特性を見せない者ばかりだ。
実際それでうまく回っているし、問題らしい問題も起きていない。
だが実は王国には「人間」として数えられていない知的種族もいた。
ゴブリン等の敵対種族ではない。コボルト等の中立種族でもない。
目には見えているのに、殆どの者が気づきもしていない。
そんな彼ら彼女らは、日常的に町の風景に溶け込んでいた。
◆
「にゃー」
今鳴いているのは、ネコではない。ケットシーだ。
王都だろうとどこぞの村だろうとケットシー達は普通に歩いている。
ネコとは一線を画していながら、ネコの様に人前で振る舞っている。
それは無論、厄介事を避けたいが為だ。
かつてはケットシー達、国というか集落をあちこちに築いていた。
古代文明が栄えていた頃なので、およそ千八百年は前の事である。
当時は人間や亜人種とも交流があったが、文明衰退と共に廃れた。
集落は文明衰退と同時期に散り散りになり、ネコの如く生きている。
未だ交流があるのはごくごく一部のエルフやドワーフだけだ。
だってその方が楽だし。
人間と共存…というか、勝手にその辺に棲みついているのだが、
とにかく人間の近くに暮らしていれば害獣や魔獣には絡まれない。
ケットシーも魔術が使えるので、戦闘になっても何とか出来るが、
無駄に争い事などしたくはないのである。面倒だし眠たいし。
人間達の言葉も行動も、ケットシーはしっかり理解をしている。
悪ガキに悪戯されかかる事も時折あるが、そこは爪で教育的指導。
ネコを装えば、人間達が構ってきて食事にありつける事もある。
まあ残飯などは勘弁だが。普通に無視するだけである。
肉の切れ端やら魚やらは有難く頂いている。こっそり加熱して。
もらえない時はもらえない時で、鳥などを狙っている。
人間達からは「ネコ」としてだが、ケットシーは愛されていた。
◆
ここにいるケットシー。見た目は只の雌の白猫である。
ネコを装っているので別に名乗った覚えはないが、周辺住民からは、
『ニエベ』と呼ばれている。侮辱的な名でもないので放置している。
今日もお気に入りの立体的な散歩道を巡回中だ。
ニエベはこう見えて十五歳を超えている。が、まだ小娘なのだ。
彼ら彼女らの寿命はほとんど人間と変わらない。
屋根伝いに歩いていると、下の方で何か騒ぎがあった。
どうやら不心得者が、子連れの女性から荷物をかっぱらったらしい。
かっぱらいを目で追い、足元に《接着》の魔術をかける。
面白いぐらい盛大に転倒した。顔面から行ったので気絶している。
女性も通りすがりの騎士も追いついたようだし任せよう。
今度は石畳に降りて脇道に入る。
三、四歳ぐらいだろうか、うっうっ、と幼い女の子が泣いている。
この周辺は汚れていて足場も悪いので転んだのだろう。
女の子の服には泥が付き、右膝もすりむいている。
近寄って行って前足でぽんぽん、と彼女の足を軽く叩いてやる。
同時に《汚れ落とし》と《止血》の魔術もかけておく。
不思議そうな顔をして、女の子はこちらを見返した。
もう痛くないはずだよ、と思いを込めて「にゃー」と鳴く。
ぼーっとしているが、そのうち女の子も気づくだろう。
尻尾を振って、その場を後にする。
今度は塀の上で、ネコ同士が威嚇しあっていた。
彼らはここでよくいがみ合っている。もう三年にもなるか。
にらみ合う真ん中をわざとゆっくりと通ってみる。
どうやらうまく毒気を抜かれたようだ。大人しくなった。
その後もいくつか町の問題を解決し、ニエベは帰路につく。
定宿にしているのは老夫婦が営む宿屋である。
「あら、帰って来たのね、ニエベ。
じゃあごはんにしましょうか」
ここの夫婦が出してくれる鳥の煮込みは絶品である。
出されたそれをありがたく頂きつつ、ニエベは夫婦を見守っている。
寝静まった後、ニエベは老夫婦に《安眠》《保温》の魔術をかける。
今夜も美味しかった、また明日もお願いするよ、と。
ケットシー達も、おおむね人間達を愛している。
いつも以上に日常系になったなあ、この話。
《止血》:出血部分の血液凝固を促進する。
《安眠》:睡眠中、体内の老廃物を分解し、疲労感を減らす。




