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ここはなにかが欠けている

町の同居人?

作者: 浮月重月
掲載日:2026/09/04

9/4タイトル微修正

王国で一番多い種族は、言わずと知れた人間である。次に獣人。


王都、主要都市、町村では貴族以外は大まかな戸籍しかないのだが、

記載されている者は人間、獣人、ドワーフ、ハーフエルフとエルフ。

実は他にもサキュバスやバンシーやデュラハンなどが住んでいるが、

特性をあらわにしない限り、そうと分からない事が殆どなので、

ほとんどは種族を伏して「人間」として登録されている。


サキュバス、インキュバスは魅了の能力と天然の精神魔術を使える。

バンシーは制御不可能な者も多いのだが、生命に対する未来予知。

デュラハンは首を任意で取り外すことが出来、胴体だけで行動可能。

ただ、どの種族も厄介事を避けようと特性を見せない者ばかりだ。

実際それでうまく回っているし、問題らしい問題も起きていない。


だが実は王国には「人間」として数えられていない知的種族もいた。

ゴブリン等の敵対種族ではない。コボルト等の中立種族でもない。

目には見えているのに、殆どの者が気づきもしていない。

そんな彼ら彼女らは、日常的に町の風景に溶け込んでいた。



「にゃー」


今鳴いているのは、ネコではない。ケットシーだ。

王都だろうとどこぞの村だろうとケットシー達は普通に歩いている。

ネコとは一線を画していながら、ネコの様に人前で振る舞っている。

それは無論、厄介事を避けたいが為だ。


かつてはケットシー達、国というか集落をあちこちに築いていた。

古代文明が栄えていた頃なので、およそ千八百年は前の事である。

当時は人間や亜人種とも交流があったが、文明衰退と共に廃れた。

集落は文明衰退と同時期に散り散りになり、ネコの如く生きている。

未だ交流があるのはごくごく一部のエルフやドワーフだけだ。

だってその方が楽だし。


人間と共存…というか、勝手にその辺に棲みついているのだが、

とにかく人間の近くに暮らしていれば害獣や魔獣には絡まれない。

ケットシーも魔術が使えるので、戦闘になっても何とか出来るが、

無駄に争い事などしたくはないのである。面倒だし眠たいし。


人間達の言葉も行動も、ケットシーはしっかり理解をしている。

悪ガキに悪戯されかかる事も時折あるが、そこは爪で教育的指導。

ネコを装えば、人間達が構ってきて食事にありつける事もある。

まあ残飯などは勘弁だが。普通に無視するだけである。

肉の切れ端やら魚やらは有難く頂いている。こっそり加熱して。

もらえない時はもらえない時で、鳥などを狙っている。


人間達からは「ネコ」としてだが、ケットシーは愛されていた。



ここにいるケットシー。見た目は只の雌の白猫である。

ネコを装っているので別に名乗った覚えはないが、周辺住民からは、

『ニエベ』と呼ばれている。侮辱的な名でもないので放置している。

今日もお気に入りの立体的な散歩道を巡回中だ。


ニエベはこう見えて十五歳を超えている。が、まだ小娘なのだ。

彼ら彼女らの寿命はほとんど人間と変わらない。


屋根伝いに歩いていると、下の方で何か騒ぎがあった。


どうやら不心得者が、子連れの女性から荷物をかっぱらったらしい。

かっぱらいを目で追い、足元に《接着》の魔術をかける。

面白いぐらい盛大に転倒した。顔面から行ったので気絶している。

女性も通りすがりの騎士も追いついたようだし任せよう。


今度は石畳に降りて脇道に入る。


三、四歳ぐらいだろうか、うっうっ、と幼い女の子が泣いている。

この周辺は汚れていて足場も悪いので転んだのだろう。

女の子の服には泥が付き、右膝もすりむいている。


近寄って行って前足でぽんぽん、と彼女の足を軽く叩いてやる。

同時に《汚れ落とし》と《止血》の魔術もかけておく。

不思議そうな顔をして、女の子はこちらを見返した。


もう痛くないはずだよ、と思いを込めて「にゃー」と鳴く。

ぼーっとしているが、そのうち女の子も気づくだろう。

尻尾を振って、その場を後にする。


今度は塀の上で、ネコ同士が威嚇しあっていた。

彼らはここでよくいがみ合っている。もう三年にもなるか。

にらみ合う真ん中をわざとゆっくりと通ってみる。

どうやらうまく毒気を抜かれたようだ。大人しくなった。


その後もいくつか町の問題を解決し、ニエベは帰路につく。

定宿にしているのは老夫婦が営む宿屋である。


「あら、帰って来たのね、ニエベ。

 じゃあごはんにしましょうか」


ここの夫婦が出してくれる鳥の煮込みは絶品である。

出されたそれをありがたく頂きつつ、ニエベは夫婦を見守っている。


寝静まった後、ニエベは老夫婦に《安眠》《保温》の魔術をかける。

今夜も美味しかった、また明日もお願いするよ、と。


ケットシー達も、おおむね人間達を愛している。

いつも以上に日常系になったなあ、この話。


《止血》:出血部分の血液凝固を促進する。

《安眠》:睡眠中、体内の老廃物を分解し、疲労感を減らす。

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