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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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81/122

寿綾乃という女 第3部 81

…ピラミッドが、崩れるように、崩れる…


 これは、意味深…


 実に、意味深だった…


 すると、マミさんが、


 「…五井は、連合体…五井本家を頂点として、東西南北の4つの分家が、それに次ぐ…そして、他の8家の分家がある…だから、それを、合わせて、五井十三家と、世間で、呼ばれている…」


 「…」


 「…そして、寿さん、覚えているかな?…」


 「…なにを、ですか?…」


 「…五井の企業の成り立ち…」


 「…成り立ちですか?…」


 「…これは、日本の会社の典型…」


 「…典型? …どういう意味ですか?…」


 「…ほら、例えば、五井銀行…」


 「…五井銀行が、どうかしたんですか?…」


 「…五井銀行は、本家の直轄…」


 「…本家の直轄?…」


 「…つまり、五井でも、大きな企業は、本家の直轄だったり、五井十三家が株を持つ、五井の持ち株会社が、その会社の株を持って、その会社を支配している…」


 「…」


 「…でも、それほど、大きくない会社は、違う…」


 「…違う? …なにが、違うんですか?…」


 「…本家でも、西家でも、南家でも、要は、五井十三家に、相談することなく、自分で、会社を作れる…」


 「…自分で、会社を作れる?…」


 「…今、寿さんに言った、五井は、日本の会社の典型と言ったのは、そういうこと…」


 「…そういうことって?…」


 「…日本でも、戦前…つまり、第二次世界大戦前は、三井でも、三菱でも、会社を作るには、本社が、決めて、作った…だから、会社の数は、例えば、二十とか、少なかった…」


 「…」


 「…それが、戦後になると、一転、大きな会社は、何百と、子会社を作った…どうしてだか、わかる? …寿さん?…」


 「…わかりません…」


 「…そうよね? …いきなり、そんな話を振られても、わからないわよね…」


 「…」


 「…答えは、本社が、関わらなくなったから…」


 「…本社が、関わらなくなった? …どういう意味ですか?…」


 「…つまり、戦前は、今も言ったように、本社主導…本社で、会社を作るか否か、決めた…」


 「…」


 「…それが、戦後になると、例えば、三井で、言えば、三井化学とか、三井海運があると、それぞれが、本社に相談することなく、三井化学あるいは、三井海運独自で、会社を作ることになった…そして、その作った会社が大きくなると、それぞれが、親会社に相談することなく、子会社、孫会社を、作った…だから、ネズミ算ではないけれど、戦後は、戦前に比べて、比較にならないほど、会社の数が、増えた…」


 「…」


 「…それが、一体?…」


 「…つまりは、五井も同じ…」


 「…なにが、同じなんですか?…」


 「…今も言ったように、子会社が、本社に相談することなく、会社を作る…それが、同じ…」


 「…」


 「…寿さん? 覚えてないかな?…」


 「…なにを、覚えてないんですか?…」


 「…今も言ったように、五井銀行は本家直轄だけれども、五井は、基本的に、東西南北も含め、いわゆる五井十三家に図ることなく、自分たちで、会社を作った…例えば、西家が、ホテル事業を起こしたり、南家が、鉄道事業を起こしたりした…」


 「…」


 「…そして、それゆえ、全体のパワーバランスに歪みが、生じた…」


 「…歪みが、生じた…どうして、生じたんですか?…」


 「…今も言ったように、各分家が、それぞれ、会社を作ったことにより、業績が、好調な会社を持つ分家と、持たない分家に分かれた…だから、歪みが、生じた…」


 「…」


 「…本来、五井は、五井の持ち株会社の株を一族で、血の濃さによって、分けて、持っている…本家が、30%、東西南北の分家が、それぞれ、10%…そして、残りの30%を、それ以外の8家で、分けて、持っている…それで、五井の力関係が、保たれている…」


 「…」


 「…でも、今回、ある分家が持つ、会社が、飛躍的に業績が伸びて、五井のパワーバランスが、崩れかけてきた…それが、今回の騒動の遠因…」


 「…遠因?…」


 「…直接は、関係ない…でも、そのせいで、パワーバランスが、崩れかけている…」


 「…崩れかけている?…」


 「…そう…」


 「…それで、崩れかけると、どうなるんですか?…」


 「…そこよ…寿さん…」


 マミさんが、力を込める…


 「…最悪、五井が、崩壊する…」


 「…エッ?…」


 「…崩壊…バラバラになる…」


 「…ウソ?…」


 「…ウソじゃないわ…」


 「…」


 「…だから、今、五井は、FK興産の株を半分買った…」


 いきなり、言った…


 いきなり、本題に入った…


 それまでは、前振り…


 いわゆる、前座だったのだろう…


 が、


 どうして、いきなり、そこで、FK興産の話になるのか?


 それが。わからなかった…


 「…FK興産は、可能性がある…」


 「…可能性ですか?…」


 「…ホントは、寿さんの手前、こんなことを、したくなかったんだけれども、仕方がなかった…ごめんなさい」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…五井の分家が、FK興産を狙っていたの…」


 「…エッ? ウソ!…」


 「…ウソじゃない!…ホント!…」


 「…だから、先手を打つ意味で、FK興産の株を手に入れることにした…」


 「…」


 「…でも、寿さんと、藤原さんの手前もある…だから、半分だけ、手に入れた…」


 マミさんが、以外なことを、言った…


 これまで、全然、聞いたことのない話を言った…


 あのユリコが言った話と、全然違う話を言った…


 果たして、信じられる?


 どちらが、信じられる?


 心の中で、葛藤した…


 もちろん、私は、マミさんが好き…


 しかしながら、マミさんは、五井家の人間…


 だから、心の底から、信用できない…


 真逆に、ユリコは、信用できないが、あながちユリコの言うことが、信じられなくもない…


 もっともだと、思う面もある…


 だから、葛藤した…


 心の中で、葛藤した…


 そんなときだった…


 マミさんが、意外なことを、言った…


 「…寿さん…アナタもまた取り込まれている…」


 と、意外なことを、言った…


 …エッ?…


 …私が、取り込まれている?…


 …どういうこと?…


 私が、思っていると、


 「…長谷川センセイ…寿さんの主治医の…」


 「…長谷川センセイが、どうかしたんですか?…」


 「…長谷川センセイが、五井の一族だってこと…寿さんも知っているわね?…」


 「…ハイ…」


 曖昧に返事をした…


 と、同時に、知っていた!


 やはり、マミさんも知っていた!


 と、思った…


 同時に、このマミさんもまた、私のことを、調べている…


 私のことを、調査していると、気付いた…


 私に優しく接しながらも、私のことは、調べている…


 念入りに調査していると、今さらながら、気付いた…


 だから、簡単に長谷川センセイの名前が出た…


 そう、思ったのだ…


 「…でも、ここで、言いたいのは、長谷川センセイのことじゃない…」


 マミさんが、言った…


 思いもかけないことを、言った…


 「…では、どうして、長谷川センセイのことを?…」


 私は、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…問題は、長谷川センセイの助手というか…」


 「…助手? ですか?…」


 「…長井って、新人の看護師の女の子が、いるでしょ? …大学を卒業したばかりぐらいの…」


 マミさんが、言った…


 いきなり、言った…


 私は、マミさんの言葉で、長井さんを、思い出した…


 これまで、考えたことはない…


 失礼ながら、すっかり忘れていた、長井さんのことを、思い出した…


 「…長井さんが、どうかしたんですか?…」


 「…長井さんは、五井家の人間…」


 「…エッ? …五井家の人間…長井さんが?…」


 「…五井の本家と東西南北の4家以外の分家の一つ、五井長井家の人間…」


 「…五井長井家…」


 初めて、聞く名前だ…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 同時に、気付いた…


 その五井長井家の人間が、長谷川センセイの近くにいる…


 これは、偶然…


 偶然だろうか?


 普通に考えれば、偶然なわけはない…


 意図的に、長谷川センセイの近くにいるに、決まっている…


 なにより、長井さんは、たしか、長谷川センセイを、


 「…叔父サン…」


 と、呼んでいた…


 長谷川センセイの姪だと言っていた…


 ということは、どうだ?


 アレは、ウソ?


 真っ赤なウソ?


 それに、気付いた…


 今、マミさんが、言ったように、あの長井さんが、五井長井家の人間なら、五井西家の末端を自称する、長谷川センセイと、叔父と姪の関係であるはずが、ないからだ…


 だから、ウソ…


 ウソに決まっている…


 私は、思った…


 思いながら、


 「…だったら、二人の関係は?…」


 と、マミさんに、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…叔父と姪…」


 マミさんが、間髪を入れず、答えた…


 …エッ?…


 …ウソじゃない?…


 …ホントだった?…


 私は、驚いた…


 私は、この話を聞いて、てっきり二人の関係は、ウソだと、思ったからだ…


 「…あの長谷川センセイのお姉さんが、五井長井家に嫁いでいるの…」


 「…ウソ!…」


 私は、言った…


 ビックリして、言った…


 …だったら?…


 …だったら、一体、長井さんの目的は、なに?…


 …一体、なに?…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 そして、迷わず、その疑問を口にした…


 「…だったら、マミさん…あの長井さんの目的は、なんですか? …どうして、長谷川センセイの元にいたんですか?…」


 「…それは…」


 「…それは?…」


 「…寿さん…アナタに会うためよ…」


 マミさんが、言った…


 思いもかけないことを、言った…


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