化け猫異聞
これは江戸時代の怪談、『佐賀の化け猫』の二次創作です。
化け猫の視点で書きました。
私の名前はコマ。とっても賢いって評判の三毛猫だよ。
飼い主は、又一郎さま。龍造寺家の最後のひとり。目は見えないけど、囲碁の名手。
そして又一郎さまの母君の、お政の所さま。寝たきり生活。
ここ肥前の国は、竜造寺家のものだった。けれど不幸が重なり、元は家臣だった鍋島家が藩主になったんだ。
私たちは身を寄せ合い、懸命に生きていた。 龍造寺家の時代に戻したかったんじゃない。
鍋島に弓を引こうと考えたこともない。
けど、そんな生活は崩れ去った。鍋島に,勝重勝茂に叩き潰されたんだ。
ある日、勝茂から又一郎さまが呼び出された。囲碁の相手をしろ、と。
「行ってはならぬ、又一郎」
お政さまは血相を変えて、又一郎さまを引き留めた。でも、勝茂は殿さまだ。断れる相手じゃない。
「心配ありませんよ、母上。では行ってきます。
「コマ、母上と仲良くしろよ、宜しく頼んだぞ」
これが又一郎さまとの、今生の別れになった。
何日しても、帰ってこない。私とお政さまの不安はつのるばかりだ。
お政さまは私の頭を撫でながら言った。
「母親の私が、息子を危険に晒すとは不甲斐なきこと。
「コマや、どうかこの役立たずの婆に代わって、お前の主人を見つけてきておくれ」
そう言われても、何処を探せばよいのやら。城下町を見て回っても、居城を探っても、又一郎さまの気配はみじんもなかった。日にちばかりが過ぎていく。
大雨の日、雨宿りをしていると2匹のオジサン猫たちが話しかけて来た。
「アンタ、知ってるぞ。コマ、だろ? 龍造寺んとこの」
「嬢ちゃんみたいなのが、こんなところで何やってんだよ?」
返事しかけたところで、物陰から黒猫が現れた。
「あたしはクロだ。ここいらの土地はあたしのものさ。手土産のひとつも持って来るのが礼儀ってもんだろ?」
「ご、ごめんなさい」
「冗談だよ。何でここに来たか分かってるよ。あたしなら、何もかも忘れちまうけどね」
彼女が少し離れた小高い丘へ顔を向けると同時に、私は大雨の中を走り出した。
「アンタら、手伝っておやり」
「えー? わざわざ泥まみれに?」
「あたしも付き合うって決めたんだよ。ホント、馬鹿な子だね。人間に忠義尽くすなんてさ」
クロさんと2匹のオジサン猫のおかげで、それを掘り起こせた。又一郎さまの......生首を。
「ひっでぇなぁ。ただ埋めただけじゃねぇか。罪人でも、もっとましに扱われるぜ」
「首だけじゃねぇ。胴体も刀傷だらけじゃねーか」
「......あたしの予想、外れて欲しかったね。って、コマ!!」
私はオジサンから生首をひったくると、家路へ急いだ。
お政さまは、又一郎さまの腐った生首を抱きしめて、泣き喚いた。
「おのれ、鍋島! 囲碁などと騙して、龍造寺の血を断つために又一郎を!」
お母さまは泣き止むと、懐剣を取り出した。そして自分の指先を切り、血を私の口へ突き付けた。
「コマ、舐めてみよ」
恐る恐る舐めると、全身に力がみなぎって来た。これは!?
「コマ、この役立たずの婆に代わって、鍋島を討っておくれ。さあ、血を飲むのじゃ」
お母様は私を抱き上げると、自分の首を切り裂き、私の顏を押し付けた。
吹き出した血が、私の口へ流れ込んでいく。
城下町では、悪い噂が広がり始めた。
勝茂は龍造寺の血脈を断つため、又一郎を謀殺した。
又一郎の母親は自刃したが、遺体からは血が出ていなかった。
私が広めた噂だ。
殺すだけでは済まさない。悪名を広げて、鍋島家の権威を地に落としてやる。
お政さまの血を飲み、私は妖怪となった。人間に化けることも、病を負わせる力も身に付けた。
私は勝茂の妻に成りすまし、勝茂を介抱していると見せ掛けて、病の元を送り続ける。
鍋島陣営は、千布本右衛門邦行とかいう男、槍の名手を見張に付けたけど、私の敵じゃない。眠らせてしまえば済む。
勝茂は病でのたうち回る。もう少し。もう少しで命の火が消える。
その時、槍が後ろから、私の胸を刺し貫いた。
「やはり、妖怪だったか!!」
千布本は起きていた。口から、眠気覚まし薬の匂いがする。
更に勝茂の手下達が,部屋へ殺到してきた。
私は仔牛ほどの大きさの三毛猫に変身し、男たちをたじろかさせてから、走り出した。
私は逃げた。もう仇討ちは果たせない、もう助からない。
ならば帰るんだ。家へ。ふたりが眠る墓へ。
ごめんなさい。又一郎さま。コマは仇討ちを果たせませんでした。
ごめんなさい。お政さま。コマは折角いただいた命を無駄にしてしまいました。
せめて一緒にいさせてください。
私は2人が眠る墓石へ倒れこんだ。
了
如何でしょうか。
私は小学生の頃、『佐賀の化け猫』を読み、コマの最期に涙したものです。




