鬼人達の宴碧 第八章 心を揺さぶる幻影
今回は始めの学園生活は鬼達とのふれあいです。
カオスです。
そして、悪鬼の謎が明かされるかもしれません。
誤字、脱字があったらすみません。
祝日の月曜日が終わり、久しぶりに学校に行く日になった。
早めに朝御飯にロールパンとソーセージとハムとチーズと卵とレタスを用意した。
お湯を沸かしてスープを作ると鬼達を出した。
昨日は初めて公正がいたので皆静かだったが、普段通りに過ごした。
「…あっ!今日燃えるゴミの日だから!行って来るね!」
双葉がゴミを捨てに行き、戻ると食器は洗い終わっていた。
「…双葉さんは大変だな。」
「そうですよ。俺達も手伝える事はやらなければいけませんよ。」
公正に天外が言った。
双葉は鬼達をまた石に戻すと着替えて出かけた。
「おはよう。ふたちゃん」
「あっちゃん。誠義君。おはよう。」
「…今日はいつも通りだな?」
「うん。八人分朝御飯作るから。いつも通りの時間になっちゃった。」
「…結構増えたんだよね?ふたちゃんの鬼?」
「うん。朱馬君、鈴音ちゃん、舞ちゃん、鐵広君、天外さん、一心さん、公正さん。」
「もう大家族だよね。ふたちゃん。」
三人で歩くと蒼真がやって来た。
「おはよう。双葉、朝子、誠義。…昨日は師匠がいたから皆、静かだっただろ?師匠は昔は鬼みたいな人だったからな。」
「みたいね?ずっと笑っていたけど。公正さん。」
「…公正さんってそんなに怖いの?蒼。」
「あぁ。笑った事がない。葉月にも笑った事が一度もない。」
「まあ蒼もそうだったけどね?今は笑うようになったけど。兄やんもだけどさ。」
朝子が言うと自分達は変わったかも知れないと双葉は思った。
「…公正さんは、私が怖がると思って笑うようにしているかも。まあ、昔と現在って家の雰囲気違うから。」
「…ふたちゃんが心を動かす事をしてるからでしょ?皆のご飯作ってお母さんじゃない?」
「…まあ、昔は飯作る葉月なんて誰も見た事ないだろうからな。台所を覗く忍者はいなかったし、必ず葉月が作っているわけでもなかったからな。交代制だし、複数で料理していたから。」
「…まあ毎日、麦飯、漬物か焼き魚位か。今みたいな食事ではないからな。」
「…その料理なら皆美味しそうに食べるかな。まあ、しずちゃんのお母さんがおかず作ってくれたのもあるけどね。」
「…三日前か、早いよね。あの時楽しかったな。」
会話をしていると学校に着いた。
「今日の輝光さんは美術室に出るんだってね?私は授業が終わったら美術室に行ってるから。」
「え!学校で!」
「うん。まあ美術部員には良い刺激になるんじゃないかな?まあ三人から離れなければ大丈夫だから心配してない。…高所なのを除いてね。なんか高い鬼の場らしいから。じゃあまたね!」
朝子は自分の教室に向かった。
「…今日は美術室が鬼の場だ。空間が変わるタイプで天空の場だ。風は吹いてないが、高所で落ちたらアウトだからな。絶対端に行かないようにな。」
「うん。わかった。」
双葉達が教室に入ると先に来ていた木元さん、根綱君、其田君、東野さん、金川さんがこちらを見た。
「あっ!おはよう!中村さん!」
「おはよう、根綱君。…って、皆、顔を合わせているから休みの時の話?」
「そうそう!鬼の背中に乗って楽しかったって!」
「…何を言ってるの?かなり早くて心臓が止まりそうでしたわよ?」
「木元さんは井川さんと冥界に行ったと聞きました。」
「そう!すずの兄ちゃんが事故に巻き込まれてね!それもだけど、ビックリよ!林田君の治癒能力高すぎてさ!すずの兄ちゃんの初めのレントゲン!骨折かなりしているのに後のレントゲン見せて貰ったらほぼ治ってるの!菅山先生ギョロ目でさあ!『なんだ!これはっ!』って!」
「…お気の毒に…。その菅山先生は胃が悪くなるんじゃなくて?まあ井川さんには良いかもしれないけど…。」
金川さんが話していると井川さんが学校に来た。
「おっ!林田!昨日は助かったぜ!月詠先生の言う通り!兄貴の入院が半年から今週の金曜日に退院になった!」
『金曜日!』
その言葉に根綱君、其田君、東野さんが一斉に言う。
「…っ!林田さん!やり過ぎじゃなくて!?」
「すまん。やり過ぎた。まあ許してくれ。」
金川さんが言うが、誠義は普段通りの表情で言った。
悪気はないし、特に良いかという感じか。
その時、鬼の石が光って天外と一心が出た。
「…東野殿、この前はすまなかった。お主を傷つけてしまった。」
「俺は根綱殿と金川殿の地を雪を積もらせてしまった。すまなかった。」
天外と一心は膝をついて謝っていた。
「…い、いいよ!操られていたみたいだから!」
「もう!よろしくてよ!すぐ元に戻ったから!…もう!震えているじゃない!あなた、泣きそうよ!」
立って涙目になる一心に根綱君がハンカチを出した。
葉月の事を思いだしたのか泣き出した。
根綱君はさりげなく一心の手を握った。
「…あっ、私は大丈夫です。…あれから辰夜さんが守ってくれている感じがしています。」
東野さんは顔を赤くしている。
「…東野!辰夜って誰だよ!男かっ!」
「あっ、辰夜さんは中村さんの友達の鬼の方です。優しい方でした。」
井川さんに東野さんが言った。
「…東野さん、貴方、顔が赤くってよ?」
「…あっ!変な意味ではないですよ?ただ、私、昔、服装の事でからかわれて自信がなくて。…でも、辰夜さんが自信を持って良いって言ってくれて、凄く嬉しくて。男性の方で優しい言葉をくれたのが初めてなので。」
東野さんはいつも以上に話している。辰夜が好きなのは間違いない。
「…なんか、泣いたり、笑ったりでこの辺りだけ浮いてるな。クラスの皆微妙な表情しているぞ?」
其田君の発言に金川さんがハッとした。
「…っ!月ヶ宮さん!林田さん!まさか!空間!変えてなくって!?」
「…?いや、朝から鬼の話をしているなら、いらないだろ?」
誠義は不思議そうに言った。
「…ちょっと!其田さん!言うの遅くてよ!よく見たら外に他のクラスの方が集まってらしてよ!」
「…あっ!そういえばさ?私らが冥界で見た鬼の人。月ヶ宮君の師匠だって?」
「…マジ!?」
木元さんが言って其田君が興奮する、
「…月ヶ宮の師匠、見たい人。」
井川さんが言うと大体のクラスメイトが手をあげる。
「中村、先生来る前に公正さん、出しちまえ。」
「双葉、師匠は闇鬼になって影分身使えるから、使ってもらおう。」
双葉が出すと教室の中に複数の公正が現れた。
「…これでいいかな?初めまして。闇の鬼の公正だ。」
教室には15人位は公正がいるが、たぶん本物は双葉の前だろう。が、他の影分身の公正はクラスメイトと手を握ったり、話したりしていた。
影の領域を越えている。
「…根綱殿。俺もした方がいい?少しなら出来るよ?」
「…ちょっと!根綱さん!」
「うん?ちょっとなら?」
金川さんが言うので勘違いした根綱君が一心に言うと7人位は偽物の一心が出来る。
「…ちょっと冷たいかも?氷の幻影だから。でも、掌の刀で出来たタコとかは一緒かな?」
「俺は影だから体温がないが、肌の感じはそのままだ。」
クラスメイトは一心や公正の偽物の体に触れたりした。
「~っ!違う!根綱さん!私は止めようとしたのよ!」
「え?そうだったの?じゃあ、そろそろ戻ろうか?一心さん。」
「うむ。では、また。根綱殿、金川殿。」
「…なら、俺も戻るぞ?蒼真。」
「御意。」
少し煙を出して天外、一心、公正は鬼の石に戻った。
外にいた他の生徒は教室に戻ったが、何か声が聞こえた。
明らかにテンションが高い。
双葉のクラスメイトも当然本物の分身を見たのでテンションが高い。
「…凄かった!冷たいけど一心って鬼の分身の角が硬かった!」
「公正って月ヶ宮の師匠の分身!包帯やネックレス!本物っぽかった!」
「…月ヶ宮。やっぱり挨拶に『御意』って言うんだな?」
クラスメイトの会話がいろいろ聞こえた。
「プププーッ!…金川。お前の鶴の一言で『気持ちを切り替えて授業をしなさい』って言わないとな?」
「私が切り替えれなくってよ!」
金川さんは頭を抱えて言った。
昼御飯の時は蒼真が二人分のうどんを注文していた。
大体分かる。公正の分だろう。
その日は双葉、蒼真、井川さん、木元さん、根綱君、其田君で席に座っていた。
「何だか、前にレナと鬼達と写真撮ったのが大分前みたいな気がするな。」
「…僕達、大丈夫?月ヶ宮君?」
「まあ、余程でないと空間分離は分からんだろ?…双葉。師匠にうどんを食べさせたいからまた出して貰っていいか?他の鬼はまたパンを持って来た。」
双葉が鬼達を出した。前に井川さんと木元さんがいた時に比べると三人から七人になっている。
「…結構増えたよな。中村達の鬼。」
「僕の時に二人別の鬼の人がいたけどね?後九尾の狐の人もいたよ?」
「マジで!根綱君!九尾の狐見たの!?」
「うん。中村さんが九尾の狐の人が空間移動するって言ってたのは本当だよ。一心君を鎮めた後に美術大学の前に空間移動してたけど、同じ大学、検索したらあったよ。」
「市村さんと火爪さんと五十嵐さんかな。月詠先生の働いている病院に火爪さんのお父さんが働いているって言ってたかな?」
「あっ!私とレナさ!実は月詠先生と奥さんにお願いして写真撮ったんだよ!月詠先生って月ヶ宮と同じ月の鬼だって!」
井川さんが木元さんと月詠夫婦と写っている写真を見せた。
達弥は鬼の姿だ。
「あっ!東野が言ってた闇鬼の辰夜さんの写真!あるぞ!」
其田君が雫達と皆で写った写真を見せた。
「鬼だらけ!いっぱいいるじゃん!…でも、この時は中村さんの鬼は四人だったんだ?」
「…そうそう!前の日に鐵広にあってな!」
「うっ!俺には苦い思い出かな。」
「…この感じは。辰夜さんも東野さんが好きじゃないかな?」
根綱君が真剣な表情で言った。
「またまた~。…月ヶ宮。どうなんだ?」
「あぁ。辰夜も東野が好きだぞ?東野は気のせいと思っているが、夜に東野が持つ鬼の石から辰夜が出てきて東野の頭を撫でている。」
「ヤバい!熱すぎる!」
「やべぇっ!絶対後で言ってしまう!」
木元さんと井川さんは盛り上がっていた。
「…根綱はまた鬼の背に乗りたかったんだろ?後で俺や一心が背負ってやろうか?」
「え?いいの?じゃあ乗りたい!」
それを聞くと其田君は鐵広を、井川さんは舞を、木元さんは鈴音を見た。
「じゃあ、私は朱馬君と天外さんと公正さんと帰ろうかな?」
九人は先に帰り、双葉は残った鬼と四人で教室に帰った。
教室に戻ると早速辰夜と一緒にいる東野さんに目がいく。
「公正さん!背中に乗せて欲しいです!」
クラスメイトが公正に言った。
「さっきうどんを蒼真が食わせてくれたのはこれがあるからか。まあ良い。分身も余裕で人間を背負えるからな。」
公正は影分身を複数出すとクラスメイトを背負っていた。
「あら?中村さん。戻ってきたのね。…東野さんが辰夜さんと仲が良い理由が分かりましたわ。あの人は落ち着いているのね。私もなんだか気分がリラックスするの。あの人の力のせいかしら?助かるわ。」
「お帰り、双葉。何だか教室が凄い事になったな。」
「…良いんじゃない?誠義君。しずちゃんもこんな感じだったから。…でも、私は今は高校生の誠義君と蒼真君と一緒にいたい気分かな。」
午後の授業の時はクラスメイトが公正と遊んだせいか、少しボーッとしていた気がした。
放課後になると金川さんが双葉達を見た。
「…今日はどちらまで行かれるの?鬼と遭遇したら困りますから。」
「今日はここの美術室だ。来なければ害はない。」
蒼真が言うと周りの皆が驚いた。
「…おいおい。それって美術部員全員アウトじゃねえか?」
「まあ、朝子が部員には言うらしいが皆来るみたいだぞ?其田や東野と同じ空間が変わるタイプだ。」
「私の父の発電所の時は空中に浮かぶ小島がいくつもあるタイプでしたね。」
「私は山の道路がずっと同じタイプ。7合目を登ると5合目に出るんだよ。逆だと5合目から7合目になる。あれ、怪異って分からなかったら絶望するわ。」
「私がすずと冥界行ったけど、三途の川はこっちの世界みたいだったけど、戻る時の道は暗かった、幽霊とか餓鬼とかいっぱいいた。」
「いろんなのがあるんだね?僕や金川さんのは町全体だったけどさ?」
「…どれも遭遇したくないわね。…中村さん達もだけど、気をつけてね。」
「あぁ、美術部員の方だろ?畑田先生も来るから大丈夫だろ?」
蒼真君が笑って言うが、金川さんの表情は良くない。
「…先生なら止めなさいよ!もう!泣いても知らなくってよ!」
金川さんは鬼の怪異が余程嫌だったらしい。まあ一時的とはいえ、家の中が凍らされたら当然だろう。
三人が美術部に行くと朝子と美術部員が8名と畑田先生がいた。
「美術部にようこそ!…って、今日は部活に来たんじゃないのよね。」
「今日はこちらで前世の父が悪鬼になって現れるから来ました。」
誠義が畑田先生に説明する。
「…確か白髪の人だったかな?…でも、そこまで苦戦しないんじゃない?あんまり体調良くなさそうだったけど。」
「いや。悪鬼になって以前とは全く違う。体格も大きくなってるからな。体調も良いはずだから師匠より強いはずだ。」
「…なら、要注意ね。公正さんもかなり強かったから。」
双葉と蒼真が話していると畑田先生がニコニコして近づいてきた。
「…何か注意点はある?月ヶ宮君。」
「今日の場所は空の上の神殿のような場所です。端から落ちたら危険なのと、怪異には近づかない事ですね。後は鬼は一時的に倒すので苦手なら気をつけて欲しい点ですかね。まあ部員の方は大丈夫みたいですが。」
「分かりました。皆さん気をつけてね!」
朝子が時計を見ると16時30分になりかけていた。
「…そろそろね?」
時間になると草の蔦が周りを覆った後に地面に潜った。
すると空を浮かぶ遺跡のようになった。
誠義と蒼真は鬼の姿になったが、美術部員は鬼になった二人より周りの景色を見ていた。
「…凄い。本当に変わった…。」
畑田先生が驚いていた。遺跡には四方に四匹、真ん中に一匹、五匹の生き物の石像があった。
「…朱雀、青龍、玄武、白虎、麒麟ね。かなり丁寧に作られた石像。国宝文化財レベルはあるかも。」
畑田先生は熱心に石像を写真や動画に撮っていた。
「…畑田先生って、思ってる以上に美術作品に熱があるのね?」
「うん。国内の期間限定の展示とかあったら行けたら行ってるみたい。新しい美術館で良さそうな所があったら即行くタイプ。」
双葉が朝子に話したが、朝子を含めて美術部員は必死に石像の写真を撮っていた。
その姿に少し誠義が機嫌が悪そうな顔をした。
「美術部って結構ガチだからな。…兄貴の俺より…。」
(…蒼真君。誠義君、ちょっと嫉妬してる?)
(…誠義はシスコンだからな。普通に嫉妬だ。)
誠義の頭を双葉が撫でていると空中を浮遊するクラゲがいた。
「虹海月、人間に近づいてきて首を絞めてくる妖怪だ。」
「畑田先生。妖怪が出たんですけど、倒していいですか?」
「…いいわよ。写真撮ったから。」
畑田先生が言うと誠義が刀で斬りつけた。良く見たら二匹いた。
「…あの幽霊海月は複数でいる。一匹倒すと他の個体が攻撃してくる。」
「結構厄介なのね。あんまりたくさんいたら私が術で倒してみる。」
階段を上がりと石柱がいくつかある場所に出た。
「…これも無数に絵が彫られている。それもかなり高度よ。片面に四聖獣の絵が彫られているけど、全部サイズや形が違う。同じ絵がないみたい。」
畑田先生は柱の絵にも興味を持っていた。
「…皆、柱の中に膨らんでいる玉があるだろ?…敵だ。俺達が倒していくから見かけたら触らないでくれ。」
誠義が言うと刀を構えた。
玉は柱から出ると震えだした。蒼真が銀色の光を出すと吹き飛んだが、無傷で浮かんでいた。
「…硬い?」
「術の攻撃はほとんど効かない。刀で斬らないとダメだな。」
双葉に蒼真が答えると光る玉を斬りつけて割った。
光る玉は塵になると何か残った。
「…これ、水晶じゃない?結構大きい。」
「日本は水晶がよく見つかったからな。こういう水晶は呪いに使うのに向いてるらしい。…朝子、いるか?」
双葉が結晶に気がついたが、誠義は朝子に笑顔で水晶を差し出した。
「…いらない、荷物になるからいらない。」
朝子は機嫌悪そうに言った。
誠義は口がへの字になる。
眉毛はノの字と逆ノの字だ。
「あっ。私は水晶いらないから。」
双葉は少し苦笑いをして言った。
結局大きな水晶は他の美術部員が持って帰る事になった。
また階段を上がると石柱に巻物がぶら下がっていた。
その絵はやはりいろんな聖獣が描かれていた。
「…かなり昔のものだけど、全然劣化してない。」
誠義や蒼真が巻物を外してクルクル巻いた。
「…持って帰れちゃう?」
「まあな。ここに永遠にあるより、持って帰って先生に保存して貰う方がマシだろ。」
「…と言うわけだ、畑田先生、保管お願いしますからね?」
誠義と蒼真が先生と美術部員に巻物を渡した。
「じゃあ、大切に保管させてもらうわ。歴史的発見なのは間違いないし、良い参考資料になりそう。叔父が喜びそうだわ。」
「…先生の叔父さんって専門の方ですか?」
双葉が先生に聞いた。
「そうよ?金川庄之助。…確か、弟の娘さん、中村さんのクラスにいたわね?」
「…っ!嘘!金川さん!?知ってた!?蒼真君!?」
「あぁ。だから、誠義と話し合ったら警備も良いから保管してもらうのに良いと思ってな。」
「まあ、妖怪相手には警備は厳しいがな?」
誠義が笑いながら言った。
「…さて、遊びはここまでだ。この先に悪鬼になった輝光がいるはずだ。皆、あんまり身を乗り出さないように。気をつけてくれよ。」
階段を上がると輝光がいた。
だが、夢で見た輝光と違い、全身筋肉で膨張した逞しい体をしていた。
「…そうだよね。皆、鬼だから輝光さんもこうだよね。」
「見かけによらずお頭様は強いからな。この場が明るいのはお頭様の身を光の力で隠れる事が出来るからだ。双葉、師匠と鐵広を戦いに、鈴音、一心を朝子達の援護に出してくれ。」
「…分かった!皆!善鬼になって!」
『オォオオオオッ!』
鬼達は善鬼に変わった。
鈴音と一心は朝子達の退避している階段の両端に氷の壁を作った。
公正はすぐに見えている輝光とは違う場所に走って行った。そこに刀を振ると激しく火花が何度も走る。
(確か光で姿を消すって言っていたかな。少し暗くしなきゃ。)
双葉が奥の方に壁を作ると本当の輝光が姿を現した。
公正は上手く輝光の背後に現れて斬りつけたが、輝光は拳を光らせて公正を吹き飛ばした。
(足場から公正さんが落とされちゃう!)
双葉が慌てて草の壁を何枚も公正の背中に出した。
公正は持ち堪えたが、腕から血が出ていた。
双葉が傷を治そうと腕を伸ばそうとした。
「双葉!腕で目を隠せ!」
双葉は蒼真の言葉で腕で目を隠した。
輝光から激しい光が溢れて、気がつくと輝光の足が双葉の方に見えた。
双葉は何かに抱えられ、移動した先が公正の前だと気がつく。
双葉を抱えて運んだのは蒼真。
明かりが消えると誠義と鐵広が輝光を斬り飛ばしていた。
双葉は慌てて公正の傷を治した。
「…双葉さん、すまないな。心配かけてしまったな?」
「いいえ!蒼真君、他の鬼も出した方がいい?」
「…ダメだ。外に投げ出されやすくなる。それに一撃が強い。舞や朱馬は一撃で打たれたらやられるし、天外の感電や精神攻撃は通じない。」
輝光が立ち上がると源三郎の声が聞こえた。
(輝光。葉月が死んだのはあいつらの仕業だ。あいつらは葉月を殺して鬼になった。大切なお前の姪を殺した。復讐しろ。殺せ。)
「オォオオオオッ!俺の大切な葉月を返せ!鬼共!」
輝光は体を光らせて怒り狂った。
「父上!目を覚まして下さい!」
誠義は必死に言ったが輝光は誠義を刀で斬ろうとした。
「お父様っ!やめてっ!」
そこには葉月が誠義を守ろうと両腕を広げて立っていた。
その葉月を輝光は刺してしまった。
「…っ!かはっ!かはっ!」
葉月は血を吐いて苦しんだ。
「…っ!葉月!葉月!何て事を!」
輝光はブルブルと震えだした。
「…お父…様。皆を…傷つけ…ないで…。」
葉月は震えながら涙を流した。
動きを止めた輝光を蒼真、公正、鐵広が刀で刺した。
三人の頬も涙が流れた。
「…父上。すみません。葉月を守れなくて。」
誠義は刀を構えると輝光を斬った。
輝光の脳裏には両親を失い、焼けた家の前で泣く幼い葉月が浮かぶ。
輝光と遊ぶ葉月、やがて大きくなり、忍者達と葉月は生きている世界が違うと突き離そうとしたが、駄目だった。
やがて、良く笑顔になった。
泣いている者を慰めたりしていた。
だが、その笑顔は本当なのだろうか?
本当は辛い修行で泣く忍者を可哀想だと心の底で泣いていたかもしれない。
葉月が暗殺された日、暗殺者を捕まえられなかったと、草太郎と光明に当たった。
でも、悪いのは誠義や蒼真ではなく、輝光かもしれない。
「…葉月。守れなくて…すまない。悪いのは…俺だ…。」
輝光は塵になりながら光る水晶の石になった。
「…皆、ごめん。私、やり過ぎたね。」
葉月の姿をした氷は砕けた。
氷と闇の力で作った葉月の幻影は輝光の悪鬼の力をも怯ませた。
「…いや、大丈夫だよ。俺達は皆間違っていたんだ。皆、葉月が大切だったのに、素直になれなかった。だから、双葉さんは絶対大切にするからね。」
「…俺も。双葉姉さんは大切。だから、守るよ?」
公正と鐵広が双葉を抱きしめると鬼の石に戻った。
鈴音と一心も近づいて、双葉を抱きしめる。
「…双葉姉さん。私、双葉姉さんが大切だから。」
「俺も。双葉さんを守る。…今度こそ…」
二人も双葉に言うと鬼の石に戻った。
双葉は誠義と蒼真を抱きしめた。
「…さぁ、帰ろうね?」
『…あぁ…。帰ろう。』
双葉が光る水晶の石を拾うと元の美術室になった。
「…終わったから、戻ったのね?…でも、中村さん達にはいろいろ考えさせられたわね。感情も一つの美術。大切な人と喜び、奪われて怒り、失い哀しみ、また誰かと共に楽しむ。喜怒哀楽。これを知るのも美術よ。人間は哀しんだままだと駄目になるの。楽しみがないと鬱になる。怒りしかないと相手の事をずっと傷つけてしまう。バランスね。上手くやらないとね。…ちょっと待ってて。」
畑田先生は奥から何やらいろんなキャラメルやら飴が入った缶を持ってきた。
「安すぎるけど、今日の資料分よ。甘すぎるのからビターな飴まで。ちなみに、さっきの輝光さんって悪鬼から元の鬼になるって朝子さんから聞いているから。皆で仲良くやりなさい。」
「はい。」
笑って飴の缶を差し出す畑田先生に双葉は返事をして言った。
「先生。巻物、お願いしますね。」
「大丈夫。任せなさい。私、やる時はやりますから。」
頭を下げる誠義に畑田先生が言った。どこかで聞いたような台詞だ。
「…俺達はそろそろ帰ります。」
「また遊びに来ていいよー。」
「あっちゃん。また明日ね。」
「うん。」
蒼真と双葉に畑田先生と朝子が言った。
「…畑田先生って適当な性格だと思ってた。あそこまで熱い性格だと思わなかった。」
「授業で興味無い生徒が一人でもいたら冷めるみたいだぞ。だから授業中は適当らしい。知ってるか?放課後に美術部員はその日に授業があったら教科書開いて真面目に教えていたからな。語ると一時間位になるらしい。」
なんとなく予想は出来る、朝子もかなり上達している。結構色が濃い絵を描くのを思い出すと誠義が差し出す水晶を嫌がったのが分かる気がした。
「…誠義君。あっちゃん、透明とか、色が薄いものが嫌いなの?よく考えたら、あっちゃん、美術コンクールの作品、派手だったよね?」
「あっ!それで嫌がったのか!…って!蒼真!何故教えなかった!」
「…誠義の表情を撮る為だ。」
蒼真が真顔で言った。手にしたスマホの壁紙は口がへの字の誠義だった。
「蒼真!消せ!」
「…断る。」
蒼真は手に持っていたスマホを消した。誠義は顔が真っ赤だ。
「…あっ。今日の輝光さんの夕御飯。何が良いかな?」
「…あ?…うーん。焼き魚はよく食べていたから大丈夫だと思うが?」
「…材料があるから豚肉のすき焼きで良い。」
「じゃあ、すき焼きにしようかな。」
双葉の住んでいるマンションの前で誠義と蒼真と別れると家で手洗いをした後にすき焼きの材料と鍋を二個用意した。
牛脂を入れた後に鶏肉と豚肉とネギ、たまねぎを炒め、割り下を入れた後につみれ、揚げ豆腐、椎茸、えのき茸、しらたき、うどんを入れて煮込んで完成。鬼達を石から出して夕御飯の準備をした。
居間は朱馬、鈴音、舞、鐵広、一心、台所は公正と天外がいた。
双葉はいつものように輝光の結晶を出すと双葉の前で膝をついて座る輝光が現れた。
目の前で見ると体格が大きく見えた。
「…君は。…葉月に似ているが違うな?」
「私は双葉です。悪鬼に変わった鬼を草太郎さんと光明さんの生まれ変わりの林田君と月ヶ宮君と鎮めているんです。…まあ、御飯が冷める前に食べましょうか?」
「頭、こちらです。」
公正が声をかけたので輝光は公正の横に座った。
天外は双葉の横にいたが、緊張して無言だった。
「じゃあ、いただきますか。おかわり、ありますからね。」
輝光は豚肉を一口食べた。
「…うむ、美味いな。」
「頭、仏頂面は無しにして下さいよ。双葉さんはまだ若い子だから緊張しますからね。天外もガチガチになるな。」
天外は昼間の誠義のように口がへの字だ。
天外以外がすき焼きを食べ終わると昔の鬼達がいた屋敷がどこにあるか気になった。
「…輝光さん、公正さん。気になっていたんだけど、昔の忍者の屋敷がある場所がどこにあるか分かりますか?ちょっとベランダに出ましょうか?」
「うむ。」
出る前に天外に後の事を任せると言った。
三人がベランダに出ると五人が台所に来た。
「あっ!結構肉も残っているな!食べていいか?」
朱馬が言うが天外が慌てて豚肉を少し皿に入れた。
「…っ!全部はやらん!まだ食う!」
双葉達がベランダの外に出た。
「…どこもかなり明るいな。これは何だ?」
「電気です。鬼の皆さんの未来は雷の力で明かりや食品を保存や加熱したり、洗濯します。お金は掛かりますけどね。」
「双葉さん。おそらくあそこだ。」
公正が指差した所は北側だった。
「…北側の山の中ですね。確かハイキングコースがあったかな?…ちょっと待ってて下さいね?」
家の中に入ると鬼が六人、すき焼きを食べていた。
「…御飯足りた?お餅も食べる?」
「食べる!」
双葉はお皿にお餅を入れて水をかけて、ラップをしてレンジに入れた。
「…音が鳴ったら、出来上がるから。上のラップを外して、すき焼きのだしをつけたらいいよ。蒸気が出たりお皿が熱いから気をつけるのと、よく噛んで喉に詰まらせないようにね?」
「はい!」
双葉は部屋からスマホを持って外に出た。
「地図を航空写真にしたら分かると思う。…ハイキングコースのまだ北側かな?でも、うっすら草むらの広場があるからここかな?」
「…凄いな。今はここまで分かるのか。」
公正は興味深そうにスマホを見ていた。薄い板が詳しい地図を出すのだ。昔の忍者が見たら当然珍しいだろう。
「あっ。今の人は乗り物で空を飛びますからね。月にも行ってますから。」
三人で空を見ると月が浮かんでいた。
「…俺は鬼になって力を持ったが、必要なさそうだな。」
「…でも、妖怪や怪異を現在の人も倒せませんからね。呪いの力も。…なんでこんな事をしているか分からないけど、源三郎って人が忍者の皆さんを呪い殺して、また何か悪い事を企んでいる。ずっと私の友達が巻き込まれています。そろそろ、こちらから攻める時だと思ってます。」
「…やつの仕業か。なら、全力で叩き潰す。」
輝光の体から血管が浮かんだ。とても怒っていた。
「…もう一つ聞きたい事が。源三郎さんの事、私は知らないの。どんな人?」
「…俺とは違って表忍のトップだ。その上に頭の輝光様がいる。表忍は主に護衛と防衛が仕事だ。その仕事を持ってきたりしていた。」
「…源三郎は俺の親父が連れて来た。確か18歳だったかな。実力は俺の次に強い。…ただ
、薬品や道具の知識はあったな。」
「…道具、ね。分かりました。…じゃあ、戻りましょうか?」
三人は台所に戻るとすき焼きのたれで餅を食べる忍者達の姿が目に入る。
「…美味そうに食べているな。」
「白米も俺達の時代は高級品だったがな。…不思議だな。餅を作る音はしなかったが?」
「…食べますか?輝光さん、公正さん。お餅ありますよ。」
双葉は餅の袋を取り出すとまた水で軽く濡らしてラップをして皿に入れてレンジに入れた。
レンジの中で餅が膨らむのを輝光と公正は見ていた。
「…凄いな。これですぐに餅が温まるのか。」
タイマーが鳴ると双葉は取り出して二人の皿に乗せてすき焼きの割り下をかけた。
「かなり熱いですからね。後喉に詰まらせないように気をつけて下さいね。」
「かなり伸びる餅だな。」
「…うむ。美味い。この時代は何でも美味いな。」
二人が食べている間に皿洗いをした。他の鬼は機嫌が良かった。
輝光と公正が餅を食べ終わると皿洗いをして、終わると鬼達は石になった。その時に双葉は石を見て思った。
「…源三郎さんは道具の知識がある。…まさか、この石も?」
その時、双葉のスマホに電話が掛かる。相手は月詠達弥だ。
「…もしもし、月詠さん?丁度良かった。私やしずちゃんの石について聞きたいの。」
「あぁ。たぶん誰かに聞こうとしているから電話したよ。市村さんと黒澤さん、中村さんの石は全く違うんだ。市村さんの石は鬼達が属性の力を宿したものだ。俺は元から鬼なんだ。何百年も生きている。黒澤さんと中村さんの鬼の石は人間の命から出来た石だ。そして、二瀬さん達や林田さん、月ヶ宮さんが鬼に変身するのは魂の力を増幅させる為だ。」
「…やっぱり。…悪鬼は人間を呪い殺して道具にされた悪い鬼。」
「…それだけではない。悪鬼が普通に戻ると呪いの贄にされたものが負の力を宿す怪物にされる。黒澤さんも菫さんと言う似ている体の怪物と戦っている。…明日は中村さん、君の番だ。怪物になった葉月さんを祓わなくてはならない。場所は聞いているね?明日は市村さんや俺や黒澤さんが行くから待っていてくれ。」
「…分かりました。」
電話が切れる。双葉の表情は良くない。
「…輝光さん、公正さん。先程、鬼の月詠さんから話が聞けました。…私達、悪鬼と戦っていたのは源三郎さんが私の命を狙っているからだと思っていたんです。…違うの。悪鬼が鬼になると葉月さんに負の力が集まって怪物になるの。狙いはそれ。」
「…っ!アイツ!俺の葉月を怪物にするつもりだったのか!俺達を裏切って殺しおって!」
「双葉さん!悪いが明日は俺もやつと戦うぞ!絶対許さんっ!」
「私もそのつもりです。葉月さんを元に戻します。」
「…なら、俺は明日の為に戻る。…馳走になった。」
「俺も。…すまないな。今日は笑う気分になれぬ。」
「…私も笑う気分じゃない。ただ、朝御飯と昼御飯は食べて下さいね?鬼の力が保てないから。」
輝光と公正は鬼の石に戻った。
明日は源三郎との決着の日。
今回は複雑な呪いについて明かされます。
まず、人との絆が強い人物が贄として特別な場所に埋葬される。
それによって絆が強かった人物が呪いで死ぬ。
現在で悪鬼を祓える人物を襲わせるふりをして鬼に戻して負の力を贄に戻す。
贄が怪物になる。
と言う流れ。源三郎が不老不死みたいなのも次回で分かるかもしれません。
次回に続け。