鬼人達の宴碧 第五章 負の感情
今回はかなり長くなりました。
前書きはそれだけにしましょう。
誤字、脱字があったらすみません。
土曜日の朝、今日は雫達が来るのでいつも通りの朝を迎えた。
前日は五枚入りの食パンが安かったのでそれを焼いて、その間にお湯を沸かしてカットレタスを水洗い、食パンにバターを塗ってハム、チーズ、レタスを乗せてスープを作ると鬼達を出した。
「おはよう。朝ご飯食べようか?」
流石に五人になったので先に朱馬、鈴音から食べさせて舞、鐵広、双葉でパンを食べた。
先に食べた朱馬と鈴音は洗濯ものを干していた。
全員食べ終わると舞と鐵広は食器洗い、双葉は朱馬と鈴音と三人で掃除をしていた。
日頃から床をモップで空拭きしていたので掃除機を使ってもそんなにゴミは溜まらなかった。
一通り終わると四人を鬼の石に戻して双葉は出かける支度をした。
双葉が外出する準備をしている中、雫は目を覚ました。
何だか一階が賑やかな気がする。
雫が降りると鬼達が石から出て、雫の母が作った天ぷらを食べていた、
「おはよう、雫。雫も朝御飯に栗おこわ食べる?」
「うん。」
テーブルには大きなボールが二つあって、中にオニオンフライとフライドポテトが入っていたが、まあまあ減っていた。
「…すまないな、雫姉さん。星谷と澄子が食べ物の匂いで石から出たら皆出ていったんだ。」
「でも、辰夜だって出ただろ?」
「お前達がお母さんに迷惑かけないか監視だ。」
辰夜が鋭い目をしている中、星谷は鶏の天ぷらを食べていた。
そこに優花と澄子が来た。
「出来立てのピーマンの天ぷら美味しいよ!」
「辰夜は野菜が好きだから。食べるでしょ?」
「…。せっかくお母さんが作ってくれたのなら。…頂きます。」
辰夜は優花と澄子の持って来た野菜の天ぷらを申し訳なさそうに食べていた。
「…私、天ぷらを食べたのは初めて。」
「…そうかもね。昔は江戸で天ぷらがあったみたいだけど、全国に広がったのはかなり後だから。」
彩夏の横で雫の母がヒレカツやコロッケをお皿に置いていた。
それを重蔵と大地が狙っていた。
「…天ぷらって油を使うけど、調理に苦手な人がいるからね。少なめの油で調理出来るものや、レンジで簡単に調理出来るのもあるのよ。…そろそろ少しは冷めたかしら?重蔵君や大地君はヒレカツとコロッケ、どっちが食べたい?」
『両方!』
二人が言うのを辰夜は呆れて見ていた。
「…雫姉さん。重蔵はオニオンフライ、大地はフライドポテトを結構食べていたんだぞ?まだ食べるみたいだ。」
「俺ヒレカツ食べたい!」
「私はコロッケ!」
辰夜が雫に説明していると、星谷や優花が手を上げて言った。
「…まだ食べるのか。」
「辰夜、良かったら私とコロッケ半分ずつ食べない?私、全部はちょっときついかな。」
「…姉さんが言うなら、いいぞ。」
辰夜はそう言ってコロッケを取りに言った。雫がさりげなく優花や星谷と顔を合わせて笑っていた。
9時半に雫の家のインターフォンが鳴って、要、透、佐藤君、武山君、篠崎さんが来た。
「おはようございます。」
「雫。来たよ。」
要は雫の母に、透は雫に挨拶をした。
「いらっしゃい。透君、今日の分はこれよ。余分にオニオンフライとフライドポテトもあるから。向こうに着いたら皆で食べなさい。」
「わーい!オニオンフライ!フライドポテト!」
透は嬉しそうにはしゃいでいた。
「あ…ありがとうございます(透、いつもこんな感じかよ)」
「あ、あははっ。頂きますね。(透君!恥ずかしいからやめてー!)」
「…どうも(透、本当に鬼なのかよ?)」
佐藤君が焦ったり、篠崎さんが恥ずかしがったり、武山君がドン引きしていた。
透が荷物に掌を当てると消えた。
「篠崎さん!行きは私が背負うから!」
「武山君は俺と!」
澄子と大地が篠崎と武山君に近づいた。
篠崎さんは嬉しそうにして、武山君も少し恥ずかしがっていた。
「佐藤君は僕と!ビュンビューン!」
「雫は俺が背負うから。」
「うっ…。透。あんまりむちゃくちゃするなよ。」
「要。よろしくね。」
はしゃいでいる透を佐藤君は心配した。
要は雫を背負うと顔を赤くした。
「皆気をつけてね。行ってらっしゃい。」
玄関で雫の母が見送ると八人は消えた。
(…市村さんも凄かったけど、雫、あんたらも十分凄いわ。鬼の疾走で隣の県まで行くとか、ぶっ飛んでるやろ?佐藤君と武山君と篠崎さんやったかな?貴重な体験やで?ホンマに。)
雫が家を出るとメールが来たので双葉は二十分位して家を出た。
「おはよう、双葉。」
「双葉。おはよう。」
「ふたちゃん、おはよう!」
「よぉ!中村!」
外には誠義、蒼真、朝子、駿がいた。
「あれ?誠義君と蒼真君も来たの?あっちゃんは分かる。其田君は何でいるの?」
「今日来る中村の昔のクラスメイト!俺の動画のチャンネル登録しているって月ヶ宮から聞いたからさ!来た!後いろんな鬼が来るらしくてさ!気になるじゃん!」
「私もー!それに向こうは六人で来てふたちゃんだけなのもね。」
暫くすると雫達が現れた。
「ふたちゃん、来たよ。…友達も一緒だったかな?」
「…あっ!ソノ!」
「…ソノ?」
佐藤君が言って透が不思議そうに言った。
「そうそう!ソノのエクササイズチャンネルって動画出してる人!」
「学校の運動部の人は皆知ってるよ。私も短時間で出来る運動とかあって、チャンネル登録してる。」
武山君と篠崎さんも言った。
「ははっ!ありがとう!其田駿です!月ヶ宮に聞いて来たんだ!昨日鬼の事を聞いたからそのままで大丈夫だよ!(わー!本当に青色の髪の鬼の女の子がいるな!)」
「私は林田朝子。兄が鬼なんです。皆と一つ年下。よろしくね(わー!四人鬼がいる!)」
蒼真の力のせいか、其田君と朝子の心が聞こえた。
蒼真が微妙に笑っている。誠義も双葉も少し恥ずかしくなった。
「ま、まあせっかくだからいろいろ行こうか?」
双葉は皆を連れて学校の前を通って公園に行った。
「皆、ごめんね?遠くから来てもらったからちょっと休憩っていうのもあるけど、土の鬼の鐵広君が出てきたいみたいだから、出してもいい?昨日悪鬼になって其田君の前で暴れたから謝りたいみたいなの?」
双葉が鬼の石を出すと鐵広が片膝を地面に付けて頭を下げて座っていた。
「其田殿、昨夜は無礼を働いてすまなかった。」
その姿に其田君は慌てた。
「いっ!良いって!頭上げろよ!なぁ!皆!」
それを見た佐藤君、武山君、篠崎さんは頭を縦に振るが、大地や澄子も心当たりがあった。
「確か俺が悪鬼化した時は中村さんのお姉さんとか他の人もいたかな?」
「私も篠崎さんの学校まきこむ位の吹雪起こしてね。篠崎さんごめんね?」
大地も頭を掻きながら言った。澄子は篠崎さんの後ろから抱きつきながら言った。
「…あっ!雫のお母さんが皆でオニオンフライやフライドポテト食べなさいってくれたんだった!出しちゃお!」
透が思い出して荷物をポンッ!と出した。
「…透、それ、どうやってやったの?」
「俺も超気になる。」
双葉と其田君が気になって聞いた。
「これね。風の空間に入れて、欲しい時に出すの。固定してないなら車でも何でも入るよ。」
「俺は水を出せます。」
要は水を球体にしてプカプカ浮かべて皆の前に出した。
「要は要で使えるよな。水の技。」
「あぁ。今から食べるからこれで手を洗えるんだな。」
佐藤君と武山君は水の球体で手を洗った。
「俺の力は其田向けだな。空間の酸素増やせるぞ。丁度鬼達が走って来たなら使って良さそうだな。」
誠義は鬼の姿になって緑色のオーラを出した。
蒼真も鬼の姿になって銀色のオーラを出した。
「俺は誠義程ではないが、月の力でヒーリング、照明、逆に相手の体調を悪くさせたりいろいろ出来る」
「うへぇ、月ヶ宮を怒らせないようにしないとな。…鐵広、一緒に食べようか?って、中村の他の鬼も食べるんじゃないか?」
其田君が言うと佐藤君、武山君、篠崎さんが双葉の方を見た。
「あー。気になるよね?…うん。大丈夫みたいだから、朱馬君、鈴音さん、舞さん、出ようか?」
双葉が三人を出すと朱馬が雫達の方を見た。
「この前はすみませんでした。」
「うん。大丈夫よ。皆初めは暴走するから。ね?」
「気にするな。」
「へへへっ。仲良し、仲良し。」
双葉や要や透が言って武山君が思い出す。
「あっ、確か火曜日、黒澤達はここに来たんだよな?」
「えっ!そうなのか!」
「確か、火の玉の妖怪がいて、林田さんや月ヶ宮さんの前で爆発してね。その時に鬼になったの、覚えてる。あの時はふたちゃんの鬼の石の数が足りなくて、二人共人の言葉が話せなくて大変だったの。…次の日は市村さんの力で考えている事が伝えられて上手くいったの。其田さん、気になってたでしょ?朝子さんも見る?九尾の狐。」
双葉がスマートフォンを出すとそこには九尾の狐の翼と写る佐藤君、武山君、篠崎さんが写っていた。
「あっ!凄い!」
「っ!三人も九尾の狐知ってるのか!」
「市村さん、尻尾触らせてくれました。耳もふかふかでした。」
「結構レアだよな!あの人!」
「市村さん、親切に写真も一緒に写ってもらいました。」
スマートフォンの写真を見る朝子と其田君に篠崎さん達が言った。
その横で澄子が鈴音と舞に手を振った。
「篠崎さん、見て?あの青色の髪の子が水の鬼で、白色の髪の子が風の鬼みたい?」
「すみちゃんが氷で、ゆうちゃんが木で、あやちゃんが火だから皆バラバラだね?」
二人の会話を其田君と朝子は聞き逃さなかった。
「っ!黒澤さん!他の鬼も見たいです!」
「私も!気になって夜寝れなくなりそうです!」
其田君はいいとして、朝子には誠義が少し驚いた。
「えっと、今いるのが土の大地、氷の澄子。他の鬼は雷の重蔵、火の彩夏、木の優花、月の星谷、闇の辰夜です。」
雫が鬼を全員出した。
「やっぱりスゲー!鬼の女の子も体つきスゲー!」
「すごーい!兄やんも凄いけど皆やっぱりオーラが違う!」
興奮する其田君と朝子だったが、それを見て誰かが近づいてきた。
「…何をしているんですか?」
それは東野さんだった。
其田君や朝子は驚いていたが、先に声をかけたのは雫だった。
「…東野さんね。今日の雷の悪鬼の場にいる人。」
東野さんはその言葉で近づいていくと彼らだけの空間があり、鬼がいる事に気がついた。
「え?周りから空間離しているんじゃないの?」
「いや、東野は持っているお守りで異変を感知出来る。」
驚いていた双葉に蒼真が説明した。
ただ、気になったのは雫が東野さんの名前を知っている事だ。
「…初めまして。水の巫女で黒澤雫って言います。」
雫は水の巫女の姿に変わって言った。
「えっ!黒澤さん!」
「待って!黒澤さんも凄い人かよ!」
朝子と其田君がさらに驚いていた。
東野さんはよく分かっておらず、硬直した。
「ごめんね。本当だけど、ジョークね。今日は中村さんの小学校の同級生と隣の県から来たの。で、ちょっと私の鬼と中村さんの鬼のお披露め中。」
そこには鬼がたくさんいた。
「…凄い数です。…で、黒澤さんは何で私の名前を知っているのですか?」
東野さんが聞くと雫は掌に水の球体を出した。
「私は水を使って過去や未来が見えるの。あなたの過去、学校で鬼の写真を見て羨ましい顔をするあなた、 そして、未来、あなたが悪鬼の雷鬼、天外さんに逢う姿。…ここにあるの。」
そこには三つ編みの黄色の髪の鬼の姿が写っていた。
「昨日聞いたぞ!東野が今日雷の悪鬼の場の妖怪にまきこまれるってな!」
そう言われて東野さんは少し頭を悩ませた。
「…鬼は気になりますが、少し不安です。私には鬼を倒す力はないので…。」
「…鬼は俺達が倒す。ただ、精神錯乱系の妖怪が出るからな。其田と違って負担があるから無理はするなよ。」
東野さんに蒼真が言った。
「…精神錯乱の攻撃って具体的にどんな感じ?」
篠崎さんが気になって聞いた。それは双葉や其田君も気になっていた。
「ふたちゃんや其田君も気になっていたでしょ?相手を選んで意識を混乱させるの。ふらふらになったり、恐ろしい怪物が見えたり、不安な気持ちになったりとかね。そこは月ヶ宮さんがフォローしてくれるからね。」
「…まあ人間には結界を張っても負担があるからな。…なるべくやれる事はする。」
雫と蒼真が説明したが、東野さんはやはり不安そうにした。
「…なるべく、お守り増やしておきます。…が、不安です。」
「まっ!昨日悪鬼だった鐵広もいるから大丈夫だろ!なっ!お前強かったし!」
「双葉姉さんが呼んでくれたら俺も戦う。」
「まあ、天外さんには勝てるし、今度学校で東野さんと逢えるからね。学校であった時は仲良くしてあげてね。」
雫に言われると東野さんは頷いた。
暫く全員で雫や双葉の鬼達と写真を取ったりした。
「…さてと、まだ時間あるよね?東野さん、私達と一緒に昼御飯食べに来るでしょ?お母さんが昼御飯を作るけど、この時間なら一回家に帰れば大丈夫みたい。」
「っ!行きます!」
「うん。じゃあ辰夜、東野さんを家まで連れて行ってあげてね。」
「わかった。」
辰夜は東野さんを抱き抱えると走っていった。
「…あの人、東野さんの家が分かるのか?」
「私が東野さんの家の場所を調べて辰夜に教えたの。東野さん、辰夜が好きみたいだから。」
武山君に雫がニコニコしながら言った。
その頃、辰夜は東野さんの家についていた。
「…どうして、私の家が分かったんですか?」
「あぁ。雫姉さんが調べていたからわかった。雫姉さんと住んでいる場所も違うし、一緒に皆といた方が後で悪鬼の場の時の負担が違うらしい。…慌てたら転ぶと聞いた。待っているからゆっくりしてきてくれ。」
東野さんは家の中に入っていった。暫くすると違う服装で出てきた。
「…そうだな。その服装だと落ち着いた雰囲気で好きだ。俺が何の鬼か聞きたいんだろ?俺は闇だ。闇鬼。闇と聞くと悪いイメージがあるが、静けさ等の気持ちを落ち着かせる意味もある。」
辰夜は掌から黒い塊を出した。それを消すと東野さんの頬に手を当てた。
「…お前に似合っている。闇を怖れないでくれ、杏璃。」
「…はい。」
東野さんは辰夜の笑顔を見て恥ずかしくなっていた。
辰夜はまた東野さんを抱き上げて走った。
「…あっ!東野さん戻ってきた。」
「…遅くなりました、すみません。」
篠崎さんが気がつくとすぐ皆の目の前に辰夜が現れた。
待っている間に東野さんが着替えて来るのは雫や蒼真、星谷は分かっていた。
蒼真は佐藤君や武山君に、星谷は其田君や朝子に月の球体を出して着替えた東野さんを写していた。
「大丈夫。好きな服で行きたいよね。じゃあ、行こうか?ふたちゃん。」
「うん。」
皆が集まると駅のレストランで皆と食事をした。
鬼達は周りからは普通の服を着ているように見えているらしい。
皆楽しそうにしていたが、東野さんも学校では見せないような笑顔だった。
雫達はのんびりと駅のお店を回って家に持って帰るおみやげを買うと駅の外の広場に集まった。
「さてと、15時には解散した方がいいから、皆で写真を取ろうか?辰夜、お願いね?」
「うむ。」
雫に言われるとうっすらと辰夜の姿をした人型の影が出来た。
東野さんは一瞬辰夜と写真が撮れないと思っていたが、辰夜の影を見て安心した。
撮られた写真には全員写っていた。皆撮られた写真に満足していた。
「今日はいきなり来ちゃってごめんね?今度落ち着いたら私達の町に遊びに来てね?」
「おぅ!行くよ!」
「兄やんや蒼やふたちゃんの鬼に頑張ってもらわないとね。」
「その頃は私達大丈夫だと思う。」
雫に其田君、朝子、鈴音が言った。
「東野さん。今日の夕方は気を付けてね?」
「無理しないようにな。」
「東野さん、皆がいたら大丈夫だから!妖怪なんかに負けないで!」
篠崎さん、武山君、佐藤君は東野さんを応援した。
東野さんは三人を見ながら辰夜を見ると笑顔で胸元で拳を握ってみせた。辰夜も東野さんを応援していた。
「…頑張ります。今日はありがとう。」
帰りは篠崎さんを彩夏、武山君を要、佐藤君を重蔵、雫を透が背負って帰った。
「…行っちゃったね?」
「でも楽しかった!皆で写真撮ったからな!」
「昨日、井川さんと木元さんが鬼と写った写真を見せてくれましたが、私達も良い思い出が出来ました。」
朝子、其田君、東野さんは撮った写真を見ながら言った。
「…さて、今日の16時、東野の父親の発電所が鬼の場だ。東野が自宅から父親の発電所に煙が上がったのを15時40分に目撃して発電所に行って巻き込まれるが本来の流れだ。が、東野はここにいるからな。今から四人で行ってくる。」
「それでゆとり持って15時解散ってしずちゃん言ったのね。」
蒼真と双葉が顔を合わせて言った。
「ここからだと30分から40分だな。俺が昨日見た妖怪はデカイやつとか、天井に逆さになったやつとかいたからさ。あんまり突っ走るなよ?」
「天井で逆さの姿は嫌かも…。東野さんも兄やんも気を付けてね?」
「…ありがとう。行ってきます。」
「其田や朝子も気を付けて帰れよ。」
其田君や朝子が東野さんや誠義に言うと笑顔を返して四人は発電所の方に行った。
「…東野、雰囲気変わったな?明るくなった?学校だとほとんど話さないんだよ。」
「兄やんや蒼もふたちゃんを明るくさせたいから笑うようにしてるんだって?」
「え?それって二人共、中村が好きって事だろ?」
「うん。だから、三人一緒でしょ?」
其田君は朝子と話してやっと誠義と蒼真が双葉を好きだと気がつく。
「…東野さんは辰夜さんと短い間だけど、何かあったんじゃないかな?雫さんが辰夜さんを選んでいたからね。たぶん、東野さんは辰夜さんが好きだと思う。結構見てたよ?」
「あんまり意識してなかった!確かにずっと一緒だった!」
「其田君ってちょっと鈍感だね?東野さんと辰夜さんを見てたら二人共嬉しそうに話してた。良いんじゃない?二人共お互い好きみたいだから。…じゃあ、私は家に帰って勉強しようかな?其田君は広場で遠くから発電所を見るんでしょ?プラズマで光るみたいだからカメラ用意しないとね。」
「あっ、ばれたか。何かあるとは思っていたからさ。へへっ!じゃあまたな!」
其田君と朝子は話が終わるとお互い手を振って別れた。
双葉達は発電所の前に来ていた。
「…さてと、この場が変わる前に言っておく。
今日の妖怪の一つはドッペルゲンガーだ。おそらく東野が知っている発電所の人間に化けるだろう。むやみに近づくな。生気を吸われるぞ。もう一つはソウルプラズマだ。現れたら幻覚や体調不良を起こす気体の電気だ。それと今回の場は透明な電気の壁の罠があるから気を付けろ。」
「…厄介ですね。気を付けます。」
東野さんが蒼真の顔を見て言った。
「…双葉。そろそろ結界を張ってくれ。」
「うん。」
双葉が結界を張ると蔦が延びてプラズマを帯びた空間が出来た。
発電所は蔦に包まれて中から男性が現れた。
「…た…助けてくれ。化け物が現れた。」
「…月ヶ宮さんが言った事が本当なら、私が誰だか分かりますか?」
「…うっ!く…苦しいっ!」
東野さんが聞くと苦しみだした。間違いなく演技だろう。
「東野さん。知っている人?」
「はい。ですが、敵ですね。」
東野さんが言うと男性は全身紫色になった。
「…敵ならやるまでだ!」
誠義が緑色の球体を放つとドッペルゲンガーは倒れた。誠義は倒れたドッペルゲンガーに向かって何かをかけると蔦で動きを封じた。
ドッペルゲンガーがバチバチと音を出すとソウルプラズマがゆっくり現れた。
ソウルプラズマは聞きなれない音を出しており、鼓膜に負荷をかける感じだった。
「…っ!双葉!月の力で包んで閉じ込めろ!」
「…う、うん!」
蒼真と双葉でソウルプラズマを包んで発電所の部屋の中に入った。中は外から見たのと違って緑色の広い部屋になっていた。
「中は全く違う場所になっています。」
何人か忍者の格好をした人間がいた。
「こいつらは皆ドッペルゲンガーだからな。双葉、なるべく動きを封じろ。」
先程と違い、動きは早い。何人か動きを封じたが、だんだん獣になったドッペルゲンガーが現れた。
誠義や蒼真が上にも術を使いだした。よく見ると蝙蝠や梟のドッペルゲンガーがいるようだ。
「さすがに空から来るのはきついね。ちょっと結界広げようか?」
双葉が結界を広げると電気の壁が現れて結界を広げるのを妨害した。
「…こういう事ね。地味に厄介な壁。」
四人は壁を避けて奥に行くと小島が空に浮かぶ場所に出た。
「俺は東野さんを持つから誠義は双葉を背負ってくれ。二人共、小島を登ると若干空気が薄くなるから少し苦しくなるけど、我慢してくれ。」
蒼真が前に、誠義が後ろでおそらくドッペルゲンガーが鳥になったものを倒しながら登って行った。
小島の上には扉があり、中は大きな空洞の中で広い広場の周りに穴があり、プラズマが走っていた。
その真ん中には黄色の短髪に後ろ髪を三つ編みにした男がいた。
「…黒澤さんから聞いた天外さんですね。目が黒いです。あれが悪鬼ですね。」
天外が両手を左右に広げると電流から耳障りな音がした。
「…くぅうっ!双葉!舞と鐵広を出してくれ!」
誠義に言われて舞と鐵広を鬼の石から出した。
舞は風の結界を皆の周りに張った。
「大丈夫!東野さん!」
「…な、なんとか。少し頭が痛いです。」
座り込む東野さんを鐵広が心配した。
「…善鬼化。やってみようか?皆!私の力を受け取って!」
双葉が四人の鬼に力を送ると体が大きくなった。
「おぉおおっ!」
「はぁああっ!」
東野さんや双葉は逞しくなった四人の姿を見て驚いていた。
「…東野さん、私達、行ってくる。」
「…ゆっくり休んでいてくれ。」
舞や鐵広は東野さんの体に手で振れると天外に向かって行った。
「…あれが、善鬼ですか。スゴい迫力でした。」
「…早めに善鬼化して良かった。力を強めて天外さんと互角。」
天外は何度も瞬間移動をした。だが、かなり負担があるのだろう。大量に汗を流して息をあげていた。
「…うがあぁああああっ!」
天外が彷徨をあげると舞、鐵広、誠義、蒼真、双葉、東野さんの姿をしたドッペルゲンガーが出た。
双葉が自分のドッペルゲンガーを倒すが、東野さんは自分にそっくりなドッペルゲンガーに顔を触れられていた。
『…杏璃、貴方は死ぬの。』
ドッペルゲンガーが消えると天外が刀をガタガタ揺らしながら持ち上げていた。
「東野さん!逃げて!」
双葉は叫ぶが東野さんの目は紫色になっていた。
(私は紺色や黒色の服が好き。好きな服を着て、友達が出来るおまじないをしたけど、ダメだった。クラスメイトに暗いとか魔女みたいと言われた。視力が落ちて、眼鏡をかけたら余計に皆と距離が離れた。今日は中村さんや林田君や月ヶ宮君、他に其田君や林田君の妹、黒澤さんがいて仲良くなれそうだったから好きな服で着た。でも…昔の事を思い出す。
私の事、また魔女みたいって言われる?皆、私から遠ざかる?…なんだろう?嫌われそう。…怖い)
東野さんの目から涙が流れた。
(…杏璃のその服装、似合っているよ。…もし、闇に飲まれたら、俺の事を思い出してくれ。君を助けるよ。)
「…辰夜さん。」
東野さんの涙が服に落ちると東野さんのポケットの石が輝きだした。
天外が刀を振ると刀が折れて宙を浮かんだ。
そこには善鬼になった辰夜がいた。
「…杏璃、お前は昔と違うんだ。今は皆が側にいる。だから、心配するな。」
「…うん!」
天外に誠義達が刀を振った。天外は涙を流して黄色の石になった。
双葉が近づくと辰夜は東野さんと額を合わせた。
東野さんの気持ちが落ち着くと姿を消した。
「…辰夜さん。だったよね?しずちゃんと帰った気がしたんだけど…。」
双葉が不思議がると東野さんはポケットから黒色の石を出した。
「…辰夜さんからお守りでもらいました。私が闇に捕らわれたら、助けてくれると。昔、このお気に入りの服を着たら皆から悪く言われたんですが、辰夜さんは私の服を気に入ってくれたんです。…嬉しかった。」
東野さんは黒色の石をぎゅっと握りながら言った。
「似合ってるよ。東野さん。」
双葉は東野さんの頬に触れながら言った。双葉は黄色の石を拾うと発電所の中になった。
そこには東野さんのお父さんや作業員が倒れていた。
「お父さん!」
東野さんは慌てて近づいた。
「大丈夫だ。少し気を失っただけだ。」
誠義が緑色の光を当てながら言った。やがて、東野さんのお父さんは目を覚ました。
「…ん?杏璃?どうした?」
「…勝手に入ってすみません。発電所から煙が出ていて、東野さんのお嬢さんと来たら皆さん倒れていたんですよ。」
蒼真が言った。
「…あぁ、そういう事か。あっ、他の人も目を覚ましたようだ。どうもすみません。後は私が対応します。杏璃、少し遅くなるかも知れないから母さんに伝えてくれ。」
「…分かった。伝えておく。お父さんも気をつけて帰ってきてね。」
「…じゃあ行こうか?東野さん。」
双葉は東野さんの手を繋いで発電所を出た。
「…東野さん。先程の方は?」
「娘とその友達みたいだな。娘は大人しいから心配していたが、大丈夫みたいだ。」
雫は皆と別れて家に帰った。
「…お帰りなさい。雫。どうだった?」
「うん。ふたちゃんは四人鬼の子を戻したみたい。友達もいたかな?動画配信で人気の其田君と東野さんかな?東野さんは今から鬼の場に行くみたい。たぶん、ピンチになるから、辰夜が助けに行く。」
「…何かあるのね?」
雫は母を台所に来るように行って、顔を洗いに行った。
そして、戻ると水の球体を出した。
「…今日のふたちゃんは雷の鬼、天外さん。この人の場所はプラズマが流れていて、ここからドッペルゲンガーが出て東野さんが激しい鬱状態になって動けなくなるの。」
「…大丈夫なの?この子?」
「東野さんは昔、好きな服装の事で皆から悪く言われていたみたい。だけど、辰夜から褒めてもらって自信がつくの。東野さんは紺や黒色の服が好きで辰夜も好きなの。後は辰夜にちょっと力を送って善鬼の力で天外さんの刀を折る。」
「あっ!これなら大丈夫!って、大丈夫なの?消えちゃったけど。」
「…うん。石になったから、後はお母さんが作ったご飯を食べたら鬼の石の皆みたいになるよ。」
雫が黒色の石を出すと辰夜が戻ってきた。
「…お帰りなさい、辰夜君。東野さん、無事だったみたいよ。」
「はい。中村さん達と仲良くなれそうでした。」
「うんうん。じゃあ、今日の夕食はシチューにしようかしら?丁度ブロッコリーがあるから。」
「…いただきます。」
辰夜は少し照れながら言った。
双葉達は途中で東野さんと家の方角が違うので別れる事になる。
「今日はありがとう、中村さん。」
「うん。今度学校に行ったら天外君が東野さんの前に現れると思うの。その時はお願いね。」
「うん。天外さんには皆とお話しましょうって伝えてください。」
東野さんは手を振って帰った。
「かなり雰囲気が変わったな。東野。」
「辰夜の影響だろう。まあ、俺達も善鬼化を身につけたからな。」
そういうと誠義と蒼真は双葉に近づいた。
「今は三人だけだ。双葉、俺達を善鬼にしてほしい。」
「…え?あれって戦い以外にも出来るの?」
「…気持ちが高まると出来る。戦いだけで善鬼になるのも勿体ないからな。」
「…じゃあ、誠義、蒼真。善鬼化して。」
双葉が言うとまた誠義と蒼真は善鬼になった。
「…はぁっ!あっ!双葉!好きだ!愛している!」
「おぉおっ!俺も双葉が好きだ!愛している!」
二人は双葉を抱きしめた。力を押さえているのか腕の筋肉がピクピクと動いていた。
「…ねぇ?また一緒に写真撮っても良い?」
「あぁ!いいぞ!」
「俺もかまわん!俺達は双葉の鬼だ!」
せっかく誠義と蒼真が善鬼になったからと双葉が三人で写真を撮ったが、あまりにも誠義と蒼真が双葉に顔を寄せているので他の人には見せれない写真が撮れた。
写真を撮った後は暫く誠義と蒼真は甘えるように双葉に寄り添った。雫や翼は慣れているのか?ちょっと聞きたくなった。
双葉の家に着くまで二人は善鬼のままだった。
「…双葉の家まで着いたな。もう少し一緒にいたかったな。」
「…俺も。…明日は双葉は親父さんと買い物だったかな。昼から一緒に逢おうか?」
双葉は少しドキッとした。
(明日お父さん、家にいるんだった。)
「…う、うん。じゃあ、明日のお昼にね。」
双葉は誠義と蒼真と別れて家に帰った。
お風呂を沸かして、その間に家の床を乾拭きのモップで拭いた。
入浴する前に服を洗濯機に入れて洗う。
入浴を済ますと鬼達を石から出して、夕食を収納していた舞に夕食を出してもらい、レンジで温めながらお皿を用意した。
東野さんを待っている間に透から舞は同じ風の鬼だから物を収納して貰えばいいと言われて出来た時は驚いた。
夕食を用意すると黄色の石を出して、天外を呼び出した。
「…俺は、生きているのか?」
天外は悪鬼で倒される時の記憶がかなりあったようだ。
「天外さんは悪鬼になっていたから、一度鬼の石にする為に戦ったの。」
「…あの娘はどうなった?」
「…家に帰りました。今度、ゆっくり話したいって。ちょっと話すのは苦手な子だから、天外の雷の力を見せたら喜ぶかな。」
「そうか。悪い事をしたな。あの娘は昔同じ歳の者に囲まれて嫌がらせを受けたらしい。その記憶を妖怪が引きずり出したのを覚えている。傷つくと分かってな…。」
天外はかなり落ち込んでいた。この感じは蒼真と同じ裏の忍者かもしれない。暗殺を行う忍者。だが、目的以外を傷つけるのは嫌うようだ。
「…うん。でも、今日は皆と楽しかったって言ってたかな。だから、今度天外さんが東野さんに逢う時は優しく接してほしい。」
「…そう…だな。そうする。」
「…じゃあ、一緒に夕御飯食べましょうか。食事を取れば実体化を長く出来るみたいだから。」
「…うむ。」
今日の夕御飯の栗おこわと天ぷらは天外のお気に入りになった。
どれも『美味い、美味い。』と言って食べていた。
食べ終わると双葉と舞で洗いもの。鈴音と鐵広で洗濯物を干していて、朱馬が天外に説明していた。
一通りの仕事が終わると鬼達を石にして、双葉は勉強をして早めに寝た。
その夜、結花は両親に双葉の事を話した。
双葉は幼い頃から母親に冷たい態度だった事、父親以外の男と遊んでネットにその画像を載せていて双葉が見て傷ついていた事、離婚していた事。
「…秀雄叔父さん、一回双葉と話し合った方が良いんじゃない?かと言って、私が言うのもおかしいし。」
「…分かった。お父さん、話してくるよ。」
結花の父親は席を立った。
姿が見えなくなると結花は頭を抱えてため息をついた。
「…結花。」
「…たまたまさ。双葉に逢う用事があって知ったけど、きついわ。…叔父さんほとんど家にいないけど、家族だからね。」
双葉の父親は職場で寝泊まりして、日曜日だけ帰っていた。
土曜日の夜、双葉の父、秀雄のスマートフォンに兄、賢一から電話がかかってきた。
東野さんと相性が良さそうな鬼が闇鬼辰夜だなと思って番外編かと思う位の活躍になりました。
善鬼化をさりげなく四人させたので今度またノートパソコンと睨めっこですね。
そして、次回は双葉と父親の話になりそうです。
後は誠義と蒼真とのシーンを強めに。