鬼人達の宴碧 第四章 湿った檻の中
今回は長くなった。
まあ蒼がちょっと日々のイベントが少なかったので詰めました。
誤字、脱字があったらすみません。
双葉は四日目、金曜日の朝を迎えた。
洗濯機を回して朝御飯の支度をしようとすると朱馬、鈴音、舞が鬼の石から出たので食器を出してもらい、双葉は卵焼きやソーセージを焼いて、サラダとスープを用意した。
『いただきまーす!』
朝御飯を食べながら、カレンダーを見た。
「…明日、学校休みだからさ。明日、皆で買い物行こうか?」
『うん!行きたい!行こう!』
双葉が言うと三人は嬉しそうに言った。
食べ終わると朱馬と舞は皿洗い、鈴音は洗濯物を干していた。
双葉はその間、ゴミ捨てに行った。
その日は家を出るとまだ誠義と朝子はいなかった。
「…二人がいないと少し変な気分だろ?」
声の方を振り向くと蒼真がいた。
「…今日は三人いたから家の仕事、早く終わったの。」
「…うん。いいんじゃないか?もう、あいつらは双葉の家族だからな。」
そこに誠義と朝子が来た。
「二人共、今日は早いね?」
「うん。未来予知で双葉が早めに出るのが分かったから来た。」
朝子の話に蒼真が鬼の力の話をしていた。
「…双葉は薄々分かっていたと思うけど、朝子は俺や蒼真、鬼の事、知っているから。」
「まあ、私も全部じゃないよ。蒼が未来予知出来るってハッキリ聞いたのは今だから。」
朝子は何とも思っていないのだろうか?
「…あっちゃんは、鬼の事、どう思っている?」
双葉は聞いてみた。
「…よく分かんない。蒼も兄やんも、変わらないから。でも、悪鬼は危ないから心配はしてる。…危ないけど、悪鬼の人を祓わないといけないんでしょ?昨日はクラスの人が襲われたって聞いた。今日も、クラスの人が襲われるんだって。もし助けないとその人死ぬらしいから三人を止めないよ。」
朝子は双葉の知らない事を知っていた。
蒼真の顔を見たら、ちょっと焦っていた。
「…ごめん。双葉に隠すつもりじゃないんだ。…今日は其田の番だ。」
「…もしかして、毎回誰か狙われるの?」
「…まだ分からない事もあるけど、おそらくな。」
「ん…。流石に命に関わるのは防がないとね。」
話していると学校に着いた。
「…じゃあ、私は教室に行くから。三人共、気をつけてね。」
「うん、あっちゃんもね。」
朝子と別れて双葉達は教室に入った。
一瞬教室が静かになった。
「…あっ、おはよう。」
双葉は何となくいつもと違い皆に挨拶をした。
「おっ!来た来た!月ヶ宮!自信はあるのか?」
「100%だ。」
「…って言うか、昨日井川さん助けたよ?蒼真君が。」
双葉が言って、皆蒼真を見た。
「…月ヶ宮さんに聞きたいです。どうやって妖怪を倒したんですか?」
東野さんが聞いて蒼真が掌に銀色の光を見せた。
「これは月の力を持つ光だ。こいつを放った。…危ないから触るなよ。人間にも影響がある。」
「…不思議な力ですね。興味があります。」
東野さんは蒼真の銀色の光を見つめた。
少しすると井川さんが来た。
親友の木元麗奈が井川さんに声をかけた。
「すず!おはよう!昨日どうだった?」
木元さんに言われると井川さんは微糖のアイスコーヒーの缶を出した。
井川さんは甘党なので絶対飲まない。
「…はぁっ!ねーわ!マジで妖怪出た!出ただけじゃねぇ、死にかけた!…約束だからな。微糖のアイスコーヒー、持って来たぞ。」
井川さんは蒼真に缶コーヒーを差し出す。
「悪いな。貰うぞ。」
蒼真が笑って言うと井川さんは顔を真っ赤にさせた。
「…マジかよ。っていうか、なんで顔を赤くしているんだよ?」
「なっ!何でもねーよ!」
其田君に言われて井川さんは慌てた。
井川さんは蒼真の半裸の鬼の姿を思い出して顔を真っ赤にしていたのだった。
「…井川さんは月ヶ宮さんの月の力を見たんですか?」
「…はあっ!?あれっ!見せたのかっ!?」
「…?あぁ。これだ。」
蒼真は掌からまた銀色の光を見せた。
「っ!そっちかよっ!あれかと思った!」
「…あれって、何かまだあるんですか?」
東野さんが井川さんを見た。
「…いっ!あれは無しだ!ここであれは無し!皆いるから無し!」
「あまり人前で見せれない事なら、終わりにしましょう。」
金川さんの一声で静かになったが、双葉が其田君に声をかけた。
「あっ、今日は其田君、気をつけてね。よく分からないけど。」
「…え?今日、俺?」
双葉、蒼真、誠義は同時に頷いた。
井川さんはニヤニヤした。
「あー!今日其田かっ!頑張れよっ!私は昨日刀で心臓刺されかけたり、マジ!やばかったから!まあ三人共強いから大丈夫だろ!」
「え?マジ?やばくない?」
木元さんが井川さんに言った。
「…何か危ない方が出るのね。」
「少しは理解出来ます。刀を持った妖怪が出るのですね。」
金川さんと東野さんが言った。
「東野!正解かも!刀持った強いやつが出る!私の時は風だ!」
その言葉で其田君に目線が行く。
「…俺は何だよ?」
「…土の妖怪だ。まあ俺と相性良いから任せろ。」
其田君が言うと誠義は掌から草を出した。
「っ!林田さんは草ですか!凄いです!」
「…ごめんなさい。ちょっと、わたくし、非現実過ぎて頭が痛くなりましてよ。」
東野さんは興味を持ったが、金川さんは頭を抱えた。
丁度先生が来たので話は終了した。
授業中は其田君は難しい顔をしていた。まあ夕方命の危険があるなら当然だろう。
昼御飯は井川さんと木元さんと其田君は学食を食べに来る。
遠くの方で井川さんが双葉と蒼真を呼んだ。
「昨日、双葉が妖怪の写真撮っていただろ?あれを見たいらしい。」
「だろうね。其田君が見たがってるのかも。」
近くに来ると井川さんのテンションは高かった。
「こっちこっち!…昨日、中村が写真撮っていただろ?ある?」
「あるよ。ちょっと待ってね。」
井川さんに言われると双葉はうどんをテーブルに置いてスマートフォンを出した。
「…これ!見て!鬼の女!変な動物の妖怪!クネクネみたいなやつ!顔の妖怪!」
「あー。刀を持つってこの子?」
「そいつはくノ一だからな。刀の使い方は上手だぞ。」
井川さんが木元さんに興奮して話していた。蒼真は舞の事を知っているので説明していた。
「…ま、まあ、俺、運動神経良いから大丈夫だろ。」
其田君は陸上部だったので強気で言った。
…でも、不安なんだろという感じがした。
「其田、知っているか?このくノ一の女、こまめに瞬間移動したんだぜ?ププッ!見つかったら絶対捕まるぞ!」
「え?そうなのか?…うーん。でも、土ならな…。」
其田君が蒼真を見た。
「土は姿を隠すのが得意だ。後は地形を不利にしたりな。」
「…ま、まあ、どうにかなるだろ。」
其田君は逃げるように食器を返して食堂を出ていった。
「…もういいか。双葉、鬼の石を出してくれ。朱馬、鈴音、舞の分のサンドイッチを買ってきた。この場も少し周りから分からなくしたから大丈夫だ。」
「うん。」
双葉が鬼の石を出すと朱馬、鈴音、舞が出た。
「…あっ、さっきの写っていた子。」
木元さんが言った。
舞は双葉達がいるテーブルから反対側の井川さんの元に瞬間移動すると膝をついた。
「…井川殿、昨日は無礼を働いてすまなかった。」
舞は井川さんに頭を下げた。
「…っ!良いって!悪鬼になっていたからだろっ!ダチの前でやめろって!私が悪者みたいじゃん!」
井川さんは慌てて言った。
朱馬や鈴音も頭を下げた。
「…舞は悪い事は謝らないと気がすまないからな。誠義が教育したから似ているんだ。」
「あー!それで!…まあいいや。昼飯の時間限られているし、サンドイッチ、頂きな。…きのっち、見た?あれ?瞬間移動だろ?」
「見た。ガチ瞬間移動。どうやってやるの?」
「移動場所に体を飛ばすイメージをしたら出来ます。」
舞が言うと木元さんの横に瞬間移動した。
木元さんはそれを見ると舞に抱きついた。
「凄い!やばい!本物!ちゃんと形ある!」
「あっ!レナ!ずるい!舞!こっち来い!」
「うっ。木元殿、すまない。ちょっと井川殿の方に移動する。」
舞は暫くして井川さんの方に瞬間移動した。
「っ!やばい!捕まれて瞬間移動した!」
「あっ!来た!…マジだ!本当に人を触っている感じ!」
舞は井川さんに抱きつかれて少し照れていた。
「…朱馬君や鈴音さんは瞬間移動出来るの?」
「舞より早く出来ないけど、俺も出来るよ?」
「私も。」
朱馬は火で体が燃えると消えて、井川さんの方に火を出しながら出た。
鈴音は朱馬より早く、水で体が消えると木元さんの方に水を出しながら出た。
「…あっ!熱くない!」
「こっちは濡れてない!」
朱馬と鈴音は井川さんと木元さんに触られてやはり恥ずかしそうにした。
その間に舞はサンドイッチを食べていた。
双葉達四人は遅めに教室に帰ってきた。
「…帰って来るの遅かったな?何かあったのか?」
其田君は四人に聞いた。
「いやぁ!べっつにぃー!」
「ちょっとねぇー!」
井川さんと木元さんの機嫌はかなり良かった。
間違いなく、何かあったのは分かった。
「…林田さんから聞きましたが、そんなに鬼は凄かったのですか?」
東野さんは聞いた。
「あれ?誠義君は知っていたの?」
「あぁ。蒼真から舞が井川さんに昨日刀を振った件を謝るって聞いたから教室で弁当食べていた時に皆に言ったぞ?俺が舞を教育していたからって。」
それを聞くと井川さんと木元さんが目を輝かせた。
「火と水の鬼も瞬間移動出来るんだよ!」
「しかも燃えたり、水出して移動するのに熱かったり、濡れたりしてないの!やばくない!?角も触った!ガチで頭から出てるの!」
二人は嬉しそうに言った。
「はあっ!俺がいなくなってからそんな事あったのかよっ!」
「其田がいたら鈴音を触って頬を叩かれるみたいだからな。帰らせた。」
「…聞きましたわよ。女の子なのに抱きついて叩かれるから其田さんは先に帰って来ると。林田さんから。」
「鬼の力だと、控えめでも叩かれたら歯が吹き飛ぶそうですよ。月ヶ宮さんの対応に問題はなかったです。」
其田君は金川さんや東野さんからこてんぱんに言われた。
「…くぅっ!くノ一の鬼見たかったな…」
其田君が言うと双葉は翼の事を思い出す。
「…そういえば、九尾の狐の人にも出逢ったけど、その人凄かった。何人もかなり遠くまで移動する空間出すの。確か◯◯県。」
「~っ!中村さん!ここから二つ先よ!」
「九尾の狐!いるんですか!」
「うん。一昨日、従姉妹の姉さんと一緒に。…病院で働いているお医者さんの鬼の男の人と人間の看護婦さんの奥さんもいたかな?後は姉さんと友達の鬼の人が二人。」
双葉の発言に金川さんは更に頭を抱えた。が、井川さんだけでなく、木元さんの様子から実際に鬼と出逢ったのは間違いない。
東野さんは九尾の狐に興味がかなりあった。
伝承では悪い狐としてあるが、双葉の話の感じでは普通に会話が出来ている。
丁度予鈴が鳴り、教師が入って来た。
放課後になった。
「俺達三人は先に帰る。また後でな、其田。」
「…お、おぅ。」
「其田君、また後でね。」
誠義や双葉は其田に声を掛けて帰った。
「…其田、朝は悪ふざけ入っていたけどよ。言っとく!悪鬼はやばいから気を付けろ!ガチで刀で殺そうとして来る!後、体は勝手に動くが意思はあるみたいでよ、私の幻影を刀で刺した時に鬼の手が震えていたんだ。鬼達に悪気ないから。悪鬼が元に戻ったら頭下げて謝ってきた。…まあ一歩間違えば死ぬからふざけんなって思うけど、あの三人がお前を守るから、悪鬼の鬼を悪く思わないでくれ。」
井川さんは真剣な顔をして其田君に言った。
「…分かった。じゃあ、祝日あるから火曜日な。」
其田君は教室を出て帰った。
「…井川さんが必死に語るなんて、余程何かあるのね。昨日の今日なのに。」
金川さんが言うと井川さんはスマートフォンの写真を見せた。
そこには角が生えた鬼の少年と二人の鬼の少女が恥ずかしそうにしながら写っていた。
「…私達より年下…ですか?」
「今日の鬼は分からないけど、今の所な。こいつらが震えながら其田に刀向けるんだ。いや、人間によ。中村達はそれを止めたいんだ。三人に私は助けられた。だから、信用している。あの三人はやる時はやるんだ。」
東野さんに井川さんは真剣に話した。
「…良く分かりましたわ。…ところで、その写真は食堂ね?そんな人が多い所でそんな写真を撮っていらしたの?」
金川さんは少し怖そうに笑いながら言った。
「…僕、食堂にいたけど中村さん達の様子がおかしかったです。全く動かないんです。全然食べ物食べてなくて、気がついたら空っぽの食器運んでました。」
根綱信正が言って金川さんは頭を抱えた。
「…っ!中村さんか、月ヶ宮さんか、分からないけど全然隠しきれてなくてよっ!」
「でもさ、この三人カッコ良かったよ!すずと食堂行って良かった!」
「これは永久保存版ですね。羨ましいです。
」
木元さんは東野さんに嬉しそうに話した。
「…双葉、明日の買い物は今日でも良いよな?其田の件が終わったら誠義と三人で行くぞ?」
「え?明日は買い物に行かない方がいいの?」
「黒澤さんが双葉と小学生の時に同級生だった子を連れて来るみたいだぞ?確か黒澤さんは何人か鬼の石があるんだろ?」
蒼真と誠義が言って、蒼真が朱馬、鈴音、舞にサンドイッチを食べさせた意味が分かった。
「そういう事ね。三人にサンドイッチを食べさせた理由。」
「あぁ。約束破るの嫌だろ?」
蒼真の言葉で双葉が昔の母親とのやり取りを思い出す。
小学生の頃、誕生日に家に帰って来てほしいと母親に頼んで、適当に返事をされて、当日、家に母親は帰って来なかった。
父親と二人きりの誕生日、日にちが変わるまで起きていて、帰って来なかったから寝た。
朝に父親に聞くと帰って来たけど、また仕事で出掛けたと言われた。
…父親の優しい嘘。でも、双葉はその日母親が帰っていないと知っている。
思えば、幼稚園の頃から誕生日に適当にプリンを出されて家を出ていった気がする。
ケーキを知ったのは小学生の頃。
「…大丈夫だ、双葉。今年の誕生日は一緒にいるよ。」
誠義が言った。そして、誠義と蒼真が双葉を抱くと双葉は泣いた。
「…ごめん。」
「謝らなくていい。双葉は悪くない。」
蒼真が言った。
中学になって父親の前で母親は言った。
「双葉、もう中学生になったからお父さんに誕生日に仕事休んでとか、何かしてとか甘えた事を言わないでよ。あんたの教育費にいくらお金かかっているか分かってるの?
…お父さんもしっかり働いてきなさいよ。」
双葉は何も言えなかった。ただ、双葉の教育費を払っているのは父親。
食事代も生活費も払うのは父親。
何で怒られないといけないか分からなかった。
双葉の家まで蒼真も来てくれた。
「双葉、すぐに来るからな?」
「じゃあまた後で。」
蒼真と誠義は双葉の頭を撫でると消えた。
鬼に変身して帰ったのだろう。
双葉は家に帰ったが、少し嬉しかった。
蒼真と誠義と一緒にいる時間が増えて嬉しかった。
双葉は家に帰ると着替えて、買い物に使うお金を財布に入れて家を出た。
家の前には蒼真と誠義が待っていた。
「お待たせ。…少し待っていた?」
「いや、丁度来た所だ。」
「俺も。じゃあ、昨日の続きをしようか?」
蒼真と誠義は昨日と同じように双葉を抱きしめた。
二人の大きな手で背中を擦ってもらうと安心する。
双葉の腕は二人の大きな背中にやっと届く位だったが、二人の背中を擦った。
暫くすると蒼真のスマートフォンからアラームがなった。
「…時間か。今日は少し地面が泥で滑りやすいから気をつけるんだぞ?双葉。」
「うん。」
返事を聞くと蒼真は双葉を抱き上げて走り出した。
今日は南東側。そこには大きな広場があった。
広場に着くと其田君がカメラを置いてバク宙をしていた。
蒼真や誠義は其田君の目の前に行くと双葉を降ろして空間分離の術を解いた。
「…おわっ!…お前達か。ビックリした。…って事は今から妖怪が出るのか?」
「あぁ。今から泥の迷路になるからカメラを持った方がいいぞ。」
誠義に言われると其田君は慌ててカメラを持った。初めは三人の話を疑っていたが、いきなり現れた誠義と蒼真は頭から二本の角を生やした鬼の姿だった。
暫くすると草の蔓が大量に伸びながら泥に包まれた。
蒼真が掌から月の光を出すと天井が出来ていた。
広場は暗い湿った泥の通路に変わった。
「地面が結構泥で滑りやすくなってる。其田君、気をつけて。」
「…マジかよ。ホラーゲームに出るようなダンジョンじゃん。」
四人は前方を歩くと四足歩行の生き物がこちらに歩いて来た。
「?犬か?でも体が泥で出来ているな?」
「其田、下がっていろ。あいつらは頭が割れて硫酸を飛ばしてくる。」
蒼真が言うと生き物は走りながら頭の部分が割れて液体を撒き散らした。
双葉は敵の足元から草の蔓を出したが、硫酸で蔓は溶けた。
「…え?土の怪物に草はダメなの?」
「弱いものと耐性があるものがいるんだ。水に火爪さんが火の術で抵抗出来たのと一緒だ」
蒼真が月の光の閃光で敵を倒した。
「気をつけろよ。あれは子供だからな。親がいる。」
誠義が言うと左右の穴から壁を破壊しながら大きな生き物が現れた。
サイズは大きなコンテナ位あった。
「!でけぇよ!ボスクラスじゃん!」
双葉の水の石が輝いた。
「水の術がいいのかな?」
双葉は土の怪物を水のブロックの中に閉じ込めた。
怪物は激しく体を動かしたが全く動けなかった。
「いいぞ。双葉。倒す必要はない。行くぞ。」
蒼真に言われて四人は先を進んだ。
先を進むと扉位の穴があるが、その先に何かがいる気配を感じた。
「…次は何がいるんだよ。」
「天井に人型の敵がいる。誠義、壁を壊せ。」
「あぁ。」
誠義が緑色の光の玉を放つと壁が壊れて、天井に逆さになった人間がいた。
姿は人間だが、白目でまるで死人のようだ。
「気持ち悪いなっ!九人位かっ!」
「不意打ちされずに倒せば問題ない。双葉、あいつらを倒すから後ろは水で足止めしてくれ。」
蒼真が光を双葉の元に浮かべて逆さ人を誠義と倒しに行った。
「…中村。後ろから敵が来るって月ヶ宮言っただろ。俺だと絶対やられるから頼んだぞ。」
「…うん。」
二人が振り返るとふわふわと光る宝石の妖精がいた。
「…え。可愛いじゃん。可愛い妖精。」
其田君は可愛い妖精を見て嬉しそうにした。
「…誘惑ね。其田君には可愛く見えるの?私には目が黒い怪物に見えるよ。」
双葉が其田君に腕を広げて行かせないようにした。
「…え?マジ?」
其田君が言うと妖精はニヤリと薄気味悪く笑うと四個の大きな槍を斜めに出した目の黒い醜い小人になった。
「…やべぇっ!全部気持ち悪い化け物じゃん!」
双葉はまた水の塊で小人を包むと槍を激しく振り回した。
その後ろから大きな四足歩行の怪物が来たが、小人の槍で体が傷つくとお互い争い始めた。
「二人共、前方は終わった。先に進むぞ。」
蒼真に言われて双葉と其田君は前に早歩きした。
「お前達すげぇな。つか、井川の時よりやべえ敵ばかりだろ。」
「安心しろ、明日の東野よりまだマシだ。精神錯乱系が出るからな。」
「はあっ!?あいつも巻き込まれるのかよ!」
「明日は雷の鬼だ。俺は月の鬼だから多少の未来は分かる。」
「うへぇ。東野は運動神経悪そうだから不安だな。」
其田君と蒼真が話していると、広場に出て橙色の長髪の鬼の少年がいた。
「…鐵広だな。」
「なら用心しないとな。あいつは罠を使うのが得意だ。」
誠義と蒼真の会話で双葉は広場の罠を関知しようとした。
「…かなりあるね。天井にいくつか泥が落ちるようになってる。床は深い泥の沼。其田君はちょっと離れていて。」
「おぅっ!」
其田君が離れると天井から泥が何ヵ所か大量に落ちた。
鐵広が腕を振るとそれに合わせて泥も刃の形に飛んだ。
蒼真が鐵広に近づいて刀を振るが切り口から泥の塊が出た。
「っ!偽物!?」
其田君が焦った表情で言ったが、誠義が蒼真の後ろで刀を振ると本当の鐵広が現れて怯んでいた。
「さっきの妖精、姿が違って見えたでしょ?其田君。もしかして、土の鬼って幻影見せるのが得意かも?」
「そういう事だ、双葉。二人共よく回りを見ろ。土煙が動く場所がある。」
誠義に言われて其田君がよく見ると土煙が動く場所があった。
「っ!中村!お前の左だ!鬼がいるぞ!」
双葉の頭が左を向くと双葉の首が刀で斬られた。
双葉の頭が取れると勢いよく双葉の体から水が爆発した。
鐵広はびしょ濡れでビクビクと痙攣していた。
「…うーん。危なかったね?」
双葉は其田君の横に姿を表した。
「…っ!お…お前ーっ!中村!死んだかと思ったぞっ!…っ!これか!井川が死んでいたかもって言ってたの!」
「うん。ごめんね、火の力と水の力で偽物作ったの。私って罠作るの得意なの」
鐵広は双葉の方に刀を向けたが、その手は震えており、表情は怯えていた。
「…井川が俺に悪鬼を悪く思わないでくれって言ってたけど、表情見たら分かるな。あの鐵広って鬼、中村を殺したかもと思って怯えている。怖がってる顔している。井川が必死に言うよな。…林田、月ヶ宮、いけるか?」
『あぁ!』
鐵広は泥の刃を飛ばしながら刀を振った。
誠義と蒼真は泥の刃を防ぎながら鐵広と戦った。
双葉は天井に向かって掌を伸ばした。
泥の天井の蔦が広がり、泥が落ちるのを防いでいった。
やがて、鐵広の刀が弾かれて飛んだ。
誠義と蒼真が斬りつけると鐵広は双葉達の方に顔を向けた。
鐵広の黒色の目が元に戻ると笑顔を見せて茶色の石になった。
「…中村。あの鬼は死んだのか?」
其田君が双葉に聞いた。
「…不思議だよね。あんなに傷つけると普通は殺してしまうかもって思うよね。でも、悪鬼になった鬼は倒されると石になる。この石にお供えをすると鐵広君は鬼の姿で一時的に現れる事が出来るの。」
「…そうか。良かったな。鐵広。」
双葉が茶色の石を拾うと泥の迷路は塵になっていった。
「…其田君。鐵広君はまだ石になったばかりだから姿を現せないけど、今度学校に行った時になったら其田君に今日の事で謝ると思うの。逢ってくれる?」
「その時は一緒に写真撮らせてくれよ。今度は暴れないんだろ?」
「うん。」
双葉に言われると其田君は嬉しそうにした。
「あー!火曜日は楽しみにするか!…と、その前に…」
其田君は双葉にカメラを渡して誠義と蒼真の間に入る。
「…まあやるのは分かっていたけどな。」
「あんまり双葉をこき使うなよ。」
「いいじゃん?中村!使い方分かるよな!何枚か写真撮ってくれ!」
蒼真は良いが、誠義は少し呆れていた。
双葉は何枚か写真を撮ってカメラを其田君に渡した。
「へへっ!林田も月ヶ宮もカッコ良く写ってるじゃん!やっぱり本物の鬼がいたら写真撮らないとなっ!…じゃあ、そろそろ家に帰る!今日はありがとなっ!」
其田君は双葉達に言うと嬉しそうに走って帰って行った。
其田君と別れた後、朱馬、鈴音、舞を鬼の石から出すと六人で双葉の家の食材を買いに行った。
朱馬達は現在の食品店が珍しいので目を輝かせた。
山育ちだし、昔の町にこんなに食品を売っている店はないので当然だろう。
「今って野菜も切って売っているから洗って炒めたらすぐに野菜炒め出来るの。果物も切って売ってるからね。」
「今日の双葉の夕食、野菜炒めと麻婆豆腐と餃子だろ?」
誠義が餃子を、蒼真が豆腐と麻婆豆腐の素を持って来る。
「二人がいると買い物早く終わるから助かる。」
双葉が支払いを終えて商品を袋に入れていると蒼真が袋を持ってきた。
「中にプリンやヨーグルトが入っているから鬼達と食べてくれ。」
「あっ、ありがとう。蒼真。って、お金、大丈夫?」
「まあ、いろいろあってかなり金はある。」
蒼真は目を反らしていう。
絶対何かしている。
双葉の家に帰ると蒼真と誠義は双葉の頬を触って帰った。
たぶん荷物を持っていたから気を使ったのだろう。
双葉は家に帰ると鬼達と料理を作った。
そして、茶色の石を出すと鐵広が出た。
「…ここは?」
「ここは私の住んでいる家。今から皆で夕御飯作ったから一緒に食べようか?」
朱馬達は大分慣れたようだが、やはり鐵広の初めての現在の食事は嬉しかったようで泣きながら食べていた。
その後、食器洗いを双葉、鈴音、舞でやって朱馬は鐵広に教えていた。
鬼達が石に戻ると双葉はシャワーを浴びて、宿題を終わらせた。
夜に寝る前に雫から電話があった。
「…もしもし?ふたちゃん?雫だけど、明日の朝予定空いてる?」
「うん。小学校の時のクラスの子を連れて遊びに来るんでしょ?蒼真から聞いたよ。」
「佐藤君と武山君と篠崎さん。野外活動の時一緒だったでしょ?逢いたいって。後、明日私のお母さんが天ぷらと栗おこわ作るから持って行くね。」
「いつもありがとう。昨日風のくノ一の舞さんで、今日は土の鐵広君を元に戻したの。明日は雷の鬼だから頑張る。」
「順調だね。…五人目なら、善鬼化出来るかもね?鬼の力を強くするの。…また話せなくならないといいけど。」
「…大丈夫だと思う。誠義君や蒼真君と大分親しくなれたから。」
「…分かったよ。でも気をつけてね。明日家を出る時に連絡するね。10時位。」
「うん。また明日ね。」
双葉を電話を切ると布団の中に入った。
双葉が最後に食べたのは幼稚園の時に結花の母親が作ったカレーライス。
あの味を双葉はもう覚えていない。
今回は学校のイベントが大きくなりすぎました。
まあ、楽しかったから良しとしましょう。
双葉にはまだ母との溝が出てきたりします。
仕方ないですね。
すぐに変わりません。
が、誠義や蒼真の優しさや、悪鬼との戦いは双葉の心を動かしているかなと思います。
今回はサブキャラクターも悪鬼の戦いにまきこまれて、何か考えさせられるのかもしれません。
次に悪鬼に遭遇するのは東野杏璃。
彼女は何を感じるのでしょうか。
次回に続け。