鬼人達の宴碧 第一章 言葉のない声
今回の鬼人達の宴碧は第一章からいろんな人との展開があるなと思いました。
まあネタばれになるといけないのでここまで。
誤字、脱字があったらすみません。
火の妖怪がいる空間に入りこんだ双葉達。そこで鬼に変身した誠義と蒼真は人間の言葉が話せなくなっていた。
「…要や透は林田君と月ヶ宮君の言葉が分かるみたいだから、何かあったら林田君と月ヶ宮君は二人の近くで話して。」
「ガアッ…。」
「…分かった。かな。」
雫が言うと誠義が獣のような声を出して、要が言った。
「…しずちゃん。私、早く元の場所に帰りたい。」
「うん。行こう。」
雫が双葉の手を握ると表情が曇った。
「…？雫？どうかしたの？」
「…うん。ちょっと、ね？」
雫は透に何かあるけど、少し待ってほしいように言った。
「…実は今日の事はクラスメイトは知っているの。ふたちゃんと同じクラスだった佐藤君や武山君や篠崎さんも同じ高校。」
「…懐かしいな。野外活動一緒だったな。」
「…私、知らなかった。ふたちゃん、料理上手だったけど、日頃からやってたんだね。」
双葉はビクッとした。勘が良い要は分かった。
「…ふたちゃん、あのね、月の力って未来が分かるの。…紫織さんって言う看護師さんの旦那さんが月の鬼なの。未来を見ながら、病気の人を治している鬼。…月ヶ宮君は月の鬼。私も、月の石を持っていて、この中に星谷君がいるの。」
雫は上を見ながら涙を流した。
透はまだ分かっていなかったが、何かある事は分かった。
「…いつか、林田君はその先を知ると思う。月ヶ宮君は、もう鬼になったから分かったよね？ふたちゃん、今から、我慢しなくていいから。」
雫は双葉の背中を擦りながら言った。
「…うん。」
双葉はポタポタ涙を溢していた。
やがて円の形に炎を出す獣が現れた。
「…知っている。火車ね。本来は遺体を奪う妖怪だけど、私達が狙いみたい。…さてと、ふたちゃんはちょっと怖いかも知れないけど、術を使う練習しよう？要とは一緒だった時があるからいける。要の水の力でアイツの足元から吹き上げるイメージをして。」
「…うん。」
双葉が意識を集中して水の術を使うと火車の足元から水の槍が出た。
「…ふたちゃんは特殊な攻撃型みたい。威力は強くないけど、トラップタイプの術が得意みたい。応用で、月ヶ宮君の月の力で回復する場を円の形に地面に作るイメージをして。」
雫に言われて双葉がすると銀色の円が出てきた。
「…あっ！スゴい！体が回復する感じがする！」
透が嬉しそうに言った。
「うん。もちろんふたちゃんにも効果があるから。体調が悪い時は使うといいよ。林田君の木の力でも大丈夫かな。」
奥に行くと角が大きな赤色の短髪の少年がいた。
首輪とネックレスをして赤色のズボンだった。
「…林田君。知っている？」
「…ガウガッ」
「…朱馬君だって。」
雫が聞くと誠義が話し、それを透が訳した。
朱馬は真っ赤に燃えてこちらに体を向ける。
「…燃えながらの突撃ね。ビックリするけど、弱点があるの。」
雫は双葉に意識を向ける。
（ふたちゃん、あの人の弱点は地雷系の術を地面に設置して吹き飛ばして、林田君や月ヶ宮君に攻撃させるの。月の地雷を設置するの。やってみて？）
双葉が朱馬がやって来そうな位置に月の地雷を設置する。
知らない朱馬は勢いよく向かってきた。
ドォンッ！
朱馬の足元が爆発して、朱馬は真上に飛んで地面に落ちた。
「い…いいの？林田君、蒼真君。あの子を攻撃して。」
誠義と蒼真は刀を出して朱馬を斬った。
だが、朱馬は体を炎に変えて離れた。
「ウォオオッ！」
朱馬は雄叫びを上げて傷を回復させた。
「効果はあるけど、後二回ね。力を失うと朱馬君は石になるの。今の朱馬君は目が黒色でしょ。あれは悪鬼の証。倒した後にお供えをしたら普通の鬼になるの。…私が元に戻した鬼、見せてあげる。」
雫が茶色の石を出すと土鬼の大地が出た。
「…雫姉さん。仕事だね？…あっ！初めまして！土鬼の大地です！ハンバーグが好きなんだ！」
大地は嬉しそうに言った。
その姿に双葉は驚いていた。
雫は大地が嬉しそうに食べ物の話をしたので笑った。
「…後は善鬼化。ある程度の鬼の石の力が集まって絆が深まると強化出来るの。要、透、大地、善鬼化して。」
「ウォオオオオッ！」
三人は彷徨を上げて善鬼に変身した。
それを朱馬が見ると体から炎の柱を出し、それを横に伸ばして炎の壁を作って、前方に放った。
「…攻撃パターンを変えたみたいね？大地君、土の術で壁を壊して、透と要は隙が出来たら攻撃して。」
大地の頭上に大きな岩が無数に出ると炎の壁に穴があいた。
そこからこちらにゆっくり歩いてくる朱馬が見えた。
透は朱馬の後ろに瞬間移動するように現れて、刀に風の力を宿して吹き飛ばした。
そこを要が水は力を宿して斬りつけた。
朱馬の斬られた部分から黒色の煙が出た。
だが、朱馬は立ち上がり彷徨をあげた。
「火の鬼は火爪さんや彩夏ちゃんを見たけど、朱馬さんは二人よりかなり耐久力があるみたい。…でも、ふたちゃん、分かる？朱馬さんは結構ダメージを受けているのにあの黒色の煙、悪鬼の力で動かされているの。…完全に悪鬼の力を祓うには、ふたちゃんの力を林田さんや月ヶ宮さんに宿さないといけない。」
雫に言われたが、双葉はまだ朱馬をこのまま倒していいか迷っていた。
朱馬は双葉に刀を向けてきた。刀はカタカタと震え、朱馬の黒色の瞳から涙が流れると頬から火が出た。
その表情は悲しそうだった。
「…うん。やらなきゃ、朱馬君は苦しんでいるんだよね。私、やる。…誠義君、蒼真君。…朱馬君を助けるよ。」
朱馬は左右に飛んだ。その時に朱馬の姿が残り、複数の朱馬が現れた。
「…っ！どれが本物！？…最後の方！？」
「…ううん。違うみたい。私が援護するから、本物は月の力で捕まえて。」
雫は水の巫女の姿になると左側と真ん中の朱馬に水の槍を放った。
槍を受けた朱馬は拡散して消えた。
「右が本物の朱馬君ね！」
双葉が朱馬に意識を集中すると手足や体に金色の鎖が巻きついた。
朱馬はもがいて刀を落とした。
「誠義君！蒼真君！お願い！」
双葉が言うと二人は刀で朱馬を斬った。
朱馬から黒色の煙が勢いよく出ると塵になって、赤色の石が落ちた。
「…しずちゃん、これ…。」
「…朱馬君の火の石。これに食べ物をお供えしたら、朱馬君が力を戻して鬼の姿で現れると思う。きっと他にも悪鬼になって、制御が出来なくて暴れる鬼が現れると思う。皆で助けてあげて。朱馬君もふたちゃんの力になってくれるから。」
「…うん。」
周りに生えた不自然な草は枯れてきて、誠義や蒼真は元の人間に戻った。
「大地君、ありがとう。後で一緒に夕ご飯食べようね？」
「うん！」
雫が大地を抱きしめると嬉しそうにして元の茶色の石に戻った。
「っ！やっと話せるようになった！」
「…話せないと不便だな。」
誠義と蒼真は元の人間の姿になったので人間の言葉を話せるようになった。
「…良かった。」
双葉が安心している時に蒼真が近づいた。
「…双葉。まだ、心配かけるが俺と誠義と二人で双葉を守るからな。悲しくなったら、素直に泣いていい。双葉は我慢しなくていいからな。」
双葉は少し蒼真の言葉を理解した。誠義は初めはよく分からなかったが、なんとなく双葉は何かを隠していて辛い思いをしているのが分かった。
「…双葉。辛い事があるのか？…大丈夫だ。俺達がいる。」
二人は双葉の頭を撫でた。
「…うん！」
双葉は泣き出した。それをしばらく雫達は見守った。
「…ふたちゃん、そろそろ私達は帰るね？…明日は、結花さんも来るみたい。ちょっと、林田君と蒼真君の鬼の時の症状は鬼の月詠先生に見て貰った方がいいから明日来てもらうように頼んでおく。…その前に電話番号の登録、してもいい？林田さんや月ヶ宮さんも。」
「…結花姉さん。久しぶりだな。電話番号、教えてなかったね。いいよ。」
雫達は三人と電話番号の登録をしていた。
「何かあったら、連絡してね？力になるから。」
「…うん。今日はありがとう。」
「…じゃあ、またね。」
雫が言うと三人は姿を消した。そして何かが走っていった。
「…じゃあ、私達も帰ろうか？誠義君、蒼真君。」
「ああ。」
三人は家の方に歩いて行った。
雫は行きは透、帰りは要に背負って貰ったが、途中で泣き出した為二人は足を止めた。
「…雫。俺、途中までは双葉が一人で夕飯作っているまでは分かった。」
「…そういう事なんだ！料理が出来るって！確か双葉ちゃんのお父さんとお母さんは二人共働いていたよね！」
「林田さんがその先を知るって言ってたけど、詳しく教えてくれ。」
要は雫に言った。心配なのだろう。
「…まず、今のふたちゃんはお父さんとお母さんが離婚してお父さんと一緒に住んでいる事は今の友達は知っているみたい。」
「え！そんな事があったの！」
透は驚いていた。
「…でも、ふたちゃんは日頃からお母さんに何もされなかったみたい。お母さんは休みの時は出掛けていたみたい。…そして知らない男の人と遊んでいた。離婚してからもいろんな男の人と遊んでいた。…それをネットでふたちゃんが知った。それでふたちゃんはショックだったけど、誰にも相談出来なくて隠していたの。」
「さすがに酷すぎるな！雫が泣いていたのはその事か。」
「…鬼が人間の言葉を話せない理由も本当は私、知っているの。林田さんと月ヶ宮さんの鬼の力が強すぎるから鬼の石を二個以上集めないとダメ。…でも、ふたちゃんのカウンセリングが必要だからわざと言ったの。」
「…本当にお医者さんに見てもらう必要があるのは双葉ちゃんなんだね。」
「…うん。これで大丈夫だと思う。…でも、もう少し早めに気がついてあげれたら良かった。月の石だけだと力が強くないからあんまり遠くの未来が分からないの。」
「鬼の力で双葉の所まで行けるから、また行きたい時があったら言ってくれ。」
「うん。」
雫が言うと要と透は雫の頭を撫でた。
暫くして要は雫を背負って、透と共に走った。
「…じゃあまた明日。雫。」
「…雫。寂しくなったら、僕でも要でも良いから電話してね。」
「うん。また明日ね。」
雫は二人に別れの挨拶をして家に帰った。
「おかえり、雫。どうだった？双葉ちゃん？」
「…最悪だった。鬼の人は変身しても、鬼の石が二個無いと人間の言葉が話せない。けど、ふたちゃん、カウンセリングが必要。こっちの方が重要。」
「…何があったの？」
「…ふたちゃんのお母さん、ネグレクトだったみたい。それだけじゃなくて、休みの時はいろんな男の人と遊んでいたみたい。ネットで投稿したのをふたちゃんが見て、病んでいるみたい。」
「…何、それ？双葉ちゃんのお父さんは知っているの？」
「…ふたちゃんの事は知らない。けど、奥さんが男遊びしていたのは知っていたみたい。ふたちゃんが高校に入って奥さんから離婚したいって言われた時はすぐに離婚届け書いたみたい。」
「…今度、双葉ちゃんがいいって言うなら、お母さんが何か料理作るから持って行ってあげなさい。」
「…うん。」
雫は頷くとお風呂に入った。
その日の夕飯はコロッケと白身魚のフライとトンカツに栗ご飯だった。
『お母さん、いただきます。』
その日の鬼達は少し大人しかった。
料理を作って貰うのが当たり前ではないと知ったからだ。
「…明日は誰か双葉ちゃんの所に行くの？」
「…月詠さん夫婦と、市村さんと火爪さんと五十嵐さんと結花さん。」
「…もし良かったら、明日。うちに寄って貰うようにお願いしていい？」
「…うん。」
「…雫のお母さん。いつもありがとう。」
大地が雫の母に言う。他の鬼の皆も少し真剣な顔だった。
「明日は肉じゃがと稲荷寿司よ。うちも双葉ちゃんも一緒だからね？」
「…うん。」
雫の母は鬼達の頭を撫でたり、背中を擦って鬼は元に戻った。
最後に抱きついたのは雫だった。
「…双葉ちゃんも、いろんな鬼と仲良くなれるわよ。」
「…うん。」
その後、雫の電話に紫織から電話があった。
「…もしもし？黒澤さん？紫織です。夕食が終わったと思うから電話しました。…明日の双葉さんの件、全部達弥や私は理解したから大丈夫よ。雫さんの家は皆行くみたい。…双葉さんはこれから逢う鬼達が支えるみたい。心配しないで？」
「…双葉ちゃん、かなり傷ついていたのが分かったんです。よろしくお願いします。」
「うん。黒澤さんは心配しないで。」
「…はい。」
宿題を終えて、寝る時に木鬼の優花が出てきた。
「…優花。どうしたの？」
「私、気分が落ち着く香り出せるからさ。さっき鬼の先生が雫姉様にするように念で私に知らせていたからさ。双葉って子は鬼の朱馬が側にいるから大丈夫って。」
「…良かった。」
そう言うと雫は眠った。
「…姉様。いつもありがとう。」
優花は雫の頬に触れた。
時間を巻き戻して、双葉の夕食は冷凍のハンバーグの惣菜セットを解凍して、ご飯と味噌汁を用意した。
（…お供えって。こんなのでもいいの？）
赤色の石を置くと朱馬が現れた。
「…ここは？」
「…私の家。…ごめんね？お供えしたら良いって言われて、やったの。ちょっと待ってね。ご飯と味噌汁追加してくるから。」
双葉はご飯と味噌汁を用意した。
量が少なくなるのでミートボールもレンジで加熱調理した。
「…手抜き料理ばかりだけど、良かったら食べて？」
「うん。」
朱馬がミートボールを食べた。
「…美味しい。食べ物食べるの久しぶりだ。」
「…良かった。ご飯はあるから、おかわりいるなら言ってね？」
双葉は久しぶりに平日誰かと夕食を食べた。
「ごちそうさま。…えっと、俺は朱馬。お姉さんは…？」
「双葉。中村双葉。…友達がこれからいろんな悪鬼に逢うから、朱馬君に助けて貰ってって言ってたの。…でも、私、自信ないからちょっと不安…。」
「…俺もちょっと自信ない。悪鬼の時に最後は意識あったんだ。自分の力を抑えれなかった。刀を双葉姉さんに向けた時、怖かった。なんで何も武器を持っていない人を斬ろうとしているんだろうって。でも…破壊衝動が止まらなかったんだ。」
双葉は朱馬が刀を震わせながら泣いていた事を思い出す。
「…うん。やっぱり、悪鬼になった人を助けないと。…これから一緒にいてくれる？」
「うん。…俺、頑張るよ。」
朱馬は双葉に近づくと優しく抱き寄せた。
「…双葉姉さん。これから一緒だよ。」
「…うん。」
双葉は泣き出した。その間、朱馬は双葉を抱いていた。
双葉が落ち着くと双葉と向かい合った。
「…まだ長く実体化出来ないみたいだ。また力が戻ったら実体化するよ。だから、心配しないでくれ。」
「うん、ありがとう。」
朱馬は双葉の頬に手を置いて暫くすると赤色の石に戻った。
双葉に新しい弟のような鬼が出来た。
赤色の髪に、赤色の目、でも優しい笑顔を双葉に見せた。
たぶん雫と違って、双葉は鬼の石達との交流が深くなると思います。
いろんな人や鬼との展開があるのが碧かと思います。
次は朱のメンバーの再登場です。
次回に続け。
