古書と、雑貨と、依頼。
遠い、遠い、昔の話。
1人の少女が起こした無差別殺人事件。
その規模は日本だけでは留まらず、世界中に被害が及んだ。
ある人は刃物で、ある人は薬品で、ある人は火炙りに
地球上の約三分の二もの人々が少女によって惨殺された。
それから2年後、その時代の人々にしたら奇妙な髪色をした女性によって殺人事件は幕を閉じ、歴史の闇に葬られた。
誰もが「終わった」と思っていた。
終わっていた筈だった。
通常なら
無差別殺人事件を起こした
その少女の名は─────
東京都千代田区神田神保町。多くの大学が立地しており、個性的な飲食店が多く学生や仕事人からは愛される街だ。そして「本の街」と呼ばれている。だからか、街中を歩いていると古書店や古本屋等を多く見かける。
そんな特徴的な街の中で、目立たず、飾らず、数少ない人しか知らないような店があった。
「慎樹雑貨古書店」
その店は雑貨屋でもあり、古書店でもある。少し珍しい特徴を持った店だが、年配の方々や文学について研究している学生、古書を目的とした人々にとっては非常に合った書店である。また、アンティーク雑貨やインテリア雑貨、服飾雑貨等も扱っている為、雑貨コレクターには大変人気な店でもある。
そんな店で働いている男性、旭川暢喜は現在、とんでもないミスを犯して先輩である桜井凛に死ぬ程笑われていた。
「ヒーッアッハハハハハハハ!馬鹿すぎんだろお前…ブフッ…!」
目の前にいる桜井は椅子に座ったまま腹を抱えて笑っている。
それに結構腹が立って
「ぅるっせー!別にいいだろ間違えたって!(?)俺だって人間だ!」
と意味の無く、訳の分からない反論をしてしまう。
「だからと言って200冊発注予定の本を2000冊も誤発注する奴はそうそういねぇだろ…!」
当たり前だが、ごもっともな正論を返されてしまった。
桜井凛は、慎樹雑貨古書店の従業員であり、俺の先輩でもある。基本的な作業はミスなくこなせ、店の紅一点。研ぎ澄まされた頭脳の持ち主でありながら性格が少し残念な女性だ。
こんな奴に笑われるのは本当にムカつく。
「うるせぇぞお前ら…」
「あっ!店長!」
息があってしまった。
「…阿吽の呼吸ってやつ?」
慎樹雑貨古書店の店長、川崎慎樹は女装趣味のある男性だ。常時煙草を吸っているが家事を起こした事は一度もない。(当たり前だが…)基本的に何を考えてるのかが分かりにくい顔と声をしている故、機嫌の良悪は本当に分からない。
「てんちょ〜う!聞いてくださいよーっ!」
「あっ!馬鹿お前っ!」
俺が必死に制止をかける中、
『…すいませーん!』
と声がした。その途端、桜井は人が変わったように態度が変わり声の方向に向かった。それに続くように俺も向かった。
「いらっしゃいませー!どうされましたか?」
『あの…この本の続編って置いてありますか…?』
「あー!はいはい、ございます!少々お待ち下さい!」
そう言うと桜井はバックヤードの方へ走っていった。その間、客と2人きりの状態は非常に気まずい。何か適当に、
「何の本をお探しだったのですか?」と聞いてみると、
『えっと…戀水翠さんの〈記憶の象徴〉っていう本です。』
…聞いた事がない。
『あっ…聞いた事ないですよね…結構マイナーな小説なので…』
「聞いた事ありますよ!面白いですよね、その本。」
桜井が戻ってきた。
「記憶の象徴、心理学者の主人公が記憶喪失になってしまった事をきっかけに、記憶を探しながら様々な考察と証明をするってのが大まかな話。
主人公が心理学者ってのもあって専門用語とかが多く出てくるけど感情の表現とか説明が凄い上手くて面白いよ。」
『…!そうなんです!主人公が記憶をなくした事による問題や困難が正確かつ分かりやすく表現されていると共に登場人物の表裏も奥深く書かれていて考えながら読むと本当に面白くて……!』
話についていけない。
桜井と客の話が予想以上に長引いてしまい、約40分後に本を買って帰って行った。
「……長ぇよ」
俺は小声で呟いたが、桜井に聞こえていた様で、
「別に良いでしょう?40分間だけでも、自分を理解してくれる人と話せただけで十分幸せだったと思うわよ?」
そう言われて(何言ってんだこいつ…)と思ってしまった自分はきっと人生において未熟者なのだろう。
そんな事を考えていると、急に大きな、女性の声が全員の耳に入ってきた。
『あの…!ここって便利屋さんですよね…!』
登場人物
・旭川暢喜
年齢 20歳
性別 男性
身長 162.4cm
特技 コインタワー作り
パーカー(チャック付き)にTシャツ、膝までのジーンズ姿。今はアルバイト。
・桜井凛
年齢 21歳
性別 女性
身長 179.8cm
特技 絵
基本的に無地のジャージ、黒のハイヒール姿。酒に強い。
・川崎慎樹
年齢 45歳
性別 男性
身長 192.1cm
特技 早口言葉
茶色のコートにタートルネック、ワイドパンツ、ポニテに大きな赤いリボン姿。女装は楽だが年齢的にもそろそろキツくなってきたと自覚している。