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自然界

踊り子の生涯。

私にとって


山とは。

木々があり、鳥たちのさえずりが、歌となって届く


風とは。

そよ風もあれば、何もかもを壊していく強い風が、音となって届く


海とは。

命を飲み込み奪う荒波もあれば、穏やかな波もあり、

舞台となって舞を披露させてくれる


太陽とは。

光となって照らし続け、ライトとなって届けてくれる


自然とは。

歌声、音、舞台、光の全てを届け、夢を与えてくれる



誰にも汚されたくない



大切な場所。




世の中の工業化が進む前。


知る人ぞ知る、一人の踊り子がいた

いつから、どこに存在し、どうやって生きてきたのか、誰も知らない

会えた時は幸運が来る前兆とも噂されていた

ある人は天使と呼び、ある人は精霊と呼ぶ


彼女はただひたすら、好きな場所で好きなように

時間に追われることなく、舞っていた。


人間が嫌いという話もよく聞く

そのため、会った時には命をとるという噂もあり、

人によって悪魔と呼ぶ人もいた。






今日も今日とて、私らしく踊る

何かに邪魔されることなく、好きなように。



悲しみを表現する時もあれば、

楽しいという気持ちを体いっぱいに表現する時もある

感情が無いわけではない。




人間に対して、嫌いというより、怖いという気持ちのほうが強い

何を考えているかが明白に伝わり、ほとんどが欲に溺れた眼をしている

同じ人間のはずなのに。

信頼出来るのは、自然、動物たち。そして、自分。




日が昇れば起きて、日が落ちれば寝る

そんな毎日。



四季で言う、秋冬は動物たちに囲まれながら暖を取り、

春夏は海に出て動物たちと戯れる

山々の季節感を感じ取りながら生活をし、山の神、海の神、地の神に感謝する




舞を繰り広げていると、優しい動物たちが見に来て、そっと見守っていてくれる


特に場所は選ばず、気まぐれに歩を進め、しっくりと来た場所で舞う


悪い知らせを届けてくれる時もあれば、良い知らせを届け、

時に綺麗な歌声を聞かせてくれる、鳥たち。

恐ろしい人間たちが近くに来た時に、いち早く教えてくれる、りす等の小動物。

人間たちから逃げるために手助けしてくれる、クマやシカ等の大型動物。



自分がなんのために産まれ、生きているのか。

いつ、誰の元に、産まれてきたのかもわからない


今自分が何歳なのかも。


気がついた時には、人里離れたこの場所が自分の居場所となっていた


だいたいの人は、目的をもって生きている

でも、自分には無いのか、はたまた見えていないだけなのか、

見出すことが出来なかった。



そして、

死後の世界のことは、考えたこともなかった。



日に日に舞っている時間が短くなり、どれだけ寝ても疲労が取れない

動物たちも心配して、寝ている時も誰かしらが傍にいてくれた


寿命が近いのか。


特に大きな病気にかかることも無く、いつも健康体だった

異変もなく、ただ疲労がたまる

ただ、ただそれだけ。


それでも、その異変が怖かった。

このまま、動物たちに看取られながら死に向かって行くのか。



もう少し、満喫したい



その感情だけが、ぐるぐると渦巻いた




とうとう体を動かすことが出来ず、ひたすら横になって時間が経つのを待った





いつもと違う音で目が覚めた。

人間たちが山を崩しに来たのだ


動物たちは慌て、動揺し、私を起こすことに必死になっていた。

風も荒れ、海も荒れた。


でも、私はもう動くことが出来ない

時間がどれだけ経ったかわからないが、感覚的には一年以上寝ている気がした

その為、歩く前に起き上がるための筋力が落ちてしまっていたのだ


人間に見つかって人里に連れていかされ、見せ物にされるが先か、

寿命が尽きるが先か。


せめて、育った場所でゆっくりと時間をかけて死に向かいたかった。


動物たちは言い争いを始め、とうとう殺し合いを始めた。

いつもは私が制していたが、そんな気力もなかった。





弱肉強食。





その言葉の通りの模様を初めて目にした。




その様子を横目に見ながら、天を仰いだ。


どうかこの争いがなくなることを祈りながら。



少しずつ、死に近づきゆっくりと目を閉じていると

人間たちの叫び声

クンクンっと鼻を鳴らし泣く小動物

いつの間にか怒りを人間たちに向け、吠え上げる大型動物


いつも大人しく、綺麗な歌声で歌っていた鳥たちの声は、

ピタリと無くなり聞こえなかった。




吠え上げていた声は悲鳴に変わりつつ、人間たちが有利になったのか、

悲痛な叫びを始めた。






私が寝ているところの入口に、人間らしき人が立っていた

どんな人なのかはわからない。

ただ、匂いがしない

鼻が効くことに自信があったのに、なにも感じない




誰。



いつも貴女の舞を見ていたものだ。



何しに来た。



信じられないと思うだろうが、楽にしてあげたく薬を持ってきた。



これで、死ぬのか

楽になるとはどういうことだ



死ねると思ったか。



なぜわかった。



貴女が考えることはなんでもわかる。



神のようなものなのか。



そうだ。



この世に神は存在しても、実物はしないと思っていたのだが。



正しくは神に仕えるものとでも言っておこう。



神に仕えるもの


なら、人間たちを静かにして欲しい。

静かに命にお別れを言いたい。



残念ながらそれは出来ない。



なぜ。



彼らは神のことを信じていない。

そして、貴女を助けるために神から命令されたのだ。



もう好きなようにしてくれ。



そうさせてもらう。

では、これを飲め。





謎の男に薬を飲まされ

目の前が真っ白になり、体が軽くなった





死んだのか。





さあ、もう一度。私の前で舞を披露してくれないかい。



誰だ。



そなたが信じている神だ。



失敬。ご無礼をお許しください。



謝罪はしなくて良い。さあ




私はもう一度舞を繰り広げた

すると、前より幾分か腕は落ちたが、久しぶりに気持ちよく踊れた


でも、違和感がある


目の前の白い世界は変わらず、目を開けているのか閉じているのかわからない

また、いつもいた動物たちの声が聞こえない


無音。




それでも、疲れを覚えずひたすら動き続けた


どれだけ踊ったかわからない


いつの間にか、生活していた場所が下に見えて



亡くなったはずの動物たちがいた




やはり死んだのか




ようこそ。死後の世界へ。



死後。



もうすぐ終わる。彼らもやってくるぞ。



終わる、彼らって。




来たぞ。




そこには、いつも一緒にいた動物たち

先に亡くなっていた動物たちと、楽しそうに再会の喜びを共有していた





嬉しくないのか。




嬉しい、けど


神といえど、はっきり言わせてもらうが、命を、死を軽く見てないか。



そうかもしれんな。

この世界はなんでも手に入る。作ることだって




なんでも、か。




ならば、今まで通りの生活がしたい。


大好きな自然の中で、大好きな動物たちに囲まれながら、

日が昇れば起きて、日が落ちれば寝る、そんな毎日。


そして、誰のためではなく、自分の為に生きて、

踊り子として好きな時間に好きなように踊って。



今までのような、自由が欲しい。



それがお前の希望なら、叶えてあげよう。

辛くなったらいつでも、空を見上げて、私らの事を思い出してくれ。



ありがとう。



幸運を。




そして、今まで通りとまではいかないが元いた場所に降り、戻り、

踊り子として荒れ果てた地に勇気ずけられるよう、再び舞を披露し始めた。




20代と若い少女。

これから先の世界はどうなるのか。

神のみぞ知る。


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