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第一章・第八話:事件解決!~金太郎の場合~

―――――夜、皆が寝静まった頃

夜はまさに“魔”の活動時間であり、魔にとってみれば昼のようなものである。

そして遥か彼方の上空に見えるのは一点の曇りもない月である。

―――――太陽は人に知をもたらし、月は魔に力を与えた―――――

この言葉通りに魔にとって月は力を与えてくれる重要な存在であり、満月の時にはめったに動かない最上位の魔でさえ、人の里に姿を見せるといわれている。

そしてそれは狼男も例外ではなかった……


「ぐるるるる……時は満ちたか……」


ここは人がめったに入らない森の奥。ここに三人の人間……いや、狼男がいた。

彼らは灰狼。狼男の種の中では最も下位に存在する者たち。彼らは今までたくさんの上位の魔に媚びへつらい生きてきた。食料といえば彼らの残飯程度であった。

しかしそんなことはもう関係ない。今宵、人間の村を襲いようやくまともな餌にありつけるのだから。


「まさかこんなにも簡単に作戦が決行できるとはな……」

「それも全てあの方とあの餓鬼のお陰……人間にも少しは感謝しないとな」

―――――ぎゃはっはっは!


あたりに狼男の下種な笑い声が響きわたる。もはやこの作戦を、邪魔をするものはいない。後は人間たちを欲のままに食い殺すだけ……のはずだった。


「待て!」

「っ!? 誰だ!?」


狼男たちがあたりを探す。この作戦はだれにもばれてないはず。なのに何故?

狼男の内の1人が東の方に金色の物体を発見する。

それはこの暗い、暗い森の中でもはっきりと分かるものだった。


「退魔師……」

「退魔師が何故こんなところに?」

「ぎゃははは! 早く喰わせろ!」

「退魔師・坂田金太郎、参上した! 俺が来たからには覚悟しろよ! 犬っころ共!」


狼男の前に現れたのは坂田金太郎。到底人間では扱いきれないような槍斧を背負っている男だった。


「何故ここがばれた? 人間には分かるはずもないのに……」

「こっちにもお前らと同じようなのがいんだよ! ……しっかし、よくここって分かるよな、鬼丸の奴。やっぱりあいつ、未来でも見えてんじゃないか……」


金太郎は今日の昼のことを思い出した。



       ▽       ▽       ▽



「キンタ、今日が決戦ですよ!」

「……はっ?」


鬼丸は部屋を開けた瞬間、そう言い放った。金太郎は何の事だか分からず、間抜け面をさらしている。


「今日、狼男が町に来るんですよ」

「へえ~……って何で!?」

「それについて説明しますから、とりあえず座ってください。あっ、ヨウタもここに」

「うん」


金太郎はテーブルにあった食べかけの昼食を片づける。まだ全部食べてなかったんだが、と突っ込みたかったが多分無視されるだろうからやめた。

鬼丸、金太郎、ヨウタが座ると鬼丸が口を開いた。


「では今日の作戦ですが……」

「ちょっと待て! お前、説明するとかいっときながらしようともしねえじゃねいか! 何で今日、狼男が来るか説明しろ!」

「はあ~……細かいことを気にする人は将来ハゲますよ。ただでさえ、金色に染めて髪が傷んでいるというのに……」

「染めてねえ!これは天然だ!!」


鬼丸は一度大きく息を吐き、金太郎たちのほうを改めて向きしゃべり始めた。


「今日狼男が来るであろう理由、それは二つあります。一つは時間です。キンタ、狼男はどれくらい餌を食べなくても生きられると思いますか?」

「ええっと……一日?」

「狼男は人間以下ですか? ……ヨウタはどう思います?」

「う~ん……一週間くらい?」

「そうです、一週間。これが彼らに与えられた餌なしで生きれる時間です。キンタ、この一週間狼男を見かけたことは?」

「ない」

「ということは、彼らはこの一週間何も口にしてないということになる。彼らの主食は魔力を多く含んだ肉……つまり人肉です。一週間という時間が過ぎた今、彼らはどうしても餌を食べなくてはいけなくなるのです」

「なるほど……」

「で、鬼丸さん、二つ目の理由は?」


鬼丸は空を仰ぎ、天を指した。そこにはヨウタの家の天井しか存在しない。


「天井?」

「屋根裏?」


鬼丸は首を横に振った。


「月です」

「月?」

「……太陽は人に力をもたらし、月は魔に力を与えた、という言葉を知りませんか? ……ああ、貴方達に聞いても無駄でしたね……とにかく、月というのは魔力の塊のようなものです。その恩恵は人間も受けることができますが、魔力によってできた魔物の力を特に増加させます。だから人間は昼活動し、魔は夜活動するんです。狼男たちは月によって自分たちの足りない力を補おうとしている、というのが私の考えです」

「でも月は毎日見ることができるだろ? 何で明日ってわかるんだ?」

「……キンタは私たちが来た日の月の形を覚えていますか?」

「いや、全然」

「私たちがここに来た日、その夜は半月でした。これでは月の力を半分しか借りれない。では半月から一週間たった今日の月は何でしょうか?」

「あっ! 満月か」

「ここまで言えばもうわかるでしょう。狼男は月の力を借りようとしている。多分これであっているでしょう」

「で、作戦はどうすんだ?」


金太郎がこれからのことを問う。すると鬼丸は笑って答えてみせた。


「特にありません」

「……はあ?」


あたりに一瞬の静寂が漂う。

狼男討伐にあたってここが一番重要な問題なのではないだろうか? 金太郎はますます意味が分からなくなった。


「今回は作戦などない。人数、地形、そして満月のバックアップを受けた彼らに作戦など意味はありません。先日、奇襲をかけた時、こちらが圧倒的に有利にもかかわらず私たちは敗走しました。奇襲をかけようとしても無駄でしょう」

「じゃ、じゃあ俺たち勝ち目ないじゃねえか!? どうすんだ、鬼丸!?」

「そこで貴方の出番ですよ。キンタ」


金太郎は鬼丸の言葉にさらに首をかしげる。


「今宵の満月は魔に力を与えます。それは人に備わっている魔力も例外ではない。体内に魔力を多く備えているあなたなら、その恩恵は十分あずかれる。灰狼は群れで行動するのはうっとうしいですが、一匹の能力は低い。万全の貴方だったら倒せるはずです」

「マジでか!?」

「ええ。というわけでキンタ、明日は頼みますよ」

「おう、任せとけ! ……ってお前は?」

「……」

「っておい!? 笑顔で逃げんな!!」



       ▽       ▽       ▽



結局、その時は鬼丸には逃げられてしまった。

しかし、今金太郎がやるべきことは変わらない。それは目の前にいる、ヨウタを傷つけた魔を倒すこと。

金太郎が紫電を構えると、不意に狼男のうちの一人が笑い出した。


「ギャハッハッハ!! そうか、人間にはお見通しだったのか? そうか、そうか……でもちょうどよかったぜ、アンタ!」


狼男の言っている意味が分からない。金太郎は首をかしげてしまう。

最近分からない事ばかりで、首が歪みそうだ……


「アンタが来てくれたお陰で、メインディッシュの前の前菜があるんだからよ」


狼男は体制を低くする。


「コロス……」


狼男全員が飛び出し、金太郎との戦いが始まった



         ▽    ▽         ▽



「はあ……はあ……くっそ、鬼丸の嘘つき」


戦いが始まり、30分ほどが経過した。すでに金太郎は肩で息をしており、対して狼男達の方は余裕の笑みすら浮かべている。


「おらおら!!」

「そんなノロい動きじゃ俺らを倒せねえぜ!!」

「ギャハハハ! コロス、コロス!!」

「畜生があああ!!」


金太郎が紫電を思いっきり横に薙ぎ払う。金太郎の一閃は退魔の雷力が備わっている。金太郎本来の怪力も相まって一発、一発が必殺の一撃となっている。

それを狼男は身をかがめ、紙一重でかわしてみせる。

金太郎は追撃を試みるのだが……


「隙あり~」

「ギャハハハハハ!!」

「ぐっ……」


他の二匹に一瞬の隙を突かれ、痛手を負う。こんなことがもう30分も続いていて未だに有効な策は思いついてはいない。

幸い、深手は負ってはいないが、このままでは負けることは明らかであった。


狼男達の作戦は単純明快。一匹が正面から敵の動きを翻弄し、残りが死角からから攻撃する。金太郎自身もそれが分かっており、何とかこの状況を打破しようとするのだが、体が思うように動いてくれない。

なぜならば金太郎の闘い方は一対一を前提としているからである。彼のいままでの訓練は人を相手とした“試合”。今彼がやっているのは魔を相手とした“殺し合い”なのだ。


いくら才能があろうが、いくら模擬戦で努力しようが、埋められない“経験”という差がそこにあった。


「はあ……はあ……どうすりゃいいんだよ? 鬼丸……」


いつもは楽に持てるはずの紫電が今日は重たく感じられる。

いつもは弱音を吐かないのに今日ばかりは弱音を吐いてしまう。

どんどんと、ネガティブな方向に感情が流れていく。ついには鬼丸に助けを呼ぶほどになっていく。


(助けてくれ……鬼丸……)

―――――「はあ?これぐらい自分で何とかしてくださいよ、キンタ」

「……ん?」


想像していた言葉と違う言葉が金太郎の頭の中に響く。


(いや、想像の中だけでも助けを呼ばせてくれよ……)

―――――「そんなことして何か意味があるんですか? にしてもキンタは実は弱かったんですね~。これからは“ヨワタ”とでもいいましょうか?」

「……」


……想像の中でも厳しい、というより性格の悪い鬼丸の一言に思わず絶句してしまう。

金太郎の中の何かが切れた。


「……が……じゃ」


3匹の中で一番狂ったような狼男が金太郎に襲いかかる。


「ギャハハハ!! いただきま~す!!」


狼男が金太郎の腕を噛み千切ろうとしたその時……


「誰が“ヨワタ”じゃあああああ!? ボケエエエエエエ!!」

「!?」


金太郎の魔力が一気に放出される。それは狂った狼男を正気にさせるほど。

そして放出されたと思えば、紫電に一気に収束していく。


「雷鳴……怒涛おおおおお!!」


紫電を地面にたたきつける。あたりが雷に覆われ、狂っていた狼男はおろか、死角にいた二匹も動きが止まる。

その隙を金太郎が逃すはずもなかった。


「そこかあああああああ!!」


金太郎は目の前の狼男に回し蹴りを入れる。

―――――メキャ!

金太郎の蹴りが腹に食い込むと吹っ飛び、岩に当りようやく止まった。


「ぎゃは……は……」


そのまま白目をむいて気絶してしまった。


「おらあああ!! 後、二匹、かかってこいやあああ!」

「おい……」

「ああ、分かった……」


狼男達は自分たちだけの合図をすると、二手に分かれた。ちょうど二人を結ぶ直線にキンタが中央にいる形になる。


「おらおら!」

「これならどっちから来るかわかんねえだろ!」

「二手に分かれたか」

(ん?待てよ、こっちが動かなくても俺が相手の攻撃に合わせて飛べば、あいつら自爆するんじゃ……)

「言っとくがなあ」

「俺らの自爆を待とうとしているなら無駄だぜ。俺らもそこまでアホじゃねえ!」


狼男に予測されるほど自分は単純だったのか、と自己嫌悪をに陥る金太郎。

しかしまずいことになった。一体は倒しても、未だに二対一。金太郎の不利な状況は変わらない。

先程の戦術ももう通用しないだろう。


「おらおら!」

「ゲヘヘヘヘ……」


狼男は高速で金太郎のまわりに円を描くように移動する。

一匹が金太郎の隙をついて飛びかかる。と、その時……


「後ろだ! お兄ちゃん!!」

「っ!! おらああああ!!」


どこからか声が聞こえ金太郎はその声に従うままに紫電を振り下ろす。そこには今にも飛びかかろうとしている狼男の姿が。金太郎は力を一層込めた。

狼男は寸でのところでかわすが、こちらの奇襲が失敗したことのショックは大きかった。


「ちっ! ……誰だ!?」

「この声はヨウタ?」

「うん、僕が敵の攻撃を教えるからお兄ちゃんは集中して。……今度は前から来るよ!」

「よっしゃあああああ!!」


どこからともなくヨウタの声がする。姿は見えないがヨウタは必ずそこにいる。

狼男を倒すには声だけでも十分。金太郎はさらに気合いを入れた。


「くっ……どこだ!? ガキを探せ!!」

「待て! お前らの相手は俺だぜ! さあ、二回戦を始めようぜ」

「……くっ!」


狼男は再び高速で移動し始める。しかし先程よりも驚異的ではなかった。

なぜなら自分にはヨウタがいるのだから。


「お兄ちゃん、左だ!」

「おう!」

「今度は右から来るよ!」

「任せろ!」

「う、上だ、上に気をつけて!」

「おらああああ!!」


ヨウタの声に合わせて、見事に狼男の攻撃を防いでいる。通常、人間が狼男の動きを見切る可能性は限りなく0に近いが、何故かヨウタはそれをこなしていた。


「くっそ……」

「もらったああああああ!!」

「――――ギャアアアアアア!!」


思わず、動きを止めた狼男が金太郎の拳の餌食となる。魔力をまとったその拳は狼男でも倒すのに十分であった。

これで一対一、否、二対一となった。


「……何故だ……何故、その餓鬼は俺たちの動きが見える? 人間は目で追うのがやっとのはずなのに……」

「ヨウタは毎日お前らのことを見ていたからな。お前らの癖ぐらい分かるんじゃねえの?」

「……仮にそうだとしてもだ。何故貴様はその言葉にすぐ反応できる? 人間の反応には僅かな遅れがある。何故その遅れが貴様にはないのだ」

「そりゃ、俺はヨウタのことを信じているからだぜ!!」

「そんな……そんな滅茶苦茶な理由が通用するかああ!!」


狼男が一直線に金太郎に向ってくる。しかしどんなに早くても直線的な動きには反応できる。

金太郎が目をつぶると、金色の魔力が紫電に巻きついていく。


「今日は大サービスだ。感謝しろよ、犬っころ! 雷鳴……」


ついに紫電が光り輝きだす。


「怒涛おおおおおおおおお!!」

「―――――グギャアアアアアアアアア!!」


金色の波導が狼男を飲み込んでゆく。

それが過ぎ去ったあとに残るは、抉れた土と木々と三匹の気絶した狼男。

……狙いは外したので死んではないだろう。


「まあ……後はここらの退魔師に任せますか」

「金太郎お兄ちゃん!」

「おお! ヨウタ、さっきはありがとな。お前のお陰で倒せたぜ」

「ううん、金太郎お兄ちゃんならきっと倒せたよ。それに、こっちこそ僕の言葉を信じてくれてありがとう」

「ヨウタ……」


東の空に太陽が昇る。

ヨウタの顔が朝日に照らされ、笑顔が見える。今まで見た中で最高の笑顔であった。

ふと、気がつくと大人たちの声が聞こえる。おそらく金太郎の雷を見て、きたのであろう。

金太郎はふと、真剣な顔に戻る。


「ここは他の奴らに任せとけばいいとして……問題は鬼丸だ。あいつは町に用があるって言った。あいつが無駄な行動をとるとは思えない。……きっと何かあるんだ……行くぞ、ヨウタ!」

「うん!」





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