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最終話:誰も知らない、彼らだけの御伽話

……うるさい。


おっと、いけない。私としたことがそんな荒んだ言葉を使ってしまった。いけない、いけない。女たる者、優雅でなければ。


それにしても外が騒がしい。何かあったのかしら、と思ってみれば見知った雰囲気が感じられるではありませんか。空から来る金色の彼女、ツクヨミちゃんが地上に降りてくるなんて珍しい。


そして……赤色のこの雰囲気。あのならず者が地上に来るなんて、宝くじが当たるよりも珍しいではありませんか。

……あのならず者が“良いこと”をするのはそれよりもさらに珍しいこと。どうせ今回もろくでもないことをやっているのでしょう。鬱陶しい。


……いけない。またこんな言葉を使ってしまった。それもこれもあのならず者のせいだ。さて、どうしてくれようか。

――――とりあえず、長年引き籠っていたこの部屋の扉に手を掛けた。


▽        ▽         ▽


全力を出し切った彼らは同時に膝をついた。

無理もない。鬼丸は度重なる魔力の浪費によって彼の力は空っぽになっている。金太郎は絶対にいつまでも対立していた影響か、もう全身に力が入らなかった。

これ以上戦うのは不可能、明らかにそう思われた。

金太郎は願望を含めて、鬼丸に聞いた。


「もう、大丈夫だよな……?」

「どうでしょう……。相手は何と言っても神ですからね。この程度で倒れるかどうか……」

「マジかよ……」


金太郎はげんなりと、呟く。

これ以上戦いたくはない、もっと正確に言えばもう戦えない。空気読んでくれないかな、と金太郎は思っていた。

しかし、嫌な予感は嫌な現実を引き寄せるもの、土ぼこりの中から瓦礫が吹っ飛んだ。


「……よう、鬼丸童子、坂田金太郎。また会ったな」

「ああ、もう会いたくないかったけどな」


ははっ、と互いに笑い合う。しかし状況は最悪だ。敵はまだ、傷一つついていない。

自分たちの全力を以てこの程度、となれば目の前の化け物を倒すにはどれだけの兵器を持ってこればよいのだろうか。少なくとも、自分たちだけでは明らかに不十分だ。

勝てるわけがない。


「正直、お前らには驚いているんだ。まさかたかが退魔師と鬼の二人にここまでやられるとは思ってもみなかった。でもさ、俺、正直やってられねえんだわ。これで終わりにしよう」


スサノウはため息を吐きながら、剣を構える。今まで鞘から抜かずとも鬼丸を圧倒してきたその剣、そのヤバさはそれを知らない鬼丸ですら分かる。

しかし、そのヤバさに一番に反応したのはほかでもなく、かぐやであった。


「それは……!?」

「やはりお前は知っているか、四方院かぐや。そうだよ、これは俺の宝具、天叢雲剣だよ」

「アマノ……」

「ムラクモノツルギ……?」


鬼丸と金太郎は口を揃えて疑問を口にする。そんな名前、二人とも聞いたことがなかったからだ。ウラシマですら、眉を顰めて腕を組んでいる。この場でその剣を知っているのはかぐやとスサノウだけだ。

スサノウはどこか誇らしげに、この分からず屋達に説明してやることにした。


「今では、“草薙の剣”と言われているか? まあ、いい。これはな、神話時代に作られた名刀だ。曰く、この剣はあらゆるモノを薙ぎ倒す力があると」

『っ!?』

「もしかしたらこの国全部壊れちまうかもしれねえな。ま、俺には関係ないことか」


子供じみたスサノウの笑いが、なんだかとても怖ろしい。背筋を冷たいモノに触れられると思うと、金太郎の体は自然に動いていた。


「First Drive Set Up!」

「お前さ、そんなちっぽけな結界で止められると思う? 止めたければ注連縄ぐらい持って来い。ま、それでも足りないと思うけどな」


“絶対”ですら止められないとスサノウは言う。そんなもの、金太郎は止められるほど強くない。それでもなお、少しでも生き残ろうと結界を強めると同時に、鬼丸が一歩ふみ出た。


「待ってください。貴方の目的は世界を救うこと。それならば何故自分の手で壊そうとするのですか?」

「ああ……。確かにな。でも、もういいんだ。俺じゃ救えないんだ。だからリセットする。一度全てを作り直して零にする。だから、もうお別れだ」


だめだ、と鬼丸は諦めざるを得なかった。

今までのスサノウはまだ話の通じるところがあった。しかし、今のスサノウはダメだ。彼の眼からは光が消え、自分たちの死を見つめているのだから――――。


「薙ぎ払い零になれ。天叢雲……!」

「――――ねえ、貴方はこんなところで何やっているのかしら?」


振り下ろそうとした天叢雲剣が誰かに止められる。本来ならばこのような無礼、スサノウに対して許されるはずもない。

当然、スサノウは振り返り激昂しようとした。しかし、目の前に広がるのは見知った顔の満面の笑みであった。


「……へ? ね、姉ちゃん……」

「ねえ、貴方はこんなところで――――何をしているのか私が聞いているのよ、スサノウ」


満面の笑みが、死を告げる宣告と化す。スサノウは確かにそう思われた。

※ここから先はあまりにえぐいので、音声だけでお楽しみください。


「ちょ、姉ちゃん。これには訳が――――」

「言い訳は無用」

「ぐぼ、だ、だから聞いて――――」

「黙りなさい」

「がはっ! ちょ、本当に――――」

「勧善懲悪」

「かは……」

「まだまだ終わらないわよ、私のお仕置きは―――――」


▽       ▽       ▽


「格ゲーみたい……」

「何がすごいって全て笑顔でやっているのがすごい……」

「すごいハメかただ……」

「使った瞬間友達無くしそうですね……」


その一部始終を目の当りにして、鬼丸たちは固まるほかなかった。今まで自分たちの前に圧倒的強者として立っていたスサノウが、嘘のようにボコボコにされている。

それも突然現れた女の人によって。あんな華奢な体からどうやってそんな力が出るのだろうか……? というより人間があんな風に動けるのかさえ疑問に思える。

――――あ、ブレーンバスターだ……。

ウラシマの呟きと同時に、土煙と爆音が広がる。明らかに、決着のついた音だった。


「ふぅ、ま、ざっとこんなもんかしらね」

『……』


四人は絶句する。この女性はここまでやってきて汗一つしてないのだ。それどころか、その美しい髪をかきあげ、艶やかさまで見せている。

何だか今までやってきたことを否定された気分だった……。


「姉さん!」


宙から声が響く。その声に一番に反応したのは、かぐやであった。


「ツクヨミ様!?」

「あら、ツッちゃん。お久しぶり。貴方がこんなところに来るなんて珍しいわね。どうかしたのかしら?」


ツクヨミが地に下り立ち、その女性に向き合う。途中、愛しい娘同然の子から声がかかったが敢えて無視した。自分が再びこの地を踏んだのは、別の理由がある。

しかしその理由は、目の前に女性によって既に終わった後であった。


「ああ……やはり間に合いませんでしたか。こうなる前に来たかったのですが……」

「これのこと? 別に気にする必要なんてないじゃない。こんなぼろ屑」


地に転がっているスサノウを持ち上げ、“これ”扱いをするその女性。それを見て、ツクヨミはため息を吐かざるを得なかった。

……確かにそれは、ぼろ屑同然だ。知らない人がこれを見て、誰が三貴子の一柱だと思うだろうか。

ツクヨミは再び、大きくため息を吐いた。


「あ、あの、ツクヨミ様。この方はどちらで……?」

「ああ、かぐやちゃん。……そうだった。貴方は会ったことはなかったわね。この人は私の姉さん、天照大御神よ」

「どうぞ、よろしく~」


ヒラヒラ手を振って、その女性は親しみの籠った笑みを鬼丸たちに向ける。

――――……ああ、うん。状況を確認しよう。目の前にいる女性の一人はツクヨミノミコト、紛れもない三貴子の一柱だ。そして地に倒れている男、これも疑わしいが三貴子の一柱。そして目の前のこの人……いやいや、このお方は太陽神であらせられるアマテラス……。


「うわー! ウラシマが倒れたー!」

「かぐや……かぐや、ちょっと!?」


目の前の状況についていけなくなったウラシマは倒れ、あまりの驚きにかぐやは再びフリーズした。

だから言いたくなかったのだ、とツクヨミは人知れず後悔した。


「で、姉さんはどうして下界に?」

「う~ん。神はこの世界に深く干渉しちゃいけないじゃない? でも私は高天原に戻りたくはない。この二つをどうやって両立するのか考えたとき、天岩戸で寝ているっていうのがベストだって気が付いたのよね~」

「……」


ツクヨミは、信じられないような目でアマテラスに訴えかけていた。


「やーね。そんな目で見ないでよ。そのお陰でスサノウのことを止められたんだから。これが世界に干渉して消されなくてよかったわ」

「もう十分干渉してますよね……」


つい、うっかり口を挟んでしまった鬼丸はすぐさま後悔した。

何しろ相手は三貴子の一柱、それも最高神である方だ。自分如きが話しかけていけないのは分かっている。分かっていても、言ってしまった自分を殴りつけたかった。

その声に気付き、アマテラスは振り返る。何をされてもいい、そういう覚悟はすでにできていた。


「うふふ、そうね」


予想は遥かに裏切る反応であった。アマテラスは微笑んで、鬼丸に同意した。

その母性的な笑みに、柄にもなく心臓が高鳴るのを自覚できた。


「鬼丸さん……?」

「……(ゾクッ!)」


……しかしその胸の高まりもすぐ収まった。無意識のうちにこちらを見つめるかぐやを見て、いつか彼女に殺されるのではないか、そんな有りもしない妄想を思い浮かべてしまった。


「う、うう……。だめだ、そいつらを許しちゃ……。原書オリジンのある通りに世界を運ばなくちゃ……」

「あら、まだそんな戯言を言える元気があったの、って……ん?」


アマテラスが何かに気が付く。眼を凝らし、スサノウの方をまじまじと見つめていた。

そしてようやく一つの結論を思い出した。


「あらやだ、それ私たちの日記じゃない」

『へ?』

「ああ、本当。姉さんが暇つぶしに書いてた妄想日記だわ」

「妄想日記とは失礼ね。未来日記よ、未来日記。懐かしいわ~。私とツッちゃんと、それと貴方も一緒に書いたことあるじゃない。ああだ、こうだ言って、あの時は楽しかったわ。覚えていないの?」


そういや、そんなこともあったかもしれない……。スサノウの脳裏によぎるのは優しく微笑んでいる姉と、それよりも凄く深みがある嗤いを浮かべているもう一人の姉。その手に握られているのは目の前にある一冊の本――――。


「そんな……じゃあなんで今までそれに書かれていたことに世界に従っていたんだ?」

「そんなの、ただの偶然でしょ」


スサノウの半ば絶望した嘆きを、端的にまとめるアマテラス。その笑みは、スサノウの記憶の中で最も優しく、綺麗であった。


「いいじゃない、それでも。私たちが気まぐれで書いたお話と、たまたま同じ名前を持った主人公たちが同じ時代に現れて、偶然に彼らは出会った。私たちが書いたこのお話はここで終わりだけれども、彼らのお話はまだまだ続く。それってすごく――――素敵なことじゃないかしら?」


三人は呆然と、アマテラスを見つめた。

鬼丸には信仰心なんて全くない。そもそも鬼なのだから、自分に利益になるようなツクヨミ様以外興味なかった。

しかし、今ならわかる。こういう純粋なモノを目の当たりにして、信仰心なるものが生まれるということが。そして目の前のこの女性は、本当に美しいということも。


「姉さん、そろそろ……」

「そうね。私も久しぶりに家に帰りたいし、もうちょっとお仕置きが必要なようだし」

「ひっ……!」


スサノウが再び震えだす。美しい花には棘がある、という言葉を思い出してしまった。


「じゃあね、鬼丸童子、坂田金太郎。縁があればまたお会いしましょ」


ヒラヒラ手を振りながら、アマテラスは何もないところに手を掛ける。

するとまるでドアのように空間が開き、三貴子達はその中の空間に入っていった。そのあり得ない光景を鬼丸と金太郎は最後まで見つめていた。あの、美しい笑顔と共に。


「う、う~ん。今なんかすっごい人が来てた気がしたんだけど……」

「あれ、ツクヨミ様は……?」

「かぐや、ウラシマ」


ようやく起き上がった二人に、鬼丸は声を掛ける。まさか自分からこんなことを言うとは思わなかった。しかし、少し綺麗になっている自分なら、こんなことを言っても神様は許してくれるだろう。


「帰りましょうか」


その提案に、三人はゆっくりと頷いた。


▽        ▽        ▽


――――半年後。


「ちっ、滅茶苦茶寒いじゃねえか。誰だよ、こんな日に鬼ヶ島に行こうって言った奴は?」

「……ベタなようですが、キョウ様です」


犬が申し訳なさそうに、しかしはっきりと言う。その言葉を桃原キョウは無視していた。

毎度のことだからだ。鬼ヶ島に来る手段が“泳ぐ”という原始的な手段しかない彼らはこうして泳ぎ、そして毎回同じように寒がる。もっとも、以前はあった高波が消えただけでも僥倖といえよう。

とにかく、ここに来るまででも一苦労なのだ。犬は素朴な疑問を口にした。


「それにしても毎日毎日来ることもないのでは? このままでは風邪をひかれます」

「そういうわけにはいかねえよ。だって……」

「うわあああぁぁぁぁぁ―――――!」


その瞬間、悲鳴が辺りに響き渡る。

上を見上げると巨大な岩が、そしてその上には人影があった。その声から察するに、あの暗鬼とかいうバカだろう。

キョウはニヤリと嗤うと、ためらうことなくその岩を蹴り飛ばした。もちろん、上の鬼のことなど知ったこっちゃない。すぐに次の目標が見えていた。


「は、来たか!」

「よう、桃原キョウ。そろそろ来る頃と思っていたぞ」


腕を組んでこちらを見下ろしているのはもちろん、幽鬼童子である。こんな仕業出来るのは彼女しかいないし、何より彼女以外する理由がない。

幽鬼と桃原キョウは互いを見て、嗤いあう。それだけで彼女たちにとっては十分だった。


「やはりアタシたちはこうじゃなくちゃな。笑顔でウフフとか、らしくねえわ。さあ、今日も殺り合おうぜ!」

「ふふっ……今日は負けねえぞ。何たって今日は栄鬼がついているんだからな!」

「ども……」


小さい幽鬼の後ろには、今までいなかった栄鬼が立っている。

なるほど、今回は二対一ということだ。……そんなの卑怯じゃないか。それならば、こっちにも考えがある。


「犬、お前も動け。全力でこいつらの相手をするぞ!」

「承知」


犬も構える。

これでようやく、準備は整ったというわけだ。


『勝負だ―――――!』


その掛け声とともに爆音が響き渡る。毎度のことだ。桃原キョウと幽鬼が争い、戦い、互いを潰し合う。もはやそれが鬼ヶ島の日常となっている。きっとその日常はずっと続いていくのだろう。

――――気がすみまで、何度でも殺り合ってやろうじゃねえか!


その爆音を傍聴しながら、鬼丸は海の見える崖に立っていた。眼前に広がるのは広大な青、鬼丸はそれを見つめていると、一人の部外者がそこに現れた。


「おい、鬼丸。こんなところでサボりかよ」

「……ええ、まあ、そんなところです。もう八割方の修復は幽鬼たちのおかげで終わっていますから」


……もっとも、幽鬼たちがいなければもうその作業は終わっていただろうが、という言葉を鬼丸は呑み込んだ。


「それにしても凄い音だな。またキョウたちか?」

「そうらしいですね。……なんかあの日から思考が共有されるようになりまして、繋がっている相手の居場所ぐらいならすぐ分かるようになってしまいました」

「なんかそれ、有難迷惑だな……」


あの奇跡の後、そういう弊害はいくつもあった。ウラシマの女性の好みが自分の頭の中に入ってきたり、キョウの破壊衝動が不意に自分に襲い掛かってきたり、一番恐ろしかったのはかぐやに自分の居場所を確実に知られてしまうことだ。プライベートなんてあったもんじゃない。

しかし、それも全て終わったことの証拠だ。それならば、全てを受け止めよう。


「終わったな……」

「ええ、終わりましたよ」


そう、もう鬼ヶ島を脅かすものはいない。全ては終わったのであった。

空は青い。澄み渡るような快晴で、こんなにも空は綺麗なモノだったのだろうか、という気持ちを鬼丸は抱いた。


「俺さ、お前に出会えて本当に良かったと思う。もしお前に出会ってなかったら、何をしていいか分からず彷徨っていただろうし、楓のこともある。お前らがいたからこそ、楓を……殺してやることが出来た。お前のおかげで――――」

「やめてください。その前に言っておかなければならないことがあります」


金太郎の続く言葉は、それ以上言わなくても分かってしまう。分かっているからこそ、自分はその言葉を投げかけてもらう資格はない。


「……キンタ、私は貴方の父親を殺しました」

「ああ」

「何の迷いもなく、その存在を殺しました」

「ああ」

「ただ貴方を縛り付けるために、私は殺しました」

「……ああ」


金太郎はただ鬼丸の言葉に同意する。それは自分がどう思おうが、撤回し様子がない事実だからだ。


「ごめんなさい。私は大きな罪を犯した。償いきれないほどの、大きな罪を……。もちろん許してもらえるとは思ってない。貴方の手で私を殺してしまっても構わない。本当に、ごめんなさい……」


鬼丸は頭を下げて、謝る。本当はこんなこと言いたくはなかった。自分の非など認めたくなかった。でも自分はそれをやらなくてはいけない。謝って、キンタに詫びなければ――――。


「別にいいよ」

「え……?」

「俺さ、本当は分かってたんだ。親父が何か悪いことをやってるってこと。もしそれが楓に関わっているもんだったら、お前が殺さなくても俺が親父を殺してた。……でも、多分そうなってしまったら俺が耐えきれなかった。

――――だから、ありがとう。親父と俺を助けてくれて。本当に、感謝してる」


予想外の言葉に鬼丸は驚く。あまりの驚きで、自分の眼からは何故か水滴が流れ落ちてしまったではないか。みっともない。それを隠すように、俯いてなるべく気丈に振る舞った。


「……ち、父親を殺した相手を許すというんですか、貴方は……。どれだけ、お人よしなんですか、まったく」

「おう、俺はお人よしだ。……兄さんには俺から言っておくよ。流石に帰る家をなくしてしまうのは怖いからよ」


そう言って金太郎はため息をつく。流石にあの優しい姉と会えないのはつらいし、鬼丸と兄がいがみ合っているのは見たくない。

そう言う金太郎の姿を見て、鬼丸の眼から流れ落ちる謎の水滴はようやく収まりを見せた。本当に、みっともない……。


「しかし貴方が許しても、私はその罪を背負います。私は、私を許しなどしない」

「鬼丸……」

「貴方の父親の役割、貴方の行く末を見守るのは親の仕事。ならば私がその役割を引き継ぎましょう。貴方の行く末を共に見守ります。どこへ行こうともね」


そう言って、鬼丸は笑う。これが自分の行く、たった一つの道――――。


「……ばっか! 自分より年下のガキに見守られるほど、俺も甘くねえよ!」

「どうでしょう? 私は貴方より年下ですが、精神年齢は劣っているとは思えませんよ」


なんだと、と金太郎は鬼丸を睨みつける。鬼丸は手を上げて降参のポーズを取った。

そうやって笑い合っていると、崖の下から子供のような声が掛けられた。


「お~い! キンちゃん、鬼丸君。何やっているんだい? 早く行こうよ」


――――ウラシマと出会って俺は変わった。

自分には知りえないあらゆる知識をため込む奇怪な魔術師。結果をとことん突き詰める姿に、確かに自分は影響を受けたはずだ。

そして何だかんだで手を貸してくれる、この魔術師は本当にいい奴ということは俺が知っている。


「全く、何やっているんですか、二人して。私を待たせるなんて、ただじゃおきませんよ!」


――――かぐやと出会って私は変わった。

私は今まで一人だった。その私がたった一人、ひとめぼれをしたこの女性を決して手を放したりしない。彼女がいるから、私は限界を超えていける。

……時には怖い、彼女の笑みにもきっと付き合っていけるはずだ。そう、愛ゆえに。


「……行こうか、鬼丸」

「ええ、キンタ。私たちの旅は、ここからです」


二人は笑い合って、同時に崖から飛び降りる。

――――私たちは私たちと出会って変わった。

鬼丸は金太郎と、金太郎は鬼丸と交錯した時、確実に彼らの世界は変わったのだ。それは必然のような偶然で、彼らはそのお陰で今がある。二人一緒ならなんだって超えていける。だって二人は無敵だから。

見事にウラシマのボロ船に着地すると、ウラシマはニヤニヤしながら三人に問うた。


「さあ、何処に行こうか? 童話の国? 不思議の国? それとも御伽の国を回るかい?」

「そんなの決まってねえよ。まだ俺は半人前だ。取り敢えず世界のどこでもいいから見てみてえ」

「私は鬼丸さんがいるならどこでもいいですけど」

「ふふっ、みんならしい。では取り敢えず、前に向かって進みましょうか!」


―――――これは誰も知らない、彼らだけの御伽話。

彼らは出会い、

彼らは巻き込まれ、

彼らはバラバラになっても、

まだまだ彼らの物語は終わらない。


でも、取り敢えずこの御伽話はここでおしまい。

彼らのこの後を聞いたことがあったら、きっとそれは別のお話……。   ≪fin≫



≪あとがき≫


こんにちは。作者のwalterです。

無事、“誰も知らない御伽話”を完結させることができました。本当にありがとうございます。

この作品は自分の初めての作品でありまして、この作品の発端は一年前の文化祭の企画を考えているときの、友人とのバカ話をしていて出来ました。初めは「桃太郎が鬼を倒してしまったようです」という、桃太郎を倒す段階で終わる予定なのでしたが、ここまで長くなるとは自分でも思ってもみませんでした。


初めのうちは本当に文章が拙く(今もですが)、皆様の暇つぶしにすらならなかったと思います。それがだんだんと書いていくうちに、自分が楽しくなって、この作品を書いて本当に良かったと思います。

さて、次回の作品ではこの小説の続きを書くか、はたまた別のものを書くか迷っているところですが、今はとりあえず自分の進路のことを優先させたいと思います。


すべてのことが落ちついて、また自分が成長できてたらまた小説を書かせていただきたいと思います。その時が来たら、またよろしくお願いいたします。


最後に、今までこの小説のことについて一緒に考えてくれた友人に感謝。そして皆様、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました!





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