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桃章:終劇への始まり


「空間を圧縮する力、か……」


犬は目の前の悍ましい力を見て、驚いていた。

空間を圧縮するということはこの世界自体に影響を及ぼすということだ。突然そこの空間がなくなれば、次元の法則が乱れるかもしれない。

それをあの鬼は乱発している。その異常な力にただただ驚くばかりであった。


「う、うぅ……」

「おい、まだ動くな。傷口が開くぞ」


血みどろの中で影が動く。それは鬼へと姿を変えると、犬の前に倒れこんだ。

暗鬼は自分の体が血にまみれようが幽鬼を止めようとしていた。


「いけねえ……。早く幽鬼を止めねえと……」

「それならば心配ない。キョウ様が受け止めてくれる」

「そうじゃねえよ! あいつは止まらないんだよ!」


その鬼の鬼気迫る雰囲気に、犬は首をかしげた。


「止まらない?」

「あいつは止まらない。……自分でも止められないんだ。それが爆ぜる鬼で、あいつの“凶鬼”だから……」


再び双方の拳が激突する。桃太郎と童子、この戦いはまだ始まったばかりだ……。


▽       ▽       ▽


「ぶっ壊れろオオオオォォォォ!」

「はああああぁぁぁぁぁぁ!」


双方の拳が激突し、規格外のエネルギーが生じる。その衝撃に巻き込まれないように、後方に跳んでそれをかわした。

桃太郎は幽鬼の想像以上の力に驚いていた。この小さな体にどれほどの力が内包されているというのか。あの金太郎でさえ自分の攻撃を止めることが出来なかったのだ。自分が規格外ならば、間違いなくこの小さな童子も規格外であろう。それも、自分以上の。

……幽鬼からしてみれば、人間である桃太郎が鬼である自分と拮抗する力を持っていることが驚きなのだが、それはお互い様である。

とにかく、力勝負では埒が明かない。幽鬼は左手を差し出すと、空を握った。


「鬼闘術・白!」


―――――鬼闘術・白。幽鬼童子が最も得意とする、空間に干渉する技である。

鬼の力は滅びの力、というのならば鬼闘術・白はそれを最も体現に示したと言える技である。ある一空間を滅ぼし、空間に穴を開ける。まるで風船のように萎む空間を補うように周りの空間を巻き込み、空間を圧縮したように見えるのだ。

この技の強さは威力もさることながら、一番の脅威は“見えないこと”にある。空間が萎むまで、どこを対象にしたかは幽鬼以外誰にも分からず、敵はただ押し潰されるだけである。故に白の対象を桃太郎と自分の間の空間に指定すれば――――


「こういうことも出来るんだよ」

「っ!?」


――――限定的な瞬間移動も可能である。

突然目の前に現れた幽鬼の蹴りに反応できるはずもなく、桃太郎は民家の壁まで吹っ飛ばされた。それでも幽鬼は止まらない。


「まだ私の復讐は終わらない。止まらないのが私だから」


壁に倒れこんでいるであろう桃太郎を追撃すべく、幽鬼は駆けだした。辺りはまだ土ぼこりが舞っていて桃太郎を確認することは出来ない。しかし、それでも幽鬼は止まろうとしなかった。

土を払い、幽鬼は一直線に進む。ようやく、桃太郎の顔が確認できた。

――――桃太郎は嗤っていた。


「よう、お返しだ!」

「っ!?」


桃太郎の蹴りが幽鬼を襲う。

いくら力で拮抗していようが桃太郎にリーチで勝つことは出来ない。自分では予測外の蹴りに幽鬼もまた吹っ飛ばされた。

桃太郎は肩をポキポキ鳴らしながら立ち上がる。反撃はしてみたものの、自分の体も案外ヤバい。先手の鬼闘術とやらに押し潰された体はいまだに治る気配はないし、こめかみを襲った先ほどの蹴りによって脳震盪もはなはだしい。体は休ませろ、と訴えかけていることが直に分かった。

しかしそれでも桃太郎も止まらない。ここで止まっては、あの鬼に申し訳ないからだ。


「いいね。お前は最高だよ、幽鬼童子。でも、まだまだだろ? まだオメエの復讐は止まんないはずだ。さあ、もっと潰し合おうぜ!」

「……」


幽鬼童子は答えない。ただ立ち上がり、桃太郎を睨みつけるだけだ。

その眼は赤く、血のように深紅色だ。


「――――鬼闘術・凶鬼」


幽鬼の姿が消える。まるでそこにいなかったかのように、蜃気楼のごとく消えた。

……おかしい。桃太郎があの鬼の気配を感じることが出来ない。今までこんなことはなかったのに、何故……?

桃太郎の強さとは第一に、その野生じみた戦いの勘である。敵がどんなに目に見えないとも、どんなに速く動こうとも桃太郎はそれを瞬時に把握できる。そんな獣のような勘が、この鬼には働かなかった。


「どこに、いやがる……?」

「もうだめだ……凶鬼は発動した。もう、幽鬼は止まらない……」


倒れている暗鬼が震えながらそう口にする。


「アァ? どういうことだよ、オメエ。止まらないってどういうことだ?」

「さっきはまだ大丈夫だった。理性が残っていたから……。でももうだめだ。……幽鬼の“凶鬼”はさ、全てを犠牲にして加速するエンジン。そして魔力も、理性も、命も、思い出も喰らって走り続ける怪物、それが幽鬼童子なんだ……」


――――鬼闘術・凶鬼。世界最高の身体強化の術を使えるのは、今ではこの鬼しかいない。

幽鬼童子。彼女が視認できない速さの中で空を握ると、周りの空間それ全てが歪んだ。


▽        ▽        ▽


……懐かしい、夢だ。

まだ私は幼く、鬼闘術の“き”の字も知らなかった頃のこと。私たち五人(栄鬼はこの頃から長老の手伝いをしていたので除外)はいつも一緒で、そして私たちをいつも見守っていてくれる人がいた。

私のお父さん、茨木童子だ。

いつもは遠くから私たちの遊びを見ているお父さんが今日は違った。珍しく私たちの遊び場まで来て、こう言った。“君たちにプレゼントしよう”


「えっ、何々?」


そのころから何に対しても好奇心旺盛だった暗鬼が早速食らいついた。それを見て、満足そうにお父さんは答える。


「君たちはいずれ長になるべき鬼たちだ。だから君たちにこれを教えなければいけない。“鬼闘術”を」

『きとうじゅつ?』


みんな一斉に首をひねった。お父さんは笑いながら、一人一人の頭を撫でた。


「鬼闘術は君たちに必ず必要となるものだ。そして君たち一人一人に個性があるように、君たち専用の技がある。それが何か教えよう。それが君たちへのプレゼントだ」

「要するに、課題ってこと?」


妖鬼がお父さんに尋ねる。お父さんは笑って、その問いには答えなかった。


「暗鬼、君には“影討”を。これを使って覗きなんかしちゃだめだからね」

「おう」

……残念ながらその約束はいまだ効果を果たしていない。

「一鬼、君には“一糾”を。泣き叫んでばかりじゃいけないよ」

「うん」

だからそんなに素直に頷いたなら、約束を果たせって!

「妖鬼、君には“幽玄”を。君は優しくて、綺麗だからね」

「はい」

……この頃から妖鬼は一番まともだったに違いない。

「怪鬼、君には“幻戯”を。……悪戯しないようにね」

「……ふふっ」

怪しく頷く怪鬼。お父さんは不安げに、自分を納得させていた。

「そして、幽鬼。お前には……“凶鬼”を」


お父さんは今までのニコニコ笑顔を一転させて、まじめな顔で私を見つめた。


「いいか、幽鬼。この技はとても怖い技だ。でもこの力はいずれ必ず必要になる。だから教えておくんだ。……必要な時を考えて使うことを約束してくれるかい?」


お父さんの真剣な目に私は圧倒されるばかりであった。でもここでお父さんを心配させてはいけない。

私が力強く頷くと、お父さんは再び笑い出した。


「それでこそ、俺の娘だ。その力はね、仲間が―――――」


……ああ、その言葉の続きはなんだったのだろうか? 

もう思い出も薄れてきた。凶鬼の蝕みは予想以上に早いらしい。


でもね、お父さん。安心してね。私はきっとうまくやるから。これをやり終えるまで私は絶対、止まらないから……。


▽        ▽         ▽


周りの物が得体の知れない力によって壊れていく、というこの光景は桃太郎にとって爽快限りない物だったが笑ってばかりもいられない。

民家は木の屑に、地面は抉られ、もはやここは廃墟としか思えなかった。桃太郎は、倒れている鬼を犬に任せただ、その得体の知れない力を避け続けていた。


「おい、そこの鬼。どうすれば幽鬼は止まる?」


よけ続けながら桃太郎は問う。

正直に言うと今の桃太郎はかなり危ない状況にある。今までの余裕は消え、額からは汗が止まらない。桃太郎はお手上げのこの状況から早く抜け出したかった。

……おっと、危ない。今の一撃も跳んでかわさなければ足が持っていかれていただろう。ただの乱発に過ぎなかった空間圧縮が必殺一撃に変わろうとしている。長期戦は明らかに不利だ。


「だから止まらないだって! 凶鬼は対象を動く限り加速し続ける。これが発動したら誰も止めれないんだ!」

「……なんだ、それ? そんな技、技じゃないよ。この技は致命的な欠陥がある」


何、という暗鬼の驚きの声が発せられる。今までこの術を止めて見せたのは栄鬼ただ一人。それもこの技に唯一対抗できる技を使った場合のみだ。

この女はどうやって、止めるというのか……?


「要するに、“止めれば止まる”んだろ? だったら私が止めてみせるさ」


あまりに単純な答えに暗鬼は絶句した。


「だからどうやって!? どうやって止めるか聞いてんだよ!」

「……煩い。犬、そいつを黙らせろ」

「御意」


短く発せられた了承の言葉とともに、暗鬼の口が防がれる。モゴモゴという暗鬼を、犬は無表情で抱きかかえていた。

……さて、煩い邪魔はいなくなった。桃太郎は精神を集中させ、今まであえて使わなかった桃花を構えた。

黒き日本刀、桃花はもはや自分の半身と言っても過言ではない。物心ついた時から肌身離さず持っていたこれを構えることで、桃太郎は一種の自己暗示にかかる。

―――――曰く、自分は負けることはない、と。

―――――曰く、自分に勝る敵はいない、と。

―――――曰く、自分は最強である、と。

最強の自分に捉えられない敵はいない。ならば目の前の敵を捉えられないことはない。

桃太郎は気の向くまま、刀を振り下ろした。


「そこだ!」

「――――っ!?」


振るった先は何もないように見える場所、だがそこに確かに奴はいた。桃花の先には鬼の血が付着していた。桃太郎はニヤッと嗤う。

しかしただで捉えたわけではない。迎撃された時の拳の衝撃が、桃花を伝って自分まで来た。どうやら凶鬼は速さだけではなく、力も強化しているようだ。びりびりと、いまだに痺れている自分の腕を見て桃太郎は覚悟した。

―――――敵が全てを犠牲にするというのなら、アタシも犠牲にしなくちゃな。


「は! まだ速くなるか! ……おい、幽鬼童子。アタシはここにいるぞ。お前の父を奪った桃太郎は、ここにいる!」


桃太郎がそういった瞬間、四散していた殺気が自分に向かってくるようだった。

今までは捉えられなかった速度も、桃太郎はすでに攻略している。全力で桃太郎に向かってくる幽鬼も、それは把握していた。

―――――それでも、こいつは全力で叩き潰す!

幽鬼は渾身の空間圧縮と、拳を同時に繰り出す。この連撃は止めることは出来まい!


幽鬼の全力攻撃に対する桃太郎の答えは――――


「――――!?」


――――自分の左手を犠牲にすることであった。

空間圧縮により手はすでに手としての機能を失い、幽鬼の拳によって肩まで抉られる。

それでも桃太郎は止まらない。止まるどころから桃太郎は――――嗤っていた。

――――幽鬼の動きが一瞬止まった。


「終わりだあああぁぁぁぁ!」

「あっ……」


桃太郎は桃花を持つ右手で立ち止まった幽鬼を殴りつける。

白により壊され、何もないところで彼女の体を止めるものはない。彼女はされるがままに吹き飛ばされた。


「幽鬼が、止まった……?」


信じられない光景だった。

凶鬼を使った幽鬼を止める、それも何一つ術を使わずに力だけで。常識を覆す、規格外な出来事だった。驚愕が収まると次の感情は歓喜だった。


「うおおおおぉぉぉ! すげえええぇぇぇぇ! あっ、いたた……」

「は! だから言っただろ、アタシが止めてやるって。……ああ、でも今のはヤバかったな。原型とどめてねえじゃん……」


いたた、と呟きながら犠牲にした肩を見る。

彼女の言うようにもはや原型を留めていないそれは確認するとさらに痛みを主張し始めた。桃花を杖代わりにして何とか立っている彼女にこれ以上の戦闘は不可能である。

しかし、そんなに都合よく敵が倒れてくれるわけもなかった。


「まだだ……。まだ私は止まらないぞ。私は、絶対にお前に復讐すると、誓ったんだ……。絶対に、絶対に!」


幽鬼は立ち上がる。その表情に狂気と、憎しみを孕ませながら。

桃太郎は一息ついた後、再び桃花を構える。こうなればとことん付き合うつもりだった。しかし、再戦を始める前にどうしても聞いておかなければならなかったことがあった。


「どうした、桃太郎!? もう戦意はないとかそういうことは言わないよな。早く来い、桃太郎!」

「……なあ、幽鬼。アタシは復讐が悪いことだとは思わない。どんなに道徳的に外れていても、それはお前の父親への変わらぬ思いだからな。……だけどさ、それは“今の仲間を犠牲にしてまで”復讐することだったのか?」

「――――!」


驚愕、幽鬼の表情はそれ一色に染まった。


「周りを見てみろ。これはお前の望んだ復讐だったのか? 周りを地獄にしてでもやるべきことだったのか?」

「あ、ああ……」

「幽鬼。お前の力はこんなことのために使うべきだったのか?」


幽鬼は崩れ落ちる。

―――――私は、何をしていたのだろうか? こんなことのために使う力だったか?

壁を壊し、家を潰し、そして長たちを破壊した。仲間である彼らに酷い目にあわした。桃太郎というたった一人の人間のために力を使ってしまった。

昔父にどんな時に力を使うべきか教えてもらったことがあった。しかしそれも凶鬼のせいでうまく思い出せない。

それも全て、私のせいだ。


「だったら、私はどうすれば良かったんだ? どうすれば、私は良かったんだ!?」

「……そんなもん決まってんだろ。お前は――――」

「お取込み中のところ悪いんだけどさ、そろそろ俺たちのことに気付いてくれない?」


突然の声に驚いて振り向く。そこには一人、赤い髪をした男が腕を組んで立っていた。

人を見下すような目に桃太郎は不快感を覚えた。


「テメエ、いつの間に?」

「さっきから。ああ、どこかで見たと思ったらお前は桃太郎か。なあ、何で鬼を滅ぼすお前がこんなところにいるんだ?」

「そんなのテメエには関係ねえだろ!」


こいつは誰だか分からないが雰囲気でわかる。こいつは敵である、と。

気付けなかった自分への鬱憤もあってか、桃太郎は桃花を構え飛び出していった。


「オロチ」


だが、それは防がれた。

男と自分の間に刃が割って入ったと思うと、それはグニャリと曲がり桃花に巻きついた。

目の前の異様な光景に桃太郎は驚愕する。


「はっ――――!?」

「へへっ、おい、スサノウ。こいつやっちまってもいいのか?」

「構わん。そいつはお前に任せる」


そう言ってスサノウと呼ばれた男は歩いていく。代わりに現れたのはもう一人の男……。

先ほどの赤髪の男を人と称するならば、新たなこの男は獣と評するべきか。まるで人間性の欠片のないようなこの男は舌で口を舐めると、ニヤリと嗤った。


「へへっ、お前が桃太郎か……。“似た者同士”仲良くしようぜ」

「は! ふざけんな。おい、犬。早々にこいつを片付けるぞ」

「御意」


今まで黙して状況を見ていた犬も動き出す。

犬は速さ、桃太郎は力。この二人にかかれば壊せないものなどない。犬と桃太郎の剣戟は―――――蛇の如くうねる剣によって防がれた。


『なっ!?』

「おいおい。もっと楽しもうぜ、桃さんとその家来さんよ」

「テメエ!」


桃太郎は再び襲い掛かるが、まるで別の生き物のようにうねる剣をなかなか攻略することは出来ない。

あの様子なら時間稼ぎになるだろう、と赤髪の男は視界の隅で戦っている三人を放っておいて自分の目的を果たすことにした。

目の前に、小さな影が立ちふさがった。


「おい、待て。お前! どこに行くつもりだ?」

「……おいおい。俺に向かってその口ぶりはねえだろよ。テメエのことは知らねえな。まあ、取り敢えず“跪け”」


突如幽鬼に得体の知れない何かがのしかかる。

まるで自分の体におもりをつけられたように、自分の体が重くなる。気が抜けばすぐにでも倒れこんでしまいそうだった。


「く―――――!?」

「お? ……ああ、そうか。お前、童子名か。なるほど、神の直系であるお前らに対して神力はあまり通用しないってことね。なるほど、なるほど……」

「お、お前、何言って……?」

「となれば、命題はあまり効かないってわけだ。だったら脳に直接聞くしかないよな」


幽鬼は男に顔面を掴まれ、持ち上げられる。

男は術を唱えると、幽鬼の脳髄を探る。必要な項目はたった一つ、ある鬼のことのみ。

それと同時に幽鬼の頭の中に走馬灯のように今までの光景が思い出されていく。父のこと、仲間のこと、そして栄鬼のこと……。

無理やり脳髄を探られ、幽鬼は声にならない悲鳴を上げた。


「――――――!!」

「へえ、鬼丸童子はここにいないのか……。まあ、いいか。どうせここじゃ祭壇は組めねえし、取り敢えずは――――」

「あ、貴方は!」


驚きの声がした方を振り向くと、老人が一人。赤髪の男はその老人には見覚えがなかったが、その雰囲気には見覚えがあった。


「お、そういうお前は鬼珠童子だな。おいおい、かつては鬼の三頭に数えられたオメエも堕落したもんだよな。昔は神に対しても牙を剥いたっていうのに、そんな様に成り果てたか。残念だよな」

「な、何のためにここに? 何故貴方のような方がこんなところに――――」


――――その瞬間、中央塔が真っ二つに割れた。


「うるせえよ。俺は用があってここに来たんだ。オメエ如きが気にしてんじゃねえよ」


ズドン、と爆音を立てて塔が倒れていく。その目の前の信じられない光景に、幽鬼と鬼珠は口を開けて見るしかなかった。


「さて、鬼丸童子が俺のところに来るようにしとかなくちゃな。人質でももらっておこうか。お前ら全員“止まっとけ”」


この男は何者なのだろうか……? 

この男がそう唱えると、皆その通りになる。今の言葉も、この男が唱えただけで、暗鬼も一鬼も、そして長老までも動きが止まった。

とにかく分かったことは幽鬼と桃太郎、犬の三人以外の動きが止まったことだった。


「な、何が起こったんだ? 全員止まっちまったぞ」

「そういうオメエらはどうして止まんないのかね……? まあ、いいや。おい、オロチ! オメエまで止まってどうする! 早く動け、このポンコツ!」


他の鬼と一緒に止まっているオロチを蹴り上げる。それでもなお止まっているオロチをキャッチすると、一発殴ってから抱きかかえ空に浮かんだ。

もちろん、飛べない桃太郎はそれを見て追いかけようとするが無駄なことである。


「あっ、テメエ待ちやがれ!」

「じゃあな、皆の衆。おい、そこの童子名、鬼丸たちが来たらこう伝えておいてくれ。“鬼ヶ島を返してほしくば天岩戸まで来い”とな。頼んだぞ」


そう言って男は飛び去っていく。その光景を幽鬼と桃太郎は見ているしかなかった。犬は困惑気味に桃太郎に聞いた。


「……キョウ様。どう、しましょうか……?」

「―――――クソッタレが!」

「……」


桃太郎は吼える。しかしそれこそ意味がないことは、彼女自身も分かっていた。

幽鬼は顔を歪ませ、苦痛に耐えようとしていた。


その後、数時間後に鬼丸たちが鬼ヶ島に到着し、事の次第を知って再び旅に出る。しかしこれは鬼丸にとって、金太郎にとって、終劇の始まりに過ぎなかった……。





次回から最終章に入ります。さてどうやってまとめようか、今から決めかねているところですが、何とか時間を作って頑張ります。

これからも御伽話をよろしくお願いします。拙い文章ながら、読んでくださいありがとうございました。

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