閑話休題:はいはい、こちら竜宮城出張所
ここは鬼ヶ島中央塔最上階。
この階で働いているのは、長老、栄鬼、それと時々手伝いに来る鬼丸のみ。また遊び目的で幽鬼たちも来ることがあるが、少なくとも人がここに来ることはない。
そんな場所にただ一人、人間がデスクワークに取り掛かっていた。
▽ ▽ ▽
「はいはい、こちら竜宮城出張所……ああ! 栄鬼さん、お久しぶりですね」
≪はい、ウラシマさん。こちらこそお久しぶりです≫
皆さん、こんにちは。浦嶋竜胆です。僕は今、監獄のような……いや、鬼ヶ島の最上階にいます。
さて、何故僕がこんなところにいるかと言うとつい先日、竜宮城と鬼ヶ島の仮の和平が結ばれた際に、互いの交流的なもののために出張所を開いているためだ。鬼ヶ島には僕が、竜宮城には栄鬼さんが向かっている。
それで交流の一環として電話を設置させてもらったんだけど全然電話がかかってこない。今日はじめてかかってきたのがその栄鬼さんからの電話なんだけど、何か用かな?
「どうですか、そちらのご様子は? 何か不備でも?」
≪いえ、特に何も。貴方の部下はとても優秀で……。勉強になります≫
「ま~たまたご謙遜を。亀吉君からうわさは聞いていますよ。前よりもずっと仕事がはかどるって」
≪それはウラシマさんがサボっていたからじゃ……≫
「……」
あっちゃ~、おキツイ一言。丁寧な物腰で案外はっきり言うタイプなのね。やっぱり鬼丸君と似ているや。
……ちょっと逆襲しようかな。
「それにしても……栄鬼さんは計算が苦手ですかな? ここの支出計算、すこ~しずつ、ずれて間違っていますよ」
≪いやいや、お恥ずかしい……。どうしても昔から計算が苦手でして……いつもは鬼丸に手伝ってもらっているんですけどね≫
「そりゃそうですよ~。こんな……こんなに膨大な資料を相手にいているんですから……」
僕は苦笑いをしながら右を向いた。
そこにあるのは一つの山……、いや膨大な資料。こんな資料を相手に毎日戦っていると思うと、彼の苦労が窺える。本当に部下に恵まれてないんだな……。
部下に恵まれるダメ上司と部下に恵まれない優秀な上司か……。どちらも救われないな。
「それではまた今度。今度一緒に飲みましょう」
≪いいですね。ではまた今度≫
ぴっ、と音がして電話が切れる。今度亀吉君も誘ってやるか。
僕はつけているネクタイを一旦緩め、イスにもたれかかった。
「ふう~……それにしても、凄い量。少し休もう……」
一息ついてお茶を飲もうとするとプルルルルと電話がかかってきた。
僕は気を楽に受話器をとった。
「はいはい、こちら竜宮城出張所」
≪もしもし、ウラシマさん……≫
「やあ、比良目くん。どうしたんだい」
おや、これはショタコン狙いの呼び声高い第弐技術開発部部長、比良目君じゃないか。あの子といるとお姉さん受けがいいんだよね。
……ぼくはあんまり良くないんだよね。どうしてだろ?
「実は佳麗ちゃんのことなんだけど……」
「む? 佳麗ちゃんがどうかしたのかい」
彼らの仲は非常に良い。何年も彼らを見てきたが、喧嘩をすることはあれど互いが離れたことはなかった。
その彼らが何かあったとすれば一大事だ。僕は思わず身を乗り出した。
「うん。佳麗ちゃんが今朝からいなくて……。もしかしたら誰かにさらわれたんじゃないかな!? ねえ、どう思う、ウラシマさん?」
「あ、ああ、そう……」
彼らは共感と言う特定の相手の考えが共有する能力を持っている。それを使えばどんなに離れていても、合流することが出来る。
それを使えばいいんじゃないかな、と言うと、安心した様子で呟いた。
≪あっ、そうか。ありがとう、ウラシマさん!≫
「うん、そうだね。じゃあね……」
どこか元気よく電話が切れた。多分これからスキップでもして佳麗ちゃんを迎えに行くんだろう。
ああ、心配して損した……。比良目君は泣き虫なのが玉に瑕だな……
今度こそ一服を取ろうとすると、またまた電話がかかってきた。今度は誰だい?
「はいはい、こちら竜宮城出張所」
≪はっはっは! ウラシマ! 久しぶりダネ≫
「……真黒くん」
第伍技術開発部部長、真黒。走りに目覚め、走ることに命を駆けるような男である。そして色々と面倒くさい。あんまり相手にしたくないな~……。
「一体何のようだい? 僕忙しいんだけど」
≪まあ待てヨ。お前玉手箱持ってんだヨナ?≫
玉手箱のことは社内全部に伝わっている。別に隠すようなことでもないけど、アレはあんまり使いたくない。なるべく魂を危険にさらしたくないからね。
今はこの部屋の金庫に眠っているはずだ。
「ああ、持っているよ。それがどうかしたのかい?」
≪だったら……俺と足で勝負シロ!≫
「はあ!? 何で?」
≪玉手箱を使えば時間を操れるんダロ。それを使えば俺と足で張り合えるかも知れないダロ。だから俺と竜宮城最速をかけて勝負シロ!≫
「ああ、そう……」
お前本当にバカだろ、という言葉を僕は我慢して飲み込んだ。
「まあ気が向いたらね……」
≪よっしゃ! 忘れんナヨ! じゃあナ!≫
プツッと電話が勢い良く切れる。多分また走りに行ったんだろう。面倒くさい……。
あの黒人野郎、一回溺れさせてやろうか、とか思っていると間髪いれず再び電話が鳴り響く。
あっ、何か嫌な予感……。
「はいはい、こちら竜宮城出張所」
≪もっしも~し! ウラシマさん、お久しぶりで~す!≫
「……万坊君」
ほら、やっぱりいいいい!!
竜宮城で最も嫌われているナンバーワン(当社比)の第参技術開発部部長の万坊。
ああ、声だけで僕を不快にさせるとは流石最ウザ。そしてその内容ももちろん最ウザの保有者にふさわしいものだった。
≪聞いてくださいよ! 可児ちゃんったらまた僕のことを無視して……。ほんっとツンデレですよね~!≫
「……」
≪やっぱり照れているのかな~! 早くデレが見たい――――≫
僕は無意識にその電話を切っていた。ごめん、だってこれ以上聞くと耳が腐りそうだったもん。というか……
「何で竜宮城にはバカしかいないんだ! 気が休まらんわ!」
と、僕が叫んだところで再び電話が鳴り響く。また万坊かと、イライラしながら僕は受話器を乱暴に取った。
「はいはい、こちら竜宮城出張所!」
≪もしもし、浦島。久しぶりね≫
「しゃ、社長!? 如何なさいましたか?」
思いもしない相手に僕は少しうろたえた。だってこわいんだもん。
≪別に。ただ貴方が仕事を頑張っているか、気になっただけよ≫
「そ、それはもう。身を粉にする思いで仕事を頑張っております!」
≪その仕事ぶりが竜宮城でも見たかったわ≫
「……」
相変わらず厳しい一言だな~……。
≪ところで浦島。貴方は私の忠実な部下よね≫
「はい、もちろん」
≪その貴方を見込んで頼みがあるんだけど……≫
ほう、社長が僕に頼みごととは珍しい。いつもは亀吉君を通して僕に伝わるのに……。
いいでしょう。その任、第零技術開発部部長の名にかけて果たしましょう。
≪本土の甘味処、桃の木でケーキ買ってきてくれない?≫
「……はっ?」
≪あそこのケーキがおいしいと評判で、いつも食べたいと思っていたのよ。でもなかなか地上に出る機会がないじゃない。そこで貴方。地上にいるんだからちょうどいいし、何より早いじゃない≫
「……」
≪人数は、私、可児ちゃん、佳麗ちゃん、比良目、それと仕事をいつも頑張っている岩士にも差し入れがしたいから5個。今すぐ届けなさい≫
なんという横暴さ。呆然と黙っているとそれを肯定と受け取ったのか、社長はフフッと笑う。
「それじゃあね、また。私の忠実な部下」
「あっ、ちょ―――――」
ツーツーと空しく電話が切れた音が響く。僕はしばらく呆然としてから、ようやく動き出してそして―――――
「―――――ちくしょおおおおお!!」
僕は財布を持って本土に駆け出した。その後キンちゃん達がついてきてみんなにケーキを奢らされたことは言うまでもない。