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第三章・第四話:海洋生物って気持ち悪い!

株式会社竜宮城、会社自身で商品も開発しているこの会社にはいちからろくまでの技術開発部が存在する。

正確に言えばどこの分野が担当か、分かるように名前がつけられているのだが開発部同士関わることがないのでただの数字が名づけられている。


それぞれの部署には当然部長と呼ばれる存在がおり、全員そろいに揃って曲者ぞろいらしい。

そんな奴らが今、自分の目の前にいた。


「えへへ」

「えへへ」

「君はね」

「今から」

「私たちに」

「倒されるんだよ」


第壱及び弐技術開発部、佳麗と比良目。二人は仲良く、侵入者の目の前でクルクルと踊っている。そして当の侵入者は、一層不機嫌そうであった。


「・・・・・鬱陶しい。さっきから喋るときは一人で喋りなさいと言っているでしょう。それに何となく幽鬼たちを思い出させるから不愉快です」


現在の鬼丸の頭の中にはあのバカ五人が自由気ままに行動している姿が浮かぶ。さっきからこいつらと喋っているたびに、その姿が思い出されるから鬱陶しく思っていた。


ただ鬼丸が不機嫌そうなのはデフォであり、今から普通に戦えば多少はマシだったかもしれない。おそらくは半殺しですんだはずだ。

しかしこの双子は言ってはいけない禁忌を口にしてしまった。


「そういえば君」

「僕たちよりちっちゃいね」

「―――コロス!」


骨髄反射のスピードで鬼丸が駆け出す。二人諸共、蹴り横薙ぎ払いで一気に勝負を決めようとしたが、そんなに簡単にことが終わるわけない。

双子は当然のように、金属で加工してある床に溶けていった。


「む?また消えた」


鬼丸は双子が消えた地点の床を踏みつけるが、何も異常はない。ただの金属加工された床である。この大企業の守りがそんなにも脆いものなら大企業にはなり得ない。

―――――となれば原因はあの双子か。

それを裏付けるように、どこからともなく双子の声が辺りに響いた。


「えへへ、僕たちはね」

「えへへ、どこにでも隠れられるのさ」

「そこが土じゃなくても関係ない」

「関係なしに移動できるの」


双子の声がやむ。この双子の言うことが正しければ、自分には何もすることができない。金属の床に金属の弾丸を撃ち込んでも無駄なことは決定的に明らかだから。

鬼丸の機嫌はより悪くなるばかりだ。


――――ならば魔力で!

そう思った瞬間、鬼丸はゾワッと殺気を感じた。


「下!」

「うりゃ!」


左手による奇襲、鬼丸はそれを飛んでかわすが今のは一人。

鬼丸の予想通りもう片方の手が床から右手の殴りと共に、双子の片割れが飛び出してきた。


「ほいさ!」

「時間差!?」


空中では体勢が不安定。いつも通りのガードはとれないがそれで十分。とっさに身を引き威力を殺す。

どうやら敵も奇襲に頼っているばかりで、パワーはさほどないらしい。それでも奇襲は厄介である。

どうしようか思案している鬼丸に追い討ちをかけるように、双子の声が鳴り響く。


「君に分かるかな~?」

「分からないだろうね~」


・・・・・不愉快だ。こんなガキ共に手玉を取られるとは・・・・・。


「分からなくとも・・・・・」


鬼丸は右足を振り上げる。それに見事に対応するように双子が鬼丸の足めがけて飛び出す、がその反応は間違いであった。

双子は相手が容赦をしらない鬼であることを忘れていたのだ。


「どうせ下に来るんだから踏み潰せばいいでしょ!」

「――――うぎゃ!」


顔面めがけて思いっきりそれを踏み潰す。手加減も何もない全体重をのせた踏み。

双子の片割れは蛙を踏み潰したような声を発して気絶する。鬼丸のイライラも多少晴れたのだろう。どこか達成感に満ち溢れた表情になっていた。


それに対して片割れを失った敵に余裕はない。顔面蒼白で床から飛び出して片割れの名前を叫んだ。


「比良目!」

「・・・・・おや、貴方が比良目ではないのですか?」

「うにゅ?」


予想外の言葉に、普段は絶対使わないような言葉を発してしまった。


「僕が、比良目?・・・・・」

「ええ、私の記憶が正しければ貴方は比良目。性別は男。左利きで若干相方より行動が遅い。左右非対称の右側が黒色の服を着ているはずですが・・・・・」

「な、何でそんなこと分かるの?僕たちでも分からなくなるのに・・・・・」

「だって、ずっと目で追っていましたから」


この双子たちには共感シンクロという能力が備わっている。特定の相手の思考や感覚を共有できる能力だ。だから音が伝わらない地中でも合図が取り合えるのだが、そのお陰でたまにどちらがどちらか分からなくなるときがある。


それがこんな初対面の相手に見破られるとは・・・・。こんな奴に勝てるわけもない。


「貴方たちは互いが近すぎるから分からなくなるのです。さて、相方がいなくなれば貴方は塵同然。ここは通らせていただきますよ。それとも、私たち二人を相手にしますか?」

「・・・・どうぞお通りください」

「結構」


鬼丸はいつもの不機嫌そうな顔で、長老は好々爺のように笑いながら出口に向かっていった。

――――鬼丸、鬼珠。第壱及び第弐区画突破。



     ▽      ▽      ▽



「広いところに出ましたね」

「どうやら儂達は第参区画に入ったようじゃの」

「第参区画?」


自分はこの場所に関しては、何も知らない赤子同然。知らぬは一生の恥というし、鬼丸は思い切って聞くことにした。


「この城は八つの区画に分かれておる。今は正面の第壱区画から入って三個目。もうちょっとで東部分と合流して、それから最後の第捌区画、要するに社長室じゃな。もう一頑張りじゃ」

「と思ってここに来たのが間違いだぞう。お前たちはここで死ぬんだからなあ」


こんな広い場所で一人ポツンと顔長おちょぼ口の男が立っている。先ほどの区画は二つが合同だったとしても部下が大量にいたのに、ここはゼロ。


それがこの男の人望のなさをあらわしていた。


「第参技術開発部部長、万坊まんぼう。お前たちのあいてだぞう」


万坊と名乗ったこの男はスーツ姿、まではいいのだがモヒカンという髪型が明らかにミスマッチだった。その髪型が自分の顔長さを助長させていることに気が付かないのだろうか?


とにかく、そりゃこんな奴が上司じゃ嫌だな、と鬼丸は妙に納得していた。


「また変な奴が出てきて・・・・・。で、私たちと戦う気ですか?無謀な・・・・」

「当然。お前たちは坊を怒らせたからなあ」

「?はて、何かしましたっけ?」


自分たちはここに来たばかりである。恨みを買うようなことは・・・・・確かにやったが、名前も知らなかったこの男に関わるようなことは何もやっていないはずだ。


そんな態度に腹を立てたのか、万坊は声を荒げて怒鳴りあげた。


「お前たちは坊の可児かにちゃんをいじめただろう!!」


かにちゃん?何とおいしそうな名前だろうか、鬼丸は蟹が大好物である。


「おや?そんな人は知りませんが・・・・・。人違いじゃないですか?」

「うるさい!そんなこと関係ないぞう!お前たちは坊が倒す!ホップ・・・・・」


顔長の男がスキップをする。本来ならば気持ち悪いと思うところだが、いや、気持ち悪いとは思っているが、この男は部長クラス。

吐きそうな感覚に襲われながらも、鬼丸はデザートイーグルを握り締めた。


「ステップ・・・・ジャアアアアンプ!」

「・・・・はあ!?」


巨体が華麗に宙を舞う。鬼丸は驚きの声を上げながらも妙に納得していた。

なるほど、この広い場所はこのためにあったのか、と無駄に広い場所に感心していた。


20メートル以上飛んだ万坊の姿を見て、鬼珠がポツリと呟いた。


「そういえばマンボウは自分についている寄生虫を落とすためにジャンプするらしいの。鬼丸、アイツには触らんほうがいいぞ。ヌルヌルの粘膜と寄生虫がこびりついているから」

「言われなくとも触るつもりはありません。だってマンボウというのは、ジャンプすることはできても・・・・」

「ふおおおおおおお!!」


万坊が奇声を発する。劈くような声に不快感を覚えながらも、鬼丸は体を半回転させた。


「着地はひどく苦手なのですから」

「――――グベシッ!」


着地に失敗した万坊の体がひしゃげる。血がドクドクと出ているが、どうやら生きているようだ。

20メートル跳んだという事実に驚きだが、20メートルの地点から落ちても生きているという生命力にも驚きである。鬼丸は憐れむような声で、話しかけた。


「バカですねえ。わざわざ自分の体の限界を無視するようなジャンプをするから悪いのですよ」

「・・・・・いい」

「へっ?」


万坊の呟きに、鬼丸の脳裏に嫌な予感が走る。そして見事にその予感は当たってしまった。


「この痛みがいいんだぞう。もっと!もっとおおおおお!!」


万坊は再び跳躍する。その跳躍は先ほどより高く、血が辺りに飛び散ってすごく・・・・・気持ち悪かった。


鬼丸は落ちてくる血を左手で払いながら、本当に困ったように長老に話しかけた。


「あちゃあ、根っからの変態さんでしたか。どうしましょうか、長老・・・・・」

「うむ、ああいう奴は何度殴ろうが無駄。悦ばせるだけだからの。見ておれ・・・・・えい!」

「――――ひょ!?」


万坊の周りが透明な箱によって囲われる。コレこそ長老の十八番、結界による拘束である。

コレによって囲われた敵は、長老より強い魔力を持たない限り出ることはできない。オマケに魔力がどんどん吸い取られていくという、悪魔の拘束具のような代物である。


万坊は結界の壁をどんどん叩き何か叫んでいた。


「な、何やっているんだぞう?はやく・・・・早く坊に悦びをおおおおお!」

「ちょっと長老。アレ、どうするんですか?魔力がどんどん吸い取られていくんですよ。最悪死に至ることも・・・・・」

「大丈夫じゃよ。魔力がなくなれば自動的に出ることができる。まっ、なくならない限り出れんがの。さあ、鬼丸、行こうか」

「えぐい・・・・・」


生きたまま敵の動きを制限する、それがどんなにえぐいことか。金太郎などはもちろん、鬼丸でもやらなことだ。

この老人のようにはなりたくないものだ、鬼丸はそう思いながらも、その長老の背中を追っていった。


―――――鬼丸、長老、第参区画突破。



      ▽      ▽      ▽



「もうすぐ第斜なな区画に入るのう。そろそろ気を引き締めよ、鬼丸。本物の金の亡者が来るぞ」

「本物の・・・・金の亡者ですか?」


確かに、第斜区画に近づいていくと徐々に雰囲気が変わっていく。空気が重いような、体全体にかかるプレッシャーのようなものが鬱陶しかった。


それでも進んでいくと、巨大な魔力の余波のようなものを感じた。


「む?確かにこの雰囲気は・・・・・今までとは違う。かなりの実力者・・・・・・長老はここにいてください。私がやります」

「うむ」


長老が下がり、鬼丸はデザートイーグルを取り出す。少しずつ精神が高揚していくのを押さえながら、鬼丸は敵に近づいていった。


「・・・・・この雰囲気、どこかで感じたことがある。ここは第七区画、竜宮城の深部。油断は禁物・・・・・決めるなら、一撃で」


鬼丸は曲がりの角に身を潜め、デザートイーグルを握り締める。敵の動きが止まったことを感じると、その一瞬をとらえ、敵に銃口を向けた。そして・・・・・


「覚悟!」




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