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第三章・第三話:そろいに揃って戦闘開始

暗い暗い海の底、誰も近寄らないそんな場所で、今日も明日も明後日も、多くのモノがお仕事、お仕事。


―――株式会社竜宮城。世界規模で活動を続けるこの会社は、世界の誰も目の向けようもないこの海底に存在していた。


「ここが、竜宮城ですか・・・・」


鬼丸が竜宮城を目の前にぽつりと呟いた。

確かに竜宮城は大きな会社だ。その本社ともなれば規模は巨大なものになることは容易に想像できる。しかし目の前にあるコレの規模はまるで規格外だ。それは会社というよりはまるで・・・・・


「まるで城ですね」


広大な面積を存分に使ったその建物。横に広がっているコレは通常の城とは違う。南の島にあると聞く、民族的な雰囲気を醸し出している。赤い瓦を使った屋根と守護霊と思われる像。

なかなかお目にかかれないこのお城に鬼丸は目を奪われていた。


「儂から見れば要塞にしか見えんがな。まあ、当然じゃろう。竜宮城の連中は元々巫女じゃからの」

「巫女?」


鬼丸が隣にいる長老に聞き返す。長老は表情一つ変えずにそれに答えた。


「巫女、というよりはシャーマンと言ったほうがイメージが合うかの。・・・・・元来奴らは水の神様に仕えるシャーマンじゃった。じゃからこんな場所に奴らは根城を構えるのじゃよ。空気も地上からわざわざ引っ張ってきとるらしい」

「なるほど・・・・・。だから問題なく息ができるんですね」


鬼丸は大きく深呼吸する。

海に入ったときに必死に息を我慢をしようとしていた自分が恥ずかしい。


「それが今から三代前、奴は何を思ったのか知らんが地上を侵略し始めた。・・・・・経済というものを使ってな。本当に卑怯なものどもよ。小賢しい・・・・・」

「というよりも長老、かなり竜宮城に詳しいですね。コレも年の功ですか?」


長老は驚いた、といった表情でこちらを見た。

はて?何か自分は失言でもしたであろうか。


「なんじゃ、知らなかったのか、鬼丸。お主も勉強不足じゃの。竜宮城と鬼ヶ島は元々同盟を組んでおったのじゃよ」

「えっ?・・・・・」


今度は鬼丸が驚く番。

自分の鬼ヶ島と世界的な大企業の竜宮城と関係があるとは思わなかった。鬼珠は無知な子供同然の鬼に説明をしてやることにした。


「ここは鬼ヶ島のほぼ真下。互いにここらへんを独占したいから、竜宮城にとっては我らのことは目の上のたんこぶじゃし、我らにとっては足元すくわれかれんからの。無用な争いを避けるために十代くらい前に和平を結び、竜宮城は物資の補給、鬼ヶ島はここの守護ということで手をうったらしい」

「でも私たちは桃太郎に負けてしまった・・・・・」

「そうじゃ。じゃからかの~。今回、何代も続いた和平を破り、攻めてきたのは・・・・・・。しかしまあ、いい機会じゃ。鬱陶しいと思っていた連中を潰す、な・・・・・」


長老の口端がニヤリと三日月形に歪む。顔の皺とは明らかに違うその歪み、鬼珠の目には老人とは思えないほどの謀略と策が渦巻いていて、鬼丸は顔を引きつらせた。


最近この老人の実年齢が分からなくなる・・・・。


「長老・・・・・実は貴方が一番黒いですよね」

「ほほっ、何のことかの?・・・・・さて、鬼丸。行こうかの」

「はい」


鬼丸は鬼珠に従い、竜宮城に侵入を試みる。

その第一歩を踏み出そうとしたとき、鬼丸の頭にある心配ごとがよぎった。


「ていうか私たち見つかりませんかね?こんなに堂々と会社に忍び込むなんて流石に危険じゃないですか?」

「大丈夫じゃよ。結界を張るから」

「ああ・・・・・」


鬼丸は納得して踏み出した。

そういえばそうだった。普段長老は自ら動かないので忘れがちだが、この老人はある一点において誰にも劣らなかった。


その点は結界。金太郎のような攻撃を防ぐようなものはもちろん、空間遮断、気配消去など、魔術師のような真似ができる化け物である。

鬼丸は長老以上の結界の創造をできる者を見たことがない。その結界が張ってあるなら鬼に金棒。安心して一歩を踏み出すと、突然警報のような音が辺りに鳴り響いた。


「おや?」

「・・・・・・長老。貴方の結界は穴だらけですか?」

「おかしいの。隠密の結界には自身があったんじゃが・・・・・。他のマヌケが引っかかったのかの?」

「そんなマヌケがいるわけ・・・・・うわっ、何かたくさん出てきた!」


警報音がしたと思えば、今度は兵隊があちこちからこちらに向かってきている。大方警備隊か何かなのだろうが、何故か違和感がある。


――――兵隊の手足は鱗になったり、頭が魚になっていたりした。


『待てえええええええい!』

「何だ、アレ?・・・・・」

「戦略撤退じゃ。逃げるぞ、鬼丸」

「くそっ!忌々しい。恨むぞ、マヌケどもが!」


この人数を相手にするのは面倒くさい。

鬼丸と長老は撤退を余儀なくされた。



     ▽     ▽     ▽



そのころ一方、鬼丸から恨みを買ったマヌケどもは・・・・・。


『待てええええええい!』

「うわあああああん!!この馬鹿ああああ!!」

「俺のせいじゃねえよ!全部この子のせいじゃねえか!」

「・・・・・」


鬼丸同様逃げる一手であった。

かぐやは着物の裾を上げ憐れもない姿に、金太郎は正体不明の女の子を抱え必死の形相である。

また鬼丸たちと同様、通常の人間とは異なり半漁人に追われていた。


「A班に連絡、敵は第肆区画に向かっているぞ!」

「ていうか、この子一体誰なんですか!?」

「・・・・・リュウ」

「んなこと分かっとるわ!お前本当にここから来たのかよ?」


自分のことをリュウと言う少女は口を閉ざすばかり。ため息をつく余裕もないかぐやは代わりに愚痴をもらした。


「ったく・・・・・ここ出身なのに迷子になって、警報装置なんて書いてある怪しげなスイッチを押して、さらには海洋生物に似た変な奴らに追いかけられて、もう散々ですよ!」

「まあ、半分はそれを促したオメエの責任だけどな」


ここでここに来たまでの経緯を説明しよう。


・まずリュウに怪しげな術で突然海の中に転送された金太郎とかぐや。かぐやがここが海の中と指摘した途端、金太郎は手足をばたつかせ息を必死に止めていた。

その様子を見てかぐやは爆笑していた。リュウは奥に連れて行けと短くそう言った。


・とりあえず竜宮城に侵入しようとする三人。豪華絢爛な建物に目を奪われる金太郎だが、かぐやの「私の家の方が美しいです」という発言に苦笑する。

リュウはそれとは関係なく辺りを走り回っていた。


・リュウが走り回っている姿を見ていたかぐやが何かを発見。その名前は“警報スイッチ”。かぐやが「押してみたくありませんか」という発言を聞き、リュウが無言でそれを押す。金太郎はそれを止めようとしたがもう遅い

警報音が辺りにせわしく鳴り響いていた。


――――警報音と共に半魚人が追いかけてきて、そして現在に至る。


かぐやはどうしようもない現状をいい加減鬱陶しく感じられ、追ってくる半魚人共と対峙するように振り返った。その手には蓬莱の玉の枝が握られている。


「とにかく!このまま逃げているのは性に合いませんね。とっととやりますか」

「・・・・・そうだな!」


金太郎もそれに同意する。これ以上逃げるのは性に合わない。


「ようやく観念したか!おとなしく捕まれ!」

「誰が捕まりますか。というよりお姫様である私を捕らえようだなんて無礼にもほどがありますよ!愚民共が!」

「こいつの言うことはとにかく、ここで捕まるわけにはいかないんだ!」


金太郎も隣にいるリュウを見て紫電を取り出す。

この子は何も喋らない。だが自分に助けて、と頼んだ。それだけで理由は十分。自分が闘うのもそれで十分だ。


「月光!行きますよ、キンタさん!」

「紫電!一暴れしてやろうぜ、かぐや!」

「何を生意気に!お前たち、やって―――――」


半魚人の一人がそう叫ぶと同時に、辺りが七色の光と青い電光に包まれる。

それが晴れたと思えば、あんなにたくさんにいた仲間は全員地面とキスをしていた。


「――――ひょっ!?」

「はっ!この程度で私を捕らえようだなんて浅ましいにも程がありますね!ねっ、キンタさん!」

「そうだな。確かにコレは弱すぎだな。というか、雷属性の俺に対して相性悪すぎ。何か悪く思っちゃうな」


通常の水は電気によって電気分解される。魔術でもその性質は失われておらず、常に水に濡れている半魚人はもちろん感電する。見たところここにいる全員は水属性の魔力の持ち主だそうで、要するに雷の金太郎は彼らにとって天敵なのだ。


残り一人の首筋を叩いて気絶させ、再び奥を目指そうとする三人。しかしこの場で立っている人間は合計四人いた。


「これはこれは、たいそうひどくやってくれたものですね~・・・・」

「む?誰ですか?」


かぐやが自分たちの後ろに立っているいかにもジェントルマンな男に問いかける。姿かたちはほぼ人間、しかし手首のところが魚の鱗のようなものに覆われている。

言うまでもなく竜宮城の人間だろう。しかもかなり上位の。


ジェントルマンは丁寧な口ぶりでかぐやの問いに答えた。


「おっと、コレは大変失礼。月姫様に対する礼儀がなかったですね」


何故そのことを知っているのか、自分は名前さえ喋ってはいないはず。

ジェントルマンの当然分かっているような口ぶりにかぐやは不快感を感じた。

「私、竜宮城第肆よん技術開発部、部長の岩士いわしです。以後お見知りおきを」

「第肆、技術開発部?・・・・・ウラシマさんは何でしたっけ?」

「・・・・アレ、なんだっけ?」


・・・・そういえばウラシマは竜宮城に働いているとは言っても自分の役職については喋っていない。秘密主義だから仕方ないこと・・・・・なのだろうか。


「アイツは俺らのことどう思っているのかな?・・・・・・」

「さて可愛い部下たちがやられた仕返しは・・・・・可愛い部下たちにやってもらいましょうかね。カモン!」


岩士が指をパチンとならすと、先ほどの倍はあろう半魚人が湧き出てくる。

しかも先ほどとは違い武装は重装備。先ほどが見張りならば、今回のは本当の兵隊。金太郎は首を回して、奴らと向き合った。


「はっ!上等じゃねえか・・・・・」

「塵が積もればいくら積もっても塵であることには変わりはしないんですよ。行きますよ、キンタさん!」

「おう!」



     ▽       ▽       ▽



「ぐ・・・・あ・・・・・」

「敵は・・・・・内部に侵入中・・・・・至急応援―――ぐぼっ・・・・・」

「ふう、ざっとこんなもんですかね。コレでいいですか、長老?」

「結構。ほっほ、強くなったな、鬼丸」


死屍累々・・・・・。竜宮城の気絶した兵隊の山が築かれていた。

犯人はこの鬼、鬼丸童子。逃げるのが鬱陶しく感じられたからであろう。兵隊の至る所には痣ができていた。デザートイーグルも何も使わずに、単純な暴力だけでここまでやるとは流石は鬼である。

長老もそれを見て小気味よく笑っていた。


「さて後はこのまま社長のもとまで直行したいんですけど――――」


・・・・・何かいる。鬼丸は懐からデザートイーグルを取り出した。


「――――そう簡単にはいかないですよね。お二人さん」

「ありゃりゃ?」

「ばれっちゃった?」

「バレバレです。さあ、姿を現しなさい」


床が盛り上がる。明らかに砂ではない素材が使われているのに、そこに潜んでいたというのか。隠れていたものは小さい二人組みであった。


「こんにちは」

「こんにちは」

「僕の名前は佳麗かれい。竜宮城第壱技術開発部、部長だよ」

「僕の名前は比良目ひらめ。同じく第弐技術開発部、部長だよ」

「ここで貴方たちは」

「ゲームオーバーだよ」


そういった彼らは左右対称。服も行動もポーズも性別もほくろの位置もまったく正反対。

まるで鏡を見ているようである。


こんなのが部長だと?ウラシマにしても然りだが、この会社はどうかしている。

忌々しい・・・・・。


「鬱陶しい・・・・・。喋るのは一人ずつにしなさい。そして面倒くさいので二人いっぺんに私に倒されなさい」

「おや?随分尊大な口だね」

「やっちゃおうか、佳麗ちゃん」

「・・・・・上等」


誰であろうと関係ない、来るものは全て拒む。鬼丸はデザートイーグルを持って駆け出した。





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