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第三章・第二話:だから四人は竜宮城へ



「よっこいしょっと!」

「悪いね、金さん。いつも手伝ってもらって」


いつもの通り金太郎は鬼ヶ島の復興のボランティア中である。最近では金さんと呼ばれこの仕事も箔がついてきた気がする。

ボランティアに箔がつくかどうかは知らないが・・・・・。


「何言ってんだよ、爺さん。困ったときはお互い様って言うだろ」

「そんでも、俺らは金さんに何もしてやれてねえよ。それでもいいのかい?」

「十分さ」


金太郎は最後の荷物を荷台に乗せ、一息つく。コレは自分のためでも何でもない。ただのボランティア。金太郎は今の仕事が好きであった。

年老いた鬼は深々と頭を下げ自分の荷物を持ち、自分の家に去っていく。

その代わりに別の人間が自分に向かってきていた。


かぐやである。


「やあ、キンタさん。こんなところで何やっているのですか?」

「おう、かぐやか。見りゃ分かんだろ。畑仕事の手伝い。お前こそこんなところに何のようだ?」

「・・・・・・」


かぐやは何も答えない。幸か不幸か、事情を知っている金太郎はそこから全てが分かってしまった。

このお転婆姫が落ち込むことなんて、一つしかない。


「・・・・鬼丸に追い出されたのか?」

「そ、そんなことあるわけないじゃないですか!鬼丸さんは仕事が忙しくて、それで少し会っていないだけです。こないだの天人騒ぎの収拾に追われているらしいですし・・・・・」

「要するにお前は暇でさびしいんだな」


かぐやは再び押し黙る。弱弱しく視線は俯き、何かあればすぐにも泣き出してしまいそうである。


最近の金太郎の悩み事トップ3の一つがコレ、かぐやの意気消沈である。普段はお姫様なかぐやも鬼丸関連のことになるとすぐにしおれ、こんな様になってしまう。


ちなみに他の二つの悩み事は、鬼丸の意気消沈と最近自分の名前が呼ばれなくなったな~、というどうでもいいことだ。


「まったくお前らは・・・・・。おい、かぐや。お前は鬼丸の妻なんだろ、仮にも」

「はい・・・・」

「妻って言うのが何かお前分かっているのか?」

「はい?」

「妻っていうのは夫が不在のときに留守を預かるものだ。よき妻のお前ならそれぐらいのことができるよな?」

「・・・・・はい!」


かぐやの顔が満面の笑みに変わる。こんな風な生意気な姫でもやはり、かぐやは笑っていたほうが似合っている。


「そうですね!月の姫である私にできないことなどないですよね!」

「単純な奴・・・・・まあ、いいか。とりあえず腹でも減ったからどっかに食べに行くか」

「でも最近ウラシマさん見かけませんよ」

「あっ・・・・そうだった」


金太郎はああ、と声を漏らした。今の今まで思い出していなかったこと、だけどそれはとても大切なことだった。

最近ウラシマの姿を見かけていない。それどころか誰も見たことがないという。

あのウラシマのことだ。何か考えがあるかないかは知らないが、迷子になって泣くような奴じゃない。


それでも金太郎の中には引っかかるものがあった。


「まあ、私なら一跳びなんですから問題ないんですけどね」

「そう、だな。じゃあ、かぐや。頼む―――――」


金太郎は言い終わる前に浜に何かが打ち上げられているの見つけた。

――――あれは、明らかに・・・・・

金太郎はかぐやに確認するように呟いた。


「あれは人か?」

「キンタさん、女の子が倒れていますね。どうしますか?・・・・・って貴方には愚問――――」

「――――大丈夫か!?」

「はやっ!?」


ついさっきまで自分の隣にいたはずの金太郎が、倒れている女の子のすぐ側にいてかぐやは驚愕した。


「瞬間移動でもしたんですか?」

「おい!おい、大丈夫か?」


金太郎の呼びかけに答えるように、少女はパッチリ目を開く。気絶していたとは思えないほどのスピードでムクッと、起き上がると金太郎の顔を見つめた。


「あっ、目を覚ました」

「大丈夫か、お前?」


少女はその無機質な目で金太郎を見つめるばかり、何も語ろうとはしない。


「・・・・・・」

「黙ってないで何か喋ったらどうですか?ええ?」

「お前はどこぞの不良か?・・・・・名前、いえるか?」


少女はその小さな口を開き、消え入るような声で答えた。


「・・・・リュウ」

「リュウちゃんか。お前、どこから来たかいえるか?」


金太郎は今までこの子は海を漂流し流れ着いてきたものとばかり思っていた。しかしそれは大きな間違い。

それどころかこの子に関わったこと自体が間違いだった。少女はポツリとその場所の名前を呟く。


「・・・・竜宮城」

『へっ!?』

「助けにきて」


金太郎とかぐやの周りに突如魔方陣が発生。それにより生じた光が二人を包み込み、それが消えたときにはそこにはもう誰もいなかった・・・・・。



     ▽     ▽      ▽



「はい。コレから改めて会議を始めます。よろしくお願いします」

『よ、よろしくお願いします』


栄鬼が頭を下げると他の五人もそれに続く。

何故か五人の頭にはそれぞれたんこぶが存在していた。暗鬼には5つ、一鬼には3つ、怪鬼、妖鬼には1つ、幽鬼には何故かなかった。


普段ならこの鬼ごっこは一時間ほどかかるのだが、今日はその半分ですんだ。というのも、栄鬼には味方がいたからである。


「悪いね、鬼丸。手伝わせちゃって」

「いえ、悪いのは栄鬼さんではなくこの馬鹿共です。栄鬼さんが謝ることはありませんよ」

「おい、誰がバ――――」

『―――――主にテメエだ、バカ!』


栄鬼と鬼丸が口をそろえる。暗鬼はひどくビビリ、肩をすくみあがらせる。

たんこぶの数からも分かるようにこの中で一番怨まれているのは暗鬼。二人の睨みの中に孕んでいるのは本物の怨みのみ。

暗鬼を黙らせると、栄鬼は会議を始めた。


「それでは妖鬼、天人騒ぎの報告を」

「はいは~い」


妖鬼は間延びした声で答える。

それとは打って変わって真剣な表情で報告を始めた。


「天人騒ぎは祭りのせいもあってそれほど混乱はありません。ほとんどの鬼が祭りの余興と思っているそうです。ただ一部の疑り深い鬼は本物じゃないか、と疑っているそうよ」

「ふむ・・・・。では妖鬼、その件の収拾は任せていいかな?」

「はいは~い」


妖鬼は再び間延びした声で返事をした。興味が失せたようで回転イスを180度回転させて髪をいじくって遊び始めた。

毎度のことなので栄鬼は気にしない。今度は一鬼に問うた。


「では一鬼、収穫のことを説明してくれ」

「う、うん。・・・・・・収穫に関しては問題ないみたい。引越しして初めての年だから多くは見込めないけど、思ったより少なくはないみたい。来年も期待できるかな」

「で、他の問題とは?」

「・・・・・実は最近漁の調子が悪いみたいで」


一鬼は答えにくそうに答える。興味深い話題に栄鬼は迷わず食いついた。


「ほう・・・・原因は?」

「そ、それが分からないんだ・・・・・」

「分からない?」

「う、うん。天気、水温、潮の流れ・・・・・どれも異常ないはずないんだけど」


一鬼は本当に分からないように首をかしげる。

この鬼は非常に臆病だが、いや、臆病だから情報という分野に関しては右に出るものはいない。その一鬼が分からないとなればまさにお手上げである。


「ふむ・・・・・確かに僕たちは山暮らしが長かったから、漁に出る人がいなくなったかも知れん。しかし昔とった何やら、以前ここで暮らしていた漁師も少なくはないだろう。人材的には問題ないはずなんだが・・・・・。一鬼、暗鬼もう少し調べておいてくれ」

「わ、分かったよ」

「あ~い」


幽鬼と一鬼が答える。いつも通りの反応、栄鬼もいつも通りに会議を終えようと思っていた矢先にいつも通りにはなりそうにないことが起こった。

――――窓が突き破られる。


皆が振り向くと、青い髪の少年が窓の外で立っていた。


「はっはっは!その件については調べる必要がないよ、鬼の皆さん!だってそれは僕の仕業なんだからね!」

『!?』


青い髪の少年とはいうまでもなくウラシマ、そして彼は巨大な手の上に立っていた。

栄鬼と鬼丸はウラシマの突然の登場に驚いている。それは分かるのだが、他の五人の目線がどうも違うところに向かっていることにウラシマは疑問に思った。


「ん?どうしたんだい、皆さん?」

「アレって何だっけ?」

「ええっと・・・・・昔やってた特撮の・・・・・・」

「分かった!ゴ○ラだ!」

「あれ?そんなんだっけ?」

「ふふ・・・・・みんな違うわよ、正解はガメ○」

『ああ!なるほど!』


五人が一斉に手をつき頷く。あまりの能天気さに栄鬼は頭を抱えた。


「みんな、そんなこと今はどうでもいいだろ!戦闘準備を・・・・・」

「ん?遅い遅い」


声がした時にはもう遅かった。

窓淵に立っていたはずのウラシマの姿はすでになく、栄鬼の後ろに部屋に置いてあった箱を持って立っていた。

ウラシマが魔術師ということは知っている。が、瞬時に人の後ろに回りこめる魔術など聞いたことがない。あらゆる考えが栄鬼の頭の中を駆け巡るが、解決には敵わなかった。


「な!?いつの間に?」

「甘いよ、栄鬼君。僕たち竜宮城の者たちにとってコレぐらいちょろい、ちょろい!それじゃあこの箱はもらっていくよ」


栄鬼は当然ウラシマを追いかけようとする。

しかし何者かの手によってそれは遮られることとなった。長老の手だ。


「父さん?」

「それじゃあ、コレにてドロンさせていただこうかね」

「待ちなさい、ウラシマ!」


鬼丸がウラシマを呼び止める。

ウラシマは少し笑ってそれに答えた。少し疲れたような顔だった。


「鬼丸君、悪いね。コレばっかりは仕方ないんだよ」

「貴方、一体?・・・・・」


鬼丸の言葉が言い終わる前にウラシマは亀の手に乗り込む。巨大亀は海のほうへ飛翔し、飛び込む。巨大な水しぶきが上がるとともに、五人の歓声が上がる。


「おお!あのガメ○飛んだぞ!」

「そんなこと言っている場合か!易々と侵入者を許し、あまつさえ物も盗られたんだぞ!幽鬼は追撃隊を編成、他のものは戦の準備を―――――」

「――――その必要はない。栄鬼」


長老が栄鬼の言葉を遮る。

先ほどのこともあり、栄鬼は痺れを切らしついに反発した。


「長老、何故ですか!?」

「そろそろ潮時じゃと思っていたからの、ちょうどいいんじゃ」

「はい?一体何のこと・・・・・」


若い栄鬼には分かるはずもない。このことが分かるのは今では長老一人しかいないから当然だ。


「とにかくお前たちはこの件については関わる必要はない。お前たちは会議を続けよ。竜宮城へは儂と・・・・・そうじゃの、鬼丸が行く」

「私が、ですか?」

「適任じゃろ」


長老は不適に鬼丸に笑いかける。

この老人の考えていることは確かに分からない。しかし今まで間違ったことはない。鬼丸はおとなしく従うことにした。


「ふむ、分かりました。ご同行させていただきます」

「よろしい。では栄鬼、後は頼んだぞ」

「は、はい。お気をつけて・・・・・」


鬼丸と共に長老はウラシマが出て行った窓から出て行く。いくらなんでもそんな場所から出て行く必要はないだろう、と思ったが口には出さなかった。


「栄鬼、お爺ちゃんは何を考えているんだろうね?」

「分からん・・・・・・。未だにあの人の思っていることは分からん」


父と子は似るものという。いつか自分もあんな風になるのかと思うと将来が不安で仕方なかった。





今回は記念すべき50話。ありがとうございます。

しかし今思えば何か記念話を書けば良かったな、と・・・・・。すみません。


今後とも御伽話をよろしくお願いします!



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