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第一章・第四話:そうだ!依頼を受けよう!

「キンタ、あなたお金持っていますか?」

「あん?」


ある日の昼下がり、退魔師、坂田金太郎と鬼、鬼丸童子は鬼ヶ島の道中のある町を訪れていた。二人が桃太郎退治に出かけたのを決意したのは数日前、二人はだいぶお互いのことを知るようになっていた。

そして二人は丁度昼飯中。金太郎はパスタを、鬼丸はお茶を飲んでいた。


「ですからお金持っていますか?」

「ああ、たしか親父から貰っていた金がまだあったは……ず……」


金太郎は懐を探すがそれらしきものは見つからない。途端に金太郎の顔が青ざめていく。


「な、ない……」

「ふむ、困りましたね。実は私も持ち合わせてないんですよ」

「えっ……じゃあどうすんだよ!俺達捕まっちまうぞ!」

「……」


鬼丸が腕を組み何かを考えたかと思うと、突然立ち上がった。


「ああ~! あの人、食い逃げだ!」

「えっ!?」


鬼丸はわざとらしく声を上げ、指をさした。その指す方向には誰もいないが、客の目を引き付けるには十分であった。


「今のうちに逃げますよ、キンタ!」

「おお! ……って俺らが食い逃げじゃん!!」

「今はそんなこと言っていれますか? 走りますよ」

「ちょっと待て! 俺がそんなことできるか! お前には罪悪感というものがないのか?」

「ないです、私、鬼ですから」

「んな理由が許されるか!? ……って、だから逃げようとするなって!」

「まあまあ、御二人さん」


金太郎が鬼丸を引き留めようと、ギャーギャー騒いでいると中年でビール腹……もとい体格の良い男性が話しかけてきた。


「後は店の奥で聞くから、ついてきてくれるかな?」

「ちっ……」


金太郎は鬼丸の舌打ちを無視して、着いて行った。



        ▽        ▽       ▽



数十分後、無事(?)帰してもらえた鬼丸と金太郎はある所に向かっていた。


「ったく……あなたのせいでとんだ借金を負いましたよ! あのまま逃げ切れたはずなのに……」

「警察に引き渡されなかっただけでも幸運と思えよ……」


結局あの後、金太郎と鬼丸は店の奥で店長に謝罪、それと請求書をもらい返してもらえた。本来は警察に引き渡しても良いのだが、二人ともまだ若いこと、それと鬼丸に代わって猛烈に謝罪する金太郎に免じて許してもらえた。

尚、当然のように鬼丸は今回のことを反省すらしていない。


「だいたいあの店長も“出世払い”ということで許してくれればいいのに……いまいち融通が利きませんね」

「どこの世界に出世する見込みのない奴に“出世払い”で許す奴がいるんだよ……。ったく、早くこの町の通商ギルドを探そうぜ」


さて、この世界にはたくさんの国がある。

この御伽の国だけではなく、童話の国、不思議の国など、大小含めてたくさんの国が存在している。

もちろん国家間で貿易をしており、この世界の経済システムが動き出した当初は順調であった。

しかし次第に国家が増えるにつれて、貿易数は激増。もはや国だけでは管理しきれなくなり初期の経済システムは破たん寸前まで追い込まれてしまった。

そこでその仲立ち役として当時のお偉いさんが作ったのがギルド。

国家の貿易を管理するだけではなく、この世界のありとあらゆる企業を取りまとめる存在として作られた。

ギルドによって商業は民間まで行き届いており、現在では人の労働力も取引している。所謂賞金稼ぎ。ギルドは依頼人と契約者の仲立ちをしスムーズに、依頼、受諾、そして報酬の受け渡しを行っている。


今、二人がギルドに向かっているのは賞金稼ぎのためである。基本的に依頼は誰でも受けることができる。


「ここが通商ギルドですか……」

「でか……」


この町の通商ギルドの建物は大きく二人の前にそびえたっていた。鬼丸は迷わずに、金太郎は少し気合いを入れて入って行った。


「いらっしゃい。依頼を受けたいのかい?」


建物に入ってまず一言目がそれ。建物の内部は人がいるせいか思ったより小さく感じる。酒場のような雰囲気で、壁には大量の紙が貼ってあった。どうやら未処理の依頼らしい。


「どんな依頼がご希望かい?」

「ええ、1日で終わることができ、高報酬、なおかつ楽な仕事を希望しているのですが」

「そんな仕事あるわけないだろ……」


鬼丸の無理難題を聞いた瞬間、店員の目が一瞬輝いたように見えた。


「あるよ。楽で高報酬。さすがに1日では終わらないけどね」

「ほら、あるって……ってあんのかよ!?」


男性が机の中から一枚の紙を取り出し、鬼丸たちに見せる。


「何々……、最近、村に狼男が頻繁に出現するので倒してほしい。報酬は100万円……100万円!?」


この国の通貨の単位は円である。あまりの大金にキンタは驚きの声を上げる。


「ずいぶんな大金ですね……で、依頼人の名前は?」

「ええっと……周っていう村のヨウタ、って書いてある。」

「ふむ、ではこの依頼にしますか」

「そうだな。おっさん、俺らこの依頼受けるぜ!」

「わかったよ。じゃあ向こう側に連絡しとくから、君たちは行ってもいいよ」

「おっしゃ! 行くぞ、鬼丸!」

「ちょっと! 少しは待ってくださいよ」


キンタが走り出し、鬼丸がそれを追いかける。こんなに人がいる中、走ればぶつかるのは必至。

案の定、鬼丸は入口付近で背の高い、白髪の男性にぶつかってしまった。


「ああ、すみません……」

「……別に構わない……」


白髪の男はそう言って、先ほど鬼丸たちがいた受付に向かった。鬼丸はしばらく、その男を見ていたが、キンタに呼ばれて急いで向かった。



       ▽       ▽       ▽



「おい、松永さん。あんた、また新人をいじめただろ」


バーで酒を飲んでいた男が先ほどの受付の店員に声をかける。気軽に話しかけているところを見るとどうやら常連らしい。


「ん? 何の事だい?」

「とぼけんじゃないよ。狼男の駆除って……どんだけ大変な仕事をまかせるんだい?」


受付は笑って答えた。


「はっはっは! あんな生意気を言う新人には痛い目にあってもらわないといけないからね! まあ、誰しも通る道さ」


実はこの受付――――名を松永という――――かなりのやり手でこのギルドの

受付で、初めてギルドに来て依頼を受けようとする若者に無理難題の依頼を吹っ掛けることで有名で“初見殺し”というよく分からない二つ名まである。

当然、鬼丸たちはそんなこと知るはずもない。


「まあ、彼らならこの依頼でもできるんじゃないかな?」

「おや、どうしてそう思うんだい? 松永さん」


客が顔を真っ赤にしながら聞く。


「ん~、何となくダネ。強いて言うなら勘かな?」

「すまない……」


いつの間にか客が来ていたようだ。余程話に夢中になっていたのだろうか、まったく気配に気がつかなかった。


「やあ、依頼をうけたいのかい?」

「いや、依頼を願いたい……」


白髪の男はそう言って受付の椅子に座った。受付の男性はいつものことのように、依頼の申込用の紙を取り出した。


「それで、どんな依頼だい?」

「……先ほど居た少年たちを……殺してほしい」

「ふ~ん、別にいいけどね……。ではココに依頼願いを。あんた名前は?」

「――――犬」


鬼丸たちの知らないところで、物語は静かに動き始めていた……



      ▽       ▽        ▽



「キンタ、この依頼、本物でしょうか?」

「ああ? どういうことだよ?」


二人で周の村に向かっている途中、鬼丸がこんなことを口にした。前を進んでいたキンタが振り返る。


「狼男は魔の中でも中位の強さを誇るものです。決してゴブリンやスライムのみたいに一撃で倒せるような雑魚ではない。それが何体も街に下りてくるとなると、それはギルドの賞金稼ぎではなく退魔師に依頼するべきだ……。それに100万という報酬も気になります。こんな田舎にそんな大金が出せると思いますか?」


キンタは周りを見る。町にいたような人の活気さはなく、とても静かだ。そういえば、さっきから人に会ってない気がする……


「……ま、なんとかなるだろ! とりあえず行こうぜ!」

「そんな無計画な……」


キンタと鬼丸は再び歩き出した。



        ▽       ▽       ▽



「ふう~……やっと着いたな~」


町を出てから数時間、鬼丸とキンタはようやく周の村にたどりついた。もう太陽は高く上っており日が照っていた。


「取りあえず依頼人に会いましょう。とっととこの依頼を終わらせて、長関に向かいますよ」

「そうだな。おっ、第一村人発見」


二人はここの村人らしきおばさんを見つけ駆け寄った。


「すみませ~ん」

「ん? あんたら、外から来たのかい?」

「ええ、まあ……」

「こんな田舎までよく来たね。いや~、よく来たね。疲れているだろうから私の家に来なさい。おっ、あんた等よく見たらなかなか男前じゃないか。いや~こんな“イケメン”が家に来てくれるなんて、私どうしましょう。あははは。いや~、でもね、私の息子もあんたらくらいの“イケメン”だったのよ。ほほほ。今じゃあ、長関の方に上京しちまって3年も会ってないけどあの子ならやっていけるだろうよ。ああ、それとね……」


おばさんの話が止まらなくなってしまった。鬼丸とキンタは思わず顔が引きつる。


「……どうにかしてくださいよ、キンタ」

「ええ!? 俺が!? お前がどうにかしろよ」

「私は人間との会話に慣れていません。人間は人間同士、話し合ってくださいよ」

「ちっ、しょうがないな……あの、すみません。俺ら聞きたいことがあるんですよ。聞いていますか~? もしも~し!?」

「それで、あそこのタイ焼きが……ああ、ごめんなさいね。つい自分の話にはいちゃって……それで何の用だったかしら?」

「この村に“ヨウタ”っていう人いますか?」


その瞬間、今まで笑顔だったおばさんの表情が無くなった。まるでその人物を軽蔑するような、そんな目だった。

突然の変化にキンタは戸惑いの表情を浮かべる。


「あんたら、ヨウタになんか用かい?」

「えっ……俺らその人から依頼受けてるんですけど……」

「依頼だって? 本当にあの子はどうしようもないね。自分の嘘に他人を巻き込むなんて……」

『嘘!?』


鬼丸たちが受けた最初の依頼はどうにも楽に終わりそうも無かった。



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