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第三章・第一話:始まりはどちらも会議室で

「それでは定例会議を始める。よろしくお願いします」


鬼ヶ島中央塔の一室。今日ここで六人の長と長老の間で会議が行われる。題は主に先日の天人騒ぎの後始末とそろそろ行われる作物の収穫の準備。

前者ははともかくとして、後者は来るべき冬の存在もあり無視できないものである。

早々に案をまとめないといけないのだが・・・・・・


「ヨッちゃん!髪結って!」

「はいはい。あら、ユウちゃん、また髪が伸びたわね」

「おい、一鬼!そこらへんに六角ドライバーないか?」

「えっ?な、ないよ。・・・・・というか何に使うの?」

「うふふ・・・・・ここにあったわ・・・・・」

「・・・・・・」


この有様である。栄鬼は開いた口が塞がらなかず、ただ黙っているしかなかった。

今自分の目の前で思い思いの行動を取っているのは紛れもないこの鬼の長たち。こいつらは自分の身分というのが分かっているのだろうか?

――――いや、分かっているはずがない。むしろ分かっていると言われたほうが困る。


「・・・・・おい、お前たち。今は会議の途中だろ。少しは参加してくれないか?」


そういうと五人の長は一斉にこちらを向いた。そして一斉に口を開いた。


「だって」

「どうせ」

「栄鬼が」

「全部」

「やってくれるし」


何というシンクロ率。コレを何か別のことに生かせないのだろうか?・・・・・

五人は栄鬼を見た。肩がわなわなと震えている。

五人は途端に変わった雰囲気から生命の危機を感じ逃走を図るがもう遅い、栄鬼の怒りは有頂天に達した。


「貴様ら、少しは長としての自覚を持てえええ!!」

『うわ!栄鬼が怒った!』

「貴様ら!逃げるなああああ!」


五人は会議室から一斉に飛び散り、栄鬼は一人ずつ潰しにかかる。毎度のことなので他の鬼たちは驚く様子もない。後10分もすれば全員捕まるだろう。


そんな様子を鬼丸は下の階で聞いていた。


「馬鹿ばっか・・・・・」

「まあまあ、鬼丸。そういわないでおくれ。彼らもれっきとした長なのじゃから」


長老がこちらを向かずに答える。鬼丸もそれを長老のほうを向かずに聞いていた。

現在、鬼丸がいるのは会議室下の倉庫。なにやら長老は探し物があるとの事で、それを手伝っているのだ。

さて倉庫での探し物で何が大変かというと、散乱と広がっているものの整理である。山から引越ししてきたばかりで未だに整理がついていない。鬼丸はこの部屋を見たときにこの依頼を受けたことをひどく後悔した。


なので少しでも気を紛らわそうと鬼丸は普段より多く口を動かしている。


「栄鬼一人で長は十分ですよ。何で奴らに長なんてやらせているのですか?」

「ん~。そうじゃの~・・・・栄鬼が完璧すぎるからかの?」


長老の冗談に鬼丸は眉をひそめる。


「親の贔屓目かもしれんが栄鬼は完璧じゃ。じゃから全体としてのバランスを考えての。ほら、バランスが悪いとヤジロベエは成り立たないのと一緒じゃ」

「からかわないでください、長老。政治にやりすぎなんて事はまずありえませんよ。政治に必要なものは決断力のあるリーダー。それが完璧ならば他のものはいりませんよ」


コレは鬼丸の持論である。政治に大切なのはまず行動、そしてそれを指導するリーダーが最も必要。何より効率である。

それを聞くと突然長老は笑い出した。鬼丸にはそれが自分の持論が否定されさらに眉の溝を深めた。


「ほっほっほ。鬼丸は本当に効率主義じゃの。効率を追い求めすぎると人生つまらんぞ」

「大丈夫です。最近楽しい無駄が増えましたから」

「ほっほっほ!よきことじゃ」


鬼丸の頭の中に愉快な4人の顔が思い浮かぶ。最近の自分の行動には無駄が多すぎる。それが楽しいからやめられないのが事実であるから困ったものだ。

いつの間にか長老がこちらを見ているのに気が付いた。


「・・・・・なんですか?」

「顔がにやけておるよ、鬼丸」

「なっ!・・・・」

「ほっほっほ!よきこと、よきこと。彼らには感謝しなければの・・・・・。さて、ちょっと話を戻すか。先ほどは冗談を言ったがな、実際幽鬼たちは栄鬼に必要なのじゃよ」


鬼丸にはそれがまったく理解できない。


「どんなところがですか?」

「“鬼闘術きとうじゅつ”の継承」


長老は短く答える。

鬼丸も聞き覚えのあるその言葉。一番嫌いなその闘法。鬼丸の顔は自然としかめっ面になっていた。


「鬼闘術の継承には栄鬼一人では力不足。いや、一人では不可能じゃ。鬼闘術の継承には熟練の師が何人いようと困ることはない。儂が死に、栄鬼が長老となったとき幽鬼達が鬼闘術を鬼の子達に継承する。そのためにも奴らは儂の目に届く場所においとかなければならん」


長老は口を歪ませ語る。何故か長老の後ろには、人間たちの間で広まっている巨大で醜悪でおぞましい鬼の姿があった。威圧感は十分、伊達に鬼の長老はやっていなかった。

鬼丸はその存在を否定するように鼻を鳴らした。


「ふんっ!くだらない。あんな闘法にこだわらなくとも勝つことはできます。現に私はそれを証明している」

「まあまあ、そういうな。アレは一種の伝統のようなもんだ。それよりも鬼丸・・・・・お主、鬼闘術を学ぶ気はないか?」

「・・・・・はい?」


鬼丸は持っていた本を手から落とす。何を言っているんだ、このジジイと口から出そうになったがそれを何とか押しとどめる。長老は自分がそれを嫌いであることを知っているはず。からかっているのか?・・・・

しかし長老は至って真面目に話を続けた。


「先ほども言ったとおり鬼闘術を学ぶものは多ければ多いほど良い。お主なら良い使い手になると思うのじゃがの」

「・・・・・・」


鬼丸は落とした本を拾うと元にあった場所に片付けた。そして無言のまま、ここから立ち去ろうとした。


「鬼丸?」

「・・・・・すみません。用事ができました。私はここで失礼させていただきます」

「うむ、分かった」

「それと・・・・・・父は私に“一色には染まるな”といっていましたので」


鬼丸はそういうと扉を閉め部屋から立ち去る。残されたのは長老のみ、長老は独りでにつぶやいた。


「ふむ・・・・あいつらしい言葉じゃの・・・・・。さて、そろそろ見つかると思うのじゃが・・・・」


独りになった長老はそれでも倉庫の中を探し続ける。むしろ余計荒らしている。今重要なことは探し物を見つけること。他のものなどどうでも良かった。

探し物は棚の一番上にあった。


「おお!あった、あった。こんなところにあるとは・・・・・。そろそろコレをとりに来ることじゃろうな、あの金の亡者どもが」


長老の探し物とは黒い箱。何の塗料が使われたかは知らないが品の良い黒で染まっており、それは赤い紐で閉じられている。弁当箱にでも使えば高級感溢れるものになるだろうが、残念ながらこの箱はそういう用途はない。

長老はそっとその箱の名前を呟いた。


「玉手箱・・・・・・おや、今日の海は荒れておるな」


天気は晴れ、それにも関わらず荒れている海を見て長老は一瞬口を歪ませた。



      ▽      ▽      ▽



コレは数日前、天人騒ぎのときにまで話は遡る。


「はあ・・・・・まったく、社長もひどい人だよね。せっかくいいところだったのに」


青髪の少年がそう呟く。彼の名前はウラシマ、長関の船乗りであり鬼ヶ島の渡し役であり、そして竜宮城の社員である。

今彼がいるのはその竜宮城、紛れもなく海の中である。ウラシマが門を通ると一人の男が待っていた。


「お疲れ様です。コレ、タオルと着替えです」

「おう、テンキュー、亀吉君!」


ウラシマは着替えとタオルと受け取る。

彼の名前は亀吉。トロンとした眠そうな目、ボサボサの黒髪、ネクタイをつけていないのにスーツといかにも駄目そうな雰囲気が漂う男だが、仕事は至って真面目である。ウラシマの重要な部下の一人だ。というかウラシマには彼を含め3人しか部下はいない。

また冗談のようだが、彼は名前の通りに亀の甲羅が背中についている。というより彼は二足歩行の正真正銘の亀である。


ウラシマはそんな彼に愚痴をこぼした。


「で、今度は何?またこないだみたいに満漢全席作れとかだったら、僕帰るよ」

「そうおっしゃらずに・・・・・。会議場で社長が待っています」

「たくっ・・・・・」


ウラシマは悪態をつきながら渋々向かう。彼女に逆らうとどんなお仕置きが待っているか分からないから怖い。給料カットだけは御免である。


「失礼します。第零技術開発部、亀吉です」

「しつれいしまーす」


広い会議室で待っていたのはたった一人、それも女性である。その女性はチョコンとイスに、まるで人形のように座っていた。彼女はその赤い髪をまるで綾取りをするかのように指に絡ませていた。


彼女の名前は乙姫おとひめ。この株式会社竜宮城の代表取締役、いわゆる社長である。外見は女子高生にしか見えない彼女がこの大企業の全てを取り締まっていると誰が信じるだろうか。

しかし彼女の手腕はこの巨大な竜宮城が証明している。彼女の代で竜宮城が一気に発展したことはその手の人間なら誰しも知っていることだ。


ウラシマたちが入った瞬間、彼女の口から短く声が発せられた。


「おそい」


たった三文字、それが彼女の機嫌が悪い理由である。ウラシマは慌てて弁明した。


「おそいって・・・・コレでも僕急いだ――――」

「――――おそい」

「そんなこと言うなら社長だってこないだ―――――」

「――――おそい」

「・・・・・社長は走るのが―――――」

「―――――おそい・・・・・」

「ぷー!ひっかっかってやんの!・・・・・って痛い、殴らないでくださいよ!」


無言での本気の殴り、ウラシマは虐待だと何だと叫ぶがそんなことは関係ない。この会社では彼女が絶対なのだ。


「コレだからお子ちゃまは・・・・・」


ちなみにウラシマの外見は10歳である。


「どうした、ウラシマ?」

「いえ何にも・・・・・・で、社長。今回は何のようですか?またこないだみたいにくだらない用事でしたら他の部署をあたってくださいよ」


ウラシマはたびたび彼女に呼ばれる。主に彼女の暇つぶしのために。今の今まで今度こそ断ろうと思っていた。


「今回は貴方たちしか頼めない仕事です。実は今朝、彼女が行方不明となりました」

『!?』


彼女、という言葉にウラシマと亀吉は大きく反応する。ウラシマはいつもニヤニヤ顔をやめ真剣な表情になっている。


「で、目処はたっているんですか?」

「GPS情報によると彼女がいるのは・・・・・“鬼ヶ島”です」


一瞬だけ、ウラシマのニヤニヤ顔が止まったように見えた。


「鬼ヶ島、ねえ・・・・・」


ウラシマの脳裏に三人の顔が思い出される。鬼とお姫様と、それと金髪の退魔師・・・・・。


「で、どうするんですか?僕が偵察にでも―――――」

「――――戦争」


思いもよらなかった言葉にウラシマは言葉につまる。代わりに亀吉が聞いてくれなければ、辺りに沈黙が流れただろう。

彼には感謝しなければならない。


「戦争、ですか?」

「彼女を取り返すために手段を選ばない。コレは聖戦、私たちは勝たねばならない。躊躇はいらない。分かった、ウラシマ、亀吉?」

「はい、乙姫様!」


亀吉が威勢よく答える。対してウラシマはあまり気乗りしないでいた。あの三人と戦うことなど気が引ける。

ウラシマはこの件を断ろうとした。


「社長、僕は・・・・・」

「契約を忘れたの、ウラシマ?」

「――――っ!」


ウラシマに衝撃が走る。目の前にあるのは一枚の紙切れ、こんなモノのために自分は縛られている。

追い討ちをかけるかのように乙姫はウラシマに喋りかけた。


「貴方は私のために尽くさねばならない。この契約書がある限り、貴方は私に縛られる。いいわね、ウラシマ」

「・・・・・はい、乙姫様」


ウラシマには選択はできない。彼に与えられた選択肢は常にYesしかないのだから。




はい、というわけで今回からウラシマ編です。個人的にウラシマは好きなキャラなのですが、今まであんまり活躍してない気が・・・・・。

ウラシマ君大活躍の(予定の)お話をよろしくお願いします。

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