第二章・第八話:最狂、再臨
最初の部分は桃太郎の一人称視点となります。
少し読みづらいとは思いますが、ご容赦ください。
「うふふ・・・・・」
――――――滅びなさい、最狂・・・・・
「ふっはっはっはっは!・・・・・・」
――――――オメエみたいなヤツには分からんだろうよ!仲間をどうでもいいと思っているようなヤツにはな!
「あっはっはっはっはっはっは!・・・・・・」
――――――精々がんばっていくのじゃよ、鬼退治。
――――――お前の名前は、今日から桃太郎じゃ
「思い出したぞおおおおお!アタシは、桃太郎だあああああ!」
ふう、アタシはようやくイライラから解放された・・・・・・。思い出さないイライラがこんなに辛いものだとは知らなかった。
まあ、いいさ。解放された喜びのあまり、浜辺にクレーターを作ってしまったがそんなことは神様が許してくれるだろう。
「な、何が起こった!?いや、奴は何者なのだ!?」
「・・・・・・桃原キョウ、またの名を桃太郎。この国の英雄にして、破壊快楽者。そして最狂ですよ」
・・・・・・目の前にあるモノは3個。見知った顔と見たような顔と見知らぬ顔。見知った顔の奴は一回殺りあったことあるし、アタシは女を壊すのは趣味じゃねえ。
だとしたら・・・・・壊すのは、見知らぬ顔かな。
というかコイツ・・・・・・眼が赤と青、髪が金髪だと信号みたいに見えるな。
「桃花!」
どこから知らんがアタシがこう呼べば、コイツは確実に来る。最強からの置き土産、コイツに触れるのは何ヶ月ぶりだあ?
他の日本刀とは一線を画す黒く長い刀身、その黒は夜のように暗く見るもの全てを取り込む・・・・・。まさに名刀、いや妖刀だな、こりゃ。
アタシはコイツを手にした瞬間、駆け出していた。
「ぶっ潰れろ!信号野郎!」
「な―――――」
アタシは信号野郎の真後ろにいた。右蹴りっつうオマケつきで。
信号野郎はそれを、頭を引っ込めてかわす。
へえ~・・・・・いい反射神経だ。だったら次の手は・・・・・左拳かな。
「甘い!」
「・・・・・アァ!?」
その時、信号野郎はおかしな行動を取りやがった。アタシが殴る前に回避行動を取り、さらに片手剣で反撃。普通ならありえない行動だ。
・・・・・なんかあるな、コイツ。
「今度はこっちの番だぞ、桃原キョウ!」
「今考え中だ、ボケ!」
当然、その声で信号野郎は止まるはずもなく片手剣を振り回す。
・・・・・おかしい、アタシが逃げようと思ったところに剣が振り下ろされる。アタシの行動が読まれてる?いや・・・・・未来が見えているのか?
「まあ、どっちでも変わんねえよな!」
「な、何!?」
何をそんなに驚いているんだ?ただ剣を素手で受け止めただけなのに。血がだらだらと止まらないがそんなことは関係ない。今はただ蹴り殺すだけ。
「砕け散ろや!」
「――――ぐっ!」
ボディへの一撃、いくらガードしようとこの距離のヒザ打ちならダメージは残る。
もちろんアタシのほうもノーガードだが問題ない。アタシの力はあらゆる力を凌駕するから。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
ただひたすらアタシは奴を殴る殴る殴る殴る。
信号野郎は何とかかわそうとする、その心意気やよし。だが残念ながら全発当たっているんだな、コレが。
・・・・・えっ!?剣を使ってないって?仕方ねえな、使ってやるよ!
「死ね、オラ!」
「マズ――――――」
信号野郎は片手剣を手放してアタシの桃花をかわす。
ほお~、やるじゃねえか。でも、まだまだアタシの攻撃は続くぜ~。
「かぐや、行きましょうか・・・・・」
「・・・・ええ」
見知った顔たちはどこかに行っちまう。だが、そんなもん関係ねえ。どうせ全員ぶっ潰すんだからよ。
「アッハッハッハッハ!」
▽ ▽ ▽
「・・・・・ここまで来れば桃太郎からは逃げれたでしょう。あのままいたら間違いなく殺される・・・・・」
「確かに・・・・・私はまだ死にたくありません」
死ぬはずのないかぐやがそんなことを言う。桃太郎と対峙した時に感じたのは圧倒的威圧感と恐怖、鬼丸に言われなくとも自然と足は動いていただろう。
現在二人がいるのは長関の入り口、三方を海に囲まれているこの都市の唯一陸地に面している部分である。
鬼丸たちが鬼ヶ島に向かうときに通過した場所であり、かぐやが一時身を寄せていた竹林が見えた。
「竹取の翁・・・・・・」
かぐやはポツリとおじいさんの名前を漏らす。
そういえばあの老人も自分を逃がすために一役買ってくれた。今までは深く考えたことなかったが、あの老人は何を思って自分を逃がしてくれただろうか。
「会いたいですか?」
「なっ・・・・・そ、そんなわけないでしょう。今さら懐古の情を引き起こしても無駄ですから」
「ふ~ん・・・・・」
鬼丸はニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。こちらのことを見透かされているようで気味が悪かった。
「・・・・・その目は何だか不愉快です」
「コレは失礼、かぐや。ところで、先ほどまた貴方は無駄と言いましたね。本当に今でもそう思っていますか?」
「・・・・・思っていますよ」
かぐやは少し間をおいて答える。若干目をそらしたのを鬼丸は見逃さなかった。
「私はね、今までのことが無駄と思ったことはありませんよ」
「・・・・・嘘だ」
「本当ですって。信じてくださいよ」
家具屋が疑いの眼差しを向ける。そんな人生を送っている者などいるはずもない。
そんな目をかいくぐりながら鬼丸は話を続ける。
「この世に無駄なことなどない・・・・・・。鬼ヶ島から逃げてきたのは他の鬼を巻き込まないようにするため、金太郎に足止めしてもらったのは時間を稼いでもらうため。今ここに来たのは、あのまま浜辺にいたら飛ぶことのできるカナモリに圧倒的に不利でしょう」
空中を飛べるカナモリと地上を走る鬼丸とでは圧倒的差がある。砂に足を取られ、移動すらままならないだろう。
しかしそういう問題以前にカナモリには勝てないのだ。かぐやは鬼丸に反発した。
「しかし、そんなもの、私が月に帰ってしまったら無駄になりますよ」
「だから貴方は帰らせません。絶対に」
鬼丸はかぐやの目を見る。明確な意思をもって。
こういう目で見られるとかぐやは弱い。反論することができなかった。
「かぐやは今の今までの旅、全てが無駄だと思いますか?」
「・・・・・・」
「私はそうは思わない。キンタやウラシマや、もちろん貴方に出会うことのきっかけになったこの旅を無駄なんて絶対に思わない」
かぐやは黙っている。
「だいたい結果を求めるなんて不毛だと思いませんか?今の一瞬を生きる、それこそが―――――」
「――――でもいずれその未来は来てしまうのですよ」
突然、かぐやが鬼丸の言葉を遮る。鬼丸はかぐやの表情を見た。
――――今にも泣きそうだった。
「千年や、万年、貴方たちにとっては長い時間かもしれません、私にとって見ればただの時間でしかない。いくら鬼だとはいえ、私と永遠に生きることなど出来るはずもない。貴方は“残していく者”だからそんな悠長なことが言えるのですよ!」
「・・・・・」
「“残される”私はどうなるのですか!?貴方が死んでもなお生きろというのですか!?そんなことになるのならば、今ばっさりと縁を切ってしまったほうがいいです!」
今度は鬼丸が黙る番。反論すら許されないかぐやの本当の感情の吐露であった。
それでも鬼丸は負けなかった。いや、負けたくなかった。
「それでも私はかぐやに側にいて欲しいです」
「・・・・・それは鬼丸さんの我侭です」
「ええ、そうですね。私は我侭です。だから私の欲しいものは必ず、何をしても手に入れます」
突然、鬼丸がかぐやに駆け寄る。
おそらく抱きあげるつもりだったのだろう。しかし鬼丸の身長は女性の平均身長に劣る。かぐやを抱き上げるというより抱きつくという結果に終わった。
「・・・・・何をしているのですか?」
「今、自分の身長が恨めしい・・・・」
こっそり後で金太郎に八つ当たりしようと思ったのは内緒である。
「じょ、冗談はさておき、かぐや。もし今別れてしまったら、貴方は絶望の気持ちにさらされますよ。早いか遅いかの問題、それならば私が死ぬまで楽しんだほうが得でしょう」
「・・・・・で、でも鬼丸さんが死んでも生きれるほど私は強くありませんよ・・・・」
「待っていてください」
鬼丸がかぐやに見上げる。鬼丸の感情だって嘘偽りもない、本当のモノだ。
「私が死んだら、また必ず貴方のもとに返り咲きます。何度も、何度でも・・・・・。どんな姿になろうとも必ず帰ってきます。そしてこの世界が終わるときを貴方と一緒に見ましょう」
「・・・・・・鬼丸さん」
「好きです、かぐや!」
二人の顔が互いに紅潮する。そして二人の影が次第に近づき、ついに重なり合おうとしたその瞬間・・・・・・天から金色の光が舞い降りた。
「・・・・・こういうときくらい空気読みましょうよ、カナモリ」
「地上の鬼・・・・・貴様、かぐや様に何ということを・・・・・」
カナモリの青筋がピクピク震えている。鬼丸が何か言おうとしたそのとき、どこかで破壊音と怒声が響き渡った。
「オラアアアアアア!信号野郎、出てこいや!」
「・・・・・まだ桃太郎は倒せてない様子で」
「ぐっ!・・・・・」
カナモリが苦虫を噛み潰したような表情になる。天人が地上に負けるなど一生の恥、それを隠すかのようにいつものセリフを叫んだ。
「か、かぐや様は返してもらうぞ」
「そのセリフも聞き飽きましたね。いいでしょう、相手して差し上げますよ。天人風情が」
「寝言は寝て言え、鬼風情が」
二人の間に火花が見える。一触即発の雰囲気であったが、不意に鬼丸がニヤッと笑ったことでそれは破られた。
「って言っているうちに準備は済んだのですけどね」
「む?・・・・・・なっ!貴様!」
気が付くのが遅すぎる・・・・・。
鬼丸の後ろに7色の魔方陣が描かれると、銃口をカナモリに向け引き金を引いた。
「我に宿りしは属、全門開放!放て!」