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第一章・第三話:旅立ち

「喰らえ、雷電!」

「――――っ!」


青白い稲妻が鬼丸に直撃する。

かなりの至近距離で撃たれたのだ。鬼丸の皮膚は見るも無残な様になっており、焼けただれている。

金太郎はすぐさま駆け寄る。


「鬼……お、おい! 大丈夫か!?」

「うっさいですね……私には鬼丸童子っていう名前があるんです。鬼っていう名前じゃありません」


鬼丸はそう強がって見せる。が、実際には防いだことによって腕が焼け、その余波で鬼丸の本体もあちこちに火傷を負っていた。コレが魔術の力かと思うと、金太郎は血の気が引いた。

もちろん、そんなことを構うことなく魔術師は次の式を準備し始めていた。


「我が左手に宿りし力は雷……」

「その雷は全てを薙ぎ払う……」

「くっ……これはチェックメイトかもしれませんね……」

「鬼……丸……」


魔術師の左手は光に満たされた。もう先ほどと同じ雷を放つばかりである。


「くっはっはっは! おしかったな、小僧ども!」

「うっさいですね。私はこれでも15歳ですよ。もう大人なんです」

「フフフ……その減らず口も二度と聞けなくしてやる。薙ぎ払え、雷電!!」


鬼丸の視界が青白い稲妻で覆われる。と同時に黒い影がよぎる。


「あ、あなた、何故?」


金太郎だった。鬼は驚いて金太郎に問いかける。鬼丸が先ほどよりもっと首をかしげていると金太郎が答える。


「……俺だってなあ、俺だってなあ! 人を助ける退魔師なんだよ!!」

「……」


どうして走り出したのかは金太郎自身でもわからない。相手が弱っている今の状態なら走り出して逃げれば助かるだろう。それにこの鬼を助ける義理はない。

でもそれは金太郎自身が許さなかった。


(自分だけ助かろうとしてどうなる? 俺は退魔師だ。困っているやつがいるならそいつを助ける。目の前のことに集中しろ!)

電磁制御でんじせいぎょ!」


金太郎が左手を前にかざすと、魔法陣の魔力が金太郎の手に吸い取られていく。


「な、何!? 魔法陣が崩れていく……だと……!?」


金太郎の魔力は雷。そしてこの魔法陣の雷系の魔法だったために、金太郎の魔力を使って自分の制御下に置いたのだ。次第に魔法陣の力はなくなり、ついには崩壊してしまった。

鬼が金太郎にひとつ、問いかける。


「あなたひとつ言っておきますが……私は人ではなく鬼ですよ。」

「今はそんなこと関係ねえ!! 目の前にいる奴を助ける!! 俺が今決めた自分の信条だ!!」

「……」


鬼丸は顔をしかめる。極めて非論理的で合理的ではない、この行動は鬼丸がもっとも嫌いとするものであった。だが彼の顔には自分の気持ちに反して、喜びの表情があった。


「フルチャージ! 雷鳴……」

「ま、待て! 殺さないで……」


金太郎は左手に溜まっていた魔力を、紫電に込めると金色に輝きだす。

魔道師は命乞いをするが、それで止まる金太郎ではない。


「怒涛――――――!」

「ぐ、ぐわああああああああああ!」


紫電から金色の刃が放たれ、魔道師の体を吹っ飛ばす。

金太郎自身手加減はしたはずなので、たぶん生きているだろう。……うん。多分……

金太郎が相手のことを心配していると、鬼が寄ってきた。


「助けたつもりが助けられてしまいましたね。ありがとうございます。」

「いや、こっちこそありがとな。お前のおかげでなにやりたいかはっきりしたわ。」

「へえ~……」


鬼丸の顔はどことなくうれしそうだ。


「もう日も沈みます。そろそろ私は行きます。では……」

「待ってくれ!」

「む? 何ですか。」


「お、俺を、なか、仲間にしてくれ!」


金太郎は勇気を振り絞り、言った。彼はこの戦いで鬼丸について行けばきっと何か得るものがある。そう思ったのだ。

対する鬼丸は驚き開いた口もふさがらない様子だ。


「……あなた、私の旅の目的知っているのですか?」

「いや全然。でもお前について行きたいん――――」

「――――私はこれから桃太郎退治に行くのですよ。」

「……へっ!?」


日も沈みきった夜の森で、空しく金太郎のマヌケな声が響いた。



        ▽       ▽        ▽     



桃太郎の生い立ちについてはこんな話が伝わっている。



昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは不況の煽りを受けて町に出稼ぎに、おばあさんは家計を助けるために町にパートに出かけました。

 おじいさんは職安に行って初心者歓迎、高収入の仕事を希望しましたが、当然そんな仕事もなくしょんぼりと帰っていると子供たちが桃の木の下でけんかしているのを見つけました。

 けんか、と言っても1人の子供が他を圧倒し、フルボッコにしているだけでした。おじいさんは、これはいけない、と思い


「これこれ、弱いものいじめはいけないぞ。」


 と、子供に近づいていくと、子供は何を思ったか、ためらいもなく殴ってきました。

―――――ぱしっ!

 おじいさんは難なくこれを受け止めた。


「……良い拳だ……餓鬼、名をなんと言う?」

「……」

「名がないのか? ……では、わしがつけてやろう。おまえの名はこれより桃太郎! 今日からわしの子じゃ!」

「……桃太郎?」


 こうして“桃太郎”と名づけられた子供はおじいさんとおばあさんの子供になり、おじいさんの教育(修行とも言う)とおばあさんの愛(強烈ビンタともという)を受けながらすくすくと育ちました。その後、紆余曲折を経て14歳となった桃太郎は、当時、「最凶」とよばれる「鬼」を倒すために鬼が島に向かいました。

 「犬」「猿」「雉」と共に鬼を倒した桃太郎は、鬼が島を占領し、人々からは「英雄」と呼ばれるようになりました、とさ……



          ▽        ▽       ▽



「まさかあの桃太郎退治に出かけることになるとは……」

「で、どうしますか? 行くんですか? 行かないんですか?」


鬼丸があきれた様子でこちらを見てくる。目的の確認、勢いだけの行動、すべてが鬼丸にとってありえなかった。それでもこの男が仲間になってくれたことは鬼丸にとって……


「行くに決まっているだろ! 言ってしまった以上どこにでもお前について行くからな! 男に二言はねえ!」

「それでは行きましょうか、キンタ。」

「おう!」


とても嬉しくありがたいことだったに違いないであろう。


「……ってキンタって何だ?」

「あなたのあだ名です。き・ん・た・ろ・うは長いですからその

省略です」

「勝手に決めんなよ!」


こうして金太郎と鬼丸の旅が始まるのであった。



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