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第二章・第一話:月の裏側

今回非常に短いです。すみません・・・・・・。


プロローグということで見逃して下さい。

今日のかぐやは機嫌がいい。


というよりも最近の彼女は一日一日を楽しんでいた。

彼女は長い間生きてきたが、こんなにも事が凝縮された時間はない。

鬼ヶ島に向かう途中でであった金太郎、ウラシマという仲間。

金太郎は口うるさく、ウラシマはセクハラをしてくるが、月にいたときはこんな人間と関わったことすらなかった。


また幽鬼、怪鬼、妖鬼という鬼ヶ島でできた同性の友達と呼べるもの。

今まで同性で話しかけてくるものといえば侍女ばかりで、とても気軽に喋れるものではなかった。今ではこの三人と共におしゃべりをしていると心が休まる。


そして何より・・・・・


――――――コン、コン、―――――

「鬼丸さん、いますか?」

「ええ、どうぞ」


この鬼丸という存在が大きい。鬼丸と一緒にいると、顔が紅潮する。胸がどきどきする。今までのかぐやならそれを病気か何かと疑ったのだが、何故だかそれが心地よい。

かぐやは今の時間が好きだった。


かぐやが鬼丸の部屋に入ると、鬼丸はイスに腰掛け本を読んでいた。その光景さえ様になっていてかぐやは見とれてしまった。

・・・・・・おおっと、こんなことをしている場合ではない。鬼丸に話すべきことがあったのであった。


「鬼丸さん、これから時間ありますか?」

「ええ、ちょうど仕事も終わり、休憩していたところです。何か用事でも?」


鬼丸は鬼ヶ島の統治に関する仕事を手伝っているらしい。山にいたときからこの仕事を手伝っていたらしく、その手腕はなかなかのものらしい。

・・・・・あの長たちを見ていたら妙に納得してしまった。


「こ、これから本土の甘味処に行きませんか?」

「う~ん・・・・・・いいですよ。頭の運動には糖分も必要ですからね」


かぐやの顔に歓喜が満ち溢れる。ここの鬼たちと話すのも楽しかったが、やはり鬼丸と過ごしたい。しかも二人っきりで。


このときを待っていた、そうかぐやが思っていたところに扉が開かれた。


「お~い、鬼丸。いるか?」

「・・・・・・キンタ、部屋をノックしてから入ってきてください。もし私が人目についてはいけない何かをやっていたらどうするのですか?」

「何かって何?」

「・・・・・・・・」


金太郎の純粋な質問に鬼丸は押し黙る。何かとは何かなのだ、人には言うのがはばかられる何か・・・・・・。

金太郎はその何かにそこまで興味なさそうに話を続けた。


「実はさ、今から俺、本土に行って手紙出しに行かなきゃいけないんだよ。だから鬼丸、ついてきてくんない?」

「おお、ちょうど良かった。私もこれからかぐやと一緒に本土に行くところでした。一緒に行きましょう」

「えっ・・・・・ちょっと、鬼丸さん・・・・・」

「だめですか、かぐや?」

「あっ・・・・・い、いいですよ」


そんな目で見られたなら断れなくなってしまう。せっかくの“デート”というものが三人では意味がない。

かぐやはため息を吐きそうになったが、そこは少し我慢した。


「本土に行くなら僕の出番だね!」

「だからオメエはどっから現れるんだよ、ウラシマ!?」


・・・・・訂正、合計四人に・・・・・。

コレには流石にため息を吐かざるを得なかった。そしてかぐやの気分は一転、一気に不満でいっぱいとなった。

半分は鬼丸とのデートを邪魔した金太郎に対して、もう半分は朴念仁っぷりを遺憾なく発揮した鬼丸に対してだった。

かぐやはもう一度、大きくため息をついた。


「かぐや、どうしたんです?早く行きましょうよ」

「はい、鬼丸さん。今行きますよ」


・・・・・かぐやはこのときまだ知らなかった。こんな自分の些細な気分の変化など気にならないほどの事が起こることなど。

誰が想像できただろうか、少なくともこの四人には想像することさえ出来なかった。



     ▽     ▽     ▽



ここはどこだろうか?

辺りは真っ暗、このことから時間は夜ということは分かる。しかし空には金色に輝く月はなく、代わりに青い星が浮かんでいた。


そう、ここは月。太陽がいなくなり、真っ暗な夜を照らす唯一の存在。

ここの裏側には地上から離れ、地上の命とはあらゆる点でかけ離れた“天人”というモノが存在していた。天人は喧騒を好まず普段は静かなはずなのだが、今日は怒声が響き渡っていた。



「何!?貴様ら“姫様”を連れ戻すことに失敗したのか!?」

「は、はい・・・・・・。し、しかし途中で邪魔が入りまして!鬼と退魔師と、あと謎のモノが―――――」

「黙れ!貴様らは天人の恥だ!ツクヨミ様にどうご説明する気だ!?死んでお詫びをしろ!」

「私たちは死ねませんけどね」


月の裏側でも一際目を引く豪華絢爛な建物でとある会議が行われていた。

―――――議題は月の姫について。


つい先日この会議で決まったことだが、この月の姫がどういうわけか地上に降り立ちその迎えへ使いをよこしたはずなのだが失敗。

その使いの生き残りが今帰ってきているのだが、この大臣の怒りはおさまらない。

何故なら使いを遣わしたのも彼の提案だったからだ。


「それにしても情けないですな~。貴方のでしょ、今回の部隊」

「うぐっ・・・・・」

「本当に天人の恥なのは貴方の方なんじゃないですか?」


双子の大臣が攻め立てる。元から高血圧気味だった彼のこめかみはピクピク動いており、今すぐ脳卒中になってもおかしくないほどである。

・・・・・・天人には寿命や病気などないのでそのような心配はないのだが。


「まあまあ、いいじゃないですか。過去のことはばっさり切り捨てましょうよ。今はツクヨミ様のために姫様を取り戻すことを考えましょうよ」

「ちっ・・・・若造が・・・・・」


天人の一人が悪態をつく。あからさまな敵意、しかし他の大臣たちはそんなことは気にしない。いや、興味がない。

何故ならそういう興味すら彼らにとって見れば無駄なものだから。


「姫様の奪還・・・・・。もはや大軍など不要ですな。そして姫の居場所が正確にわかるモノが適任かと」

「カナモリ殿が適任では?」

「・・・・・・・」


今までこの会議に参加しようとも思っていなかった男の眉が動く。彼の名前はカナモリ、長身で細身、金色の髪、そして青と赤のオッドアイが特徴的な男である。

彼は今回脱走した月の姫の教育係、この大臣たちの中で最も姫への思い入れは強い。

大臣もそれを分かっていて彼に頼んだのだ。もちろん彼には断る道理などない。


「ツクヨミ様。今回の件、カナモリ殿に任せてもよろしいでしょうか?」


大臣の一人が天井に話しかける。普通ならばそこには誰もいないはずなのだが、この場合は普通ではない。

ツクヨミというのは月の王、太陽の陰にいようとも地上を見守る存在。故に“彼女”は全てを見通す目と、耳を持っている。だから天人たちは直接会う必要はないのだ。


『・・・・・・・』

「沈黙は肯定・・・・・・。カナモリ殿、早急に地上に降り立ち、姫様を連れ戻すこと。それが今回の目標です。その目標を邪魔するものには容赦なく―――――」

「――――――排除する。そうですね?」

「・・・・・・結構。それでは健闘を祈ります。皆、解散」


その声を皮切りに天人たちは会議場から四方に散らばっていった。残ったのはカナモリ一人。彼の顔には決して感情は表れないが、内に秘めた感情が彼の中で渦巻いていた。


「かぐや様・・・・・。今、迎えに行きますからね・・・・・・」



     ▽     ▽     ▽



「やっと会議が終わりましたか・・・・・・。まったく意味がないものでしたね・・・・・・」


彼女は小さくため息を吐く。それは誰の耳にも届くことなく宙に消えていった。


彼女の名前はツクヨミ、月の王である。金色と黒色が混じりあった不思議な色の髪、凛とした黒い目を持つ彼女は一人きりで、夜空に浮かぶ青い星を見上げていた。

彼女の中には一つ、憂い事があった。それは他の何事でもない、月の姫の事であった。


「まったく、うちのおてんば姫は何をしているのでしょうね?・・・・・まあ、カナモリに任せておけば大丈夫ですか・・・・・」


彼女の声を聞くものは残念ながらいない。聞くものはいないと知っても彼女は喋べらずを得ない。基本的に彼女はおしゃべりなのだ。


「何だか煩い声・・・・・。まあ、いいでしょう。彼女がどう動こうが彼女の勝手。もう子どもではないのですから・・・・・」


彼女は再び、姫がいるであろう青い星を見つめた。あの星は醜い。綺麗なツラをしていて、ひとたび蓋を開けてしまえば生と死が入り乱れる天人にとってみれば考えられないような穢れた地。

そんな場所に一人で、いや誰かと共に過ごしている彼女は何を見ているのか?全てを見据える彼女でさえ興味がわくものであった。


「かぐや・・・・・貴方はこの月を見て何を思うでしょうか?」





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