第一章・第二十九話:永遠と最強と鬼、人間と
「さあさあさあさあ!どうするんや、姫さん!?」
「くっ!・・・・・・限界、ですか?・・・・・」
金色の光と赤い如意棒の均衡。それも今に崩れようとしていた。如意棒の重さは時間と共に重くなり、さらにその威力を強めている。このままでは望月は破られ、如意棒がかぐやを襲うだろう。
かぐやの選択肢はもはや一つしかなかった。
「・・・・・舐めるんじゃないですよ!月光・七夜!」
「なっ!?・・・・・・・ぐほお!」
望月が途端に消え、七つの光に変わる。ほぼ同時、如意棒がかぐやを、光が猿に襲い掛かる。如意棒の衝撃によって辺りに砂埃が立ち込めた。
閃光の一つが猿の腹に襲い掛かり大きな風穴がポッカリと開く。血が腹から噴出し、激痛が猿を襲い、顔も歪む。
それでも猿は立っている。立って勝利を確信した。
「ワイの、ワイの勝ちやな!姫さん!ウキャキャキャキャキャ!!」
「くっ・・・・・・痛い・・・・・」
砂埃が晴れ、姿を見せたのはかぐや。しかしその表情からは余裕はもはや消えている。
まあ、当然と言うべきか・・・・・。かぐやの右肩はもはや存在せず、血で真っ赤に染まっているのだから。
正直、あの一撃で終わらすつもりであった。望月を解除し、七夜で一気に猿を強襲。自分は如意棒をさけ余裕で勝利する、“つもり”であった。
しかし行動がほんの僅か遅れ、如意棒が右肩に直撃、そのまま持っていかれてしまった。しかも猿はなお健在・・・・・。かぐやにはもう闘いの策は残されていなかった。
「直撃したはずなのに・・・・・。何故?」
「ウキャキャキャキャ!最強になるためにはな、こんなところで倒れるわけにはいかんのよ!ハアハア、もうコレでワイの勝ちやな!」
残されたのは絶望、猿はゆっくりと如意棒を構える。突きが来ると分かっていてもかぐやには避ける体力はなかった。
「・・・・・終わり、ですか?」
「チェックメイトや、姫さん・・・・・・。伸びろ、如意棒おおおおおおお!!!」
――――――ぐちゃ・・・・・・。
赤い鮮血が辺りに飛び散る・・・・・・・。如意棒の突きは確実にかぐやの心臓を貫き、かぐやはゆっくりと、まるでスローモーションでも見ているのかのように地面に倒れこんだ。
「は・・・・はは・・・・あっはっはっはっはっはっは!ワイの、ワイの勝ちやあああああああああ!!!」
もはや猿の言葉を否定するものはいない。猿は思い思いに叫びだした。
桃太郎に仕えて十二年、ようやく最強の糸口が見えた。もう自分の邪魔をするものはいない、そう思っていた時だった。
「・・・・・・やっぱり貴方じゃ殺せませんか・・・・・・」
「・・・・・・・はっ!?」
猿は信じられないような、いや、信じてはいけない光景を目にした。
この世界、万物には“死”という概念は必ず存在する。人にも、魔にも、木にも、そして神でさえも確実に死というものはある。
そして死は誰にも否定されず、死んだものが蘇るなんてことはあるわけがない。
なのに、今、目の前で起こっていることは―――――
「ふう~・・・・・痛いじゃないですか!まったく・・・・・・あっ!私の着物が台無し・・・・・」
―――――その概念を覆すものだった。
「なななななな何でや!?何でアンタ、死なへんのや!?天人といえどもこの傷は流石に死ぬやろ!?」
「煩い人・・・・・・。私はね、他と違って特別なんですよ」
「特別、やと?・・・・・・何がや?」
かぐやは至極当たり前のように答えた。
「私はね、死なない、いや、死ねない体なんですよ」
「――――――はっ!?」
猿は呆然とする。だったら今までの戦いは何だったのだろうか?生死を賭けた戦いに、片方は死なない。そんなことあっていいのだろうか?・・・・・猿の頭の中は真っ黒になった。
「ん、んなもん勝てるわけ、ないやん・・・・・・」
「そうですよ。貴方の敗因は“私と戦ったこと”。最初から貴方には、勝機などなかったのですよ・・・・・・」
かぐやは未だに突き刺さっている如意棒を手に持つと、それを伝って猿の方へ向かっていく。ぐちゅ、ぐちゅと、肉が音を立てながらこすれ、大量の血が流れるがかぐやはそんなもの気にしない。何故なら自分は死なないのだから。
猿はかぐやに言われもない恐怖を抱いた。
「う、うわああ!!こっちに来んなや!!」
「貴方が永遠を止められるとでも?無理ですよ、絶対に。止められるのなら止めてくださいよ・・・・・・・。月光――――――」
かぐやの左手に光が集まる。七夜とも、望月とも違うその光は一つに集合。まるで太陽のような球体になり、まばゆい光を放つ。
猿はそれを本能で分かった。コレが自分の死か、と。
「や、やめろ・・・・・・」
「孫悟空・・・・・。楽しかったですよ、貴方との勝負は。しかし如何せん私との格が違いすぎましたね・・・・・・。また生き返ったら勝負して差し上げますよ。私は多分その時まで生きていますから」
「ひっ!・・・・・・」
「それでは、さようなら―――――陽炎」
巨大な光が猿を襲う・・・・・・。爆音と光が辺りを包み込み、それが消えた後に残っているのは地面に残ったくぼみのみ。
かぐやは未だ刺さったままの如意棒を抜くと、呟くような声で言った。
「兵共が夢の跡・・・・・・いけませんね~。どうしても闘った後には空しくなってしまう・・・・・・」
かぐやは大きく息を吐き出す。しかし突然自分の使命を思い出したような、そんな表情になって中央塔を見た。
「鬼丸さん、今、会いに行きますからね!」
▽ ▽ ▽
はて、今回の戦いは過去十二年間を見てきても不思議なことばかり起こるね。アタシはそれが刺激だから別にいいんだけどもね~。
まず、第一に敵が不思議だ。アタシは魔術師でも何でもないから詳しくはないけど雉によると、魔術の属性は命一つに一色だってさ。
なのにこの鬼っ子は色々な魔術を使ってくる・・・・・・。魔術師ともなんか違うし、こいつは一体何なんだ?
それにこの金髪・・・・・・。てっきりオマケかと思ってたけど、そうでもないね。結界を使える退魔師なんかアタシは見たことないよ。力も強いし、こいつは有望だ。後百人くらい殺せばいい退魔師になる。でも・・・・・
「ハア・・・・・ハア・・・・・」
こいつの行動が意味不明!
アタシが鬼っ子を殺そうとすると、すぐに鬼っ子を庇う・・・・・・。片方が攻撃されている間、アタシを殺そうとすればいいのに、何故しないんだろうか?もしかしてバカなのか、コイツは?
・・・・・まあ、いいさ。アタシはそれが楽しいからね。アンタらには踏み台になってもらうよ、アタシの“最強”への道のね・・・・・・
「あっはっはっはっはっはっはっは!!!」
▽ ▽ ▽
「鬼丸!大丈夫か!?」
「ええ、何とか・・・・・・っ!キンタ、来ます!」
「ヒャッハアアアアアアア!!」
目で追えないほど高速移動、まばたきなどすればその瞬間には殺されているだろう。神経を研ぎ澄まし、やっと反応できるほどだ。
金太郎は結界を張って、桃太郎の猛攻を防ぐ。だが・・・・・
「くっ!・・・・・結界だけじゃたりねえ・・・・・」
「おらあああああ!ぶっ壊すぞ!」
「う、おおおおお!紫電!」
桃太郎の剣戟、金太郎の結界と紫電が激しくぶつかり合う。
結界と紫電、その二つを合わせてようやく互角になる。しかも桃太郎の表情には未だに余裕がある。
「我に宿りしは波!・・・・・喰らいなさい!」
「おお!?いつの間に!?」
金太郎と桃太郎が均衡している間、鬼丸は二人の後ろに回っていた。
デザートイーグルから放たれた弾丸はすでに弾丸としての形を失っていた。鬼丸の使った魔力は波。空気中を振動させ、衝撃波で攻撃する・・・・・。普通に考えれば、防ぐことの出来ない攻撃であった。
「音波?・・・・・・まっ、関係ねえか!砕け散れええええ!」
「何ですって!?」
桃太郎は日本刀を振るう。そう、ただ振るっただけで衝撃波が消えた。
コレには鬼丸も動揺が隠せなかった。
しかしそんな暇もない。桃太郎の次のターゲットは鬼丸に変わった。
「鬼っ子おおおおお!勝負だああああ!!」
「冗談じゃないですよ!」
鬼丸の得意とする距離は中から遠距離。接近戦も出来ないことはないが、どうしても苦手であった。
さて、現在こちらに向かってきている桃太郎は接近戦が得意。今、彼らが闘ったならばどうなるだろうか?
―――――確実に鬼丸が負ける。
「鬼丸!今行くぞ!」
「・・・・・・・金髪、一つ聞いていいか?」
金太郎が立ち上がり、紫電を振るう。桃太郎は難なくそれを受け止めるが、不思議そうに金太郎に問うた。
「あっ!?何だよ!?」
「・・・・・・なんでお前アタシに攻撃してこないの?」
「えっ!?」
桃太郎は日本刀で紫電を防ぎながら、首をかしげる。
「お前の攻撃はどうもアタシに攻撃するためのモノじゃねえ。この鬼っ子を守るようにアタシと闘っている・・・・・・。普通なら鬼っ子が攻撃されている間、反撃の機会を窺うべきだが、何でだ?」
「決まってんだろ、鬼丸が仲間だからだよ!仲間を守るのは当然だろうが!」
「・・・・・・・仲間、ねえ・・・・・」
途端、金太郎は言われもない恐怖に襲われる。
自分を射抜く冷徹な目・・・・・。人間はここまで冷え切ったモノになれるとは金太郎は知らなかった。
「くだらねえな・・・・・・」
「何だと!?」
「くだらねえよ、テメエの言ってることは!そんな甘ちゃんじゃアタシに勝てねえし、アタシもアンタと闘う気は失せた!」
「失せた、だと?」
「だから消えろ、オメエは!」
桃太郎は紫電の柄を持ち、思いっきり投げ捨てる。
恐ろしいまでの怪力、金太郎はなす術もなく紫電ごと壁に叩きつけられた。
「ぐ、はっ!?・・・・・・」
「キンタ!」
「・・・・・鬼っ子、オメエも分かっているだろ?オメエも仲間なんてくだらないって」
「何?・・・・・」
金太郎は脳震盪を起こし、そのまま気を失う。鬼丸はすぐに助けに行こうとするが、桃太郎がその道をふさぐ。
鬼丸は止まるしかなかった。
「オメエは鬼、ヤツは人間。違う種族が互いの手を取り合う?・・・・ふざけんな!仲間なんてくだらねえもんに縛られるほど鬼も弱くねえよな!?」
「・・・・・・・」
桃太郎は確認するように鬼丸に問う。
桃太郎の言ったことは自然、というより当然のこと。桃太郎も、鬼丸も誰もが分かっていること。
この質問に答えることは簡単、であったはずだった。
「ふっ・・・・・・」
鬼丸は突然ふきだした。
「アッハッハッハッハッハ!」
「・・・・・何笑ってんだ、鬼!?」
「確かに仲間はくだらない・・・・・。私も今までずっとそう思っていましたよ」
「だろ?やっぱり鬼なら――――――」
「――――しかし、私はこの旅が楽しかった。金太郎と、かぐやと、ウラシマと続けたこの旅が楽しかった。今までこんなに楽しいことはなかった。それがキンタのお陰というならば、私は仲間という存在を大切にしますよ」
「・・・・・・」
桃太郎の表情は髪で隠れてこちらからは見えない。日本刀を鞘に納め、大きく息を吐き出した。そして髪を掻き揚げて鬼丸を見た。
桃太郎は全てを憎悪するような目つきで鬼丸を睨みつけた。
「だったら、テメエも――――消えろや、鬼いいいいいい!!」
桃太郎は恐ろしい形相で鬼丸に向かって走り出す。武器など使わない純粋な暴力、片手で鬼丸の首を掴むと持ち上げ、締め付ける。
「ごっ、ほ・・・・・・」
「なあ、鬼っ子・・・・・・お前も鬼だろ?鬼の力っていうのを見せてくれよ。お前にもあるんだろ、“滅力”っていうのが?オメエも鬼の端くれなら見せてみろや!」
「か・・・・は・・・・・」
「使わないんだったらテメエは死ぬぞ!その力でアタシを殺して見せろや!」
「・・・・・そ、の必要は、ないですよ。・・・・・わ、私にはキンタが、いますから・・・・」
「まだ言うか!?もうオメエには仲間なんて必要・・・・ねえ、だろ?・・・・」
桃太郎の腕が誰かに掴まれる。その誰かの力は、かつて桃太郎が戦った誰よりも強い力であった。桃太郎はゆっくりとその手の持ち主の顔を見た。
桃太郎の目に入ってきたのは金太郎だった。
「テメエ、鬼丸に何やってんだ!?」
「・・・・・金髪、オメエどっからそんな力が?」
先ほどまでの戦いで、金太郎の力は強いことは分かっていた。しかしどう考えても自分ほどの力は出せない、そう桃太郎は思っていた。
しかし今この状況を見てどうだ?今この金髪は自分を圧倒するほどの力を発揮している。このボロボロの体のどこから、この力はきているのだろうか?
―――――理解不能。
「俺はテメエに聞いてんだよ!鬼丸に何やってるかってな!」
「うお!?」
金太郎は桃太郎の腕を振り払い、投げ飛ばす。金太郎のようにそのまま壁に叩きつけられることはなかったが、動揺は隠せなかった。
「このガキが!何が起こった!?」
「うおおおおおおお!!」
金太郎は紫電を振るう。思いっきり、全力で。
桃太郎はそれを日本刀で捌くが、一発、一発の重みが増している。金太郎の攻撃を受けるたびに腕が痺れる。
「くっそ!何が起こってやがる!?」
「オメエみたいなヤツには分からんだろうよ!仲間をどうでもいいと思っているようなヤツにはな!」
金太郎の逆袈裟切り、それは必殺の一撃にはならないものだったが、桃太郎の体制を崩しガードを壊すには十分な代物であった。
「っ!?まじか!?・・・・・」
「雷鳴――――――」
もちろん、その隙を金太郎が見逃すはずがない。自分の魔力を充足させ、紫電が金色に光り輝く。
そして、自分最大の敵に、自分最大の一撃を叩き込んだ。
「―――――怒涛おおおおおおおおおお!」
作者です。金太郎君が大活躍したこの話でこの小説は30話を迎えました。
本当に飽きっぽい自分がよくここまで続けれたな、と思いまして。(ォィ)
まだまだがんばりますのでどうぞよろしくお願いします。