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第一章・第二話:鬼の末裔、鬼丸童子

鬼丸がその少年を見たのは偶然だった。


「ふう~。やっと人の里につきましたか……思ったより遠かったですね」


鬼丸は鬼ノ山で宿敵・桃太郎を倒すべく遥かかなたの鬼ヶ島への旅をしている。その道中でこの町に訪れたのである。

鬼丸は休憩がてら、木の上から人間の町という物を見下ろすことにした。


見下ろすこと数分、一人のおばあさんが歩いてきた。おばあさんは大きな荷物を抱えておりとても辛そうだ。

しかし行きかう者たちは、その光景に気づかないものや気づいても無視する人間ばかりであった。


「これだから人間というものは……。同族のご老体が困っていても無視か。醜いものだな……」


鬼丸ははっきり言って人間というものが嫌いだった。大嫌いだった。

人間ほど自分勝手な生き物はいない、そう鬼丸は思っている。自分の欲のためにこの世界の自然の均衡を壊す、汚す、潰す……。鬼ヶ島が桃太郎の手によって落ちたのがその証拠。こちらが何もやってないのに関わらず、自分のために攻撃してきた。

そして今度は自分の同族まで殺そうとしている。ここまで醜い種族はかつて存在しただろうか……。

鬼丸がもう去ろうとしたその時、一人の少年の声がした。


「ああっと! おばあちゃん。大丈夫ですか? 俺が運びますよ」

「ああ……坊や。すまないねえ……」


一人の少年が先ほどの老人を助けたのだ、笑いながら。

その少年はこのあたりでは見かけない金髪碧眼。鬼丸より少し年上だろうか、大人びて見えるもののまだ顔に幼さが残っている。……肝心の身長はかなり違った。


「ほう……」


鬼丸はその少年に興味を持った。

なんてことはない、ただの少年にだ。確かにこの少年がやったことは褒められるべきこと。しかしこのぐらいのことをする人間は世の中にはたくさんいるだろう。しかし鬼丸は何故かその少年に興味を持った。

何故だろう、鬼丸はそんな奇妙な感覚を感じながら、とりあえずその少年を追ってみることにした。


      ▼      ▼        ▼


少年は旅人なのだろうか、たくさん食料を買っている。そういえば自分はお金持っていなかったな、と思いながら見ていると女性が少年に話しかけてきた。

……どうやらその少年の名前は坂田金太郎、というらしい。何故女性が少年の名前を知っているのだろう、と思いながら見ていると、いきなり女は片手剣を持って金太郎に襲いかかった。

流石の鬼丸も身を乗り出した。そして少年と片手剣の女の恐ろしい鬼ごっこが始まったのを見ると、鬼丸も急いでそれを追いかけた。

何やら不気味な男が術を唱えているのを視界の端に捉えながら。


      ▼      ▼         ▼



鬼丸が追いついた時には既に勝負は喫していた。どうやら先程の怪しげな男が魔法を使ったらしい。

まあ、あの若さで魔術師が来るまで自分より格上の相手と戦えたのは上出来という方か。

……さて、どうするべきか、鬼丸は自分の頭の中で議論していた。

このままここにいても何もない。あるのは盗賊と思われる奴らに見つかり、自分も追われる危険だけだ。万が一、追いかけられても逃げ切る自信はあるのだが。

ただここに突っ立っているのはよろしくない。ならば二つに一つ、あの少年を助けるかどうか。まず一つ、あの少年と自分は何も接点はない。赤の他人だ。知りもしない人間を助ける必要があるだろうか。それにあれは人間、自分が最も嫌う人間なのだ。何より面倒事は御免だ。


鬼丸は木の上で腕を組み考えた末、結論を出した。


「助ける、か……」


鬼丸はそう呟いた後、あいさつ代わりにそこらに落ちている石を投げつけ自分もそれに続くように飛び降りた。

決して合理的ではないと鬼丸自身も分かっている。あの少年を助けようとするならば2人を相手にしなければならないし、助けたとしても鬼丸には何の利益もない。

でも鬼丸は何となくあの少年を助けたいと思った。そう、何となくだ。何となくご老人を助ける人間の少年もいるのだから、何となくその少年を助ける鬼の少年もいてもいいではないか、鬼丸はそう思いながら戦いの場に降り立った。


        ▼        ▼          ▼



「鬼……」

「何故、鬼がこんな場所に……」

「そこの外野、うるさいですよ。そして、そこの金髪、いい加減立ちなさい!」


金太郎の頭は目の前の状況についていけてなかった。とどめを刺されそうになったら、突然何かが落ちてきて、そしてそれが鬼で。で、開口一言目で俺を助けてくれる、らしい。

ようやく整理がついて金太郎は目の前の鬼に言うべきことが分かった。


「誰が金髪じゃ、ボケ! 俺には親から頂いた坂田金太郎っていう立派な名前があるんじゃ!」

「……そこですか? もっと言うべきことがあるんじゃないですか?」


金太郎はやはりまだ状況がつかめていないらしい。

そしてようやくハッと気づいた表情になる。


「て言うか、お前誰だよ!?」

「ようやくそこですか……私の名前は鬼丸童子。先ほど言った通り、そして見た通り鬼です。」

「鬼……」


鬼という種族は今や古参の退魔師でも見かけたものは少ないであろう。その鬼が金太郎の目の前にいるのだ。恐怖云々より関心の方が湧いてしまう。


「何で俺を助けてくれるんだ? 俺、何かしたか?」

「……何となくです」


今まではっきりとしていた鬼丸の口調が急にぼそぼそとした声になる。


「ん?」

「だから何となくです! 本来ならばこんなことしないのですが特別ですよ」

「キイイエエエエエエエエ!」

『!?』


今まで沈黙を保っていた盗賊のうちの一人、ゼンが襲い掛かってくる。女とは思えないすさまじい形相だ。


「とりあえず二人とも死ぬ、でOK?」

「はあ? NOに決まっているでしょ。馬鹿ですか、あなた」


鬼丸は片手で剣を受け止める。当然と言えば、当然。彼は鬼なのだ。退魔の術がかけられていない武器では彼の皮膚を傷つけることもできないし貫くこともできない。

引いても押してもびくともしない剣にゼンは苛立ちを隠せない。


「で、どうするんですか? 助けてほしいんですか、ほしくないんですか? どっち!?」


鬼丸は剣をつかんだまま金太郎の方を向く。あまりの異様さに、そして何故か早口になっている鬼丸に金太郎は圧倒されてしまう。


「えっ……じゃあ、助けてほしいです」

「よし!」


鬼丸は金太郎の了承を得ると、剣を取られて身動きができないゼンの横腹に蹴りをいれる。ゼンが苦悶の表情を浮かべ、膝をつくとその膝を払い相手を倒す。そして倒れているところに思いっきり足を振り上げ蹴飛ばす。ゼンはまるでサッカーボールのように飛んで行き、そこらにあった岩でようやく止まった。

見ればぐったりとしていて白目をむいている。


「うわ~……」


あまりに見事で、そして敵とはいえども同情してしまうような蹴りであった。


「さて、敵はあと一人いましたね。どこですか?」


そんなことお構いなしのような表情の鬼丸はあと一人のコウと呼ばれた魔術師の方を探す。するといつの間にかコウの前には先ほどと同じ魔法陣が浮かんでいた。


「……我が左手に宿りし力は炎……」

「おい! どうすんだよ。またあいつ、式を用意しているぞ!」

「大丈夫です。こちらにも飛び道具くらいあります。」


そう言って鬼が懐から取り出したのは、一丁の拳銃。それも最近開発された、対魔用の“デザートイーグル”と呼ばれるものだった。

鬼丸はそれを構え、3発放つ。それは全て準備中の式に命中するが当たっただけだった。


「……その炎は全てを焼き尽くす……」

「う~ん……やはり無理ですか。ならば魔力を使いましょう。」

「何!?」


鬼が再びデザートイーグルを構えると、デザートイーグルを中心に魔力が集まっていく。それは誰でもわかるほどはっきりしたもので次第に膨大なものへと変わっていく。

魔力の充電が済んだところで鬼は再び3回、引き金を引く。今度は実弾ではなく、魔力を帯びた金色の銃弾が放たれた。

一発目、先ほどの実弾の時とは違いたしかに手ごたえが感じられる。

二発目、命中した時にほんのわずかだが式にひびが入った。

三発目、式はもう完成し光り始めているが、その前に弾が当たり・・・・


「焼き尽くせ、焦熱しょうねつ!」

―――――――パリン!

「ば、馬鹿な!?」


ついに魔法陣を打ち抜いたのであった。


「ふふっ、これで勝負はつきましたね。式を作るには時間がかかる。デザートイーグルはいつでも使える。今なら見逃しますから早く逃げてください。」

「……」


勝負は完全についたように思われた。



「す、すげえ……」


遠くからこの光景を見ていた金太郎は感嘆の声を漏らしていた。

自分を襲ってきたやつは殺し屋。しかも二人組で一人は魔道師。種族の差はあろうが、自分より幼いこの名も分からない鬼はいとも簡単に倒してしまった。

そして同時に情けなくもなった。金太郎は退魔師、坂田家の直系の次男坊。退魔師とは人を助けるのが仕事だ。そして金太郎はその退魔師という家に生まれたことを誇りに思い、また偉大な先祖と同じように人々を助けるのが夢だった。

だが、今はどうだろう。人を助けるばかりか、逆に助けられる立場になっている。情けなくて、情けなくて仕方がなくなっていた。

その時、魔道師の笑い声が響き、金太郎は驚き、顔を上げる。


「ふふふ……はっはっはっはっはっは!!!」

「どうしました? 頭でもおかしくなりましたか?」

「違うよ……お前の甘さに笑いがこみあげてきてね。ふふふ……鬼といってもこの程度か」


鬼はあたりを見渡す。敵の仲間と思われるもう一人はいまだ気絶しているし、やつがこの状況を打破できるようなものはない。鬼は首をかしげた。


「魔道師にはこういうこともできるのだよ。瞬即魔道しゅんそくまどう

「何!?」


魔道師はどこからか符を取り出す。それは光り出し、もう完成した魔法陣が現れた。

瞬即魔道とはあらかじめ魔法陣を符に書いておき、いざ、という時に発生させる魔道の応用技である。それは威力こそは本来のものより劣るが、この距離ならば鬼とはいえどもただでは済まない。


「あっ、やばっ……」

「死ね、鬼の小僧!! 雷電らいでん

「――――っ!」


白色の雷撃が鬼丸に直撃した。


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