第一章・第二十八話:ピンチ!
いつもはタイトルで十分くらい悩むのですが今回はすんなり決まりました。
・・・・・テヌキジャナイデスヨ(汗)
『―――――って女じゃねえかあああああ!!??』
「うっさいガキ共・・・・・・。キャンキャン喚くな、テメエら!」
この国の英雄にして最大の敵、桃太郎は女・・・・・・。まずその事実に金太郎はついていけてなかった。
「なあ、鬼丸・・・・・。“太郎”って女につける名前か?」
「そんなわけないでしょう。だったら、“金太郎”の貴方も女ですか?」
「そう、だよな・・・・・・。でも何でだ?何で桃太郎が女なんだよ?」
「ああ~。それはな、アタシを拾ったジジイが最初見たときにどうやら男と間違えたらしくてな、桃の木で拾った男っていうことで、“桃太郎”って名づけたらしい。ていうか、人の名前にケチつけるんじゃねえ!」
「そんな無茶苦茶な・・・・・・・」
金太郎が呆然としていると、桃太郎が犬に指で合図する。犬は一瞬で桃太郎の隣に来ると、ヒザをつけそこに控えた。
「犬、あの金髪誰だ?雉からは何も聞いてねえぞ」
「はい、あの男は坂田金太郎。鬼丸童子がこの旅を始めて最初に出来た仲間でございます。名家“坂田家”直系の退魔師なので、実力に見劣りはないかと・・・・・・」
「報告ご苦労。それじゃあ始めようぜ、ガキ共!・・・・・・と、その前に―――――」
桃太郎は今まで確かに笑っていた。笑って犬のほうを見た。
「テメエは消えろ、犬!」
「えっ!?・・・・・・・」
桃太郎の表情が一瞬で消える。
その冷徹な目は犬を確実に射抜き、犬は余程衝撃だったのか、今にも消えそうな表情になる。
「オメエはもういらねえ。さっさとアタシの前から失せな」
「しかし、桃太郎様!相手は二人、いささか無茶があるか――――」
「テメエは、“また”アタシの邪魔すんのか?・・・・・・」
“また”・・・・・・。
その言葉がいつでも犬を苦しめる。もしあの時をやり直せたら、その悔恨の念が犬に襲い掛かった。
「いえ・・・・・。そういうわけでは―――――」
「―――――だったら消えろ!」
一瞬の出来事・・・・・・・。何かの衝撃音と、人間が軋む音がしたと思うと、次の瞬間には桃太郎と犬は中央からかけ離れ、部屋の端にいた。
問題はその格好。犬は壁に叩きつけられ、桃太郎はその首を片手で締め付けている。
「かっ、は・・・・・・・」
「テメエに残された道は二つ。今すぐにここから飛び降りてアタシの目の前から消えるか、それともアタシに殺されるかのどちらか!さあ、選べ!」
桃太郎がさらに力を強める。
ミシミシと人間から発せられるとは思えない音が辺りに響き、犬の顔には血管が浮かびあがる。
いつ死んでもおかしくない。そんな状況にも関わらず、犬の表情は――――
―――――笑っていた。
「・・・・・何笑ってんだ、犬?」
「わ、私は貴方様に憧れ、目標にし、ここまで来ました。その貴方に殺されるというのならば・・・・・・本望でございます」
「じゃあ、一発で落としてやんよ」
まさに神速、桃太郎は犬を掴んでいないもう片方の拳を突き出す。犬の腹に伝わった衝撃は犬を貫通、背後にある壁にまで伝わる。
壁はまるで紙のように穴が開き、犬はそのまま塔の外に落ちていった
「おい、犬!・・・・・桃太郎、テメエ何やってんだ!?」
「ただ邪魔者を排除しただけだ・・・・・」
「邪魔者・・・・・・犬はテメエの仲間じゃね―――――」
「―――――うるさい!」
桃太郎は金太郎の声を遮る。その気迫に金太郎は圧倒されてしまった。
「アタシの勝負を邪魔するヤツは全員邪魔者だ!アタシはこの日を待ち続けて十三年。十三年間、鬼がここを取り返してくる日をアタシはずっと待っていたんだ。あの時みたいな最高の勝負・・・・・・・フ、フハ、アッハッハッハッハ!!さあ今度こそ始めようぜ、ガキ共!最高の勝負をな!!」
最高の勝負?金太郎の頭の中にはその言葉が脳裏を駆け回っていた。
――――仲間を殺しておいて最高の勝負だと?
――――敵を待っておいて最高の勝負だと?
――――――ふざけるな!――――――
金太郎は無意識に紫電を構えていた。
「鬼丸、行くぞ!あいつだけは絶対許せねえ!」
「ええ、もちろん。行きますよ、キンタ」
「アッハッハッハッハ!行くぞ、ガキどもおおおおおおお!!」
▽ ▽ ▽
「一撃で落としてやらああああああ!!」
先に動いたのは桃太郎。黒い日本刀を構え、二人に突っ込んでくる。
当然、金太郎も、鬼丸も迎え撃つ準備は出来ていた。しかし・・・・・
――――――速い!
「くっ!・・・・・・」
「ほう・・・・・。アタシの攻撃を止めたかい!だったらコレでどうだい!?」
何とか紫電で受け止めている金太郎に向かってくる桃太郎の強烈な蹴り。体勢が崩れているにも関わらず、その威力は見劣りがしない。
こちらも左足を折り曲げの直撃は避けるが、その衝撃は体まで伝わる。
「ぐっ!」
「右がガラ空きだよ!」
・・・・・・どうやら桃太郎というのは人間をやめたらしい。
桃太郎は体を宙で回転させ、金太郎の頭めがけて右足の蹴りを放つ。所詮は金太郎も人間、そんな人間からかけ離れたような業に対応できるわけもなく、頭に直撃する。
脳震盪を起こして倒れる金太郎に、情け容赦なく刀を振り上げる。
「とどめだああああああ!!」
「させるものですか!」
鬼丸の不意討ち。デザートイーグルによる弾丸は桃太郎めがけて放たれる。
しかし桃太郎にとってみれば何も意味をなさない。何故なら桃太郎にとって銃弾なんか止まって見えるから。
「無駄だよ!鬼っ子!」
桃太郎は日本刀で全て銃弾を叩き落す。するとその瞬間銃弾が弾け飛び、破片が襲い掛かる。
流石の桃太郎も驚きの表情に変わった。
「おっと!・・・・・怖い、怖い。なんだい、この弾は?」
「我に宿りしは烈・・・・・・・。金太郎、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ・・・・・・」
「烈?・・・・・ああ、そうか。だから弾け飛んだのか・・・・・。なるほど、なるほど・・・・・」
桃太郎は顎に手を当て、いかにも考えているような格好をとる。そして再び笑い出した。
「面白い!面白いよ、鬼っ子!もっとアタシを楽しませておくれ!ヒャッハッハッハ!!」
「言われなくとも・・・・・・。我に宿りしは圧!押しつぶせ!」
デザートイーグルから圧力の弾丸が放たれる。この弾丸に触れた瞬間、あらゆる物質は押しつぶされる・・・・・・はずであった。
「クッハ!重たいねえ!でもまだまだだよ、鬼っ子!」
「バカなッ!?何故、圧力が負けるんですか?」
「終わりかい!?だったら今度はコッチの番だよ!」
桃太郎は飛び上がる。まるでこちらに反撃など考慮に入れてない全力攻撃。鬼丸は迎え撃つより、避ける選択を取った。
「ヒャッハアアアアアアア!!」
「ちっ!・・・・・・化け物か・・・・・」
鬼丸の元いた場所、そこは確かに平面だったはずだ。しかし鬼丸が次見た瞬間には巨大なクレーターが存在していた。
鬼丸の背中に冷や汗が流れる。
「おいおい!上に逃げちゃガラ空きだろうがあああああ!!」
「我に宿りしは―――――なっ!?」
瞬間移動でも使ったか・・・・・・。
空中にいる鬼丸の目の前には日本刀を携えた桃太郎の姿。
鬼丸にはなす術もなかった。
「あっ・・・・・・」
「鬼っ子、死ね・・・・・・」
鬼丸に日本刀が振り下ろされる。確実にアレに当たったら死ぬ・・・・・。鬼丸が死を覚悟した時、金色の壁が鬼丸と桃太郎の間を遮った。
「おお!?」
「電磁結界、FirstDrive Create!・・・・・大丈夫か、鬼丸?」
「ええ、助かりました、キンタ」
「へえ~・・・・・結界か・・・・・。退魔師で結界を使えるのか・・・・・。魔力を操る鬼に、結界を使える退魔師・・・・・。本当に面白くなってきたぞ、お前ら!さあ、アタシをもっと楽しませてくれ!ヒャッハッハッハッハッハ!」
「くっ・・・・・・」
「どうする?・・・・鬼丸・・・・」
今は確かに金太郎のお陰で助かった。結界があれば桃太郎の攻撃も防ぐことが出来るだろう。
しかしそれは一時的に過ぎない。防ぐことは出来ても桃太郎に攻撃することは出来ないのだ。
結局、鬼丸たちは何も出来ない。勝てるはずなどないのだ。
「ヒャッハッハッハッハッハ!!」
▽ ▽ ▽
「鬼丸さん・・・・・・」
「姫さん、そこ隙だらけやで!!」
かぐやが一瞬動きを止めたところに如意棒が振り下ろされる。桃太郎ほどではないが如意棒に叩きつけられた地面にはクレーターが出来る。
かぐやはバックステップでそれをかわすと、手の平を猿に向けた。
「ああ、もうしつこいですね~。月光・七夜!」
「甘いで!」
猿は七つの光を全て叩き落して、さらに反撃をする。かぐやはさらに不機嫌そうな表情になってしまった。
「姫さんの攻撃は単純なんや。それじゃあ、ワイには勝てへんな!」
「うるさいですね・・・・・。そんなに余所見してると当たりますよ」
「んなわけない――――――ノワッ!」
猿が何かの衝撃を受け、転倒する。受身を取り、何があったか確認すると背後には、一つの人魂がフワフワ浮かんでいた。
かぐやはケラケラ笑っている。
「まったく本当にバカですね~!貴方は。そんなに簡単に私に勝てると思っているんですか?」
「うっさい!くっそ、この人魂、鬱陶しいなあ」
「ほらほら、当たりますよ!」
七つの光が一斉に猿に襲い掛かる。そんな不利な状況で猿は笑っていた。
「まっ!ワイはもう姫さんの弱点知ってんのやけどな!」
「へえ~・・・・・。私の弱点が分かるとは・・・・・。私に弱点などないのですよ!」
「姫さん、その武器って“他の形態になっとるとき別の形態に変えれへん”のやろ?」
「・・・・・・・・そ、そんなわけないでしょうが」
「それ、バレバレやで・・・・・・」
猿は如意棒を持ち直し、そしてかぐやに襲い掛かる。
「今、攻撃しとる時は、防御は出来へんちゅうことやな!」
「くっ!・・・・・・月光・望月」
金色の望月と赤色の如意棒が激突。圧倒的な力と力のぶつかり合い、凄まじい激突音と力の余波が辺りに響き渡った。
この時点では力は拮抗、かぐやも笑みを浮かべている。
「そんな攻撃では望月は壊せませんよ」
「・・・・・・・ワイはこんなところで負けるわけにはいかんのや・・・・」
「ん?どうしました?」
「ワイは“最強”になるんや・・・・・・。最強がこんなところで負けるわけにはいかんのや!」
「“最強”?・・・・・はっ!くだらない。最強なんているわけないじゃないですか!」
「ウキャキャキャ!・・・・・ところがおるんやよ。最強の称号の持ち主、“G”って言う奴はな!」
猿は笑い出した。楽しそうに、愉快そうに。その顔には只ならぬ狂気を孕んでいた。
「強さとは相対的なモノ。いつ、いかなる時でも、どんな相手でも勝負に勝てるなんているはずがない。・・・・・・最強なんていたらこの世界は確実にそいつに支配されていますよ・・・・」
「せやから目指すんや、最強に!ワイは最強になる・・・・・・。それがワイの夢。だから最強に一番近い桃太郎についていったんや。ワイは桃太郎も倒す!こんなところで負けとるわけにはいかんのや!重くなれ、如意棒!!」
途端、力の拮抗が崩れる。猿の力が一気に増大したのだ。かぐやの顔からは余裕の笑みは消え、必死に耐えようとする。
「一体何が?・・・・・・」
「如意棒はな、長さが変わるだけやない、重さまで変わるんや!」
「えっ?それじゃあ・・・・・・」
「そうや!如意棒はどんどん重くなる!
さあ、姫さんはこの状況をどうするんや?姫さんの武器は確かに強力。しかし防御しながら攻撃は出来ない。このまま姫さんは逃げることも出来ず、潰されるのを待つしかないんやで!」
「くっ!・・・・・・・」
かぐやの顔に初めて、汗が流れた。