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第一章・第二十七話:桃太郎、満を持して参上!

今宵の月は美しい・・・・・。


いや、“今宵”というのは御幣があるかもしれない。月の光は常に美しい。

満月でも、三日月でも、今夜の歪んだ月でも。


たとえ完全ではなくともこんなにも美しいのに・・・・・・。


「なのに何故、人々は完全を目指すのでしょうか?・・・・・」


かぐやの呟きは眼前に控える敵には届かなかった。





「おらああああああ!!」


勝負が始まり、最初に飛び出したのは猿。如意棒を振り上げ、ものすごい気迫で迫ってくる猿に、かぐやは怯むことなく向かい討つ。


「そんな顔じゃ、彼女なんか出来ませんよ!」

「余計なお世話じゃ!喰らいなはれ!」


猿の初手は如意棒の縦一閃。かぐやはそれを華麗なステップでかわすと、手の平を猿に向けた。


「月光・七夜!」


かぐやがそう叫ぶと、七つの人魂のような光が一斉に猿に襲い掛かる。まるで幻想。初めてコレを見た相手は迷い戸惑うだろうが、あいにく猿は二度目。もうこの攻撃には騙されない。


「甘いんやで、姫さん!」


猿は七つの人魂を全てかわすと、身を回転させそのままの勢いで横一閃に振るう。

かぐやもそれを見越して後ろに下がるが、猿の表情を見てハッとなる。


―――――猿はニヤッと笑った。


「伸びろ、如意棒!」

「っ!?しまっ・・・・・・・」


気づいたときにはもう遅い。最低限の動きでかわすかぐやのバックステップではかわしきれず、如意棒の衝撃がかぐやの腹に襲い掛かる。

回転の際に生じた遠心力、それと純粋な猿の力が加わった衝撃は計り知れず、かぐやの声が思わず漏れた。


「かっ・・・・は・・・・・」

「はっ!どうや!」


かぐやはヒザを地につき、猿は如意棒をかぐやに向ける。その顔は勝利を確信していた。猿からはかぐやの表情は見えない、しかし苦痛に歪んでいるだろう、そう思っていた。


―――――今度はかぐやがニヤッと笑う番。


「・・・・・・・な~んちゃって!」

「な、なんやと!?」


かぐやがペロッと舌を出すと、かぐやの姿が七つの光に散らばり消えていく。猿は信じられないような顔になり、すぐに辺りを見渡す。


「ど、どこにおんねん!?」

「ここですよ~っと!」

「!?」

「月光・七夜!」


かぐやのいた場所は猿の後方遥か遠く。猿が振り向いたときには七つの光が眼前に迫っていた。


「うお!くっそ!」

「へ~・・・・・。あの攻撃を避けますか。まだまだついてこれますよね、孫悟空さん」

「あったりまえやろ!なめとんやないで!」

「ふふふ・・・・・・」


猿とかぐやの闘いはまだまだ続く・・・・・・。



   ▽   ▽   ▽



「はあ・・・・はあ・・・・・。まったく、冗談じゃないよ。僕はここで死ぬつもりはないんだよ」


現在、鬼丸と金太郎が向かっている鬼が島中央の塔。そこを中心として、かぐやと猿が闘っている浜辺のちょうど反対側に位置する、僅かに残った林に一人の男が懸命に走っていた。


男の名は雉。桃太郎の部下である。

――――いや、厳密に言えば桃太郎の部下ではない。彼は単なる情報屋として桃太郎の下についていたのであって、ここで心中する気など毛頭なかった。


「あっはっは・・・・・。ここまでこればもう誰も来ないよね」


彼の手には切り札があった。最近、魔道科学によって生み出された“モーター”と呼ばれる、自動で推進力を生み出す装置を取り付けた船を用意していたのだ。

これならば竜神が司るこの海を乗り越え、無事本土にたどり着くことが出来るだろう。


そう思って余裕の笑みを浮かべていたその時であった。


「ねえねえ、雉さん。ちょっと止まってくんない?」

「っ!!」


雉は目玉が飛び出るかと思うほど驚き、声のした方を振り返ると青髪の少年の姿。

少年の格好はまるで虫取りに出かけた子供のよう。残念ながらこの少年を雉は知っていた。


「なんだ・・・・・。ウラシマか」

「何だとはなんだい?雉さん。君は本当に失礼な子だね~。もう一回小学校からやり直したらどうだい?」

「本当に口の減らないガキだな・・・・。で、ただの運び屋の君が何のようだい?」

「う~ん・・・・・・。今日の僕は運び屋としてここに来た訳じゃないんだ。だから君たちの指図はうける気はまったくないんだよね」

「・・・・・ん?どういうことだい?」


雉にはウラシマの言っていることが理解できなかった。このガキは単なる運び屋、自分たちを鬼ヶ島に連れていくただの道具に過ぎないと思っていた。


しかし今日のウラシマの雰囲気はただの運び屋とは少し違ったように見えた。


「株式会社竜宮城」

「・・・・・・・・はっ!?」


ウラシマは人差し指をピンと立て、唐突にそう言った。


「ありゃ?もしかして知らない?」

「そ、それは知らないわけないじゃないか。で、そんな大企業がどうしたって言うんだい?」

「うん。僕はね、そこで働いているの。雉さん、いや、千鳥くん・・・・・」

「っ!?」


何故このガキが自分の本名を知っているのか?自分の本名は誰も知らないはず。というよりも、もはや自分の名前を知っている人間はいないはずなのに・・・・・。


しかし、その答えはすでにウラシマ自身の言葉に見つかっていた。


「竜宮城で・・・・・働いているって?・・・・・」

「そう。僕はね、社長にちょっと探し物頼まれちゃって、僕一人じゃできないっぽいから君の力を借りたいと思って。だから力を貸してくんない?」

「は・・・・はは・・・・別にいいよ――――」


雉が手を差し出す。ウラシマは笑って手を差し出そうとすると、雉の手の中には一枚の符が握られていた。


「――――って言うわけないだろうがああああああ!!瞬即・風塵!!」


突如風が舞い上がり、雉の足に纏わりつく。ウラシマが一瞬だけ、瞬きをした時には彼の姿は遥か遠くにあった。

ウラシマはいたって冷め切った目で彼を見つめている。そして・・・・・・


「水よ・・・・・・」


ウラシマが短くそう呟くと、雉の周りに水の柱が四つ現れた。ウラシマの詠唱はまだ続く。


「縛れ」

「なっ!?」


水柱が雉の風を打ち消し、雉の足に巻きつく。足をもがこうとも水は纏わりつき離れず、そのまま地面に伏してしまった。


「あれれ、転んじゃったね~。大丈夫かい?」

「・・・・・・え、詠唱破棄なんてチートじゃないか」


詠唱破棄とはその名の通り、魔術師最大の欠点である“詠唱”を短縮、または無詠唱で魔術を行使できるモノである。

しかし、その分消費する魔力は馬鹿でかく、普通の魔術師では使うことは出来ない代物である。


なのにこのガキは何の遠慮もなく使って見せた。雉が驚くのも当然であった。


「詠唱破棄なんて簡単さ。ただ頭の中で念じればいいんだから。そこまで驚くことはないだろ?」

「くっそ・・・・・・・」

「にしてもさ、何で君はこんな船を用意しているんだい?天狗なら飛んでいけばいいのに・・・・・・。ああ、そうか。君は飛べない天狗だったね~」

「貴様!!」


雉が激怒をあらわにする。しかし足が縛られていてはどうしようもない、ウラシマは余裕の笑みを浮かべた。


「まあまあ、そんなに怒らずに。で、僕の依頼は受けてくれるかい?千鳥くん」

「・・・・・・ちっ!しょうがないから受けてやるよ。僕もまだ生きたいからね」

「賢明で助かるよ、千鳥くん。で、依頼というのはね・・・・・・」


ウラシマは自分の顔を雉の顔に近づけ、ニタリと笑った。


「玉手箱を探して欲しいんだ」



   ▽   ▽   ▽



鬼ヶ島中央塔。かつての鬼の栄華を象徴するものであるコレは、以前は豪華絢爛なモノであったのであろう。しかし、今ではそれも見る影もなく崩れる寸前にまで至っている。


鬼丸と金太郎は現在、それを登っていた。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


鬼丸も金太郎も、もちろん犬も誰も喋ることはなく塔内部の螺旋階段をひたすらに登っていた。

誰もこの均衡を破ろうとはしなかった・・・・・・はずであった。


「・・・・・お腹が減りました」

「―――――っておい!」


金太郎は盛大にずっこけた。


「・・・・・何してんですか、キンタ?」

「それはこっちのセリフだ!少しは空気っていうのが読めないの?」

「貴方は人の生理現象までケチをつける気ですか?随分と狭量な人ですね、貴方は。それに昔から言うじゃないですか。“腹が減っては戦は出来ぬ”と」

「今なんか食ったら腹ふくれて動きづらくなるだろうが!動くときは少しぐらい腹が減っていたほうがいいんだぞ!」

「戦う前に餓死したら意味ないでしょ!」

「んなことあるか!?最近お前かぐやに似てきたことないか?」

「そうかもしれませんね・・・・・。夫婦は似るって言いますし・・・・」

「お前らいつ結婚したんだよ!?」


はて、先ほどの緊張はどこへやら・・・・・。途端に騒がしくなり、声が反響して耳障りである。


その時、鬼丸の目の前に手が差し出される。


「・・・・・・食え」

「どうも・・・・・」


手の持ち主は犬。その中には、どこから取り出したかは知らないが一つのおにぎりがあった。鬼丸はそれを受け取ると、毒がないことを確認してから口に入れた。


「・・・・・・・」


犬は再び頂上に向けて歩き出す。無言なのがまた怖かった。敵だから当たり前なのだが・・・・・・。


「キンタ、犬の目的とは何なのでしょうか?」

「へっ?・・・・いや、考えたことなかった・・・・・」

「・・・・・・私たちを倒すこと、ではない。それならば部下として存在する意味はあるのでしょうか?それに雉、猿、犬、三人とも一人ずつ私たちの目の前に現れた。一斉に来れば私たちを倒せるのに・・・・・」

「まるで俺たちを試しているみたいだな・・・・・・」

「その通りだ!」


先にのぼっていた犬がいつの間にかこちらを向いている。犬の方が上の段にいるため見下される形になっている。


鬼丸にはそれが気にくわなかった。


「どういうことだ?俺たちをためしたって?」

「・・・・・・貴様等が桃太郎様と戦うにふさわしいか、ためしたまでの事。そのために貴様等を少しつけさせてもらった・・・・・」

「!あの時ですか?」


鬼丸はギルドで会った白髪の男を思い出した。


――――――ああ、すみません。

――――――構わん・・・・・・・


「あの時からかよ・・・・・」

「それよりも闘うのにふさわしいもありますか?誰でも闘えるでしょうに」

「・・・・・・・桃太郎様は欲求不満だ」

「よっきゅ・・・・・お前、何言ってんだ!?」

「貴方こそ何慌てているのですか?」


・・・・・・どうやら金太郎の頭はそっちの方向に向かったようだ。顔が真っ赤に染まっている。

後の二人はいたって無表情である。


「桃太郎様は破壊欲求が激しいのだ・・・・・」

「・・・・アレ?そんな欲求、人間にあったっけ?」

「破壊欲求・・・・・文字通り、モノを壊したい、人を殺したい、といった欲求ですよ。通常なら現れないんですけどね。一説には人間の中の野生の血が色濃く残り、行動が抑えられないそうですが・・・・・・・。仮にも人間の英雄が破壊欲求者とは、皮肉ですね・・・・・・」

「その通り。生半可な腕のモノでは一瞬で叩き潰されてしまう・・・・・・。私はその光景を何度も見てきた。そして十三年の月日が流れ、桃太郎様ももう限界・・・・・。桃太郎様はいつかこの世界すら壊そうとする、そう諦めていたときに、鬼がここを取り返そうと動いたと聞いた。待ち望んでいたこの日がようやく来たのだ。あとは貴様等が闘うだけだ」

「勝手なことを言ってくれますね・・・・・・。そんなことで闘うなんて冗談じゃないですよ」

「ふっ・・・・確かにな。だが貴様もここが欲しかろう。貴様らには戦う道しか残されていないのだ」


犬の言うことは尤も・・・・・。鬼丸は黙り込むしかなかった。

いつの間にか頂上についていたようだ。犬は頂上の扉の前に立つ。


「さあ、鬼と金髪。この扉を開けよ。桃太郎様はここに居られる」

「鬼丸・・・・・」

「ええ、行きましょうか」


鬼丸と金太郎は扉の前に立ち、同時にこの扉を押し開けた。





中央塔はかつては鬼の長老の部屋である。所謂玉座の間。しかしそこには原型を留めているものはなく、壊れたイス、つぶされた机のようなものが転がっているだけであった。


しかし唯一残っている中央の椅子に、確かにヤツは座っていた。


「クックック・・・・・・」

「アレが・・・・・」

「桃太郎・・・・・」


この国の英雄にして、破壊欲求者、桃太郎。ヤツは確かに待っていた。


桃太郎は見る限り、鬼丸よりは大きいが金太郎よりは小さい。だいたい170cmくらいであろうか。腰にはそれに不釣合いな長さの日本刀。黒い刀身のそれは、それ自体が敵を威圧する。


そして敵を射抜く鋭い目、髪は黒色のセミロング。白い着物は死に装束を思い出させる。しかし見るものの目を一番にひきつけるのは、その豊満な胸・・・・・・・


「クッハッハッハッハ!ようやく来たな、鬼共!!アタシがぶっ潰してやんよ!!」

『――――って女じゃねえかああああああ!!??』


・・・・・・かつて鬼が島を滅ぼした英雄、桃太郎は女であったのだ・・・・・。





はい、桃太郎は女でした!・・・・・・・すみません、完全に作者の趣味です。


こんなモノでもまだ続くので、今後ともよろしくお願いします!


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